シーンを交差する音楽家、Thundercat (サンダーキャット) インタビュー
Thundercat
Photographer: UTSUMI
Writer: Hiroyoshi Tomite
多彩な音楽シーンを自由に横断し、そのギークかつマルチな才能を遺憾なく発揮している Thundercat (サンダーキャット) が SUMMER SONIC 2018 で来日を果たした。TFPでは、6弦ベースを弾きこなす技巧派でありながらも、様々なカルチャーへの好奇心から常に新たな音楽シーンを切り開く Thundercat に単独インタビューを敢行。適度な「Drunk」状態にありながらも、音楽との向き合い方、これからのシーンで果たすべき使命など真摯に語ってくれた。
シーンを交差する音楽家、Thundercat (サンダーキャット) インタビュー
Portraits
サマソニ公演に合わせた来日を果たした Thundercat (サンダーキャット)。取材に指定されたホテルに向かうと、部屋に戻ろうとする彼とすれ違った。シャンパンボトルを小脇に抱えて Flying Lotus (フライングロータス) と話す様子は上機嫌そうだった。
これまで Thundercat は凄まじいアーティストの客演としてベースをプレイしてきた。そんな実績もあり、昨年発売された自身の最新アルバム『Drunk』のコラボアーティストをみると同年代からは Kendrick Lamar (ケンドリック・ラマー)、Pharrell Williams (ファレル・ウィリアムス)、Flying Lotus、Wiz Khalifa (ウィズ・カリファ)、Kamasi Washington (カマシ・ワシントン)。それから80年代のヒットメーカーである Michael McDonald (マイケル・マクドナルド)、Kenny Loggins (ケニー・ロギンス) ともコラボ。ジャンルを自由に横断できたのは、彼のプレイヤビリティの高さと人徳があったからだろう。
6弦ベースを弾きこなす技巧派でありながら、先日急逝した Mac Miller (マック・ミラー) の新曲『Swimming』でもコラボし、ライヴでシェイカーを振っていた。次世代の音楽界を背負って立つ男の風格はありながらも、本人に気負いはない。インタビュー中も時折おどけて、終始リラックスした様子だった。常套句であるアニメへの愛を挨拶代わりに語ったかと思えば、自分がシーンに果たすべき役割についてもあくまで自然体に語ってくれた。
―昨年の来日公演以来だと思いますが、調子はどうですか?
ちょっと疲れてるけど、いい感じだよ。大好きなアニメやゲームがあるし、日本に来るのはいつも楽しいんだ。
―『Drunk』以降も精力的に活動されているみたいで。先日は新曲『FinalFight』をリリースされましたね。これは『Drunk』作品の延長線上にあるものなんですか?
同時期につくったものだし、スタイルは似ているのかもしれないけど、まったく別のところからできた作品だよ。
―『Drunk』のアルバム内の歌詞に頻出する “Rabit Hole” というモチーフや不眠症を扱う言葉がでてきたので、てっきりアルバムの延長線上の作品だと想像していたんです。
なるほどね。でも違う目的で作ったものだよ。だからって『その目的とは何?』って問われても困っちゃうけど。音楽を作るのに、理由はいらないからね。
―では『Drunk』の制作を経てご自身が変わったことはあったりしますか? 例えば Michael McDonald、Kenny Loggins とのコラボが自身に及ぼした影響などあれば教えてもらえたら。
2人からは絶大なインスピレーションを受けた。一緒に制作してみたことでそのプロセスがよく理解できたんだ。わかりやすいところだと、歌詞を書く行為に苦手意識を感じていたんだ。けれど、Kenny Loggins が自分の内側にある感情を外に出す方法を教えてくれた。大事なことのひとつは自分自身に正直でリアルであることだと彼から学んだ。Michael McDonald からは表現をする上で、これまでの自分の表現になかったフィーリングを出そうと熱心でいることを学んだことかな。
―なるほど。歌詞を見るとナンセンスな言葉とシリアスなものが混ざっていて。どういう気分が言葉になっていったのでしょう。
つまり、俺の日常でシリアスなこと面白いことと奇妙なことが平行して起きているんだよね、そういう気分をそのまま正直に歌詞にしたんだ。例えば最近友達と映画を見ていても、『お前なんでここで笑うの?』ってよく言われるんだよね。普通笑わないシリアスなシーンや悲しい場面が個人的にはなんか笑えてきちゃって。そういう感じ、分かる?
―言わんとすることは理解できます。音像についてですが、ベースの超絶技巧派プレイヤーにもかかわらず、自分の技術を見せつけるというより全体の音楽としてのまとまりを意識しているように感じて。各局としてのキャッチーさは意識されるのでしょうか?
技術的に高度な作った曲もあるけど、それを見せびらかそうとは思っていないんだ。そこにただあるというだけで。技術は音楽の内側にも外側にも必要なものだから。その部分をこれからも追求していきたいというだけだという。
―音楽ジャンルも越境するような咀嚼をしていて。時代のなかでクールとされるものを追い求めるより自分が好きなものを偏見なく表現できているのは何故ですか?
まあ、アニメに影響を受けてるから (笑)。表現するときは絶対偏見をなくすよ。もちろんR&Bは好きだからダイレクトに影響を受けているように思うけど。でもとにかくあらゆるジャンルに一旦触れて理解しようとするんだ。嫌いだって一度思っても、何度も聴く。例えば最近だとトラップをディグっていて。今めちゃくちゃ流行っているけど、一言でトラップミュージックと言ってもアーティストによってレベルのレイヤーが違うし、表面だけで物事を判断しないんだ。まずは面白がってみる姿勢は大切だよ。
―自分らしさを大切にしながら、客演も沢山やられていて。最近だと Mac Miller の『Swimming』しかり、人とコラボレーションする上で大事にしていることはありますか?
当たり前だけど、リスペクトの姿勢。最近だと自分のキャラをもらえるようになったからやりやすいけど、無理やり自分を出さないし、邪魔にならないようにやるんだ。
―そんなふうに音楽に誠実に向き合うために必要だと思うことはなんですか?
これは Erykah Badu (エリカ・バドゥ) に教えてもらったんだけど、考えすぎちゃ駄目ってこと。この瞬間に正直でいることが大事で。自分をいかにだそうかを考え出すとステージに立つのが嫌になっちゃう瞬間もある。だから自然体でいることだね。まあ何年もやってきているから。
―Flying Lotus や Kendrick Lamar しかりLAを拠点とする同年代の音楽家が台頭しています。渦中にいる1人としてご自身の身の回りのクリエイションの現状をどういうふうに捉えていますか?
さっきも歌詞について触れたときに話したけど、今の時代や身の回りに界隈に起きていることをわかりやすく反映しているんだと思う。今ってネガティブもポジティブも大量に短期間でぐちゃぐちゃに起きているような意味分かんない状況だから。表現は時代の反射板だから、自然とそれがダイレクトに彼らの作品に反映されていくよね。質問の答えになってるかわからないけど、つまりそういうことなんだと思う。
―音楽・客演もやったし、自分の表現者としてのキャラクターも確立したなかで、これからどんな方向に向かっていきたいですか?
レガシーな音楽と新しい音楽を上手く一緒にすることなのかな。今の時代はストリーミングでいくらでも音楽を聴けるけど、その分聴く人の姿勢によっては、深い部分まで掘って理解するのが難しい時代にもなってきていて。こないだ自宅で遊んでるとき、俺がベースを担当した曲を流していて。The Internet (ザ・インターネット) のメンバーが『これいいね』と言ったんだ。『でもそれ俺が弾いてるんだよ』と言ったらびっくりされたんだよね。『チェックしてないの?』みたいな(笑)。まあ、これはほんとに小さな例だけど。だから先人が築いた音楽の遺産をしっかり受け継いで、今の時代の音楽との橋渡しをするのが自分の役割なんじゃないかな。『音楽って深いところまで旅することができるんだぜ』って。
<プロフィール>
Thundercat (サンダーキャット)
1984年10月19日生まれ、米・カリフォルニア州ロサンゼルス出身のミュージシャン/プロデューサー。本名は Stephen Bruner (ステファン・ブルーナー)。モータウン全盛期を支えた名うてのドラマーを父に、Ronald Bruner Jr. (ロナルド・ブルーナー・ジュニア) を兄にもつ名門音楽一家で育つ。幼少からベースを始め、16歳よりバンド活動を開始。セッション・ミュージシャンとして Erykah Badu や Flying Lotus の作品に参加。2011年に『The Golden Age Of Apocalypse』でソロ・アルバム・デビュー。Kendrick Lamar『To Pimp a Butterfly』に参加し、2016年に同作収録の「These Walls」でグラミーを受賞。2017年に『Drunk』をリリース。