女優・黒木華インタビュー
Haru Kuroki
Photographer: Hiroki Watanabe
Writer: Tomoko Ogawa
野田秀樹に見出されて以降、舞台、ドラマ、そしてスクリーンの中で香り立つような存在感を発揮する女優・黒木華にインタビュー。最新主演映画『日日是好日』についてだけでなく、彼女が理想とする女性像について、そして惜しくも本作が遺作となってしまった女優・樹木希林との共演についてを語る。
女優・黒木華インタビュー
Portraits
茶道教室に通い続けた約25年間を綴ったエッセイスト・森下典子による自伝エッセイ『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』を、『さよなら渓谷』(2007) や『まほろ駅前』シリーズなどで知られる大森立嗣監督で映画化。典子を演じたのは、野田秀樹に見出されて以降、舞台、ドラマ、そしてスクリーンの中で香り立つような存在感を発揮する黒木華だ。ふわりとした柔らかい雰囲気の中に芯の強さが垣間見える彼女が理想とするのは、格好いい女性だという。そんな彼女が、理想の女性像について、映画『日日是好日 (にちにちこれこうじつ)』について、惜しくも、本作が遺作となってしまった女優・樹木希林との共演についてを語る。 *インタビューは樹木さん逝去前の9月初旬に行われたもの
—今回、森下典子さんのエッセイ『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』の映画化の話を聞いたときの感想をお聞かせいただけますか?
大森立嗣監督から話を聞いて、森下典子さんのエッセイを読ませていただいたら、お茶ももちろんすごく重要なポイントではあるのですが、1人の女性がお茶と出会ったことによって成長していく過程が描かれているんだと思ったんです。その年代によっていろんな人が共感する悩みが描かれていて、あ、これは面白そうだなと思いました。
—原作者であり、実在する森下典子さんがモデルである典子という人物を演じることへのプレッシャーはありましたか?
やはり、多少はありました。ご本人がずっと茶道監修として現場にいらっしゃったので、森下さんにどう映っているのかずっと考えてしまって……。でも、森下さんをやっているわけですけど、完璧に森下さんではないというか、自分が読んだ典子として、観た方が楽しんでくれたらいいな、とは思いながらやってました。でも、あまり森下さんを意識しすぎるのではなく、私なりの典子を演じようとは心がけました。20代の悩みなどは私も経験しているので理解しながらやれましたが、ずっとお茶を続けてきた雰囲気をもたせながら演じる40代は、やはり難しかったですね。
—典子という女性をどう捉えていますか?
就活に対しての悩みや、自分は何が本当にしたいのかなど、恋愛もそうですけど、誰もがもっている悩みが描かれているので皆さん典子に共感すると思います。一方で、多部 (未華子) さんが演じた従姉妹の美智子さんは、自分のしたいことがハッキリと決まっている活発な人。でも、そういう人って実は意外と少ないんじゃないかなと思うんです。典子さんは自分に近いところもありましたし、すごくわかるなと思いましたし、彼女が着実に前に進んでいくところに励まされたりもしました。
—大森監督の作品は激しいものから柔らかな作品までありますが、一貫して人をすごく映すという印象があります。黒木さんは監督にどんな印象を持っていましたか?
普段からすごくシャイで優しい方です。今回の作品は、監督の優しいところだったり、ちょっとセンシティブなところが、すごく出てる映画だなと感じました。逆に「激しい映画を撮られるときはどういう風になるんだろう?」と思っていたので、聞いてみたんです、「激しい作品のときはどうしてるんですか?」って。
—それで、監督はなんと (笑)?
役者さんの気持ちや気分など、その場の空間をしっかりと演出できるように、声を荒げるときもあるとおっしゃってました。
—今回はそういうことはなく?
もちろんこだわりを持ってやってらっしゃいましたが、厳しいという感じはあまりしなかったですね。私に対しては、動きなどよりも感情の面など、感覚的な部分を引きだそうと演出してくださいました。監督自身、役者をやられているからなのか、演者の立場に立った演出をしてくださいました。
—劇中に出てきた言葉の中で、特に印象に残っている言葉はありましたか?
「世の中には、すぐわかるものと、すぐわからないものがある」というセリフは、何かグッとくる、腑に落ちる言葉でした。私は三日坊主で物事が長続きしないほうなので、余計沁みるものがる感じがしました。
—三日坊主なタイプとはちょっと意外です。お芝居以外で続けてこられたものってあったりします?
ないんです、それが (笑)。習い事もあまり続かなくて、お芝居をすることが1番長く続いてますね。
—それはなぜでしょう?
その都度、人も環境も違いますし、変化していくからだと思います。そういう部分が自分にとってすごくありがたかったり、答えがないところも楽しいのかもしれないです。
—当時はわかると思っていたけれど、大人になってまた見方が変わったなと思うものもありますよね。
やはり、今見直すと、印象が違う作品もありますね。昔大好きだった映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000) や『シザーハンズ』(1990) を見かえしてみると、あ、意外とちゃんと見えていなかったなというところに気づくことがあって。映画のお仕事に参加させてもらえるようになってきたことで、「これはこうして撮ってるのかな」など、今までとはまた違う、新しい視点を見つけられるようになりました。
—典子にとってはお茶がそうだったと思うのですが、黒木さんにとって、心の拠り所は何でしょう?
私は「食」ですね。ご飯を食べている時間がすごく好きなんです。友達と一緒にお酒を飲みながら話したり、そういう時間は必要ですね。気分転換に料理を作ったりもします。
—食を通して季節を感じたりとか?
あります。皆さんもそうだと思いますが、季節の食材を使った料理が並んでいると、“ああ、もうこの季節なんだ” と、感じますね。そういうところでも、ああ、日本に生まれて四季を味わうっていうのは、すごく贅沢だなと思います。
—そうした日々のちょっとしたことを喜べるようになったのは、いつ頃からでした?
東京に来て、一人暮らしをしてからですね。自分で稼いだお金で、好きなものをチョイスできるようになってから、自分が何が好きなのかもよりわかるようになりました。
—典子のお茶の師匠である、武田先生を演じた樹木希林さんとのご共演はいかがでしたか?
役者としても女性としても、すごく格好いい方でした。あんなに雑味なく、力を抜いてお芝居するというのは、中々できないことだと思います。上手く見せようとかそういう変な気負いもないですし、自然にすっと作品世界のなかに存在されているんです。ただただその役としてそこに居るというのが、私にはまだできないので、すごく憧れます。
—色々と考えてしまう?
どうしたらいいかな?というのを常に私は考えてしまうんですけど、樹木さんにはそういう部分が見えないんですよね。なのに、ご自身が生きてこられた厚みというものがその人物に重なって、すごく魅力的に見える。樹木さんご自身も、変に人を緊張させない、本当に素敵な方で……。自然体なんですけど、すごく品がおありなんです。森下さんが樹木さんのお点前を見て、「武田先生のお点前に似てるときがある」とおっしゃってて、武田先生には会われたことはないはずなのに、すごいと思いました。
—黒木さんが憧れるというか、目指している女性像はありますか?
格好いい女性が好きなんです。自分の足でしっかり立ててる人になりたい。そして、最終的にかわいいお婆ちゃんになりたいので、そのためには樹木さんのように、プライベートでもいろんな経験をしないといけないんだろうなと思いますね。
—いつもの自分ならしないようなことも?
そうですね。それこそ役者っていろんな人物を演じるので、どんなことにも興味を持って実践する時間を作ることは大事だなと。時間はあっという間に過ぎていってしまうので、アンテナを常にはって、意識していくことが大事だと思います。
—今回の作品がそういうことを意識させたという部分もありましたか?
はい。お茶をたてる時のお湯とお水の音や季節で雨の音が違うだなんて、注意して聞いていないとわからなかったことですし。生活をきちんと整理して生きることで、自分の内面が整理されていくんだということに気づかされました。
<プロフィール>
黒木華 (くろき はる)
1990年生まれ。大阪府出身。2010年NODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」で女優デビュー。14年『小さいおうち』でベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)受賞。18年は『未来のミライ』『散り椿』 (公開中)、『億男』(10月19日公開)、『ビブリア古書堂の事件手帖』(11月1日公開)、『来る』(12月7日公開) がある。NHK大河ドラマ「西郷どん」、10月より日本テレビ系にて放送のドラマ「獣になれない私たち」などにも出演中。
作品情報 | |
タイトル | 日日是好日 |
監督 | 大森立嗣 |
出演 | 黒木華、樹木希林、多部未華子、鶴田真由、山下美月、鶴見辰吾 |
配給 | 東京テアトル、ヨアケ |
製作年 | 2018年 |
製作国 | 日本 |
上映時間 | 100分 |
HP | www.nichinichimovie.jp |
©︎2018「日日是好日」製作委員会 | |
10/13(土)シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー、渋谷シネクイント、イオンシネマほか全国ロードショー |