Mugi Kadowaki
Mugi Kadowaki

女優・門脇麦インタビュー

Mugi Kadowaki

Photographer: Eriko Nemoto
Writer: Tomoko Ogawa

Portraits/

2012年に逝去した若松孝二監督が代表を務めていた若松プロダクションが、若松監督の死から6年ぶりに再始動して製作した青春群像劇『止められるか、俺たちを』が公開した。TFPでは、主人公・吉積めぐみを演じた門脇麦にインタビュー。学生運動の高まりとともに時代を映しとっていった若松らが駆け抜けた日々、そしてその意志を受け継ぐものたちの熱量に、本作を通して向き合った彼女の本音を聞いた。

女優・門脇麦インタビュー

Photo by Eriko Nemoto

Photo by Eriko Nemoto

1969年、原宿のセントラルアパートにあった映画製作会社、“若松プロダクション”。2012年に逝去した若松孝二監督がピンク映画創生期の中心となり、若者たちに絶大な人気を誇っていた時代を綴る青春群像劇『止められるか、俺たちを』が10月13日(土)より公開された。若松プロ出身の監督・白石和彌がメガホンを取り、晩年の若松作品5本に出演した俳優・井浦新が当時33歳の若松監督を演じた本作。若松プロに在籍し、のちに女性にしては珍しい助監督となる21歳の主人公、吉積めぐみを演じたのは、映画界から愛される実力派女優・門脇麦だ。学生運動の高まりとともに時代を映しとっていった若松らが駆け抜けた日々を、その熱量を、現在26歳の彼女はどう見つめたのだろうか。

 

 

—本作は69年から70年代初めが舞台ですが、全共闘運動も盛んだったあの時代の熱量への憧れはありますか?

すごくありますね。今は何でもあって簡単に手に入ってしまいますが、当時はものすごい早さで前に進んでいかないと取り残されていく時代だったのではないかなと。それに、何かを始めた先駆者の様な方が多い時代でもありますよね。私が演じためぐみさんも、当時女性で助監督で、ましてやピンク映画で、だなんて、相当珍しかったのではないかなと思います。自分で切り開かないと生きていけなかったから、ああいう熱量がある時代だったのかもしれないですよね。その熱を知らない私たちがどんなに頑張ってもとても追いつけないものがあると思っていて。なのでものすごく憧れます。

—ある意味、女性らしさを捨てないと男性と対等に働くことができなかっためぐみさんという女性をどう捉えていきましたか?

まだ女性が生きづらく、先頭を走りづらかった時代だということを一つ大事に心に留めておかなきゃいけないとは思っていました。どの仕事もそうだと思いますが、ピンク映画の現場で性描写を撮るという行為ですら「仕事」になると、ある意味事務的な「作業」になってくると思うんです。恥ずかしさなんて気にしてる場合ではないし、目の前のことを必死でこなす毎日だったはず。そうなった時に、自分の中に女の子の部分を残していると、そこには立っていられなかっただろうなという思いがすごくあって。女の子の部分をある意味捨てて、男勝りにしていないとそこにいれなかったという風にしていけば近づけるかなと。そこは共感できたので。

—門脇さん自身は、女性であることの窮屈さを感じることはありますか?

気を張らなきゃいけないという部分は今の時代も多少はあるでしょうけど、あまり窮屈に感じたことはないかもしれないですね。ただ、私はわりと性描写が描かれる作品をやることが多いので、20、21歳ぐらいの頃は、世間から「そういうことをやる人」として見られることにすごく抵抗があって、そういう視線を怖く感じる時もありました。

—でも、そういう作品をやらないという選択にはならなかったんですね。

そういう作品は印象が強い分イメージが偏りがちですが、いろんな作品をやることでなんとなく全体像が変わっていけばいいなあと思っています。でも、今もしょっちゅうその目線は感じますよね。それだけ役の印象が強いというのはある意味ありがたいことだと思います。

—そういう目線を感じた時は、どうするんですか?

気にしないようにしてます。それよりも現場愛や役柄への思いが勝るので。あんまり気にならないですかね。

 

『止められるか、俺たちを』

 

—この映画って、今おっしゃった現場愛や役柄への愛がそのまま作品になった感じですよね。当時まだ生まれていなかった人たちが、若松組を再現していて。

当時や誰かを本当に再現することはできないですし、先日、脚本家の荒井晴彦さん (*当時の若松組に在籍し、本作では 藤原季節が演じる) にお会いした時に、「ぜんぜん違う」と言われたので、やはりご本人たちからすると違うのでしょうね (笑)。でも、そういう意味でいうなら、今回の現場が普通の現場と違って何が特別だったかというと、「仕事」という感覚をちょっと越えて、若松さんへの愛で集まって来た人たちの作品。そういうみんなの想いが先行して映画を作れる現場はなかなかないですし、本当に愛が詰まった作品といえますよね。

—みんなが同じ思いで同じ方向を向くって、そうあることではないですもんね。

そういう現場はなかなかないと思います。それに、白石監督もずっと若松組で助監督をされていた方で。撮影3日目ぐらいから、みんながめぐみさんに何かを重ねてこの作品を撮ってるんだなと感じ始めて。そう思いながら現場にはいたんですけど、私の役割的に、その部分には鈍感でいたほうがいいかなぁと、あまりみなさんの想いを感じすぎないようにはしてました。だって、自分の師匠を映画化するって、とんでもなく恐ろしいことだと思うんですよね。やっぱり私情だったり、自分の大切な思い出を人に見せるものにする、つまりパッケージ化することって、どこか残酷にならないといけないとも思いますし……。

—ある意味、みんなで楽しむフィクションにしないといけないですもんね。

そうなんですよね。普通だったら、自分の中に大切にしまっておきたいものだと思うんです。(井浦) 新さんも現場に入る前は、もう「お腹痛い」とおっしゃってて。でも、「誰かがやってそれを見るくらいだったら、自分がやる」と。みんなそういう気持ちで集まってきてました。そんな中、私は若松さんとお会いしたことがなく、そこの焦りと不安みたいなものは、しばらくずっとありましたね。みなさんのスタート位置にも立ててないという寂しさもありましたし、どんなに追いかけてもみなさんの想いには追いつけない。そういう感覚になることもはじめての体験でした。

©︎2018 若松プロダクション

©︎2018 若松プロダクション

—その取り残されていく感は、めぐみさんの心境とも共鳴したんじゃないですか?

共鳴する部分は確かにありました。めぐみさんも全く知らないで何かをやりたくて入ってみたっていう、ひとりで知らないところに入っていくという部分は一緒ですし、めぐみさんもこうだったんだろうなっていうところだけが頼りでした。でも、逆にこの気持ちがあれば、成立させられるかもしれないなという安心感もありましたね。

—若松監督は権力に対する怒りというか反骨精神でものづくりをされていましたが、門脇さんも権力に対する怒りは持っているタイプですか?

世の中に対しての怒りよりも自分に対しての怒りの方がしっくりくるかもしれません。ただ、そればっかりが先行していると心が豊かじゃないということも少しづつ学んできました。26年間生きてきて、やっとこさ3年前ぐらいに、その状態い続けるとパンクしてしまうし、得にならないことが多いということも学んだので、そこを越える何かを見つけたいと日々バランスを取りながらやってます。

—10代、20代は怒りながら過ごしていた?

ベースは今もそうだと思います。ただ、経験から、そこだけに囚われず力を抜く大切さも学んだので、バランスを見ながらやっているつもりですが、まだまだ自分の不安定さを感じます。ただ誰しもそうだと思いますが、安定も不安定もどちらも存在していますし、役柄によって調節できるので、それが面白くもあります。今回はそっちを何%ぐらいにして、こっちは何%ぐらいにしてと現場によって変えています。

—コントロールしてるんですね (笑)。表現をすることで世界が変わると信じている若松組の人々その純粋さが伝わってきましたが、そこには共感しますか?

私はそこまでないです。だから映画の中の彼らが胸が痛くなるぐらい純粋すぎて……。こういう人たちが時代を作っていくのだろうなと。または純粋すぎるがゆえに散っていくのだろうなと。その両方が描かれている映画だと思います。やっぱり、才能がずば抜けてる人とか、確固たる信じられるものがある人が、何かを変えようという思いを実現できるんだと思うんですけど、私はそこまでの熱い何かは今自分の中には見つけられていなくて。ただ、何かを変えたいと、不器用にがんばっている誰かの何かにはなれるかもしれない。何かを補える一員にはなれるかもしれないなという思いでこの仕事を続けてます。何かに突出している方ってどこか欠けている方が多い気がして。そこを支えながらというのはおこがましいですが、一緒に走っていけるような人になりたいと思ってます。

—確かに。社会的には不器用だったりするかもですね。

私はもうちょっと器用なほうだと思う。だからこそ、彼らが持ってる熱量はないんですけど、そこへのリスペクトもあるし、もう少し一般化できる何かはあるかもしれないなと。

©︎2018 若松プロダクション

©︎2018 若松プロダクション

—今、プライベートで何か情熱を注いでいるものはありますか?

全然ないですね。今は仕事が一番になっちゃってます。でも、仕事を優先させるがあまりプライベートがおざなりになってしまうというのはどうしても避けたくて。結局、生活が豊か=仕事をしている心持ちが豊かになるはずだから、もうちょっと器用になって、両方とも充実できるようになったらいいのかなと。

—特に役者さんって、プライベートと仕事の境目が曖昧になりそうですよね。

はい。だからコントロールが難しいですよね。現場中は変なアドレナリンが出るので、いつも元気なんです。でも、終わった後に「大丈夫か?」ってくらい寝っぱなしになったりします。それで、「あ~、私疲れてたんだな~」と思ったり……。まぁ、実際は緊張して疲弊しているんでしょうね。

—そういうときにメンテナンスとしてしていることはありますか?

やっぱり、生活を豊かにすることですかね。私は食べることが好きですし、きちんと生活することを大事にしたいなぁと思っていて。部屋を掃除するとか、買い物に行って旬な食材を見て、「今日ご飯なに作ろう」と考えたり。ときには実家に帰って、家族のためにご飯を作ろうとか。そういうことは疎かにしてしまおうと思えば、あっという間に疎かになって、しかも疎かにしていることさえ忘れてしまいがちだと思うので。だから意識的に普段の生活を雑にしないことを気をつけています。

—自分が今求めてるものが何か、意識的に考えるようにしていると。

しょっちゅう考えていますね。そこには素直に従うようにはしていますし、時間もちゃんと取ります。なので、今はすごくいいバランスで毎日過ごせていると思ってます。

Photo by Eriko Nemoto

Photo by Eriko Nemoto

<プロフィール>
門脇麦 (かどわき むぎ)
1992年8月10日生まれ、東京都出身。2011年、テレビドラマで俳優デビュー。特技であるクラシックバレエを披露した東京ガスのCM「ガスの仮面 MASK OF GAS」で注目を集めた。ヒロインに抜擢された『愛の渦』(2014) での演技が高く評価される。近年の主な出演映画に『二重生活』(2016)、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(2017) などがある。公開待機作に、『ここは退屈迎えに来て』(10月19日公開)、『チワワちゃん』(2019)、『さよならくちびる』(2019年初夏) などがある。

作品情報
タイトル 止められるか、俺たちを
監督 白石和彌
出演 門脇麦、井浦新、山本浩司、岡部尚、大西信満
配給 若松プロダクション、スコーレ
制作年 2018年
制作国 日本
上映時間 119分
HP www.tomeore.com
©︎2018 若松プロダクション
2018年10月13日(土)テアトル新宿ほか全国順次公開!