めくるめく音世界へと誘うチェリスト Kelsey Lu (ケルシー・ルー) インタビュー
Kelsey Lu
Photographer: Yusuke Miyashita
Writer: Ayana Takeuchi
NY出身、現在はLAを拠点とする美しきチェリスト、Kelsey Lu(ケルシー・ルー)。2016年のデビュー以降、音楽ファンのみならず、モード界からもラブコールを受ける彼女は、Jil Sander(ジル・サンダー) の表参道店のオープニングでパフォーマンスを披露するために来日。インタビューでは、丁寧に言葉を選びながら、その心の内を語ってくれた。
めくるめく音世界へと誘うチェリスト Kelsey Lu (ケルシー・ルー) インタビュー
Portraits
NYブルックリン出身の美しきチェリスト、Kelsey Lu(ケルシー・ルー)。9歳のとき、バイオリンのレッスンを受けていた彼女は、通っていた教室の隅にそっと佇む大きなチェロに一目惚れしたという。先生に促され弓を弾くと、胸元に響き渡る音の振動が心にまで共鳴し、すっかり虜になったのだとおしえてくれた。それ以来、相棒となったチェロとともに音楽制作に励むようになると、エフェクターを駆使し、奥行きのある音空間を構築することに成功する。さらに、豊かな自身のボーカルを乗せ、2016年にデビューアルバム『チャーチ』を完成させると、音楽ファンのみならず、モード界からもラブコールが殺到した。
今回Jil Sander(ジル・サンダー)の招聘で来日し、表参道店のオープニングにてパフォーマンスを披露した彼女。そのまっすぐな瞳に映る景色とは、一体どんなものなのだろうか?インタビューをお届けしよう。
–まずは日本の印象からおしえてください。
日本が大好きです!日本人はあらゆるものに敬意を払い、細部に気を配る姿勢が素晴らしいですよね。モールのフードコートで食事をしたら、丁寧に整えられたパッケージに感動しました。京都を訪れた際には、街でゴミ拾いをするひとが目に飛び込んできて、なんて素晴らしいことかと思いました。それから、ハンカチを持ち歩く習慣は、無駄な消費をせずに済むだけでなく、スタイルもあって真似したいですね。今回の旅では、いい意味でたくさんカルチャーショックを受けて、ホームレスですら、アメリカと違って見えたほどです。
−Jil Sanderの服を着てみての感想は?
着心地がとっても良いですね。そして、袖を通すだけで幸せな気分になれると同時に、自信が持てました。
—手元はセルフコーディネイトでしょうか?そこからも、あなたのファッション感度の高さがうかがえます。普段の着こなしにルールはありますか?
いつもつけているリングを合わせました。母から譲り受けたものもあれば、ファンからの贈り物、ツアーで訪れたニューメキシコで手に入れたものまで様々です。ファッションのルールは、しいて言うなら、ルールに囚われないということでしょうか。幼少期からはっきりと夢を覚えているタイプなので、前日に見た夢で見た情景や、自分のいる場所、その日の光からインスピレーションを得て着る服を選びます。
—あなたの音楽を初めて聴いたとき、豊かな自然に包まれるような感覚になりました。曲作りにおいても、具体的な情景がインスピレーションになっているのでしょうか?
今はLAに住んでいて、自然に囲まれた生活を送っています。家の横に池があって、毎日気軽にハイキングできるような環境なんです。曲作りを行う部屋の窓からは、木々や山々、広い空が一望できるので、そういった景色から影響を受けることは確かにありますね。
—そういった自然に触れて、フィールドレコーディングをすることはありますか?
去年の冬にアイスランドを訪れた際には、枝を折ったり、雪景色に石を投げ込んでみては、度々残響を録音しました。空と地面の境目が分からないくらいの銀世界で、心も体も解放することができて素晴らしかったです。夜は今まで体験したことのない暗闇に包まれて、流れ星にうっとりしたり。そうした自然から影響を受ける一方で、レイブやウェアハウスのDJイベントで耳にしたメタルの振動音から創作意欲を掻き立てられることもあるんですよ。
—2016年のデビューアルバム『チャーチ』から2年の時を経て、シングル『シェーズ オブ ブルー』がリリースされましたね。
シングル曲は、アナログテープに録音するプロセスを採用し、味わい深く、魂にすっと入り込むようなサウンドが実現しました。この2年間は、自分でもかなりの成長を感じると同時に、心境の変化もありましたね。たとえば、チェロだけにこだわらず、ほかの楽器に目を向けるようになったり。さっき話したフィールドレコーディングを試みるようになったのもそうですね。プロデューサーを始め、仕事で出会った人々の意見に耳を傾けることで進化することができたのだと思います。
—セカンドアルバムはどんなものになるのでしょうか?
Adele(アデル)、The XX(ジ・エックス・エックス)、Sampha(サンファ)などを手がけるRodaidh McDonald(ロデイド・マクドナルド)にプロデュースをお願いしています。まだ制作段階なので、今伝えられるのは、フィールドレコーディングした音が入っているということくらいでしょうか。私がチェロで作った曲に、彼がアレンジを加える作業を繰り返し行なっていて、ときにパーツを入れ替え、曲を作り直すこともありますね。根幹に必ず自分があるようにサウンドデザインしてくれるので、ワクワクしながら取り組めています。
—最近好きな音楽は?
難しい質問ですね。なんでも好きなので、逆に聴かないものを答える方が簡単かもしれません。トップチャートの40位くらいまでのものは、あまり得意ではなくて、大なり小なり自分を変えてくれる音楽に心動かされます。
—普段、どうやって音楽を掘っているのでしょうか?
スポーティファイで色々なジャンルをシャッフルして、好きなアーティストのおすすめから、どんどん新しい音楽に辿り着くことが多いです。まるでうさぎが穴を掘り下げるような感じというか。あとは、UCLAのウェブサイトで音楽のアーカイブを遡るのも欠かせません。最近気になったのは、50年代にインドネシアで活躍したとある親子による音源です。ロンドン発のインターネットラジオNTSで、第一火曜日に番組を持っているので、そこでお気に入りを紹介しています。Young Thug(ヤン・サグ)などの現行の音楽と古いものを混ぜてプレイしているので、チェックしてみてください。
—では、最後の質問です。これまでにBlood Orange(ブラッド・オレンジ)、Florence Welch(フローレンス・ ウェルチ)、Oneohtrix Point Never(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)とコラボレーションしていますね。ほかにも一緒に仕事をしてみたいアーティストはいますか?
Yves Tumor(イヴ・トゥモア)とは、ぜひコラボレーションしたいです。彼のエクスペリメンタルな楽曲は、独特の質感が魅力的なのと、曲の展開が読めないところや、音から創造できる風景にも惹かれます。聞いていると、だんだん気分が上がってきて、完全に支配されて制御不能に陥ってしまうんですよ。鏡の前でハイになってダンスしながら、やっと自分自身になれる感覚と言ったら伝わるかしら。あとは、ハープ奏者のAhya Simone(アヤ・シモーヌ)も気になっています。彼女の地元デトロイトをツアーで訪れた際に、パフォーマンスを見て心射抜かれました。あまりに美しい演奏だったので、感極まって泣いてしまったくらい。いつか一緒にプレイできたら光栄です。
Kelsey Lu (ケルシー・ルー)
チェリスト、シンガーソングライター
ノースカロライナ州シャーロット出身。現在はロサンゼルスを拠点に活動しており、Blood Orange (ブラッド・オレンジ) や Kelela (ケレラ)、Solange (ソランジェ)、Sampha (サンファ) らとのコラボレーションでも知られる。2016年にデビューEP『Church』をリリースし、高い評価を得た。2018年4月にはシングル「Shades of Blue」を、11月に「Due West」を Columbia Records (コロンビア・レコード) よりリリースした。独特のセンスからファッションアイコンとしても注目されており、2018年10月には Jil Sander (ジル・サンダー) のフラッグシップストアのオープニングを記念したパーティーでのパフォーマンスのため来日を果たした。2019年には Columbia Records よりデビューアルバムがリリース予定。