Moses Sumney
Moses Sumney

音楽家・Moses Sumney (モーゼズ・サムニー) インタビュー

Moses Sumney

Photographer: UTSUMI
Writer: Hiroaki Nagahata

Portraits/

その声はまるで楽器のようであり、そのサウンドはまるで声の重なりのようである。アコースティックな親密さとデジタルな緊張感が渾然一体となったその音楽は、薄明かりに照らされた天国のように気高い。今回は、新作EP『Black In Deep Red, 2014』を引っさげて、約半年ぶりの来日公演を行った Moses Sumney (モーゼズ・サムニー) その人に、「なぜ新作EPで政治的なトピックを持ち出してきたのか」についての短いインタビューを敢行。慎重に言葉のニュアンスを探りながら、しかし、かなり具体的にはっきりと自身の考えを述べてくれた。

音楽家・Moses Sumney (モーゼズ・サムニー) インタビュー

Photo by UTSUMI

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その声はまるで楽器のようであり、そのサウンドはまるで声の重なりのようである。アコースティックな親密さとデジタルな緊張感が渾然一体となったその音楽は、薄明かりに照らされた天国のように気高い。今回は、新作EP『Black In Deep Red, 2014』を引っさげて、約半年ぶりの来日公演を行った Moses Sumney (モーゼズ・サムニー) その人に、「なぜ新作EPで政治的なトピックを持ち出してきたのか」についての短いインタビューを敢行。慎重に言葉のニュアンスを探りながら、しかし、かなり具体的にはっきりと自身の考えを述べてくれた。

 

—昨日のライブを観て、僕は親密さみたいなものを深く感じたんですね。演奏と歌のスキルは完璧にプロフェッショナルなんだけど、それが全て親密さに直結していたというか。なので、ステージ上のあなたをアーティストとしては崇めながらも、不思議と距離が近いような感じがしていました。

ありがとう。面白い感想だね。1回目の来日の時は来てくれたの?

—いいえ、行けなかったんです。

前回は1人でライブをやったんだけど、バンドとやるとよりダイナミックでエモーショナルな演奏ができるからいいよね。その上で、最後には1人で演奏したりして静かな時間をつくることもできるし。そういう抑揚のあるライブを日本のオーディエンスに見せることができて嬉しいよ。

—昨日は特に良いムードでやれていたんじゃないかと思うんですけど。

うん、ライブが終わった後に、あそこまで長い拍手をもらったのは初めてだった。僕がステージからはけた後も、ずっと拍手が鳴り止まなくて。今までで最高の反応の一つだったと思う。もう演奏する曲がなくなってしまったから、観客のみんなにはちょっと申し訳ないことをしたね。

—今日は新しいEP『Black In Deep Red, 2014』について、いくつかお訊きしたいことがあるんです。まずは、本作でファーガソン事件 (2014年当時18歳の黒人青年マイケル・ブラウンが白人警察官によって射殺された事件) のことを題材にしていると公表していますが、そのことで何か神経質になったり、躊躇したりすることはありませんでしたか?

まずこれははっきりさせておきたいんだけど、僕はファーガソン事件についての曲を書いたわけではなくて、ファーガソン事件にインスパイアされて音楽をつくったんだ。つまり、問題になった白人警官や彼を擁護する人たちに対して反対したいという気持ちから曲を書いたわけではない。ロサンゼルスの抗議デモに参加したときの経験については一部歌詞にしたけど、マイケル・ブラウンについて書いたわけでも、事件そのものについて書いたわけではない。でも、確かに事件にはつながっている。僕はどちらかというと、警察の軍隊化について、警察が軍隊のような凶暴性をもって人々をコントロールしようとすることについて、自分の思いを表現したかった。そういうことは世界中で起こっているけど、アメリカではその動きが特に顕著で。で、曲を書いているときに一番躊躇したのは…。いや、4年前に曲を書いているときは躊躇しなかったけど、今回こうしてオフィシャルな音源としてリリースするときには躊躇したかな。これまで愛とか個人のつながりについての音楽を作ってきた中で、今回は政治的な音楽を作ったわけだよね。だから……うん、僕は政治的なことについて話すのが好きじゃないんだ。あまり心地が良いものじゃない。だから、その点については躊躇した。えーっと、(テーブルに置かれたケーキタワーを指さして) スイーツいる?

—じゃあ、このチョコブラウニーを (笑)。このテーマについて、もうちょっと突っ込んでいきたいんですが……。

ケーキで気をそらしたつもりだったんだけどな (笑)。うん、どんどん聞いてくれよ。

—何もあなたの政治的スタンスを明らかにしようということじゃないんです。ただ、あなたは今まで曲の中で、「好き」とか「嫌い」っていう次元の極端な感情については歌ってこなかった。例えば「好き」が「嫌い」に変わっていく時のプロセスみたいなものを、すごく詩的に表現していたじゃないですか。

そうだね、その感想は嬉しいよ。

—ただ、政治的な事案に触れることで、「このミュージシャンは右か左か」を判断されるリスクを負いますよね。もちろん、本人にその意図がないのはわかるんですが、とはいえ、何かしらのジャッジを下したいという人も少なくないわけで。

うーん、そういう意味でいうと、僕は曖昧な人だね。答えが長くなっちゃいそうだから、少し考えさせて…。うん、いくつかクリアにしておきたいことがある。僕は、政治的な意見を人に話すことに対して躊躇はない。政治について特別な知識があるわけではないけれど、自分の意見を話すことは嫌ではないし、怖くもない。そういう話をするのが特別好きということはないけど。さっき、「政治的な話をするのは心地良くない」と言ったのは、主に人種のことについてで。特に、海外に行って人種差別について話すのは、楽しいことではないからね。でも、今回みたいに、話さなきゃいけないときもある。僕の政治的なスタンスが曲の中に現れているとしたら、若いとか、黒人であるとか、リベラルな見方を持っているとか—それがたくさんあるリベラルな見方の中のたった一つにすぎないとしても—そういうことに紐づいてくるはず。人間って、過去の発言、どういう人とつるんでいるか、住んでいる場所、見た目、そういう情報に基づいて、他人がどういう人なのかを決めつけるよね。みんな、それは他人を理解するためにやるわけだけど。そして、アーティストについて言えば、オーディエンスは彼ら・彼女らを理解するために、その表現を既存のカテゴリーに押し込めてしまう。このEPの曲の中で、自分の政治的な立ち位置を語ったとすれば、警察の軍隊化は良くないということ、その1つだけなんだ。えーっと、誤解されるかもしれないけれど、これは僕が民主党を支持しているという話には直結しないよ。

 

Moses Sumney - Rank & File Official Live Video

 

—うん、その感覚はよくわかります。

かといって、共和党を支持しているわけでもない。そもそも、アメリカの政治の話が二元論に陥りがちなのは、僕は問題だと思うんだ。「ああ、この人はこっちサイドの人なのね」とか、そういうふうに決めつけがちだけど、僕に言わせればそんなに単純な話ではない。僕は、政治についても、愛についても、恋愛関係についても、二元論で語れるなんて思っていない。こっちの側とか、あっちの側とか、そういう話ではなくて。僕は、すべてを深く観察して、あらゆる立場に対して疑問を持つようにしている。このEPを聴いた思慮深いリスナーが、僕の書いた曲から政治的なスタンスを読み取るとすれば、「アメリカの警察はめちゃくちゃだ」っていうことだけだね。

—多方面から見ていって、疑問を呈するという行為に関して、それをうまくやっていた先人は誰か思いつきますか?

僕は特定の誰かの考えを盲信するタイプではないから、子どもの頃から、いつもそういう (疑問を投げかける) 考え方を持っていたと思う。僕は社会学者が好きで、同時に自分の活動を通じて社会学を実践していくことも好きだ。社会そのもの、社会集団の行動について研究したりもしている。社会学が好きだと、社会がどんな風に回っているかを考えるようになるんだよ。

—この時代に生きていると、そういう視点でものを見ざるを得ないというような気もします。

僕もそう思う。だから、僕はコントラリアン (あまのじゃく) なわけではなくて。疑問を呈すること自体が好きだからとか、「僕ってこんなに個性的なんだ」って示したいからとか、そういうことでもない。僕にとっては…。えーと、なんて言おうとしたんだっけ。ああ、僕の尊敬する人か。誰だろう、Malcolm X (マルコムX) かな。彼の考え方は素晴らしいと思う。あと、他に考え方が面白いと思ったのは……僕は基本的にフェミニストや思想家が好きだな。例えば、Bell Hooks (ベル・フックス) とか。世界について深く考えている人を尊敬している。

—では、あなたの音楽性について、最初のEPではフォークベースのすごく素朴な曲をつくっていったのに、そこからどんどん進化をしていって、最新のEPではその音楽性はガラッと変わっていますよね。一つの音楽ジャンルに寄りかからないという姿勢は、今おっしゃった個人の考えともリンクしているものでしょうか?

どうかな。僕は色んなものが好きで、好きになったものは全部やってみたい性格なんだよね。自分の中に良いものを作れるポテンシャルがあるなら、何でもやってみたいと思っている。僕の音楽を一つのカテゴリーに押し込められるのは好きじゃない。「こういうもの」って決めつけられるのが嫌なんだ。リスナーには、僕がつくるいろんな音楽に対してオープンでいてほしい。そういう考え方はアート面にも及んでいると思う。

Photo by UTSUMI

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—異なるカテゴリーの音楽に手を伸ばしていくことと、音楽そのものを深めていくことは、どのように両立させているんですか?

うーん、僕はただいろんな音楽の表面を引っ掻いているだけだとは思いたくないけど (笑)。だけど、意味は分かるよ。ジャンルの垣根を取り払って、異なるスタイルの音楽の要素を組み合わせることの面白さは。いや、異なるスタイルの音楽を組み合わせることすら、僕はしてないな。僕はただ色んな「サウンド」を組み合わせてるだけだ。だから、僕がいわゆる “ロックアルバム” をつくることはないと思う。もう他の誰かがやっていることを繰り返すのはつまらないから。僕がストレートな “ジャズアルバム” を作ることもないだろう。そういうアルバムは、既にこの世界に溢れかえってるから、僕がわざわざ作る必要はない。僕は “フォークアルバム” ならつくるかもしれない。ただ、僕のアプローチは王道のフォークスタイルというわけでもなくて、もっとソウル寄りだと思うから、その時点ですでに異なるものを組み合わせてるわけだよね。つまり、僕が興味を持っているのは、異なる要素を組み合わせるという作業を深く追求していって、まだ誰もやったことがないようなことに挑戦することなんだ。

—そういう風にミックスされたあなたの音楽の中で、「これは欠かせない」「これは確実にコアにある」というものを挙げるとしたら、何になりますか?

ソウル音楽かな。ジャンルとしてのソウルだけじゃなくて、ソウルの考え方も。魂のために音楽を作ること、そして魂から音楽を作ること。で、2つ目を挙げるとすれば、フォークミュージック。

—音楽とは違う表現方法をやってみたいなとか、そういう風にブレたことはかつて一度もありませんか?

うん、音楽家として成功するかまだよく分からなかった時は、作家になりたいと思ったことはあったし、今でも時々考える。学校でクリエイティブライティングを勉強したし、文章を書くのが好きなんだ。小説は難しいと思うけど、エッセイならぜひ書いてみたい。僕の夢の一つだよ。あと、今は演技にも興味がある。だから、執筆と演技かな。

—さっきのファーガソン事件のことでもそうですけど、あなたはただ事実を語るだけではなく、あるいは意見を言うだけでもなく、ある角度から見たときにはこう見えるよねっていう感じで、描写することに長けていますよね。ある種のドキュメンタリー作家だなという風にも捉えています。

考えたこともなかったな。面白いね。ありがとう。

—最後に1問だけ。昨日のライブの最後にバサッと羽織った法被型のコートはどこのものですか?

ああ、あれはね、友達がやっている 69 (シックスティーナイン) というブランドのもので。LAで買ったけど、日本にインスパイアされたデザインなんだと思うよ。日本独特の形ってすごく美しいよね。

Photo by UTSUMI

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<プロフィール>
Moses Sumney (モーゼズ・サムニー)
1990年カリフォルニア生まれのシンガー・ソングライター。LAを拠点に音楽活動をスタート。2013年に James Blake (ジェイムス・ブレイク)「Lindisfarne」を多重録音でカバーしネットにアップしたところ、たちまち話題となる。2014年にデビューEP『Mid-City Island』をリリース。楽譜のみでリリースされた Beck (ベック) のアルバム『ソング・リーダー』を総勢20組のアーティストが演奏したコンピレーション・アルバムに Norah Jones (ノラ・ジョーンズ)、Jarvis Cocker (ジャーヴィス・コッカー) などとともに参加。2016年にはピッチフォークフェスティバル出演、James Blake や Sufjan Stevens (スフィアン・スティーヴンス) のUSツアーのオープニングに抜擢。2017年、インディペンデント レコード レーベル Jagjaguwar (ジャグジャグウォー) と契約し待望のデビュー・アルバム『アロマンティシズム』をリリース。2018年6月ソロセットでの初来日公演を開催しチケットは即日完売となるなど注目度の高さをみせつけた。

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