Lucie Meier & Luke Meier
Lucie Meier & Luke Meier

JIL SANDER (ジル サンダー) クリエイティブ・ディレクター Lucie Meier (ルーシー・メイヤー) & Luke Meier (ルーク・メイヤー) インタビュー

Lucie Meier & Luke Meier

Writer: Saki Shibata

Portraits/

元 Supreme (シュプリーム) のヘッドデザイナーと自身のブランド OAMC (オーエーエムシー) を手がける、Luke Meier (ルーク・メイヤー) と、Louis Vuitto (ルイ・ヴィトン) や Dior (ディオール) などハイブランドに携わってきた Lucie Meier (ルーシー・メイヤー) が、JIL SANDER (ジル・サンダー) のクリエイティブ・ディレクターに就任して1年半。今年9月に表参道にオープンした店舗は、彼らが世界で初めて全てのディレクションを行なった。店舗オープンを祝して来日した彼らに、JIL SANDER の今後の展望と2人の関係について話を聞いた。

JIL SANDER (ジル サンダー) クリエイティブ・ディレクター Lucie Meier (ルーシー・メイヤー) & Luke Meier (ルーク・メイヤー) インタビュー

Courtesy of JIL SANDER

Courtesy of JIL SANDER

 

元 Supreme (シュプリーム) のヘッドデザイナーと自身のブランド OAMC (オーエーエムシー) を手がける、Luke Meier (ルーク・メイヤー) と、Louis Vuitto (ルイ・ヴィトン) や Dior (ディオール) などハイブランドに携わってきた Lucie Meier (ルーシー・メイヤー) が、JIL SANDER (ジル・サンダー) のクリエイティブ・ディレクターに就任して1年半。今年9月に表参道にオープンした店舗は、彼らが世界で初めて全てのディレクションを行なった。店舗オープンを祝して来日した彼らに、JIL SANDER の今後の展望と2人の関係について話を聞いた。

仲睦まじい様子で姿を見せた Lucie Meier と Luke Meier 夫妻。向かい合いながらゆったりと会話をする彼らに、純粋な愛を感じた。その瞬間、彼らが作り出すコレクションにもその愛情が注がれていることを確信した。シンプルな中に力強さと自信を感じるデザインには、彼ら独自のピュアな美学が込められている。そしてその美学は今のファッション業界に、本来の服の在り方をそっと教えてくれるのだ。

—2019年春夏コレクションでは、スポーティーながらも女性らしいシルエットが印象的でしたね。今回のコンセプトを教えてください。

Lucie Meier(以下、Lucie):今回のコンセプトは「ユニフォーム」。伝統的なテーラリングというものにしたくなくて、スーツを違った意味で体現したかったの。新しいアンサンブルを作りたかった。

Luke Meier(以下、Luke):ユニフォームは、何かを学んでいる時やトレーニングをしている時に着るもの。アスリートやダンサーが最高のパフォーマンスをする時、日々厳しいトレーニングを積み重ねた習慣や規律というものが解き放たれて自由になり、ピュアな表現になると思っている。その瞬間というのは、とても美しく誰もが魅了される。この美学を表現したかったんだ。

—セーターにハンドタッチで描かれた女性のシルエットに力強さを感じました。あのイラストの女性は何を表しているのですか。

JIL SANDER 2019 Spring/Summer Collection

JIL SANDER 2019 Spring/Summer Collection

Lucie:私たちの服を着る人は強さとパワー、自信を感じてほしいと思っているの。それを表現する一つの方法だと思っているわ。人間の体というのはとてもピュアな姿だと思っていて、本来とても強いものだと思っているの。今回は女性でしたが、フェミニズムにこだわったものというわけではなく、全体的に強さやパワーを感じてほしい。

Luke:手で描かれたような手作業であるというのがとても気に入っているよ。僕達の服はフラットなものが多いけど、そこに手作業のものを合わせることでバランスを取っているんだ。

—厚底の下駄シューズは私たちから見てとても衝撃的でした。これは日本のどのような部分にインスピレーションを得たものなのでしょうか?

Luke:日本は常にインスピレーションをもらっている場所だよ。特に日本の自然は他の国にはない清らかさを感じる。西洋ではミニマムというと冷たく硬く感じるけど、日本ではミニマムという意味は暖かさを感じるんだ。日本のイノベーションが違った視点を与えてくれるよ。

—今回のコレクションのコンセプトはどのように決定したのでしょうか。

Lucie:日常のルークとの会話の中から生まれるわ。ユニフォームが始まりで、そこからそれ以上何ができるかを考え始めたのがきっかけよ。

 

JIL SANDER FALL / WINTER 2018 ADVERTISING CAMPAIGN DIRECTED BY WIM WENDERS

 

—ファッションフィルムやキャンペーンヴィジュアルなどとても洗練されていて、改めて JIL SANDER に惹きつけられるものが出てきたのですが、お二人にとって、SNSなどのメディアとはどんな付き合い方をしたいですか?

Luke:SNS は良いツールではあると思っている。やりたいことをやって表現する場所がある。時々ソーシャルメディアのイメージで葛藤する人がいたり、少しチープに見えたりすることもあるけれど、見せ方次第で綺麗に美しく見えるものでもある。僕たちもどんどん取り入れていきたいと思っているけど、僕たちのやり方で使いたいと思っている。新しいアイディアを取り入れるということだし、新しいコミュニケーション方法で人と繋がるというのもとてもボジティブに捉えているよ。

JIL SANDER 表参道

JIL SANDER 表参道

—世界で最初に二人がディレクションをした店舗が9月に表参道にオープンしたそうですね。なぜ最初に日本を選んだのですか。

Luke:いい質問だね。僕たち自身、このブランドを作り上げる上で日本との繋がりというのは、必要不可欠で、今回建築を手がけてくれたジョン・ポーソンも日本で建築を学び、仕事をしている。全員の共通項が日本という場所だったんだ。建築物のクオリティも高く、僕たちがやりたかったことを確実に表現することができると思った。内装も塗装されているものではなく、木など自然と調和しているような造りにしているよ。

JIL SANDER 表参道

JIL SANDER 表参道

—日本という場所だからこそ、自然の要素が入ったデザインになったのでしょうか。

Lucie:そういうわけではなく、私たちが大事にしている“解き放たれたピュアな美学”を空間でも感じてもらいたいと思っているわ。店に入って良い気持ちになるような環境を提供したかった。ジョン・ポーソンを選んだ理由も、哲学や美学に共感してくれたからよ。

JIL SANDER 表参道

JIL SANDER 表参道

—共同作業にはお互いをリスペクトする気持ちが不可欠のように思います。お互いのどんなところにリスペクトしていますか。

Lucie:ルークの誠実さと野望的な部分ね。それを突き通すようなところ。私にはない部分を持っているの。

Luke:ルーシーはとてもポジティブで、常に前に進む方法を考えていて。でも一緒にいても疲れないんだ。次の目標に向かって進んでいくパワフルなところを尊敬しているね。

—衝突しあったりすることはありますか?

JIL SANDER 2019 Spring/Summer Mens Collection

JIL SANDER 2019 Spring/Summer Mens Collection

JIL SANDER 2019 Spring/Summer Mens Collection

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Luke:違う意見もあるけど、その時々で意見を強く持っている方にお互いが寄り添うようにしているよ。でも全体的にほとんどのことに同意してるね。なぜなら僕らは15年間会話し続けているから。一緒に仕事をすることは初めてだけど、ずっと二人で会話をし続けているから、そんなに意見が分かれることはないかな。

—仕事のパートナーでもあり、人生のパートナーでもあるお二人。憧れのような関係であると同時に、公私混同してしまうような部分も出てきてしまうのではと思います。そう言った部分はどのようにコントロールしているのでしょうか。また、お互いのクリエイティビティをどのように高め合っているのでしょうか。

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Luke:仕事とプライベートと分けて考えていないかもしれないね。ある意味そこには違いがないような気がしている。仕事の責任というのはあるけれど、会話というのはいつも続いてることなので、一緒に何かを見たりインスパイアされたり、そこからたくさんのものが生まれているよ。

Lucie:そこを切り離すことはできないわね。アイディアのことに対して会話を止めるということはしないわね。

Luke:クリエイティブな話というのは、ビジネスライクに1時間のスケジュールに組み込めるものではなく、その時々によって迷ったりすることもあるので、そういう時はお互い共有するようにしているよ。

—JIL SANDERのクリエイティブ・ディレクターに就任し1年半が経ちましたが、そこから見えてきたもの、または新たな目標やビジョンなど心境に変化はありましたか。

Luke:今積み重ねてきたものをより強化していきたい、JIL SANDER をより成長させていきたいと思ってるよ。僕たちがやっていることは、全体的なファッション業界からすると少し反しているかもしれない。目に見えるものだけではなく、品質やファブリックをとても大切にしているんだ。今の時代そんなに大事に思われていないかもしれないけど、僕たちはそこがとても大事だと思っているよ。使い捨ての服ではなく大事に使える服を作り続けて、人々がその価値観に共感できるように、この思いをインスパイアし続けていきたい。

Luke:今の仕事のスタイルにとても満足していて、JIL SANDER が成長していくのを楽しんでいきたい。今の時代の物に対する考え方を正すことが必要であると思っていて、服に対するアプローチの仕方を改善できると思っている。例えば3か月で捨てられるものを作らないとか、服は長く使えるものであるべきだと思ってるし、そういう考え方をすべての仕事で体現していきたい。素材や生地、作るもの全てにおいて。それを見せるのがとても大事だと思っているわ。

<プロフィール>
Lucie Meier (ルーシー・メイヤー)
オーストリア人の母とドイツ人の父の間にスイスで生まれる。フィレンツェでファッションマーケティング、パリでファッションデザインを学んだ後、Marc Jacobs (マーク・ジェイコブス) の下で 5 年間 Louis Vuitto (ルイ・ヴィトン) のデザインチームに所属。Nicolas Ghesquière (ニコラ・ゲスキエール) 率いる Balenciaga (バレンシアガ) に在籍後、Raf Simons (ラフ・シモンズ) の目に留まり、レディースのオートクチュールとレディ・トゥ・ウエアのヘッドデザイナーとして Dior (ディオール) のデザインチームに加わる。Raf Simons 退任後、Dior の共同クリエイティブ・ディレクターとして 5 つのコレクションに従事した。

Luke Meier (ルーク・メイヤー)
ルーク・メイヤーは、イギリス人の母とスイス人の父の間にカナダで生まれる。ワシントン DC のジョージタウン大学でファイナンスと国際ビジネスを学んだ後、英国オックスフォード大学で経営学を専攻。その後、FIT に通うため NY に移動。新たにメンズブランド OAMC を共同設立者として立ち上げ、現在では 100 を超える世界の有力リテーラーで展開されている。