sacai (サカイ) デザイナー、阿部千登勢インタビュー
Chitose Abe
by Daisuke Yokota
2018年、阿部千登勢がデザインする sacai (サカイ) はデビュー20周年を迎えた。とはいえパリコレクシヨンにデビューしたのは、ほんの7年前。この7年で確実に sacai をパリから世界に向けて発信、認知されてきた。その20年の歩みの中で阿部千登勢の今の気持ち、これからのことを聞いてみた。
sacai (サカイ) デザイナー、阿部千登勢インタビュー
Portraits
2018年、阿部千登勢がデザインする sacai (サカイ) はデビュー20周年を迎えた。とはいえパリコレクションにデビューしたのは、ほんの7年前。この7年で確実に sacai をパリから世界に向けて発信、認知されてきた。その20年の歩みの中で阿部千登勢の今の気持ち、これからのことを聞いてみた。
—20周年おめでとうございます。今あらためて「服」を作るときに大切にしていることは何ですか?
オリジナリティです。今 sacai が認知され始めてきました。でもそこに、新しさを加えないと意味がないと思っていて、そのバランスを大切にしています。あと、私が着たいかどうかは服を作るときの大きなポイントです。
—自分自身で「sacai らしさ」とは何だと思いますか?
「ハイブリット」が sacai らしさだとみなさんに思われています。でも私がクローズアップしたいのは女性の顔、女性の生活、女性の多面性です。それを表現する手段が「ハイブリット」という方法になりました。
—そうですね。ずっと sacai の服を見続けていますが「ハイブリット」という言葉が出回っていない頃からやっていましたね。今、女性の多面性を表現するのはどのデザイナーも意識していることです。でもニットと布帛を掛け合わせることは技術と知識がいる。そしてニットという素材はこれまで普段着の顔でした。そのニットとレースやキュプラを合わせたのが斬新かつオリジナリティとして「sacai らしさ」として浸透したのだと思います。今、パリコレクションのラグジュアリーブランドもリアリティを求めています。その点、千登勢さんが「着たい」と思う気持ちがリアリティにつながっているのだと思いますが、どうでしょう?
そうですね。私がデビューした頃のパリコレ常連のハイブランドはもっとラグジュアリーだったと思います。今の時代だからこそ、「sacai」の存在がアピールできたのかもしれません。
—またデビュー当時から「ハイヒールを履くシチュエーションを持つ大人の女性に着てもらいたい」と言っていましたね。
はい、女性としていろんな場面を持っている人です。
—まさに千登勢さんのライフスタイルですね。20年前は sacai がこのようになると思っていましたか?
あの頃から「今日より明日」「明日よりあさって」という思いで続けてきました。いつも目標というのはないのですがファッション業界のあちこちで私が見たことのない世界があると、ちょっとのぞいてみようかな…という好奇心で歩んできたような気がします。
—それがパリにつながった?デビュー当時から繊研新聞の織田さんが「ショーをやりなさい」とすすめていたけれど頑なに拒否していましたよね。「私のトップスはいろんなブランドのボトムスと合わせてくれればいいんです」と。それからショーをやることになったきっかけは何でしたか?
パリの展示会でも商品は売れていましたが、いつもハンガーにかけられていました。そろそろショーかな、と思ったのは自分の服に女性の身体が入って動いているのを見たときです。そのとき服を着たモデルのキャットウォークがより自分 (女性) のリアリティを表現してくれると感じたんです。
—そして初めてのショーはヴァンドーム広場近くのスペースでしたね。
はい、あれは…2011年だから7年前ですね。
—7年前ですか!あのときすでに世界中の専門店が取引していてバイヤー人気は高かった。でもプレスにはまだ認知度が低く満を持してのショー発表でしたね。1日に数回キャットウォークを行うというプレゼンテーション形式でした。それからパリコレを続けてきた意味って何だと思いますか?
2回目のコレクションだったと思いますが、パリコレクションという発信力に凄さを感じました。私はルーティーンが苦手なので、必ずしも続けなければいけないとは思っていないのですが、今はパリでコレクション発表をすることがベストだと思っています。でもインデペンデントな会社なので、自分が好きなこと、面白いことには挑戦していきたい。今、社員が70名いるのでリスクばかりは追いかけられませんが、売上を維持するためにも何か楽しい仕掛けをしないとブランド力は損なわれます。そのためにも青山にある旗艦店は来てもらって感じられる空気感を大切にしています。
—メンズもパリコレクションで発表し始めましたね。そのキッカケは?
ブティック、コルソコモ10のためにメンズラインをデザインして欲しいという依頼があったためです。2006年から4シーズンコルソコモだけのためにデザインしました。その後、他の専門店からも依頼があり2008年からメンズコレクションをスタートすることになったのです。
—ウイメンズは千登勢さんが着たいリアリティでデザインしているわけですが、メンズは着せたいリアリティですか?コレクションの評判も良いですよね。
着せたいではなく、周りにいる男の子たちの着たい気持ちを考えています。ただ、女性にとって “着飾る” ことは大切だと思ってデザインしていますが、男性には意識していません。その点、抜け感のあるデザインになっているのかもしれませんね。
—昨年は東京コレクション「at Tokyo」で UNDERCOVER (アンダーカバー) とのジョイントショーが好評でした。sacai にとっては初めての東京コレクションでしたね。
はい、最初で最後の東京コレクションだと思います。あれはデザイナーを目指す学生の方たちに見てもらう目的で受けました。sacai も毛糸玉10個、サンプル5着作って自宅で見せてスタートしたブランドです。そんな思いを若い人たちに伝えたかったんです。
—今、服以外にデザインしたいものは?
インテリアとか興味あるものはたくさんあります。この先10年の間に良いタイミングがあればやりたいです。
—数年前、バレンシアガのデザイナー候補になりましたね。今後ラグジュアリーブランドからオファーがあったらどうしますか?
今でもいろいろ投資の話とかオファーはあります。数年前だったら絶対断ると思っていましたが、この先はいろいろなカタチがあるかもしれないと思っています。ただ今年はそのタイミングではないですね。
—10年後、何していますか?
今と同じような気持ちでファッションに関われていたらうれしいです。
—今年20周年で何か考えていることは?
20周年だからといって何かコレクションで発表するとかはありません。自分自身の中では、単なる通過点でもっともっと前へ進む段階だと思っています。ただみなさんへの感謝の気持ちは表したいです。10年前の「10周年記念パーティ」覚えていますか?
—覚えていますよ、楽しかった。Joël Robuchon (ジョエル・ロブション) のディナーパーティでしたね。
高級居酒屋をコンセプトにガラガラなどを行い、みなさんに楽しんでいただきました。
—そう、着席パーティだったのに最後はみんなで席移動しちゃって居酒屋状態。パーティも sacai らしいハイブリットでした。
<プロフィール>
阿部千登勢 (あべちとせ)
専門学校卒業後、数社でアパレルパタンナー、企画を担当
1997年 出産、育児のため退社
1999年 sacai スタート
2003年 有限会社 sacai assoc. 設立
2004年 2004-2005 a/w collection よりN.Y にて展示会を行う
2004年 2005 s/s collection よりPARIS にて展示会スタート(現在はPARIS と東京で展示会を行っている)
2006年 株式会社 sacai / 設立
2006年 10 corso como comme des garcons のエクスクルーシブライン「sacai gem」スタート (現在は、ロンドンと銀座のdover street market の2 店舗で販売)
2006年 2006 sacai luck スタート
2007年 2007 毎日ファッション大賞 受賞
2008年 sacai 10 周年を迎える
2008年 2009 s/s より sacai MEN’S ラインスタート
2009年 2009 第52 FEC (日本ファッション・エディターズ・クラブ) 賞 デザイナー オブ ザ イヤー受賞
2009年 MONCLER S のデザイナーに就任
2010年 2010 s/s よりsacai luck がランジェリー・ホームウエアラインから sacai よりもリラックスしたシーンに向けたコレクションとしてリニューアル
2011年 2011 a/w collection よりPARIS にてショー形式でコレクションを発表
2011年 東京・南青山にフラッグ シップ ショップを9 月10 日にオープン
2013年 10月23日にフランス オートクチュール・プレタポルテ連合協会の正式会員となる
2015年 NikeLab × sacai のコレクションを2015 Spring collection よりスタート
2015年 Rizzoli 社よりsacai 初の書籍 sacai A to Z を発売
2016年 2017 s/s collection ショーにてsacai 初のバッグコレクションを発表
HP: www.sacai.jp