Mirai Moriyama
Mirai Moriyama

領域を横断する表現者、森山未來インタビュー

Mirai Moriyama

Photographer: Tetsuo Kashiwada
Writer: Tomoko Ogawa

Portraits/

日本のマラソンの発祥とされる「安政遠足 (あんせいとおあし)」に基づく土橋章宏の小説『幕末 まらそん侍 』が実写化。国内外から一流のスタッフとキャストが集まり本格幕末エンタテイメントとして公開前から話題になっている。TFPでは個性豊かなキャラクター群の中でも、ひときわ存在感のあるキャラクター辻村平九郎を演じた森山未來にインタビュー。カテゴライズに縛られることなく、表現者として常に第一線で走り続ける彼が、本作の画作りにおける不思議な力強さについて語ってくれた。

領域を横断する表現者、森山未來インタビュー

日本のマラソンの発祥とされる「安政遠足 (あんせいとおあし)」に基づく土橋章宏の小説『幕末 まらそん侍 』を、『キャンディマン』(1992) や『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』(2013) の Bernard Rose (バーナード・ローズ) が映画化。映画『サムライマラソン』は、幕末を舞台に、安中藩主・板倉勝明 (長谷川博己) が外国の脅威に備えるために開催した十五里 (約58km) の山道を走る遠足、そして行き違いによって巻き起こる藩の存亡をかけた戦いを描く。勝てばどんな望みも叶えられると集まった安中藩の侍衆の中でも、ユニークな個性を発しているのが、重役の息子で、藩主の娘・雪姫 (小松菜奈) を手に入れようとする野心家、辻村平九郎だ。演じるのは、カテゴライズに縛られることなく、表現者として活躍する森山未來、34歳。辻村として全力で本編を走りきった彼が、本作の画作りにおける不思議な力強さについて語ってくれた。

Photo by Tetsuo Kashiwada

Photo by Tetsuo Kashiwada

—本作『サムライマラソン』に出演を決めた経緯をお伺いできますか?

まだ配役も全部は固まっていないかなり前の段階から、お話はもらっていたんです。辻村平九郎をやらないかということで。そこから脚本が随分推移したので、でき上がりのものとは全く違うものではあったんですけど、魅力的に映ったので、「ぜひやらせてください」と伝えました。

—バーナード・ローズ監督がクランクインに、「僕のやり方で皆さんを大混乱に陥れると思います」とおっしゃったそうですが、実際に予定調和でないことはどのくらいあったんでしょうか?

予定調和だったことがほぼなかったと思います。大混乱に陥ったかどうかは、人によるでしょうね。その状況を楽しめるか楽しめないかすらも、個人に委ねられていたので。最初の顔合わせのときに台本を渡された時点で、監督から「台本は捨ててくれていいから」と宣言されて。最終的にはバーナードも本に書かれていることに執着してほしくなかったんだと思うんですね、役者側に。一応、流れとして骨組みだけは台本通りに撮っていくけど、バーナード自身が変えることもあるし、役者側もここに書かれていることをやりたければやってもいいし、やりたくなければやらなくてもいいし、何か違うことをやってくれてもいいしっていう。

—演者さんそれぞれの自由意志が尊重されていた?

尊重されているというか、吹っ掛けられているという感じ (笑)。本当に、宣言された通り、段取りもテストもやらずに、カメラを構えて、「とりあえずここで撮るから」という感じで進むので、それを冷静に受け止める人もいれば、乗っかろうとした人もいれば、ふざけんじゃないよという人もいて。とはいえ、主にスタッフさんが大変だったと思います。例えば、脚本に書かれているから刀が必要となっていたのに、急に要らないとなったり。要らなくなるならまだいいんですけど、書かれていないものをいきなり求められたり。最初からわかっていれば、もっと準備できたのにということがどうしても起きてしまうので、それは大変そうだなと思って見てました。

 

『サムライマラソン』

 

—森山さん自身は、吹っ掛けられて、乗っかろうとしたんでしょうか?

僕は楽しかったですね。ラッキーだったのは、僕は辻村平九郎のキャラクターの推移をそれまでの脚本の中で見てきたんです。だから、自由にやっていいという提案があったときに、今までの脚本が使えるなと。カットされているものも付け足されているものも引っくるめて、使いたい部分をピックアップすればいいやと。加えて、やりたいようにやるなら細かなことじゃなくて、バコンと出さなきゃいけないと思っていたんです。

—タイミングを見計らっていた?

いつやっちゃおうかなと考えていたときに、長谷川博己さんが撮影の序盤、全員を従えて喋るところでかなり台本にはないことをぶっ込んできたんです。それがすごくスリリングでエキサイティングだったし、全体のスイッチが入った。これは助かったなと。勢いに任せていろいろやったけど、結局、僕の部分はかなりカットされてました (笑)。撮影が終わった後ですごくうるさかったんじゃないかと思ってて、そのバランスを最終的に取られたというだけなんですけど、けっこうやっちゃってましたね (笑)。

©︎“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

©︎“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

—時代劇でありながら、いわゆる日本のルールで作られてきた時代劇とは異なる自由さを感じました。

バーナードは、いわゆる日本というものを忠実に描くことについては、そこまで気にしてはいなかったですね。髪型ひとつとっても、幕末でいわゆる藩に務めている人間が髪の毛を剃らないなんてありえないんですけど、そういうことが大事なのはもちろんわかっているんだけど、そこにとらわれすぎていろんなことが小さく収まっていくのが嫌だったみたいで、そこも「やりたきゃ剃ってもいいけれど、別に勧めないし、どうやってくれてもいい」というスタンスでした。喋り言葉についても、江戸時代の喋り方があるじゃないですか。段取りもテストもしないでいきなり撮るから、しかも人によっては何かし出してくる人もいるかもしれない。それすらもわからない状況なので、当時の喋り方が成立するかというと、しないかもしれない。だけど、それさえも気にしなくていいという。「画の中から出てくる人間のエネルギーや強さが欲しいから、もし現代的な口調が出てきたら後でアテレコで置き換えるから、気にせず好きなことを喋れ」みたいな、そういうニュアンスだったんですよね。

—どちらかというと、役柄の前に、役者自身が問われるような?

そんな感じはしましたけどね。すごくランダムなシチュエーションの中でその波に乗って楽しめたと思います。面白かったのは、上司を待つという口実のもとダラけている勘定奉行の二人が喧嘩を始めるんですよ。台本には全く書かれていない、ただ待っているというト書しかないシーンなんですけど、現場に着いてバーナードがいきなり二人の役者に、「お前たちは今から喧嘩を始めるんだ」って。二人は言われたからやるしかないから口論を始めるんだけど、その一人の奥野瑛太は、僕の中で「サイタマノラッパー」(シリーズ)のイメージしかないわけです。で、完璧にディスり始めるんですけど、ラップバトルみたいになってて (笑)。そこはカットされていましたけどね。いわゆる言葉的にも所作的にも完璧にアウトなんだけど、何かパンと弾ける瞬間が画的に面白いし、バーナードはそういうのが見たいだけだなって。ああいう瞬間は、僕も大好きでした。

Photo by Tetsuo Kashiwada

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—役者同士の瞬発的な重なり合いから生まれるものがある現場だったんですね。

うん、ずっとセッションしてた感じです。だから、体力は要りましたよね。僕からすると、インプロとまではいかないけど、セッションを重ねていったうえの結晶みたいな感じがある。ドキュメントとまでは言わないけど。ドキュメントにしては、画作りの見え方が違いすぎるから。僕も、正直、不思議な読後感だと思ってはいるんですが、単純に、人間が動いている現象としてのエネルギーとか画作りというものがそこにありますよね。

—森山さんは、コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」に参加されたり、イラン出身の劇作家ナシーム・スレイマンプールの舞台『NASSIM (ナシーム)』に出演されたり、舞台、テレビ、映像、映画とボーダレスに行き来されている印象があります。作品選びの決め手は何なのでしょうか?

『NASSIM』みたいなものは、興味深いストラクチャーができ上がっているので、そういうところに参加できるのは僕の楽しみですし、たぶんパフォーマンスで人と関わることのヒントがあるから、単純に自分で実感して知りたいという思いはあります。

—つまり、決め手は関わる人なんですね。

うん。全部、人ですね、決め手になっているのは。やっぱり、改めて舞台は好きなんですけど、テレビ・映画・舞台という媒体で考えたときに、もしかして、映像の媒体がもともと僕にとって一番重要だったのかもしれないなと思っていて。僕がミュージカルに憧れていた幼少期って、生のミュージカルは観たことがなかったですし。20代中盤のときに、映像を通して観たミュージカルの世界に憧れた自分、というのをちゃんともう1回認識し直したんですよね。何もかもが構成されている映像の世界、映画の世界、あとは映画館の中にいる自分の観客としての感覚とか。

—生の強さももちろんありつつ、編集されたものが原体験にはなっていると。

コントロールされているもの、されていないものが映画の中にはどちらもあると思うんですけど、いずれにせよ、観客と作品との距離感って、映像と舞台とで違うんです。やっぱり、「1 対 作品」になる感覚って、映像のほうが強いというか。それは僕が映画を観ていつも感じることなんですけど。舞台だと、舞台空間にいる観客それぞれとの距離感があって、映像の世界だと如実に、個人対その作品という感覚が僕は強い気がして、そこに僕は救われていた時期があったんだな。というか、その距離感が好きな時間があったんだと再確認したので、それはそれで全然違う強度というか。いずれにせよ、作品に関わる理由というのは全部人だし、『NASSIM』であったり、今回も監督のバーナードとであったり、対話の中で作っていくという現場は面白いですね。

—対話を大切にされているんですね。

ものを作るための対話が重要だと思ってます。

—最後に、今一番興味を持っていることは何ですか?

何だろう……? 今、『世阿弥』を読んでいます。

Photo by Tetsuo Kashiwada

Photo by Tetsuo Kashiwada

<プロフィール>
森山未來 (もりやま・みらい)
1984年8月、兵庫県出身。多くの舞台や映画、ドラマで活躍する一方、ダンスパフォーマンス作品にも積極的に参加。2013年秋から1年間、文化庁文化交流使としてイスラエルに滞在。Inbal Pinto&Avshalom Pollak Dance Companyを拠点にベルギーほかヨーロッパ諸国にて活動。俳優やダンサーといったカテゴライズに縛られない「表現者」としてのあり方を日々模索中。映画『怒り』で第40回日本アカデミー賞優秀助演男優賞、第10回日本ダンスフォーラム賞他、映画、舞台、ダンス各方面で様々な賞を受賞。映画『サムライマラソン』は、2月22日から東京・TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。

作品情報
タイトル サムライマラソン
監督 Bernard Rose (バーナード・ローズ)
原作 土橋章宏
出演 佐藤健、小松菜奈、森山未來、染谷将太、青木崇高
配給 ギャガ
制作年 2019年
制作国 日本
上映時間 104分
HP gaga.ne.jp/SAMURAIMARATHON
©︎“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners
2月22日(金)より東京・TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
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