mayu matsuoka
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新たなステージに立つ、女優・松岡茉優インタビュー

Photo by Hiroki Watanabe

mayu matsuoka

photography: hiroki watanabe
interview & text: mayu sakazaki

Portraits/

女優・松岡茉優の躍進が止まらない。『ちはやふる』(2016・2018) や『万引き家族』(2018) での助演ぶりが光ったかと思えば、『勝手にふるえてろ』(2017) では主演として作品の先頭に立ち、過去に『ストレイヤーズ・クロニクル』(2015) で彼女を起用した瀬々敬久監督には、当時すでに「円熟の芸域に達している」とまで評されている。キャリアの長さや才能といったことを抜いても、きっとその裏には計り知れない努力があるはずだ。この秋、彼女が演じたのは恩田陸の代表作『蜜蜂と遠雷』の主人公・栄伝亜矢。世界的なピアノコンクールに挑む天才少女を演じきった彼女が、新たなステージで見た景色とは?

新たなステージに立つ、女優・松岡茉優インタビュー

―映画『蜜蜂と遠雷』は、ピアニストたちをモチーフにしていることもあり、それぞれの表情、動き、音といった言葉にできない部分が印象的な作品でした。

クラシックのピアノコンクールの物語なので、やっぱり演奏シーンはぜひ見てほしい部分です。今回フィーチャーされている4人は、まったく違うフィールドで戦ってきた人たち。松坂桃李さんは家族を持つサラリーマン、森崎ウィンさんは名門音楽院に通う王子様的存在、鈴鹿央士さんは彗星の如く現れた天才少年を演じていて……それぞれがまったく違う生き方をしているんです。だから、もちろん表情も違うし、ピアノの演奏の仕方も違う。ピアノの音も、同じ曲なのに全然違うんですよ。クラシックに詳しくない私でも、演奏シーンがまるでバトルアクションのように感じられて、すごく興奮しました。登場人物たちのコンクールにかける思いと、それまでの人生というのがその演奏シーンに詰まっているんです。

―松岡さんが演じたのは、コンクールに再起をかける天才少女・栄伝亜夜ですね。彼女のことはどうとらえていますか。

天才、天才と周りに言われているけれど、本人は普通の人だと思っているんですね。実際、私の周りにいる天才たちも当人はそのつもりがないので、それが天才たる所以なのかなとも思うのですが (笑)。亜夜を演じる上で、人と接するときの距離感にはかなり気をつけました。前半は彼女と他者の間に分厚いガラスがあるようなイメージで、自分ひとりの世界に入って周りをシャットダウンしているんです。でも、物語が進んでいくにつれて亜夜が成長していって、後半は周りの人たちやお客さんの体温を感じながら、それに応えるような弾き方になっていく。キャラクター同士の化学反応や、ひとりの女の子の成長物語という面も見どころになっています。

 ©︎2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

©︎2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

―4人のキャラクターの中で、近いものを感じる人はいましたか?

そうですね、松坂さんが演じた高島明石の気持ちがいちばん理解できるかもしれません。明石は物語を語る上で欠かせない存在なんですが、他の3人の天才たちと違って才能や環境に恵まれたわけではなく、自分自身の生活の中の限られた時間でピアノを弾いているんです。夢を諦めきれずに、“生活者の音楽”を掲げている人。少し視点は変わりますが、私も自分のご飯は自分で作って、洗濯をして、きちんと生活をする人として俳優を続けていきたいという気持ちがあるので、共感できました。

―ひとつのことに没頭できる特別な環境が欲しい、と思うことはないですか。

私が今こう思えているのは、そうやって没頭していた時期があったからだと思うんです。母に料理を作ってもらって、着るものも洗ってもらって、父が生活環境を整えてくれてという恵まれた生活を、子役の頃から数えて10年は過ごしていました。亜夜と違って私は天才ではないので、仕事がなくて毎週演技のレッスンに通っていました。その頃を思い返すと、責任やお金のことなどは考えず、とにかく楽しんでお芝居に没頭していたなと思います。コンスタントにお仕事をいただくようになって、責任感や使命感というものが生まれるようになってから、だんだんと自分も変わっていったのかもしれないです。

―“自分の音”を探しているピアニストたちと、俳優として役を見つける作業というのは、少し似ている部分もあるような気がします。

そうですね。俳優という仕事に当てはめるなら、舞台の経験に近いかもしれません。初舞台のときはお客さんのことが全然見れなくて、前を向いて喋ってはいても、それこそ分厚いガラス越しような感覚でした。なるべくお客さんからの反応は感じずにやろうとしていました。そうじゃないと緊張してできなかったんです。でも何度か舞台経験を重ねていくにつれて、去年の「江戸は燃えているか」という三谷幸喜さん演出の作品では、「今日は雨でお客さんがしっとりしているから、少し快活にテンポ良くやろう」とか、そういうことを考えられるようになってきました。

―オーケストラをバックに演奏する最後のシーンは、まさにたくさんの演者と舞台をつくっていく感覚に近いですよね。

あのクライマックスのシーンは、おそらく私自身がまだ俳優として到達していないステージに彼女がいってしまったので、亜夜を通して新しい気持ちを見せてもらえたというか。彼女がオーケストラから受けてお客さんに渡すものというのは、まだ私が感じたことのない感情だと思うんです。それを少しだけ触らせてもらったような感覚になりました。音楽とお芝居というのは根本的に違うものですが、あのグルーヴ感、高揚感というのは、いつか舞台上で経験することができたら幸せだなと思います。

 ©︎2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

©︎2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

―コンクールでのシチュエーションが多いなか、4人が海辺を歩くシーンはどこか幻想的で、演奏シーンとは違う魅力がありました。

あのシーンはすごく強風で、髪のセットも吹き飛んでしまって大変でした (笑)。本当はドローンを使って海から撮影する予定だったのですが、当日ドローンが飛ばないトラブルがあって、急きょ少し移動してあの場所に行ったんです。ちょうど曇り空だったこともあって、砂浜と空がグレーにつながって、ちょっとした異空間のような感じに。あの時間だけ少し浮いているような感覚はキャラクターの気持ちともリンクしているし、天気やトラブルのおかげで撮れたシーンなので、映画の神様に救われたのかなと思っています。

―ひとつの作品の中で、女性が成長していく、変わっていく姿を表現するにあたって、どんなことを考えましたか。

彼女は母親の死をきっかけに立ち止まってしまうので、やっぱりお母さんと離れること、お母さんの思い出から離れるということが、女性として独り立ちするために必要だったのかなと感じます。少女から“女性”になっていくという意味では、鈴鹿央士さん演じる風間塵くんと連弾するシーンはすごく意識しました。隣に座ってひとつのピアノで一緒に弾くのですが、まるでラブシーンのように、曲の中で次第に交差していって、お互いに煽って煽られて、興奮して、ぶつかりあっていく。だから衣装もなるべく女性らしさが強調されるぴたっとしたものを選んでいるんです。原作小説を映像化することで何ができるかと考えたら、やっぱり肉体同士のぶつかりあいでありたい。そういう気持ちがこのシーンに表れているんです。

―この映画の中では「才能」というものが大きなテーマになっています。それが自分自身や周りの人に影響を与えていくことについて、松岡さんはどう感じますか。

自分の仕事や向き合っているもので言うと、同業者は競争相手でもあるわけで、“ライバル”という言葉もまた、あまりいい意味で使われないことが多い気がするんです。でも、周りに才能あふれる存在がいることはすごく頼もしいことで、もっと前向きに受け止めていいことだと思う。どんな仕事でも、同世代の人に鼓舞されることはあるはずだし、もしかしたら一緒に何かできるかもしれない。悔しいと思うことも含めて、私にとっては切磋琢磨できるいい存在なんです。私たちは誰がどんな仕事をしているかすぐにわかってしまうので、それが悪く作用して滅入ってしまうことも過去にはありました。でも今は、周りがいることで自分も刺激を受けて、元気に仕事ができる。本当にありがとうっていつも思っています。

―物語の中では、何かのきっかけで足を止めてしまった人が、それを乗り越えてまた飛躍していく姿が描かれています。自分自身の経験でそういった変化を感じたことはありますか?

ひとつひとつの作品が自分の経験なので、その都度思うことは変わっているとは思います。でも今回は、直木賞と本屋大賞を同時受賞という史上初の快挙を成し遂げた原作を映画化するということで、今までだったら私に回ってくる仕事ではなかったはず。そういう大きな作品で主演を任せてもらったということは、自分の気持ちの面でもかなり大きく変わったと思います。立ち位置が変わることで、何を求められていて、どういう仕事をすれば役に立てるんだろうかと考え、それが自信にもつながりました。これからもひとつひとつの仕事を丁寧に、自分ができる以上のことをして、作品を通して誰かに元気になってもらったり勇気を渡したりできたら……。とにかく自分が巡りあった作品に精一杯、挑戦していきたいと思っています。

Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

プロフィール:
松岡茉優 (まつおか・まゆ)
1995年2月16日生まれ、東京都出身の女優、タレント。子供の頃からさまざまな映像作品やテレビ番組でキャリアを積み、『桐島、部活やめるってよ』(2012) や「あまちゃん」(2013) での演技が話題となる。近年では『ちはやふる』(2016・2018)、初主演作『勝手にふるえてろ』(2017)、『万引き家族』(2018) でも強い印象を残し、第42回日本アカデミー賞にて優秀主演女優賞、優秀助演女優賞を受賞。今後は『ひとよ』、『劇場』の公開が控えている。

作品情報
タイトル 蜜蜂と遠雷
監督 石川慶
原作 恩田陸
出演 松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士
配給 東宝
制作年 2019年
製作国 日本
上映時間 119分
HP mitsubachi-enrai-movie.jp
 ©︎2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
 10月4日(金)全国公開
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