FKA Twigs
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苦悩を乗り越えた魅惑のアーティスト、FKAツイッグス インタビュー

FKA Twigs

interview & text: saki yamada

Portraits/

5年ぶりに発表された2ndアルバム『MAGDALENE』を通じて、FKA Twigs (FKA ツイッグス) の素顔が私たちの目の前に少しずつ姿を現わす。誰もがいつしか経験するハートブレイクや病気との戦いを乗り越えた彼女が教えてくれるものとは?

究極のミニマリズムを貫きながらも先鋭的なサウンドと優美なボーカルを織り交ぜたFKA Twigsデビューの衝撃は今でも忘れられない。彼女は瞬く間に音楽シーンの新たなミューズとしてその存在を知らしめたものの、そこからはダンサーとして飛躍し5年もの歳月が流れた。その間、“ミステリアスな女性”と謳われ続けた彼女は人生における挫折を乗り越えながら制作に打ち込み、待望の2ndアルバム『MAGDALENE』を完成させた。この作品は音楽表現の新たな可能性を示すだけでなく、人生を駆け抜ける人々に勇気をも与えてくれるだろう。

苦悩を乗り越えた魅惑のアーティスト、FKAツイッグス インタビュー

─これまでのミステリアスな存在とは異なり、今作ではよりリアルなあなたが感じられます。

前作『LP1』ではまだ出てきたばかりで誰も私のことを知らなかったけど、今は音楽もたくさん聴いてもらってる。作品を出すたびに新たな面がさらけ出され、みんながより私を知っていくことになる。それは私自身が感じていることでもあるしね。

─活動を通してあなた自身、ようやく自分を理解し始めてきたということでしょうか?

私は今までの自分の作品全てにおいて真実を語ってきたわ。23歳の時に語る真実と28歳や31歳の時に語る真実は違う。年齢を重ねるにつれて、私たちはより複雑になりより洗練されていく。 そういったより大きな概念というものは、未熟だった自分自身から学び前に進もうとする人類に対して求められているものだと願っている。

─どんなアルバムを作りたいかなど何かビジョンはありましたか?

自分を正直に表現し、感じるものをそのまま形にすることが重要だった。それがどんなサウンドになるかは想像できなかった。

─制作期間中、どんなことを感じていましたか?

人間は常に変化しているし、感情は網のように広範囲に広がっているから一つの感情をピンポイントするのは難しい。辛かったけれど、そのことに対して素直になり自分の気分や心の状態を受け入れたの。コンセプトアルバムを作るということをせずに。

─3年間かけて本作を完成させたとのことですが、どのような制作過程でしたか?

説明するのは難しいわ。とても自然に起こることだし、誰とコラボレーションして私たちがどんな気分でいるかによって変わってくるから。私は楽しんだり、新しいことを学んだりするのが大好きなの。そういうことをして豊かな時を過ごせると、自分のベストが発揮できるわね。

─タイトルの『MAGDALENE』は今作のテーマとなった“マグダラのマリア”にちなんでいるそうですが、 彼女に目を向けたキッカケは?

マグダラのマリアには子供の時からずっと興味があったの。彼女は娼婦とも聖人とも呼ばれていて、一人の女性にストーリーの層があり、人それぞれの見方でそれが聖人にも罪人にもなる。でも現代になって、彼女の”罪”とされるものに対する誤解が解かれようとしている。私たちが求める究極の母親像、女性像の変化とともにマグダラのマリアが一人の女性として再評価されつつあるの。何が女性像、女性らしさで、人々がそれぞれに何を女性像としているか、そしてそれがどう変化しつつあるか。彼女はそれの象徴だと思うの。

─制作中に子宮筋腫の手術を受けたそうですが、制作に影響はありましたか?

あの経験が私を強くしてくれたから、それがそのままアルバムに映し出されている。再生できるという自信がついたし、自分にはその力があると実感できた。以前よりも力強いアルバムに仕上がったと思う。

─アルバムは別れのシーンで幕を開けますが、ハートブレイクを克服する上で気持ちを言葉にして歌うという行為はどう作用しましたか?

それが直接克服になるわけではないけれど、外に出し整理することでカタルシスにはなった。恋愛は常に私の人生の一部なの。多くの人々にとってもそうなんじゃないかしら。私は自分自身をそのまま表現するから、私が作る音楽には必ず出てくるの。

─ダンスパフォーマンスやマルチメディアなど、これまで様々な表現にチャレンジしていますが、あなたにとって音楽とは?

音楽は私にとってとても大切な表現手段。自分の世界に入り、自分と向き合い、言葉やサウンドという形で一瞬目に入ってくるものだけではなく時間をかけて流れを作り、それを表現することができる。アーティストとして欠かせない、とても重要なものよ。

─『MAGDALENE』の制作を通じて新たな発見はありましたか?

努力が必要だということ。人間誰もが、自分がどんなに素晴らしいものを持っていたとしても、努力し、それを押し広げようとアクションを起こさなければいけない。そうしないと最高のものを生み出すことはできないということを実感したわ。そして良いと思うものでも更に考え努力することで、自分には想像できなかったそれ以上のものを作り出すことができるの。