Olivia Wilde
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「期待を超えることを楽しむ」新たな扉を開く、監督・オリヴィア・ワイルドの人間力

Olivia Wilde

interview & text: mikiko ichitani

Portraits/

『トロン:レガシー』(2010)、『リチャード・ジュエル』(2019) などで知られるハリウッド女優 Olivia Wilde (オリヴィア・ワイルド) による長編監督デビュー作『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』が8月25日(金)より全国公開した。

「期待を超えることを楽しむ」新たな扉を開く、監督・オリヴィア・ワイルドの人間力

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は、自分たちの輝かしい未来のために、勉学に高校時代を捧げてしまったナード系女子高生コンビの破天荒な卒業前夜を描いた青春コメディ。アップテンポなストーリーテリングや、コミカルなアクション、個性豊かな人間模様は、性別・世代を問わず夢中にさせる要素が詰まっている。最初は、「あー分かる分かる。あの頃はそんなことあったよね。」なんてノスタルジーに浸るのも束の間。プライドと表裏一体の自信のなさが邪魔をしてコミュ障を発揮しまくる主人公たちをスクリーン越しに追いかけていくうちに、「あれ?これって今の私じゃない?」なんて、大人になった自分と重ね合わせてしまう人も多いはず。一晩で巻き起こる嵐のような出来事を経て、大人の階段を駆け上がる登場人物たちとともに、こじらせていた自分の中の感情が少しずつ解けていくような、清々しく心に染みる作品だ。

本作で長編監督デビューを果たしたのは、ドラマ「The O.C.」(2003-2007) で注目を集め、『トロン:レガシー』(2010)、『リチャード・ジュエル』(2019) など数々の作品に出演する実力派女優・Olivia Wilde。2019年サウス・バイ・サウス・ウエストでプレミア上映されたことを皮切りに、批評家や観客から絶賛され、ハリウッド映画賞ブレイクスルー監督賞など数々の賞を受賞。一気に監督としてブレイクを果たした。コロナ禍で大打撃を受ける映画業界だが、その中でも彼女の快進撃が止まらない。待機作には、メジャースタジオ配給によるアトランタ五輪女子体操選手の実話の映画化『Perfect』、Florence Pugh (フローレンス・ピュー)、Shia LaBeouf (シャイア・ラブーフ)、Chris Pine (クリス・パイン) ら豪華キャストを迎えたサイコ・スリラー『Donʼt Worry Darling』が控えている。さらに、ソニー・ピクチャーズ配給による新作マーベル映画「スパイダーバース」の監督にも抜擢されるなどオファーが後を絶たない状態だ。なぜ、彼女の監督としての手腕がこれほどまでに高い評価を受けているのか。その答えを探るべく、インタビューを敢行。その中で、初めての長編作品を手がけるにあたって心がけたことや、クリエイティブの領域で挑戦していくための心の持ちようなど、聡明で謙虚な彼女の性格が浮かびあがる真摯な言葉で語ってくれた。

 

 

—まず初めに、監督業にトライすることを考え始めたきっかけを教えてください。

歳を重ねて、監督というプロセスを理解したいと思い始めたことがきっかけです。映画の現場で演技をするようになって、どんどん映画づくりについて知りたいという気持ちが強くなりました。演者として参加をしていても、それはほんの少しの部分でしかなくて。映画を作るうえで、オペレーションがどのように行われているのかをすべて知りたかったのです。そこから、撮影の時には監督にどんどん質問するようになって、聞けば聞くほど興味が大きくなっていって…。気がつけば、真剣に映画を監督したいと思うようになっていました。

 

—そこから実際に監督業を始めるまでに、どのようなプロセスを経たのですか?

だいたい10年くらい役者として仕事をする中でリサーチを重ね、やっと勇気を持って短編、それからミュージックビデオをつくることができました。私の場合、準備期間がかなり長かったので、21、22歳などの若いうちから長編を撮っている監督達は本当にすごいなと思いますね。

 

—本作を「バディムービーにしたかった」とおっしゃていましたが、実際に演出をする上でどのような見せ方にこだわりましたか?

まず、それぞれのキャスト、スタッフがベストな仕事をできるような環境を整えることを心がけました。あとは、撮影から編集、衣装までみんながコミットできるような風通しの良い環境をつくりたいと思いました。全員がこの作品に対して自分の映画なんだと誇りを持ってくれるようなものにしたかったんです。

—物語の中だけでなく制作に携わるスタッフ全体がバディのような関係性を発揮できるようにアプローチされたのですね。そのような環境づくりを優先されたのは、ご自身の経験によるものなのでしょうか。

そうですね。映画の現場には多くの人が関わっていて、どの人もみな映画づくりに欠かせないのに、当たり前のように捉えられてしまい、価値が見下されている、あるいは見過ごされているような人が多いと思うんです。だからこそ、私の作品ではみんなが同じように価値があるんだと感じられるような現場にしたかったんです。

 

—作中では、個性豊かでコミカルなハイスクールライフが描かれているのですが、その中でも突然ハッとさせられるような瞬間も多く、そのメリハリが印象的でした。どのようなことを意識されて演出されたのでしょうか。

以前から、観客にとってのエモーショナルな体験になるような作品をつくってみたいと思っていました。だから、本作でも観客に対して上から目線にはなりたくなかったし、気持ちのうえでの繋がりを映画を通して持ってもらえるように、常に観客の感情がどのように動くだろうかと考えながらつくっていきました。特に編集段階では、観客に感情を押し付けるのではなく、自然にどういう風に感じるのかということを常に意識しました。観る人には、ある意味、居心地のいいようなパーソナルなものとして感じて欲しいですね。鑑賞後に、これは友達と観たいなと思ってくれるような。そのくらい、自分や友人の姿を本作に見出してくれるようなものにしたかったんです。実際にこの映画を観た人から、友達と一緒に観に行ったり、観た後に友達に電話したという話を聞けたのが一番嬉しかったです。だって、それはみんながこの作品を、パーソナルなものとして受け取ってくれたということですから。

 

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』

 

—ご自身は、どのような高校時代を過ごしていましたか?

私の高校時代は、モリーとエイミーのような自由な学園生活ではなかったので、この映画に出てくるシーンの数々はある意味、こうだったら良かったのにとか、こういう高校生活送りたかったなというような、私の中のファンタジーを形にしたものと言えるかもしれません。私が通っていたのはもっと勉強にフォーカスした、いわゆる保守的な寄宿学校で、東海岸だったので、冬は寒いし薄暗いというような環境でした。当時はよく青春映画でカリフォルニアの太陽がさんさんと輝く明るい映像の中で、子供たちだけで車に乗っているシーンなどを観ると純粋に驚きましたね。

 

—そうだったんですね。そんなあなたが深く共感するようなシーンなどは本作に出てくるのでしょうか?

2人とは全然違う学生時代でしたが、心理的な表現に関しては私の経験からきています。あの頃に抱いていた同性の友達に対する深い愛は、当時体験したどんなロマンスよりも深いと感じたし、そういう友情は、私たちが最初に形成する親密な人間関係だと思うんです。そういった感情を通じて、人との関係のかたちを学んできたんだなと。それって、本質的で大事なことなんですけど、映画やドラマのようなストーリーテリングの中では恋人との関係からの学びにフォーカスを当てることが多くて、けっこう見過ごされてしまう。でも、本当はそんなことはなくて、友達から学ぶことの方が多いんじゃないかなと思います。

 

 

—劇中の彼女たちのように、子供から大人へと駆け足で成長してしまうような、自身の常識を覆された体験などはありましたか?

高校時代の私は、キャスティングのアシスタントとして仕事を経て、役者になることが夢でした。卒業後はニューヨークで演劇を学ぶと決めていたのですが、その前に一年間ギャップイヤーをとって、思い切ってロサンゼルスに引っ越したんです。自分のことを、エイミーと同じように、頭もそこそこ良くて、いろんなことをわかっている利口な人間だと思っていました。でも実際は “クルーレス (ダサい、イケてない)”。業界のことはもちろん、ロスのことも何も知りませんでした。わからないことばかりだし、馴染みのない環境に身をおいたことで、自分の無知さがはっきりと感じられて、謙虚な気持ちにさせられましたね。人生や他の人について、こんなにも知らなかったのかと思い、そこから、人をこうだと決めつける、そういう考え方が間違っていると学びました。

とはいえ、人はすぐ他人のことを裁きたがるし、そうすることで何か社会的な枠にはまるから、安心できるんですよね。他人にレッテルを貼ることで、人生に何となく秩序をもたせるようなことをしているんだと思うんです。でも、そういう秩序をもたせたいという気持ちって、実は自分が不安だから思ってしまうことなんですよね。歳を重ねると、オープンなマインドを持つことを学ぶし、全ての出会いには発見があって、そして、いろいろなことを経験して知っていくことで、人を裁く気持ちを捨てていくことができるようになる気がします。この映画を観た後にはそういった気持ちを持って欲しいと思っています。観た後に、例えば今までこういう風に人をみていたり、裁いてしまったかもしれない。人だけではなくて、ライフスタイルとか生き方、その人の環境についても、もしかしたら、自分はそもそも何もわかっていなかったのかもしれない、知らなかったんじゃないかと感じて欲しいなって。何も知らないという場所に立つということは、自分にとっていいことだと思うんです。

 

© 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

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—最後に、日本でもここ数年で女性クリエイターたちの活躍が増えています。彼女たちに何かアドバイスはありますか?

若い女性クリエイターに伝えたいことは、「人からの期待を超えることを大いに楽しんで ! 」ということです。今でも若くて、女性というだけで、周りの人はちょっと見くびったりすることもあるでしょう。そんな環境下だと、自分の全力を出しきれなかったりする人も多いと思うのですが、見方を変えて、みんなの期待を超えるような驚かせる力を発揮する。それに喜びを感じて楽しむことができれば、自分に対するエンパワーメントに繋がると思います。

それは、周りの人が自分を信じてくれない、チャンスなんてあたえてくれないんだというような、自分の中の固定概念を壊す方法でもあると思います。どんなクリエイティブな業界でも、そういう環境に身を置くと、どうしても周りの人たちが自分の敵というか、何か対抗しなければいけないというような、そんな存在に思えてしまうことがありますよね。でも、そういう考え方からは、いいエネルギーはうまれないことがほとんどです。その対抗しなければという気持ちを、もっと積極的な喜びあるエネルギーに変えてしまえば、ものづくりのプロセスはきっと楽しくなると思いますよ。この社会は私たち女性がリードするようにデザインされていないけれど、だからといって、私たちがリーダーになるプロセスを難しくさせてはいけないと思うんです。怒りを感じているのだったら、考えをシフトして、それを燃料にしてしまうという考え方ですね。

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