tasuku emoto
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一生、映画ファン。映画人、柄本佑がメガホンを取る理由

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photography: chikashi suzuki
interview & text: sota nagashima
styling: michio hayashi
hair & make up: kanako hoshino

Portraits/

この男は本当に映画が好きで好きで仕方ないのだ。柄本佑——近年、ますます活躍の場を広げ、今最も脂の乗っている俳優のひとりである。そんな彼が幼い頃からの夢であった映画監督として、2017年から2022年の間に撮った3本の短編をまとめた最新作『ippo』が完成した。柄本自身が声を掛けた個性豊かな俳優やスタッフとともに、愛する「映画」へラブレターを書くかのように丁寧に作り上げた今作について、話を聞いた。

一生、映画ファン。映画人、柄本佑がメガホンを取る理由

—今作は劇作家の加藤一浩さんによる3本の演劇戯曲を映画化したものということですが、まずはその経緯から教えていただけますか?

元を辿ると10年以上前から、今作とは別に長編の脚本を書こうと1ヶ月に1回加藤さんと会ってお茶をしていたんです。毎回3、4時間お茶をするのですが、作品のことについての話は3分の1ぐらいで。他はもう、最近見た映画の話とか好きな映画の話をしながら、こんなのもいいよね、あんなのもいいよね、みたいに話が枝葉に分かれつつ、長編の方もちょっとずつ書いていたんです。そうこうして、初稿が出来上がるまでに5年程の時間がかかってしまって。

—どんな脚本だったのでしょうか?

本当に映画として撮ったら、3時間ぐらいの作品になるような、かなり盛り沢山な本になってしまって。アクションあり、ラブストーリーあり、ロードムービーだし、島にも行くし。これどうやって撮るのっていう(笑)。

—超大作ですね(笑)。

一応色々な人に読んでもらったりしたのですが、流石にやりたいことがありすぎてごった煮になっているので、もう少し焦点を絞った方がいいと言っていただいたりして。どうしようかと考えているとき、加藤さんから「5年もかかってしまったので、(柄本)佑の方でもしこういう企画がやりたいとか何か動きそうなものがあったら、僕にこだわらず進めてもらっていいよ」というようなことを言っていただいた。でも、僕としてはやっぱり加藤さんとやりたかったので、「ちょっと他の本も読ませてよ」とお願いして、見せてもらった中に今回の3本の戯曲があったんです。

―なるほど。

なんの根拠もなかったんですけど、それを3本立てとして一緒に並べることでなにか1本の芯みたいなものが見えてくるのではないかと思ったんです。それをふまえて、これから加藤さんと書いていく長編についてもさらに理解が深まるんではないかと。今回の3本は、読んだ人によっては何も起きていないじゃんという感想を持たれたりするかもしれませんが、俺からするとかなりのことが起きていると思うんですよね。

—かなりのことというと?

1本目の『ムーンライト下落合』でいうと1人の男が、夜中だらだら男と喋っていたら月の美しさに気が付くっていうまでの話だけど、それって自分の中では劇的というか、感動的であって。それまでの間に、いろいろ緊張感のあるやり取りがある。そういったものを具体的に1回提示してみようみたいなことが、僕の中での発端でした。

—「観る人が観たら何も起きてない」という感想を持たれるという話がありましたが、今作には映画的や演劇的ともいえるような「間」を楽しむ贅沢な時間が流れているのが、すごく印象的でした。世間では映画を早送りで観る若者が増えているというような話もありますけど……。そういった中でも、あの「間」を入れるというのは意識的な狙いだったのでしょうか?

狙いですね。狙いですし、あの「間」に関しては段取りがあって作ったものではなくて、全て脚本に書かれているものなんです。しかも、短い「間」と、ただの「間」、長い「間」など3種類ぐらいの「間」があって。本読みをしながら、いざその「間」を指示通りにやってみると、ちゃんと裏付けされた理由が見えてくる。『ムーンライト下落合』でいえば、冒頭の10分間は台詞もなく動きだけですけど、見る人によっては「若いときこんな時間もあったな」と共感してくれる人もいるんじゃないかなと思う。そうやって少しずつ試していきながら、2次元で書かれている戯曲を、いかにして3次元に落とし込むかというのを考えていきました。

―予算集めなどを大掛かりにすることなく、自主映画的に今作を撮ったのは、ピュアなミニマムのチームで丁寧に映画を作りたかったからでしょうか?

そもそも大掛かりにするというアイディアがありませんでした。今回の『ippo』を映画化しようと考えたときに、親友である俳優の森岡龍に話したら、映画監督の三宅唱さんとプロデューサーの松井宏さんへ相談してみればと言ってくれて。ちょうど自分が主演だった三宅監督の『きみの鳥はうたえる』で予定されていた撮影が延期になったこともあって、2人に本を読んでもらったら、じゃあみんなで作ろうかという雰囲気になったんです。だから、自主以外の考えに至らなかったというよりは、そのときのある種の熱量ですかね。「今やる」ということの方が重要だったんです。

―いいタイミングで自然とチームを組めたんですね。

また、集まった人たちがみんな映画好きで。映画好きたちが集まって、真剣に何かをやるという豊かさがあそこにはありました。ある意味では縛られないともいえますけど、そういう映画好きたちの絆でやっていたので、強固なものだったと思います。

―俳優陣のキャスティングはどのように決められたのでしょうか?

それぞれ脚本を読んで、思いついた人と組み合わせなどを考えながら決めていきました。最初に撮ったのが『ムーンライト下落合』なんですが、本当はやってはいけないと思いつつも、禁じ手として加瀬亮さんと宇野祥平さんに直接連絡をして、目の前で本を読んでもらいました。それでやってくださいって言われたら、なかなか断れないですよね(笑)。でも、手段を選んでいる場合じゃなかったですし。加瀬さんなんか、10年ぶりぐらいに連絡を取って。ご相談があるんですけどと話したら、久しぶり過ぎたからか「家族の問題とか、俺はちょっと俺は何もいえないぞ」とか言われて(笑)。

―(笑)。

あと、今作が何も起きてないじゃんと言われる恐れがある映画だということは、自分自身にも自覚があったので、本を読んでもらっているときに緊張感と、これで乗ってもらえなかったらやっぱりしんどいよな、という気持ちがありました。加瀬さんと宇野さんに渋られていたら、きっと実現するのはもっと後になっていたと思います。役者さんも、もっといえばスタッフの人たちみんなが、この本を楽しんでくれたというのが、僕としては1番救いでしたね。

―3作品とも2人の男が主人公という点で共通していますが、皆個性派揃いの役者たちで、彼らの魅力のおかげでこの映画への愛おしさが増しているように思います。

絶妙な組み合わせになって、本当に有り難いですね。『フランスにいる』は高良健吾さんをまず思い付いたのですが、相手役の「描かない画家」は自分の中で役者さんじゃ無理だなと思って。今作を書いた加藤一浩さん本人へオファーし、快諾いただきました。『約束』の(柄本)時生と渋川清彦さんは、あっけらかんとしたキャラクターがこの作品に明るさをもたらしてくれていて。自分でも思い描いてなかったところに連れていってくれた。今考えてみると、僕も撮りながら役者さんに引っ張られていったところが結構あるんじゃないかなとも思ったりしますね。

―柄本さんは普段カメラの前にいることが多いと思いますが、今回撮る側へと回ったから見えたものや気付きなどはありましたか?

全然違いましたね。圧倒的に「見られている」感覚がある。役者をやっているときも「見られている」という感覚はありましたけど、カットをかけた後など当たり前にみんな監督を見るから、目の量が違う。でも、そういった目があるからこそ、逆に自分勝手でいないといけないと思ったんです。びびって遠慮している場合じゃない、むしろそっちの方が失礼な気がして。こだわりとまでいうとちょっと違うのですが、自分なりの言葉でいうならわがままでいることが、現場にいるときのひとつの仕事であった気がします。

―柄本さんによる今作の紹介文に、小学校の卒業文集には将来の夢を「映画監督」と書いていたとありましたが、俳優ではなく映画監督が夢だったんですか?

うちの家庭は、学校がどうだったとかいう普通の会話がない家だったんですね。両親はスポーツを観ているか、映画を観ているか、芝居の話をしているかという感じで。特に父は今でもそうだと思いますが、普通に会話ができない。でも、僕が面白い映画を見つけたりして話すと、次の日に観に行ってくれたりするんです。だから、家族で会話をするために映画を観て、映画好きになっていきました。そうこうしているときに、『座頭市』を観るんですけど、勝新太郎がもうめちゃめちゃかっこよくて。こんなにかっこいい勝新太郎を撮る映画監督って、きっともっとかっこいいんだろうなと。そこからはもうずっと映画監督になりたいと思っていましたね。卒業文集には、Federico Fellini (フェデリコ・フェリーニ) の『道』が世界一面白い映画とも書いていました。

―柄本さんの少年時代のヒーローは、映画監督だった訳ですね。

本当にそうです。初めて映画のオーディションを受けたのは黒木和雄監督の作品でしたが、両親が最初勧めてくれて悩んでいたとき、母親に「どうせ落ちるよ。でも、あんた映画好きでしょ。オーディション行ったら映画監督を生で見れるよ」と言われて、確かにそうだと(笑)。しかも、監督は『竜馬暗殺』や『祭りの準備』の黒木和雄監督!カメラマンは田村正毅さん!本当にミーハー心ですよね。役者をやり始めてからも、未だに監督か誰か聞くと、前のめりになりますし。共演する役者さんに対してもそうですけど、常に映画ファンであるというミーハーな気持ちは大事にしたいと思っています。

―そんな幼き頃からの夢であった映画監督としての活動は今後も行う予定ですか?

はい。次は長編を撮ります。撮影までに至るか分からないけど、ここ1、2年の間に企画は実現させたいですね。