GANG DONG WON
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「人間的であることが一番大事」俳優カン・ドンウォンの飾らない素顔

GANG DONG WON

photography: utsumi
interview & text: tomoko ogawa

Portraits/

是枝裕和監督が韓国を代表する俳優たちと、一流スタッフと組んで生み出した映画『ベイビー・ブローカー』は、<赤ちゃんポスト>を介して出会う、赤ん坊の母親、赤子を盗んだベイビー・ブローカーの男たち、そして彼らを追う刑事たちが織りなすロードムービー。本作で、クリーニング店を営みながら、裏で赤ん坊の売買をするサンヒョン(ソン・ガンホ)の相棒で、親に捨てられた過去を持ち、赤ちゃんポストのある施設で働くドンスを演じたカン・ドンウォン。犯罪に手を染めながらも、人間らしい温かさに溢れた愛すべきキャラクターを生み出した彼の素顔に迫る。

「人間的であることが一番大事」俳優カン・ドンウォンの飾らない素顔

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ー是枝監督と韓国のクルーとの化学反応はいかがでしたか?

その人ならではのカラーをちゃんと持っていらっしゃる演出家だったので、本当に楽しく撮影ができました。もちろん、一緒に組むのは初めてだったので、適応するのに少し時間がかかりました。でも、また今度ご一緒できる機会があったら、もっとスムーズに仕事ができるんじゃないかと思います。

ー是枝監督ならではのカラーとは?

すごく人間的な方だなと。そして、これは日本の文化が影響しているのかどうかはわからないのですが、感情をあまり表には出さない方なんですよね。でも、撮影が終わって振り返ってみると、とても温かい方だったなと思います。

ー例えば英語を話すときと母国語を話すときで自分の性格が少し変わるように、文化や言葉が持つキャラクターがあると思うのですが、是枝さんの文化や言葉に触れることで、よりご自身が自由になったり、不自由になったりする部分はありましたか?

僕も、英語を話すときは性格変わりますね。これは言葉や文化の影響なのか、単純に是枝監督の演出スタイルなのかもしれませんが、「こうしてください」という具体的な注文はあまりされなかったんです。演技をした後も、「こういう風に直した方がいい」と修正されることもほとんどなくて。ファーストテイクかセカンドでオッケーが出ていたので、かなり自由に演技ができました。不自由だった部分があるとすれば、必ず通訳を介してコミュニケーションを取る必要があったので、最初は少し戸惑いましたが、まあそれも大した問題ではなかったですね。僕は日本と韓国は文化的にすごく似ていると思っているので、意思疎通を図ることは難しくありませんでした。

ードンウォンさん演じたドンスも、ソン・ガンホさんが演じるサンヒョンも、ベイビー・ブローカーでありながら、世話焼きで心優しい男性として描写されています。近年、伝統的に「男はこう振る舞うべき」という偏ったステレオタイプが、社会や男性自身を苦しめることを「有害な男らしさ」と呼んだりもしますが、ドンウォンさんは、男らしさ、女らしさという区別に対してどんなふうに感じていますか?

まず、性格的なものを、男性っぽい、女性っぽいという表現に嵌めることが正しいのかはわからないと思っていますが、僕自身はどちらの性格も持ち合わせているタイプなんじゃないかと。まあ、男でも女でも、人間的であることが一番大事なんじゃないですかね。

ー本作は、母性=母親だけが背負っているもの、という固定観念にも問いを投げかけています。ドンスとして赤ちゃんの世話をすることで、母性について考えたりしましたか?

個人的に、僕は子どもを持つことが少し怖いなと感じるところがあって。子どもがいたら、自分の時間の半分を子どもと過ごす時間に充てなくてはいけない、と思っているからなんですけど。でも、監督がおっしゃっていた中で、特に心に響いたことがあったんです。

ー監督はどんなことを?

『そして父になる』の後に、女性は子どもを産んだ瞬間から母性が溢れ出るけれど、父親は子どもを持ったことを実感するまで少し時間がかかる。そう監督がインタビューで話したら、その記事を見た女性の方から、「女性だって時間がかかる」と叱られたそうなんですね。まさに「母親はこういうもの」という固定観念ですよね。その発言には、すごく同意した記憶があります。だから、もし自分が家族を築くことになって、子どもを持つことがあったら、やっぱりみんなで協力して育てなくてはいけないと思っています。

ー本当にその通りだと思います。赤ん坊との撮影シーンは赤ん坊のリズムに合わせて進めていくかたちだったのでしょうか。

これは韓国だけでなく、どこの国も同じだと思いますが、赤ちゃんと動物が出る映画は出ない方がいいという通説があって(笑)。撮影が押す可能性が高くなるからですが、今回ウソン役の赤ちゃんが、本当にいい子だったんですよ。グズることも全くなかったので、撮影もスムーズでした。

ー重くなりそうなテーマではありながら、キャストのみなさんの軽やかさやユーモアに思わず笑ってしまうところも多かったです。

ソン・ガンホさんとはとても仲良くさせてもらっているので、二人のシーンはすごく雰囲気が良かったですし、初めて共演したイ・ジウンさんも、時間が経つにつれて、どんどん心を開いてくれている感じがして、順撮りだったので、徐々に関係が構築されていくようでした。やっぱり、仲介をしてくれる子どもが中心にいたことで、さらに仲良くなれたような気がします。

ー自分を犠牲にすることなく、緩やかに助け合う関係がすごくリアルでいいなと思いましたが、ドンウォンさんはどんな距離感の関係を居心地よく感じるのでしょうか?

僕は人と親しくなるのに、すごく時間がかかるタイプなんです。自分と似ているところがある人だと急に仲良くなることもなくはないけれど、10年ほどかけて仲良くなる場合もあります。でも、最近は本当に家族のように思える人たちが周りに増えてきたように感じています。彼らが困っていたらいつでも助けたいですし、僕も助けられているところもあって。なので、お互い持ちつ持たれつの関係です。コロナ禍で痛烈に思ったんですよね。この世は一人では生きられないんだなって。