masataka kubota
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「私生活を充実させた上で、やりたい仕事をやりたい人とやっていく」過去でも未来でもなく、今を楽しむという俳優・窪田正孝の視点

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photography: tomoaki shimoyama
styling: yonosuke kikuchi
hair & make-up: masaki sugaya
interview & text: tomoko ogawa

Portraits/

映画、ドラマ、舞台を軽やかに横断し、あらゆるジャンルの中で、唯一無二の存在感を放つ、実力派俳優の窪田正孝。「齊藤工」名義で監督やプロデューサーとしても活躍する斎藤工が、2018年「第13回小説現代新人賞」を受賞した神津凛子の同名デビュー作を映画化した『スイート・マイホーム』では、主人公・清沢賢二を演じる。マイホームを手に入れたことから、奇妙な事件に巻き込まれていくホラー・ミステリーだ。過去でも未来でもなく、「見るべきは今」というマインドで生き、仕事をしているという35歳になったばかりの彼の今を切り取る。

「私生活を充実させた上で、やりたい仕事をやりたい人とやっていく」過去でも未来でもなく、今を楽しむという俳優・窪田正孝の視点

—度々共演を重ねてきた齊藤工さんが演出を務めていますが、監督が同業でもあることで助けられた部分も大きかったのではないでしょうか。

普段はプレイヤーの方なので、プレイヤー側の気持ちをわかってくれて、できる限り順に撮っていったり、本当に芝居以外のストレスをかけないようにしてくれました。時間や場所の制約などはありますが、役者として、現場で最も大変な部分をそこまで考えなくていいという状況だったのは助かりました。現実に生きている時間と、芝居をしている時間の間にはどうしても境界線があるけれど、その境目をあまり意識させないというか。もちろん芝居はするんですけど、その瞬間、瞬間を生きるというよりは、その前の段階からずっと生きているというのりしろを与えてくれたという印象がありました。

—窪田さん演じるお父さんとお子さんの関係性もかなり自然体でしたね。

子どもの役者に対しては、観る側も先入観を持たないでいられますし、本人もお仕事をしてるという感覚がまだないんでしょうね。子どもだけに宿る、無限大の可能性みたいなものがあるなと感じました。ずっとスタジオの外で走り回って一緒に遊んでいたのですが、父という役を演じる上でも、そうした環境にすごく救われました。

—『スイート・マイホーム』は、行き過ぎた監視、記録社会の恐ろしさが描かれていますが、窪田さんは、監視社会に対して、どんなふうに付き合っていますか?

今の時代は本当にどこに行ってもカメラがありますし、全部を見られてるというか、視線っていうものをどこに行っても感じていますね。それが、無意識レベルでストレスになってると思うんですよ。表に出る仕事をしていることもあり、普段買い物に行ったりすると、カメラを向けられたりすることもあって。今は、誰もがスマホというカメラを持っていますし、知らない間にお互いにがんじがらめになっている気もしています。それに、いつでも写真で記録を残せるとなると、スペシャル感が減る感覚はちょっとありますよね。

—ちなみに窪田さんは怖がりな方ですか?何に恐怖を感じます? 

人並みに、怖がりだとは思いますが、最近は特に、自分が興味や好奇心をなくすことに恐怖を感じます。自分の中にある感情が自分でわからなくなることが一番怖いなと。芝居は感情を外に出す仕事なので、基本的にアウトプットする行為なんですよね。だから、インプットするものが何もなくなると、やっぱり空っぽになってしまう。20代の頃は、お腹が空いているのかどうかもわからないみたいなこともありました。ずっと人といる仕事でもあるので、一人の時間があまりないんですよね。1日の中で40分のお昼休憩くらいしかなかったり。だから、撮影の空き時間に、すごく一人になりたがっていた時期もありました。

—30歳になってから、かっこつけなくなったそうですが、それはこれまでの経験からくる変化だったのでしょうか。

一番のきっかけは結婚でしたね。見栄を張ったり、どこかで肩に力が入っていたりすることで、より呼吸ができなくなっているなとはずっと感じていたんです。周りからどう思われているんだろうとか、外からの見え方をすごく気にしていたので。そうすると、自分を見失っていくんですよね。自分という軸がなくなっていく。私生活でパートナーができたことによって、やっとそれに気づけました。

—より自分に軸を置けるようになったのでしょうか?

それまでは仕事中心で生きていたので、ずっとメディアに出ていないといけない、という強迫観念があって。自分が出なければ、他の人がその椅子に座るとずっと考えてしまっていたけれど、それは違うと思えるようになりました。同時に、芝居やエンターテイメント、ファッションへの興味も強くなっていって。着るものも、自分のマインドにアクセスするもののひとつだと考えるようになりました。東京から離れて、自然のある場所に行くのが好きなんですが、私生活の時間を充実させることに重きを置いて、その上でやりたい仕事を、やりたい人とやっていく、というスタイルに変わっていったことはすごく大きいです。

クリーンなデザインでありながら、変形した襟やレザーパンツのワイドなシルエットに Lucie & Luke Meier (ルーシー&ルーク・メイヤー) の感性が息づく。 シャツ ¥188,100、パンツ ¥984,500、シューズ ¥170,500、リング ¥125,400/すべて Jil Sander by Lucie and Luke Meier (ジル サンダー バイ ルーシー アンド ルーク·メイヤー)

—今年は、5月の「THEATER MILANO-Za」のこけら落とし公演『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』に始まり、精力的に舞台にも参加されていますよね。

もちろん、映画も好きなんですが、よりアナログが好きになっています。先日公開された映画『君たちはどう生きるか』は、タイトルからもう衝撃的でした。これから先の不安とか、例えば20代という過去が輝いていたから、30代は落ち目に感じるとか、そういう考えがすごくダサいなと思っちゃって。見るべきものは、今だな、と。今やりたいことをやれば、過去も未来もネガティブな要素なんてなくなる。そう気づけるようになってからは、今どこで、誰と、何をしていても、生きていることへの喜びや幸せを感じられるようになったというか。当たり前すぎて忘れてしまいがちだけれど、極論、普通に朝起きて、生きていられる人がどれだけいるのかということを考えれば、地球という生命体の中で生かされていることを感覚として感じるようになる。そうすると、自然と芯がぶれなくなるなと感じるようになりました。

—舞台はまさに、今を生きるものですもんね。

そうですね。稽古をするのは大変だけれど、 そのときが大変だとしても、みんな一緒だと思ったら気持ちも楽になる。逃げたいと思うこともあるけれど、辛いと感じられることも、すごく幸せなことだと考え方や視点を変えると、客観視できたり、違う答えが出てきたりする。視点って、すごく大事ですよね。

—役者としての、一番の楽しみって何ですか?

誰とやるかですね。作品の内容もあるけれど、人とやっていることだから。その人に興味があれば、楽しくもなる。商業的に考えると規模的には小さい舞台や作品だったとしても、その時楽しい方がいいと思っています。

—ちなみに、どうしても合わない人とはどう付き合っていますか?

人によって、状況は何万通りもあると思うけれど、合わないものは合わないんですよね。水と油は合わないから、無理やり合わせようとするんじゃなく、 違うところに飛んでいけばいいんじゃないかなって。ただ、合わない人と一緒に仕事をしなくちゃいけないとなると、めっちゃ闘いますね。闘うというのは、合わないものを排除することではなくて、自分にストレスを溜めないために距離を保つように努めています。そのためにも、循環できる自分でいることが大事だなと。

—去る8月6日に誕生日を迎えられましたが、35歳の抱負は?

もっと循環していけるようになりたいですね、体の中も外も。どうしても一つの作品をやったら、やる前には戻れないので、いろんなものが付着してくるんですよ。

—付着してくるものは、いいものだけではないということ?

経験という言葉ではいいですが、言い方を変えると、やっぱり慣れてきてしまうんですよね。慣れって怖いですし、そもそも人は体や脳を守ろうとするから、楽な方に行ってしまう。アルコールの摂りすぎが体に良くなかったとしても、疲れたらお酒飲みたい、と思うじゃないですか。だから、楽な方に行くのではなくて、どんどん余計なものを削ぎ落として、思考も研ぎ澄まして、よりシンプルになっていきたいですね