yutaka takenouchi
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これまでもこれからも、新しい自分との出会いを求めて。竹野内豊が常に新鮮な存在であり続ける理由

yutaka takenouchi

model: yutaka takenouchi
photography: utsumi
styling: rira shimoda
hair & make up: hiroaki takenouchi
interview: mika hosoya

Portraits/

チャレンジングな姿勢でジャンルを横断しながら活躍を続ける俳優、竹野内豊。マネキン主演の異色作『オー!マイキー』などで知られる石橋義正監督が手がけた『唄う六人の女』では、異界のごとき奇妙な森に迷い込んでしまった主人公、萱島を演じた。そこで出会う、物言わぬ女たちに翻弄される男の物語によって人間の業が暴き出され、やがて映画は自然との共生という現代的なテーマへと着地していく。インタビュー中に何度か「自分は器用ではないので」と口にした彼は、これまでも近道をすることなく一途に作品と向き合ってきた。スター俳優としてキャリアを築きながらも決して満足することのない姿勢が、安定感とフレッシュさが同居する稀有な存在感を生み出しているのではないだろうか。

これまでもこれからも、新しい自分との出会いを求めて。竹野内豊が常に新鮮な存在であり続ける理由

―『唄う六人の女』に出演を決めた理由について教えてください。

『ニシノユキヒコの恋と冒険』の撮影中にプロデューサーの方とどんな映画が好きなのかという話をしていて、山田孝之さんが主演している『ミロクローゼ』をおすすめされたんです。観てみたらあまり日本にはないような石橋監督の独特な世界観が感じられて面白いなと率直に思いました。観ている途中で気づいたのですが、少し前に共演していた原田美枝子さんが「面白い感性をした監督だから、機会があったらお会いできるといいね」とおっしゃっていた作品の監督だと気づいて。それから4、5年後くらいに石橋監督から今回のお話をいただいて、ぜひ参加させてくださいということでお引き受けしました。

―最初に台本を読んだときの印象についてもお聞かせください。

感覚的な部分でしか捉えられないような描写の多い台本だと思いました。どんな撮影になるのか全然想像がつかなかったのでクランクインするのがすごく楽しみでした。

―森の中に迷い込んだ萱島と、監督の頭の中に飛び込んでいった竹野内さんご自身が重なっていた部分もあるかもしれないですね。

そうかもしれませんね。石橋監督は目に見えているようで目に見えない世界観や、エネルギーを描きたかったのではないかと思っていて。監督の企画意図にも「失われる瞬間こそが愛おしく、美しいと考える「もののあはれ」という日本古来の考え方が、本来のコンセプトになっている」と書かれていました。

―監督が思い描いているビジョンを共有するような、絵コンテなどはあったのでしょうか。

スタッフの方々は絵コンテを見ていたみたいです。それを僕も全部見たかったのですが、スマホだとダウンロードが重すぎてほんの1コマ、2コマだけ見せていただきました。すごくわかりやすかったので、絵コンテを全部見たかった! と思いましたね(笑)。

―今回は京都の森の中で撮影が行われたそうですが、周りの環境から得たものを役に投影することも多かったですか?

作家性が強い作品なので、東京の自宅で台本を何度読んで模索しても捉えきれていないものがあるような気がしていました。実際にロケ地の大自然の中に入って、そこで感じる気持ちがすごく大事だろうな、と。でも撮影が終わるまで、作品や役柄について確信を持ってつかめていたかどうか自分ではよくわからない時はありました。その瞬間はやりきった気持ちがあって監督からOKが出ても、本当にこれでよかったのか、もっと何かできることはあったんじゃないか、どんな作品でもふとした瞬間そういう思いはつきまといますね。

―構築していった演技プランを解体していくような感覚もあったのでしょうか。

そうですね。自分はどちらかというと、事前に色々と頭の中で考えていったことが、現場に入ったときには役に立たなかったことが多いように思います。実際に撮影が始まってから、そこで感じたことを生かして演技をした方が、想像していなかった瞬間と出会えることが多い気がしていて。今回は現場に入ってからも、セリフとして言っていることだけに囚われてはいけないのではないかと感じたところがあったんです。言っていることと心の中で思っていることは違うんじゃないか、きっと監督が見せたい部分はセリフとは違うところにあるのかもしれない、ということを考えていました。

―セリフの解釈について、監督に相談することもありましたか?

自分は器用ではないので、心理的に違和感を抱くとうまく言えないこともあります。監督に相談させてもらったセリフもあるのですが、監督は何年もかけて書いた脚本の中に色々な思いを込めているわけですよね。監督の気持ちをすごく感じることができる脚本だったので、監督が頭の中で思い描いていることや伝えたいことを何とか表現したいな、と。それを目標にしていました。

―“6人の女たち”と相対したときに湧き上がってくる感情もたくさんあったのではないかと思います。

それはすごくありました。6人は言葉には出せなくても強さや弱さ、悲しみや悔しさというものを抱えていて、それぞれに世界観を持った女優さんたちと実際に向き合ってお芝居をしてみると、あ、そう来るんだ。と思うこともあったんです。その都度、自分も変えていけたらいいなと思っていました。

―ハードなシーンも多かったと思いますが、感覚としてはおひとりずつと闘うようなところも?

闘う、挑むというのも面白いかもしれないのですが、監督が求めているのはそこじゃないのかなと感じていました。例えば水川さんとハチミツをなめ合うシーンがあるのですが、あそこは台本で読んでいても、あんな風になるとは全然思っていないわけです。現場では水川さんが見せてくれたことを、自分はどう受けることができるのかなと、彼女と力を合わせていいシーンができたらいいなと思っていました。水川さんとは共演したことがあるので、彼女がゲラ (笑い上戸) だということも知っているんですよね。普段は子供のようにケラケラよく笑う人が、段取りのリハーサル時に色っぽく演じているのを見て、自分が少しでも吹き出してしまったら、絶対に彼女のゲラのスイッチが入ってしまうと思って、当然ですが素の水川さんは胸の中に封印していました(笑)。

―自然と人間との共生や命の繋がりについて描かれた物語については、どのように受け止めましたか?

社会的なメッセージも含まれていますが、生命というものにしっかりと目を向けている作品ですよね。観てくださる方たちが、人間の愛おしさや滑稽さのようなものを感じてくれたらいいな、と。監督もそういう思いを込めているでしょうし、先入観を持たずに観ていただければ深いメッセージ性を感じられるのではないかと思います。コロナ禍で原点に戻って自分自身と向き合う時間が増えた中で、色々なことを考えていった先に未来が見えてくるのではないかと思っています。

―竹野内さんは20代の頃からのクールな印象のみならず、近年の作品では色気やユーモアも増しているように感じます。ご自身にとってターニングポイントになったと感じている作品についてもお聞かせください。

コメディタッチの作品のオファーを受けることが増えたのは、僕が出ているコマーシャルなどを見てインスピレーションが湧いた作り手の方が声をかけてくださるからなのかなと思っています。とても光栄なことなのですが、常にまだ自分が知らない新しいものを発見したいという気持ちがすごく強いんです。 そう考えると、本当の意味でのターニングポイントはこれから先に訪れるのかもしれないですね。