Lilia Litkovska x Tara Nakashima
Lilia Litkovska x Tara Nakashima

「どんなに暗い現実の中でも、希望の光を見つけて伝えていくこと」表現者、リトコフスカと中島多羅のダイアログ

Lilia Litkovska x Tara Nakashima

photography: Momoka Omote
interview & text: Yoshiko Kurata

Portraits/

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって、すでに2年が経とうとしている。その間にも、2023年10月に、ハマスによるイスラエル越境への攻撃とイスラエル軍によるガザ侵攻が起き始め、いまもなお毎日のように罪のない市民が、侵攻による攻撃で亡くなっていることを私たちは忘れてはいけない。そして、世界中で同じ想いを抱いた人々が立ち上がり、停戦を訴えるデモやアクションを取り続けていることも。ウクライナ侵攻が始まった当時、渦中であったキーウでコレクション制作を進めていたのが、ウクライナ出身のブランド LITKOVSKA (リトコフスカ) だ。現在は家族を連れてパリを拠点にコレクションを発表しているが、2009年のブランド創設当初から一貫して、ウクライナの伝統をファッションを通して紡いできた。デザイナーの Lilia Litkovska (リリア・リトコフスカ) が初めて来日し、ドーバーストリートマーケット銀座にてポップアップを開催中。

「どんなに暗い現実の中でも、希望の光を見つけて伝えていくこと」表現者、リトコフスカと中島多羅のダイアログ

今回は、LITKOVSKA を普段から着用しているという俳優・中島多羅さんを迎えた対談形式で取材を敢行。ポップアップ以外にも、ここ最近の世界情勢についても触れる場面があったが、彼女たちから共通して溢れ出てきた言葉は「喜び」「幸せ」「希望」など相手を思いやるような前向きなものだった。取材撮影中も、春の光を浴びながら目をみてお互いに話す彼女たちは、どんな暗闇の中でも光をもたらしてくれるような存在に見えた。Lilia においては、娘の名前にウクライナ語で「Joy」と名付けていることからその確固たる精神性を伺える。表現者として社会を見つめ考え、自身の表現を通して発信する彼女たちの話を聞いた。

—今回ポップアップに合わせて、初めての来日となったそうですね。仕立て屋さんの家系に生まれ育ったことがブランドの背景にあるとお伺いしました。

Lilia Litkovska (以下、L): わたし自身、仕立て屋を営んでいた母親の祖父・曽祖父から継いで4代目にあたります。なので、自然とファッションは、小さい頃から身近にあるものでした。デザイナーになろうと思わずして自ずとファッションの道に進んでいきました。

中島多羅(以下、N): 今回のポップアップで LITKOVSKA の服を見て、アート的な部分もありつつ、そうした Lilia さん自身の日常の延長線上にあるもののように感じました。

L: まさに。私のコレクションは、自身と社会における日常の間で起きる対話そのものなのです。世界を探検して得た哲学やインスピレーションのすべてがコレクションに反映されています。

N: 今回のポップアップのインスタレーションは、ウクライナの神話から着想を得ているそうですね。

L: そうですね。「太陽活動が周ることで、常に新たな命が循環する」という考えのウクライナ神話からインスピレーションを受けています。今回に限らず、これまでも太陽や月、自然に感謝を感じるようなウクライナ神話や伝統をもとに制作し始めることが多いです。24SSコレクション「REBIRTH」では、名前の通り、新たな人生・始まりを表現しています。しかし、始まりには常に終わりがあるとは限りません。予期せずに立ち止まらざるをえない瞬間に、急に始まりは終わりを迎えることもあります。コレクションでは、たとえ歯切れが悪く突然終わらなければいけない状況になったとしても、立ち止まらないように、というメッセージを込めています。それはいま現在困難な状況に生きる、女性の精神の強さにも繋がると思っていて。日々空襲警報、サイレン、ロケット弾攻撃が鳴り響く中、何度も立ち上がる女性の力の回復力を表現するコレクションでもあるのです。

N: インスタレーションにあった干し草で出来た馬のお守りにはどのような意味があるのでしょうか?

L: 馬は、ウクライナで導きと精神的な防御のシンボルです。今回のインスタレーションでは干し草で作られた馬のフィギュアを吊るしていて、来場者にプレゼントしています。

N: 日本の干支で、自分が馬年なので思わず親近感を感じました。俳優として活動している自分にとって、そうした神話や見えないものを信じることは、表現にとって大切に感じることがあります。食べるもの、読むもの、考えることのすべてが自分の血となり、肉となってエネルギーになる。その中でも着るものは特に大切なものです。なにか特別に感じるというか……。

L: セカンドスキンだからですよね。

N: まさにそうです。舞台に立って表現するときに、服やすべてのものが自分の身体と魂にのってきて、パフォーマンスのエネルギーがどんどん高まっていくような感覚があります。LITKOVSKA を着る時も、そうしたあなたのエネルギーも一緒にまとっているように感じます。

L: ブランドのタグには、そうした想いが込められています。タグには「LITKOVSKA」というブランネームが見えず、意図的に布を一枚重ねているのですが、あくまでも服自体は、あなたのものだということを表しています。私はある意味、着用者と共同著者のような気持ちで服を作っています。なぜならあなたは自身の世界観において服を選ぶ権利があるから。一方では、服を通して自身を見つけることにも繋がると思います。

N: カラーパレットも気になります。コレクションを見ていると、一色だけにこだわることもなく、さまざまな色を楽しんでらっしゃいますよね。

L: 色はムードを表す重要な要素のひとつです。特にブラックとホワイト、グレーの色が好きですね。無地の一色だけではなく、ブラックとホワイトのストライプもよくジャケットの裏地に使っています。シルエットに色が加わることで、より服がエモーショナルなものになるのです。

N: 日本の色は、どのように感じますか?

L: 日本というと、赤色を最初に思い浮かべます。それがどのような意味を持っているのかはわからないですが、特に赤色の太陽をイメージしますね。といっても、まだ昨日来日したばかりなので、そこまで日本の街並みを探索できてはいないのですが……。強いて言えば、Instagram のストーリーにあげた3枚の写真が私の目線から切り取った東京の街並みです。

 

—この3枚だけでも、あなたが現代的なものと伝統的なものどちらにも惹かれていることがわかります。ポップアップで発表しているコレクションで使っている干し草の素材は、よく使う素材なのでしょうか?

L: 10年前から使っている素材です。2014年のコレクション Les Valseuses で、干し草で作ったマスクを発表しています。この時は、1974年に公開されたフランスの映画『Les Valseuses(バルスーズ)』をインスピレーションに制作しました。このコレクションを制作した2014年は、ちょうど「マイダン革命(尊厳の革命)」がウクライナで起きた年です。ソ連崩壊後からしばらくウクライナは、政府による汚職や経済成長の停滞などさまざまな問題を抱えており、2000年代には政府が事態から脱却するために、一度 EU と良好関係を結ぶ動きもありました。しかし当時の大統領は結局、連合協定を結ぶことはなく、ロシアと協定を結んだのです。そこで2013年11月21日の夜に首都のキーウにある独立広場にて市民運動「ユーロマイダン」が起きました。当時私もその中にいましたが、水や食料など救援物資をみんなが分け与えているような状況でした。このコレクションでは、そうした歴史について表現しています。みんなが寄り添って暮らした小屋をイメージしたドレスや、強さをイメージさせるようなビッグショルダーのコートなど全てのピースに意味を込めました。

N: Lilia さんの表現するものには、表層には現れていなくとも強いメッセージや哲学が込められていて、誰も傷つけることない美しさでみんなを包み込んでくれているように感じます。そしてまた、LITKOVSKA の服をまとうことで、あなたから受け継いだものを私や着用者が誰かに伝えていくというような連鎖が起きていくと思います。そうした表現の連鎖は、ある種、平和につながる道のひとつだと私は考えます。

L: ありがとうございます。それが先ほどのブランドタグに込められた想いでもあります。

N: 個人的に、ここ最近の国際情勢において「反戦」が少しファッション化していることに怖さを感じることがあります。また、その中でうたわれている「正義」が、時に恐ろしいものになり得る可能性も持っているようにも感じます。「正義」と「正義」がぶつかり合うと、何が正しくて悪いのかという二項対立の話に集約されてしまいます。でも、問題の焦点はどちらが正しいかということではなくて。表現者としての自分は、ただ単純に一方向から判断するのではなく、多角的に物事を見て考えると同時に、冒頭でも話した通り地球にあるすべてのものに祈りを向けるべきだと考えています。私も Lilia さんのように、いつでもすべてのものに愛を持って接して、考えて表現していきたいなと今回の対談を通して感じました。LITKOVSKA の服を着ると、そうした前向きな気持ちに自然と満ち溢れます。

L: それこそが、私のデザイナーとしてのメインミッションです。日常から得た幸せを愛に変換したものが、クリエイションとして形になる。ブランド活動以外にも、ウクライナで立ち上げたファッションスクール「SCHOOLL」で教鞭を取ることがあるのですが、そこでも生徒に「自分を信じて愛をクリエイションに込めれば、なんだって達成することができる」といつも伝えています。戦争が始まってから、ウクライナの伝統的なものが消えつつあります。そんな状況だからこそ、みんなで一致団結して、特に女性の力を信じて表現者として明るく前向きでありたい。どんなに暗い現実の中でも、何か希望の光を見つけて、ファッションを通して伝えていくことが表現者としての私の使命だと考えています。