女性の1日を見つめるストラズベリー。 夫婦がブランドを世界に届けるまで
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Strathberry
photography: asuka ito
Interview & text: saki shibata
「Strathberry (ストラスベリー) のバッグは、女性の一日のリズムを共にする存在です」− スコットランド・エディンバラを拠点とする Strathberry の共同創業者の Guy Hundleby (ガイ・ハンドルビー) は、穏やかな笑みを浮かべながら語った。
2013年、Guy Hundleby と Leeanne Hundleby (リーアン・ハンドルビー) 夫妻で立ち上げた小さなブランドは、いまや世界中の女性たちに愛されるバッグブランドへと成長を遂げた。ブランドの拠点となるエディンバラのアトリエは、今年2月に文化財Aリストに登録された歴史的なタウンハウスを改装し、大きな窓からは柔らかな光が差し込み、暖炉のぬくもりが空間を包む。その温かな空気のなかで、約65人のスタッフが日々デザインから世界各国への販売のために取り組んでいる。
さらに Strathberry のバッグをかたちづくるのは、スペイン南部・ウブリケの職人たちによる確かな手仕事だ。オリーブ畑の広がるヨーロッパの自然豊かな町で、100人を超える職人が一つひとつ丁寧に仕立てる。多くの大手ラグジュアリーブランドと同じ工房で生まれるそのバッグには、クラフトマンシップとモダンデザインの融合が息づいている。
彼ら創作はファッションという枠を超え、“生き方そのものをデザインする”という行為に近い。音楽、建築、そして家族。あらゆる要素が交差するその創作の原点には、「リアルな女性の生活を支えたい」という情熱が流れている。果たしてどのようにして形となり、日々の創作へと結びついていくのか−。その制作哲学に、もう一歩踏み込んでみたい。
女性の1日を見つめるストラズベリー。 夫婦がブランドを世界に届けるまで
Portraits
ー今シーズンは「ストラスベリーウーマンの生き方」を称えるコレクションだそうですね。どのような女性像を思い描き、どのような視点でデザインされましたか?
そうですね。毎回、妻やデザインチームと一緒に考えています。ストラスベリーウーマン、つまり私たちのお客様が、ブランドを通して人生のリアルな瞬間とつながれるかを意識してデザインしています。もちろんデザイン性も大切ですが、それ以上に、日常の生活で役立つ実用性を大事にしています。
ー具体的にはどんなところを意識していますか?
特に妻の生活を観察しています。子供のためのものや自分の必需品など、バッグに詰め込むものがとても多い。例えば、今年5月に発売した「Kite (カイト) 」は、そういった外出先で多くのものを持ち歩く人たちのためにバッグのサイズやポケット、形状を考えて制作しました。一方、ミニバッグは夜のドレスアップスタイルにマッチするようなサイズ感で仕上げています。ファッション性だけでなく、生活を支える道具としての側面を常に意識していますね。
ーStrathberry のバッグには、すべてにアイコニックな “ミュージックバー” の留め具が取り入れられていますね。この特徴的なデザインには、どんな意図やストーリーがあるのでしょうか。
ヴィンテージの革製楽譜フォリオを見つけたときに、その留め具からインスピレーションを受けました。かつて作家やミュージシャンは、楽譜をレザーに入れて持ち歩くことが多かったそうです。その歴史に着想を得てバッグに取り入れてみたところ、驚くほど自然にフィットしました。フェミニンさも演出する絶妙な存在感。ブランドのシグネチャーとして最初のバッグからずっと使い続けています。
ーなるほど。「音楽」はお2人の中で重要な要素なのですね。
私自身も音楽は人生の一部ですし、妻もそうですね。娘もピアノを弾いています。私は弾けないですが (笑)。クラシックからポップスまでジャンルを問わず聴いていて、その感性は自然と創作にも反映されていると思います。
ーデザインのアイデアはどのような瞬間に生まれることが多いですか?
日常の中でふと浮かぶこともありますが、やはり旅行は大きなインスピレーション源です。今回の日本を訪れて、日本ならではの建築や街並みを眺めたり、ファッションスタイルに触れたりして、新しい発見がありました。日本人のスタイルを見ていると、日々の着こなしにも気を遣い、常にファッションとしっかり繋がっている意識の高さがあるように思います。そういった新しい文化に触れることを大切にしています。そしてデザインチームと意見やアイデアをシェアしてより深いところまで落とし込む。この作業がとても重要です。豊富な経験を持つチームと意見を交わすこともブランドの強みです。
私自身はファッションの専門学校出身ではないので、複雑にならず、シンプルでミニマムなデザインを強みにしていきたいと思っています。その指針として大切にしているのが、星の王子さまの著者、Antoine de Saint-Exupéry (アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ) の言葉です。
「“A designer knows he has achieved perfection not when there is nothing left to add, but when there is nothing left to take away.” 完璧さとは、もう付け加えるものがなくなったときではなく、もう取り除くものがなくなったときに達成される—。」
この言葉を心に留めながら、Strathberry のバッグ作りにも活かしています。
ーとても素敵なフレーズです。また、革加工の長い歴史を持つスペイン南部・ウブリケで作られていることも、Strathberry の大きな強みですよね。
ブランド設立以来、12年前からウブリケで生産しています。ヨーロッパでも歴史ある革加工の町です。100人以上の職人たちが、細部まで丁寧に手作業でバッグを仕上げる姿にはいつも感銘を受けます。町全体の雰囲気も素晴らしく、実際に来ていただきたいと思うくらいです。オリーブ畑が広がる自然豊かな場所で、スコットランドから飛行機でおよそ3時間。年に3回ほど長期で訪れ、職人たちと時間を共にしながらサンプルを作るこの過程が、私にとって最も幸せを感じる瞬間です。
ーご夫婦でブランドを立ち上げられましたが、“2人だからこそ”生まれる強みやバランスはどんなところにあると感じていますか?
どちらかが疲れていても助け合えるし、一緒に挑戦できることが大きな力になります。「今日頑張ったら明日は良くなるよ」と声を掛け合えるのも、2人でやっているからこそです。もちろんチームの中で信頼できる仲間と乗り越えることも大切ですが、家に仕事を持ち帰る場面も多く、2人で代表を務めているとどうしても家でも仕事の話が多くなります。そのせいで、子どもたちから「ちょっと仕事の話やめてもらってもいい?」と言われることもあります(笑)。
ーお2人の意見が衝突したり、すれ違うことは?
もちろん、意見に賛成できなかったり衝突することもあります。ただ、それも“チャレンジの一つ”だと思っています。ビジネスパートナーであると同時に、家族であり妻でもあるということを常に意識するようにしています。
ー今年2月に完成した文化財Aリストに登録されているエディンバラのタウンハウス・アトリエを拝見しました。洗練されていて、とても過ごしやすそうな空間ですね。
ありがとう。この建物は4階建てで、約70人のスタッフが働いています。北と南の大きな窓からは柔らかな光が差し込み、本当に素敵な建築なんです。アトリエは建物の中心に位置する2階にしました。手作りであることを忘れないよう、デザインの中心= “心臓部”という意味合いも込めています。色や素材もブランドの世界観に沿った温かみのあるもので選んでいます。
ーブランド設立前は、建築デザインもされていたと伺いました。
そうなんです。スコットランドに家族のために建築デザインした家もあるんですよ。今は手放してしまい住んでいませんが、テラスが広くて気に入っていたので、またみんなで戻りたいですね。特に好きな建築家はノルウェーを拠点に活動する Todd Saunders (トッド・サンダース)。彼が設計したカナダ東端の高床式のホテル「Fogo Island Inn (フォーゴ・アイランド・イン)」は素晴らしいと思います。
ー日本で気になっている場所はありますか?
Sacai (サカイ) が好きなので日本に来た時は必ず表参道にあるお店へ行きますね。お店の建築のも面白いなと思っています。あとアートアンドサイエンスも行きました。これまで京都、大阪、名古屋に行ったことがあり、名古屋では相撲を観覧したりしました。シティだけでなく地方の景色や街並みも見てみたいですね。
ーブランドを立ち上げて12年を迎えられました。ここまでで得た最大の学び、そしてこれから実現したいビジョンをお聞かせください。
もちろん、私たちの製品を手に取ってくださる方を大切にすることと、お客様と常に近い存在であり続けることです。ブランドの可能性はこれからますます広がっていくと感じていますが、成長のスピードがクラフトマンシップを追い越してしまうことのないようにしたいと考えています。丁寧さを忘れずにいたい。昨年度 (2025年4月期) には売上が3,640万ポンド (約73億円) に達し、今後3年以内には1億ポンド (約200億円) 規模の売上を見込んでいます。、価格を無理に上げず、誠実なものづくりを続けたいと思っています。日本でも Strathberry がどのようにフィットするかも考えていきたいです。













