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マック・デマルコと音楽。心地よい距離感と変わらないもの

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photography: shiori ikeno
interview & text: mami chino

Portraits/

2010年頃に盛り上がりを見せていたインディーミュージックシーンで、まず最初に頭に思い浮かぶのはきっとこの人。カナダ出身のミュージシャンMac DeMarco (マック・デマルコ) だ。力の抜けたメロディに乗せて、好きなものを好きなように歌う。彼の音楽は、聴く人に自由と無限の可能性を感じさせてくれていた。日本での支持も熱く、2018年に行われたジャパンツアー、そして FUJI ROCK FESTIVAL (フジロックフェスティバル) のどちらも大盛況のうちに幕を閉じている。

「自分が作らずにはいられない音楽を作り続けたい」と語る言葉通り、トレンドが多様に変化する昨今の音楽シーンの中でも、ー歩も迎合することなくマイペースに新作を発表し続けている。その姿勢は、曲だけではなく、彼の音楽を愛する人の心の拠り所までも与えてくれているようだ。

8年ぶりの来日公演は、その彼の優しさを再確認できる瞬間が多々訪れた。大きく左右に揺れながらゆるく歌う彼の空気感に、シャイな我々がそっと身を委ね、ゆったりと会場全体が揺れていた。当時から彼を知る者は、ちょっとした懐かしさに浸ってもいた。そんな安心感をオーディエンスに与えられる、彼の変わらず在り続ける原動力について触れるべく、公演前にインタビューを敢行。さまざまに話してもらった。

マック・デマルコと音楽。心地よい距離感と変わらないもの

—前回のツアーから8年ぶりの来日です。今回の東京滞在でやってみたいことはありましたか?

東京に来るとレコードを買い漁ることが多かったんだけど、今回はやめた(笑)。観光はもう十分だから、もっとリアルな日常を覗いてみたかったんだ。友人の Yuki Kikuchi (菊地佑樹) と彼の地元の多摩市にもう一度行って、DCMってホームセンターで遊んだよ。込み入った話なんだけどアメリカの合板は4×8フィートが基本なんだけど、日本のものは3×6くらいで小さかったんだ。たぶん日本の車が小さいからだと思うんだけどね。そういう日本の暮らしにあった機能的な気遣いがクールに思えたよ。正直、今回の日本滞在で一番楽しかった。

—すでに福岡、京都、大阪、名古屋でのライブを終えていますが、どんな時間を過ごせましたか?

大阪と名古屋はあまり時間がなかったんだけど、名古屋では最近ハマっている朝のランニングをしたら、ふと名古屋の街並みとLAの街並みが似ているかもって思った。福岡のモツ鍋は美味かった。京都は銭湯にも行ってみた。そんな感じで時間の許す限り、その街を感じられるように歩き回ったりしたね。でも京都のベニューは驚いた。takutaku (磔磔) というライブハウスで、今回のジャパンツアーだけじゃなくアメリカやヨーロッパツアー全部を含めて、最近プレイした中でもっとも小さな場所だった。そこは特殊な空気が流れていてクールだったよ。今はそういう小さな場所を大切にしたいって思えるんだ。あと、日本のファンが静かに聴いてくれるのも心地よかった。昔はそのことを恐れていたんだけどね。

—日本のファンと再会するまでのこの8年間、自身に起こった一番の変化は?

わっかんないな……なんだろう。一番だよね?うーん。30代になったこと?酒もやめたし。

—30代になると一日の過ごし方が変わってきたりもするのでしょうか?

そんなに変わらない気がするけど、前より健康的に過ごせるようになったのかな。前は YMCA でバスケットボールをしていたけど、今はもうやめちゃった。変わらないのは音楽を作り続けていることくらいで、音楽に触れている時間はできるだけ忙しくすごそうとしているよ。

—毎日の生活の中での音楽との関わり方は変わったのか、変わってないのかも気になります。

それについては変わったと思う。たぶん前より聴く量は少なくなったかな。何かしら音楽は常に流れている感じだけど、もっとアンビエントっぽいものだったりするというか。たまには「今、これをちゃんと聴こう」って感じで集中して聴くこともあるけど。新しい音楽を追いかけるのは前よりも下手になったと思うな。

—下手になったと聞いたばかりですが、最近の音楽で注目しているものがあるのかも聞きたいです。

東京滞在中に、Otto Benson (オットー・ベンソン) のライブを観たよ。彼は最高だったね。

—最新アルバムの『Guitar』に込めた思いを聞いてもいいですか?

当時過ごしていた日々のスナップショットのようなものになっているんだ。作ろうと思ってから2年以上時間が空いてしまったし、どんなアルバムが完成するか自分でもわかっていなかったけど、結果的に生まれたものが『Guitar』だった。

—前作は199曲のインストとデモ曲を収録した『One Wayne G』だったかと思います。なんだか、久しぶりにあなたの歌声をたっぷり聴けたなという嬉しさも……。

そうだね、今回はたっぷり僕の声を入れたよ(笑)。

—そもそも、アルバムをまとめようというタイミングは自然と来るんですか?それとも時期を定めて、そこをゴールに作っていくものですか?

正直、あのアルバムを作っていた時は、音楽の他にもやることがたくさんあって時間があまりなかったんだ。LAから離れてカナダにしばらく滞在して、母の住む場所を探してた。音楽制作のタイミングが限られていて、それ以外の時間はゼロに近かったんだ。だから「今作らなきゃ、いつ作れるかわからない」って常に考えていたよ。そんな限られた時間内に完成させられたのはむしろラッキーだったと思うね。ただ、ずっとツアーに戻りたかったし、ライブもやりたかったから、このタイミングだったのは自然な流れでもあるし、同時に実用的な判断でもあったんだ。

—アルバムを出して、ツアーを継続して組み、ライブを打ち出している今はすごくアクティブな印象ですが、あなたはどう感じていますか?

10年前と違って、ツアーを組むこと自体は増えたんだよね。昔なら、ツアー中はに音楽を作るなんてあり得なかった。ただのパーティタイムみたいなものだった。ただ、その時間がどうでもいいものだったってことに後になって気づいたよ。今は合間合間でレコーディングしたり、ファン向けの小さなCDを途切れることなく作りたいって思っている。ショーのクオリティだってもっと上げていきたいんだ。そういう意味で、今はすごくプロダクティブになったと感じているよ。

—それこそ、先程の30代になったことで得られた変化というもののひとつということでしょうか?

かもしれないね。どうでもいいと思えることが増えたって感じ。というより優先順位が変わったと言えばいいのかな?バーで飲みに行く時間に興味がなくなって、木で何かを作っている時間の方が楽しいと感じている。LAに住んでいたけど、あそこにずっと住んでいると脳が腐っていくような気がするんだ。今はそのカビを削り落としているようなニュアンスだね。

—暮らしに目を向けるようになった変化は、アルバムにも反映されていると思いますか?

直接的に歌っているわけじゃないんだけど、ある意味で、今までを振り返っているアルバムになっていると思う。

—これまでツアーやライブを積み重ねたことで、日本はもちろん世界中にファンがいると思いますが、Mac DeMarco としてこれからやってみたいことはありますか?

楽曲プロデュースは昔やったことがあるけど、やりたくないって思ったな。正直、もう誰ともコラボしたくないんだ。自分の音楽もお金を払って流行りの音にすることはできるけど、やりたくない。もう一回言わせてもらうと、できるけど、やりたくない(笑)。自分のアートに誰かの手垢を付けたくないね。やっぱり自分のアートは自分自身で作っていくものだと思っているよ。演じようとしたりせず、僕が作らずにはいられない音楽を作り続けたい。

—さっきお聞きした、音楽との距離感の話に戻りたいんですが、もう少し具体的に聞きたいです。毎日の生活の中での音楽との距離感について。

そうだな、最近は家を自分で建てたり、手直ししたりしている時間が多いんだけど、一日のどこかは必ず音楽について考える時間があるんだ。家をよくするのもスタジオを作るためだったりして、結局は音楽のためだったという風に帰ってくる。つくづく生活の中心に音楽があることに気付かされるんだ。 何度か「君はアーティストなのか?」と聞かれたことがあったけど、正直、自分でもよくわかってないから上手く答えられないんだ。でも同時に、自分に何ができるのかはわかっていたというか。つまり、何者なのかってことにはこだわってないけど、ただレコードを作ること。これは紛れもなく僕の一部なんだよね。それを時間をかけて理解しているところだよ。

—生活を営むように、音楽をクラフトしている感覚を大切にしているのは、リスナーにも伝わっていると思います。

そうだね。自分で作ったという実感がただ欲しいのかもしれない。いまだに音楽を作っていて、完璧だと思えたことは一度もないし、いつもどこか変だと思ってしまう。でも、それでいいんだ。僕のファンはその変なところも好いてくれているし、自分でもそう思えるよ。