「二人が出会ったのは運命だと思う」チョポヴァ ロウェナが共有するかわいさとユーモア
Portraits
「二人が出会ったのは運命だと思う」チョポヴァ ロウェナが共有するかわいさとユーモア
Chopova Lowena
photography: mikito iizuka
interview & text: yoshiko kurata
ロンドンを拠点に活動する Chopova Lowena (チョポヴァ ロウェナ) は、ブルガリアの伝統衣装とスポーツの要素を掛け合わせ、独自のクリエイションを築いてきたブランドだ。デザイナーの Emma Chopova (エマ・チョポヴァ) と Laura Lowena (ローラ・ロウェナ) の出会いは、セントラル・セント・マーチンズに入学してすぐのこと。異なるルーツを持つふたりを繋いだのは、マキシマリズムとクラフトへの関心だった。シグネチャーアイテムであるカラビナスカートに見られるように、 Chopova Lowena のアイテムにはハード/フェミニン、そしてクラフトマンシップ/現代的なかわいさが同時に存在する。その複雑なレイヤーは、ときにユーモラスに、ときにどこかパーソナルな心情を描きながら、独自のスタイルとして立ち上がる。一貫した世界観と強いオリジナリティを持つ彼女たちは、いかにしてその表現にたどり着いたのだろうか。
初来日を果たした今回、東京での体験を通して見えてきた “かわいい” という感覚との共鳴、そしてふたりだからこそ辿り着けた現在地について話を聞いた。
—それぞれファッションに興味持ったのは、いつ頃でしょうか?
Emma Chopova (以下、Emma): 私は10代前半から興味を持ち始めました。当時、漠然とアーティストになりたいと思っていて、絵を描くことに夢中だったのです。母がファッションやアートが大好きなので、彼女から受けた影響は大きいですね。家の中には洋服やアート作品がたくさんあり、常にファッションが身近にある環境だったからこそ、迷いなくデザイナーの道を選んだのだと思います。私の生まれはブルガリアですが、ニュージャージーで育ちました。その間、ニューヨークの高校に行きながら、週末にはファッションスクールにも通っていて、幼い頃からずっとファッションデザイナーになることを夢見ていました。
Laura Lowena (以下、Laura): 私はもともと物を作るのが本当に好きで、クラフトや編み物、服作り、テキスタイル、プリントや色などに興味を持っていました。そうした背景から、ファッションに自然と惹かれるようになったのですが、いわゆる “ファッション” というよりも、どちらかというとアートの文脈から、服を作ることへの関心を深めていった感覚です。編み物を教えてくれた、祖母の影響も大きいですね。今も編み物は好きなことなので、そこが原点かなと思います。
Emma: Laura は、そこまでファッション自体にのめり込んでいるタイプではないよね。どちらかというとあまり典型的ではない感じというか……。彼女の方が、私より少し型にはまらないタイプだと思う。私はもっとストレートにファッションが好き! という感じだったというか。
Laura: だからこそ、私たちは良いコンビなんだよね。
Emma: そうだね。私はファッションの歴史にとても夢中で、とにかくファッションに強いこだわりがあります。Laura はそこまでではなかったけれど、それがむしろ良いことだったと思います。
Laura: そのなかでもお互いに共通していることは、伝統的なクラフトでした。
Emma: 伝統的な衣装は、私たちを結ぶ強い接点だよね。
—そんなお二人の出会いは、セントラルセントマーチンズに入学してすぐだったとか。一瞬で意気投合したそうですね。
Laura: たしか、一年生のときにサマープロジェクトみたいなものがあって、衣装を作る課題がありました。そこで、ほとんどの同級生が黒のシャープな服を発表していましたが、私と Emma だけ、とてもカラフルかつボリューミーで、ちょっとクレイジーな衣装を作っていて。そこで、お互いに「あ、この人なら自分をわかってくれるかも」と気がついて、すぐに仲良くなりました。
Emma: その頃の時代のムード的に、マキシマリズムってあまりかっこいいとされていなかったと思うんです。でも私たちは二人ともすごくマキシマリストで、いろんなものに惹かれ、インスピレーションの幅もすごく広かった。だから早い段階からお互いに惹かれるものが同じなんだと気がつけたのです。それにしても、同じ歳で同じクラスにいたのは、本当に運命だったよねといつも話しています。一つでも掛け違えていたら、そうじゃなかった可能性だってあるかもしれないけど。当時は二人とも学校から離れた、サウスロンドンに住んでいたので、パーティーにもショッピングにもどこに行くにも一緒でした。
—その後、自分たちでブランドを立ち上げようと思った経緯は?
Emma: すぐに、将来的にチームとしてやっていこうとは考えていなかったんです。意識し始めたのは、学士課程(BA)の終わり頃でした。それぞれブランドのインターンを経験したうえで、他の誰かのために働きたくないと強く感じました。もっとパーソナルで自分たちのために服を作りたいと思ったのです。それで一緒に修士課程(MA)に応募することに決めました。無事に合格して、一緒に作品を作り始められたことは大きな転機になりましたね。二人にとって大事な経験をそこで積めたと思います。
Laura: 結果的に、うまくいったのは本当にラッキーなことでした。これまで一度も共同制作をしたことがないのに、いきなり初めてみるのは、かなりの賭けだったと思います。だから、共同作業で形にするまで約1年ほどかかりました。一人で作業するのと、誰かと作業するのはまったく違うものですが、幸いにも私たちはそのやり方をちゃんと見つけられたんです。逆も然りで、一人ではここまで出来ていなかったと思います。
Emma: 私も同じく、そう思う。
—インディペンデントブランドを立ち上げることだけでも、相当大変なことですが、二人でビジネスをやるということは、親友であってもかなりのモチベーションが必要ですよね。
Emma: 学士課程(BA)の3年間で、二人ともパリでインターンをして、その後はニューヨークでも一緒に経験を積みました。とにかくいろんなインターンを経験して、さまざまな働き方や環境に触れてきたのですが、そのなかで、ファッションデザイナーとして確かな作品を生み出すには、膨大な時間やエネルギーを費やさなければならないのだと実感しました。その経験をきっかけに「自分たちのブランドを持ちたい」という強い意志が芽生え、それこそが自分たちのやりたいことだと確信するようになりました。そして、自分たちの作品をより成熟させて、本当に作りたいものを見つける修行期間として、修士課程(MA)への進学を決めたのです。
Laura: あとは、シンプルに私たちが着たいと思うような服がなかなか見つからなくて。Emma は、いつもブルガリアの伝統衣装を全身に着て、私はキルトやヴィンテージセーターをよく着ていました。自分たちの好きなものが売っていなかったから、学生時代から自分たちで着たい服を作っていたのです。そこから、きっと私たちと同じような好みの人が他にもたくさんいるんじゃないかなと思ってブランドを立ち上げることにしました。
Emma: でもブランドを始めたとき、正直すぐにうまくいったわけではなくて、軌道に乗るまでが本当に大変でした。いわゆる順調なスタートを切ったということではなくて、いろいろなショップにも断られたりもして、かなり厳しい始まりでした。だからこそ、新たなコレクションを発表できることそのものが、何よりの喜びでした。

—そこからブランドとしての転機となったのは、シグニチャーアイテムでもあるカラビナスカートだと思います。いまではさまざまなアイテム展開がありますが、クリエイティビティとビジネスのバランスをどのように考えていますか?
Laura: そうですね。比較的早い段階で、カラビナスカートという象徴的なアイテムを生み出せたことは大きかったと思います。あのスカートには、自分たちが好きな要素のバランスが全部詰まっています。メタルのクリップやレザーベルトといったハードなディテールがありつつも、フェミニンで心躍るようなニュアンスもあって。そこから、どのアイテムでもハードさと可愛らしさのバランス感を意識するようになりました。
Emma: ブランドを始めたばかりの頃は、「いいブランドとは」「いいプロダクトとは何か」と自問自答していました。二人ともかなり慎重に向き合いながら、すべてのアイテムに強いアイデンティティを持たせることを強く意識してきたんです。中途半端なものは作りたくない、特別感のあるものにしたい。「これが欲しい」と思ってもらえるだけの魅力がないものは、作りたくないんです。だからこそ、型数を増やすのではなく、一つひとつに意味を持たせながら、ブランドらしさを感じられるアイテムを丁寧に作り続けてきました。そうした軸が定まってからは、ほかのカテゴリーへもスムーズに展開できるようになったと思います。
Laura: 正直に言うと、スカートもお気に入りのアイテムですが、個人的にはドレスをデザインする時が一番楽しいかな。
Emma: そんな感じでアイテムの展開は、すごく計画的に生まれたというよりは、個人的な感情で自然に広がっていきました。ネックレスが誕生したのも、初期のコレクションで「馬上体操」をテーマに製作していたときに、スタジオに馬具の金具がたくさんあったことがきっかけでした。そこから、「これ、ネックレスにしたらかっこいいんじゃない?」というふとした会話が発端となっています。フリースのアイテムも、Laura がいつも着ていたヴィンテージのフリースを着想源に作り始めました。自分たちの身近なユニフォームから Chopova Lowena のアイテムは生まれてきたのです。
Laura: トータルコーディネートを考えるなかで、T シャツのデザインにも取り掛かるようになって……。
Emma: そうだね。T シャツは、いずれ絶対作るべきアイテムだとは考えていました。というのも、一番最初に手に取りやすいブランドアイテムになると思っていたからです。だから、自分たちらしさを残しつつ、ほかのアイテムよりも少し戦略的にデザインを考えていきました。
Laura: 私たちは、一つの世界観を作り上げことに魅力を感じています。初期の頃から一貫した独自の世界があって、その前提のうえで活動を続けてきました。それはまさに現実世界のように、私たちのなかでははっきり見えていて分かるもの。ただ、それをほかの人に説明するのはすごく難しい。この二人だからこそ、その世界を理解し、形にすることができているのだと思います。
Emma: 7月にロンドンで旗艦店を初めてオープンする予定なんですが、その店舗のデザインも自分たちで手がけています。ここでも、言葉を交わさずとも自然とすべてのプロセスが進んでいったというか。家具から内装に至るまで、すべてに共通する明確なイメージが共有されていました。論理的に組み立てていくというよりも、むしろオーガニックな流れのなかで、一つひとつを決めていった感覚に近いです。
—それでは、特に業務においても役割分担はしていないのですか?
Laura: そうですね。基本的に二人でなんでもやります。ただ、一部のプロセスは別々で動くこともあります。まず、リサーチは各自で行い、「伝統衣装や民族衣装」と「スポーツ」という二つのテーマをそれぞれ選びます。そこからさらに掘り下げたうえで、それらを組み合わせてる形でシーズンを組み立てていきます。そうすると、二つのテーマが対話しているように感られたり、同じ人物が両方のイメージに現れているように見えたり、あるいは両方に共通点が浮かび上がってきたりするんです。
Emma: それらをベースに、基本的に二人で会話を重ねることでだいたいのことが見えてきます。
Laura: そのイメージをもとに、Emma がドローイングとして描き起こしていき、私はリサーチで得たディテールをコラージュしていきます。そうして生まれたイメージをもとに全身のルックを考え、そこからさらに二人で細部まで丁寧に話し合いながら、コレクション全体を仕上げていく、という感じです。
Emma: 一方で、ブランドの実務的な面では役割分担もしています。Chopova Lowena の服はすべてブルガリアで生産していて、私の家族が主に関わっています。Laura は、彼女の母親とともに、イギリス側の会社運営や財務、キャッシュフロー、事務的な業務などを担当してくれています。私がそういった情報を扱うのが不得意で、逆に服の構造や生産上の問題を解決することは得意。Laura は、人をまとめたりマネジメントするのがとても上手で、そこは私が苦手とする部分でもあります。そんなふうに、運営面でもデザイン面でも、それぞれの強みが異なっていて、その都度状況に応じながら役割を柔軟に変えています。

—そのお二人が共有している感覚に、日本の “KAWAII” もどこか通ずるものがあるように感じていて。今回初来日ということですが、どのようなところに行きましたか?
Emma: キディランドは、私たちにとって本当に夢のような場所でした。2回ほどキディランドには行って、たくさんのキャラクターグッズを買いました。あとは、中野ブロードウェイにも行って、古いおもちゃやキーホルダー、ポストカードを買い漁りました。
Laura:とにかく、二人ともかわいいものが好きなのです。
Emma: 原宿は街にいるだけでも、すべてがインスピレーションになりました。
Laura: みんなが本当におしゃれで、すごくセンスが良くて。道に座って人を眺めているだけで、気になるスタイルが次々と目に飛び込んでくるというか。
Emma: GR8でイベントをやったときも、私たちの服を着たオーディエンスに会えて嬉しかったです。Laura は、自分たちの服を着ている人を見つけると、必ず写真を撮るんです。あとはドン・キホーテにも行ったし……。
Laura: 東京は、本当にすべてがインスピレーションになる場所だよね。
Emma: ほかにもお気に入りのドールがあって……。名前なんて言うんだったけ……ちょっと携帯の写真見ますね。
—あ、携帯におぱんちゅうさぎのステッカーが……。うさぎのキーチェーンもお揃いでかわいいですね。おぱんちゅうさぎのストーリーは知っていますか?
Emma: 知らないです、ストーリーがあるんですか?
—おぱんちゅうさぎは、いろいろな努力をして人助けにも積極的なのですが、優しすぎるがあまりにいつも悲劇に見舞われるのです。日本独自の感覚だと思いますが、人々がそうした可哀想な状況に共感しながらも可愛いとも思う精神性があって……。説明が難しいのですが、伝わりますかね?
Emma: Oh my god! ストーリーを聞いてより好きになりました! それこそ、Laura らしいとも言えるし、私らしいとも感じます。おぱんちゅうさぎのお皿もぬいぐるみも、「Do you love me」って書かれたティーキャニスターもポンチョも買いました。本当に全部が好きすぎる。スーツケースに入るだけ、ありとあらゆるグッズを買いました。
—ブランドとして、日本の “KAWAII” の精神性とどのようなシンパシーを感じますか?
Emma: 私たちがデザインを考えるときに、まず大切にしているのは、“良いデザイン” であること。その次に “かわいさ”、そして “ユーモア” という要素です。そうした感覚が、日本のキャラクターや美意識とも繋がる部分があるのかなと思います。それが日本の “KAWAII” やガーリーな文化とも響き合っているんじゃないかなと感じています。それはある意味、「ガールフッド(少女らしさ)」とも言えるものかもしれません。
Laura: それは、まるで女の子のためのクラブにいるような感覚というか。そうしたアイテムを持つだけで、気分が上がったり、ただ心地よくいられるのです。
Emma: 個人的には「悲しみに暮れる女の子」の存在にも惹かれます。それってすごくガールフッド的な感覚だと思うんです。悲しくてもいいし、かわいくてもいい——なんていうか、そうした感情の幅を許容する感覚が、日本のカルチャーと共鳴しているんだと思います。
Laura: 実際に日本に来てみて、そのシンパシーを改めて実感しました。ファンの方々が、私たちの服のどんなところが好きで着てくれているのかを、ようやく感覚的に理解できた気がします。
Emma: 私にとって、人の目を引くものって、どこか知性があると感じていて。そしてそこにユーモアが加わることで、より強く惹かれる。ブランドを始めた頃は、その要素は今ほど強くなかったのですが、ブランドが成長するにつれて、ユーモアへの意識がすごく強くなっていきました。キャラクターのモチーフだけじゃなくて、スタイリングの中にもその感覚を取り入れるようになり、今ではコレクションのストーリーを考えるうえで非常に大事な部分を担っています。今回日本を訪れて、そのユーモアの感覚が自然と人々との共感を生んでいるんだと、改めて感じました。

—最後に、ロンドンに帰国されてからの予定を教えてください。先ほど、7月に初の旗艦店オープンという話が出ましたね。
Emma: そうです。スタジオもお店と同じビルに引越しますし、私たちにとっては、すごく大きな転機になると思います。
Laura: 自分たちで内装のデザインもしました。
Emma: 私のボーイフレンドがお店作りを手伝ってくれていて、もうすでにすごく楽しい思い出が詰まったショップになってきています。自分たちの世界観を立体的な空間として初めて表現する機会なので、とてもワクワクしています。
Laura: お店のすぐ下の階にデザインオフィスがあって、小さな窓から下を覗くと私と Emma が作業しているのが見れるんです。並行して、Web サイトのリニューアルも進めています。
Emma: サンプルセールもあるし、次のシーズンのことも進めないといけないし……。正直帰国してからこの数ヶ月のことは怖いですね。
Laura: 帰国後の2週間は制作期間に集中しなきゃいけないよね。9月にはショーを発表する予定です。
Emma: 日本にいる間も、仕事は進めないといけない状況でしたが、それでも外に出て楽しめた時間は本当に最高でした。それに、二人きりで過ごせるのもすごく楽しかったです。一緒にいろんな体験ができたよね。
Laura: そうだね。親友と二人きりで過ごせる楽しい旅になりました。












