「僕にとって演技とは、心の中に留めたものを取り出していくこと」ク・ギョファンが語る表現方法
Koo Kyo Hwan
photography: masashi ura
interview & text: mayu sakazaki
インディペンデント映画で活躍したのち、多くの商業映画やドラマでひと癖ある魅力的な人物を演じ、自身で短編映画の監督や脚本も手がけながら、韓国で260万人を動員したラブストーリーのメインキャストとして社会現象を巻き起こす──それがク・ギョファンという人だ。7月3日公開の映画『サヨナラの引力』は、そんなク・ギョファンが演じる大学生のウノと、ムン・ガヨン演じるジョンウォンの出会いと別れを通して、彼らの人生とそれを取り巻く社会を丁寧に描いている。韓国では「心と記憶を揺さぶられる恋愛映画」として口コミで広がり、『私の頭の中の消しゴム』や『別れる決心』を超える動員数を記録したという。20代のウノとジョンウォンはそれぞれに叶えたい夢を持ちながら恋心と友情を育むが、お互いを支えようとすることで人生のバランスを崩していき、やがて別れを選ぶ。そして10年後に再会したとき、それぞれが思うことは何かということが、ゆっくりと語られていく。誰かをずっと愛し続けることではなく、愛したことそのものに価値があるのだと感じさせてくれる美しい作品だ。映画の印象的なシーンとリンクするような台風の日に、約一年ぶりに日本にやってきたク・ギョファンは、短い時間のなかでユーモアたっぷりに質問に答えてくれた。
「僕にとって演技とは、心の中に留めたものを取り出していくこと」ク・ギョファンが語る表現方法
Entertainment
―映画『サヨナラの引力』は、中国で2018年に大ヒットした作品『僕らの先にある道』のリメイクとして生まれ、2025年に韓国で公開されてからは、とても大きな反響を呼びましたね。ギョファンさんがこの作品に出演しようと決めた理由はありますか?
シナリオを読んだ瞬間に、「この作品の主人公はウノとジョンウォンではなく、この映画を観る一人ひとりの観客なんだな」と確信したからです。みなさん過去に恋をしたり、誰かを愛したり、そういった記憶があると思いますし、現在進行形で恋愛をしている方もいるかもしれません。「愛」という感情は、人間であれば誰もが持っているものだと僕は思うんですね。なので、映画の最後に流れるエンドロールを見つめている観客のみなさんが主人公になる、そんな映画だから出演したいと思いました。『サヨナラの引力』という物語を観てくれた方たちが、それぞれに自分自身のストーリーをつくってくれるだろうと感じたんです。
―劇中では、雨や台風などが象徴的に登場しますが、20年以上前のヒット曲であるイム・ヒョンジョンの「愛は春の⾬のように、別れは冬の⾬のように」が使用されていたのも印象的でした。春の雨には、土や草木を潤して成長を促すようなイメージもありますね。
「愛は春の⾬のように、別れは冬の⾬のように」は、僕自身も20代の頃に聴いていた、本当に美しいポップ・ソングなんですね。この曲を聴きながら誰かのことを思い浮かべたり、そういった経験も実際にありますし、愛について歌っている曲だと僕は思っています。日本の曲でいうと、安室奈美恵さんの「CAN YOU CELEBRATE?」のような存在なんですよ(笑)。当時の僕は、「愛は春の⾬のように、別れは冬の⾬のように」も「CAN YOU CELEBRATE?」も大好きでした。こういった歌には、自分自身をそれを聴いていた時代に一瞬で連れていってくれる、タイムマシーンのような魅力があると思います。
―『サヨナラの引力』では、過去パートがカラーで、現在がモノクロという映像の仕掛けがありますね。最初はそこに違和感があったのですが、最後には納得できるような構成になっていました。同じ人物の過去と現在を演じるうえで意識したことはありますか?
特別に何か意識したということはなかったですね。ただ、そのときのウノの年齢、年代というのに合わせて、空間のなかに立っている彼の姿がなるべく自然に見えてほしいという思いで演じていました。服の着こなし方、話すときの速度、そういったディテールを大事にしています。
―ウノとジョンウォンの関係は、お互いを支え合うものでありながら、自分を犠牲にしたり、ストレスの捌け口にしてしまったり、孤独を深めるようなところもありました。だからこそ、映画のラストで彼女が誰かに居場所を求めるのではなく、自らの力で自分の居場所を築いていく姿がとても印象的で、好きでした。
僕自身も、誰よりもジョンウォンの幸せを願っていました。少し前に、韓国で「百想芸術大賞」という大きな授賞式があったのですが、そこでジョンウォンを演じたムン・ガヨンさんが最優秀女優賞を受賞したんです。彼女が『サヨナラの引力』の俳優として賞を得たことが、僕にとってもすごく幸せなことで、本当に嬉しかったです。
―ムン・ガヨンさんとのお芝居で印象的だったことはありますか?
映画の中には出てこないシーンなのに、カメラを回した状態で5分以上ずっと話し続けていたことがありました。その空間のなかで、本当の恋人のように、あるいは友人のように、僕たちの自然な姿を見せたいと思っていたんです。なので、ムン・ガヨンさんとはウノとジョンウォンとして、いつもカメラの前でたくさんの会話を交わしていました。
─『サヨナラの引力』のウノはもちろん、『脱走』のリ・ヒョンサン、ドラマ『誰だって無価値な自分と闘っている』のファン・ドンマンなど、さまざまなキャラクターが、ギョファンさんが演じることですごく人間らしく見えてくるんです。その秘訣はなんですか?
僕は演技をするとき、その人物がいつも自分たちの周りにいる友人や、同僚のように見えるよう心がけているんです。なので、そのように見てくださって嬉しいです。
─普段の生活のなかでも、人を観察しているようなところがあるのでしょうか。
意図してすごく観察しながら歩きまわっているというわけではないんですが(笑)、自分が今まで築いてきた人との関係や、思い出、記憶の断片など、そういったものを心の中にしっかり留めておく方だと思います。そうやって心のどこかに集めたものを取り出していくようなスタイルが、僕が演じるときの表現方法なのかもしれません。
─『サヨナラの引力』においても、その方法を活かした部分はありましたか?
はい、それは眼差しです。目の表情において、そのやり方が活かせたように思います。
─作品のスパイスになるようなサブキャラクターを演じるときと、メインキャストとして引っ張っていくような役を演じるとき、その取り組み方に違いはありますか?
メインかサブかということでの違いはないですね。僕のやり方は、自分のキャラクターを愛するということなんです。彼らを隣に座らせておいて、いつでも会話を交わせるくらいのレベルまで持っていく。そういうことをすごく大事にしています。
─ギョファンさんはご自身でも映画の監督や脚本を手がけていますが、自分の作品をつくるときに大切にしていることは?
映画を観てくださる観客のみなさんに嘘をつかないこと。僕は自分自身のこと、本音の部分、真心だけを伝えたいと思っています。真実というよりも、真心というのが正しい気がします。
─映像作品のアイデア、その発想はどういうところから浮かぶのでしょう?
それは演技をするときと同じで、日々の記憶や経験をもとにフィクションをつくっていきます。たとえば、今こうしてインタビューをしているシーンも、僕にとってはいつか映画になりうるかもしれない、常にそういったことを考えながら過ごしているんです。
─ギョファンさんの作品は、思わず笑ってしまうようなユーモアを大事にされていますね。
そうですね。僕の作品、演技、人生において、ユーモアは最も重要な要素です。それは映画の中にだけ存在しているわけではなくて、僕の人生そのものにおいてとても大事な部分なんです。僕は、ユーモアというのは人との関係性においていちばんの思いやりであり、配慮だと思っています。今日はそのあたりがあまりお見せできていなくてすみません(笑)。
─いえいえ(笑)。笑いのなかにも、悲しみや怒りなど、いろいろな感情がありますよね。ギョファンさんが表現するユーモアにも、さまざまな思いが込められているように感じます。
そう言ってくださってありがとうございます。僕の作品や演技が意図した感情というのは、そんなふうに観客のみなさん自身が感じとってくれるもので、それが正解なんだと思います。
─今はギョファンさんのように、俳優自らが監督・制作・プロデュースなどを手がけることが珍しくなくなっていますね。映画界はボーダレスになってきていると感じますか?
そうですね。それぞれに個々のストーリーと自分の思いを持っているからこそ、何かをつくりたいと思えば誰もが監督になることができますし、演じたいと思えば誰もが俳優になれると思います。僕は演技をしているときは監督の仕事を眺めること、彼らを見つめることに魅力があると思っていますし、逆に監督をしているときは俳優のことを見守るような感覚があって、どちらも違った楽しさがあるんです。けっきょく、僕は「人」が好きなんだと思います。
─ギョファンさんの演じる役がとても人間らしく見えるのは、ギョファンさん自身が人が好きだからなんですね。ちなみに今後、実現したいと思っているプランはありますか?
近い将来の計画でいうと、長いシリーズものを演出してみたいという思いがあります。最近、Netflix で日本のドラマシリーズ『ホットスポット』を観ていたんですが、すごく楽しかったんです。このドラマは僕のご飯のお供になっていました(笑)。一人のキャラクターを長い間ずっと見続けるということにも、ひとつの面白さがあるんだなと気づきました。
─最後の質問です。先ほどユーモアの話がありましたが、最近面白かったことは?
いま面白いなと思っているのは、こうやって二人で会話をしているのに、私もライターさんも相手ではなく通訳さんの方を向いていることです(笑)。二人のうちどちらかが、韓国語あるいは日本語を学ばなければいけないと思いました。ジャンケンで決めましょう!













