人はなぜ、怪物になるのか。監督・片山慎三と UTA が描いた『ガス人間』のはじまり
shinzo katayama & uta
photography: Kentaro Otsuka
styling: masayuki sakurai (UTA)
hair: jun goto (UTA)
make up: miku sato (UTA)
interview & text: Rei Sakai
人間の欲望や矛盾を、息を呑むほどのリアリティで描き出してきた片山慎三監督。その作品には、極限の状況に追い込まれた人間だからこそ浮かび上がる感情や、善悪だけでは割り切れない複雑な人間性が映し出されている。人は何をきっかけに傷つき、怒り、愛し、そして壊れていくのか。壊れるべきではなかったものに亀裂が入り、取り返しのつかない結末へと向かうまでには、どのような物語があったのだろうか。
Netflix シリーズ「ガス人間」では、そんな問いを抱えた登場人物たちが交錯し、わずかなすれ違いが悪夢のような連鎖を生んでいく。本作で監督を務めた片山慎三と、演技初挑戦でガス人間役を演じた UTA は、どのような思考と準備を重ね、この存在を形にしていったのか。リアリティを追求した創作の裏側から、「ガス人間」誕生の軌跡を紐解く。
人はなぜ、怪物になるのか。監督・片山慎三と UTA が描いた『ガス人間』のはじまり
Portraits
—本作の準備、撮影期間はどのくらいでしたか?
片山: 脚本は、4〜5年前から開発し始めました。準備やロケハンは撮影の半年前から動き出して、撮影自体は8ヶ月ほどでしたね。構想から始めると、5年くらいでしょうか。
—原作となった映画『ガス人間第一号』を拝見しました。原作が基盤にありつつも、現代社会におけるガス人間の見せ方やその背景、VFX を使った演出など、多くの準備が必要な作品だったのではないでしょうか?
片山: そうですね。昔の特撮映画のように現代で撮るわけにはいかないので、VFX を使ってガス人間をどう表現しようかなと。撮影の1年半前くらいから、VFX チームと“コンセプトアート”という、絵を使ってガス人間がどう変形するか、石像の時にどんな形になるかなど、いろいろなパターンのアイデア出しをしました。そこから実際に VFX にするときにどんな CG で見せるのかも含めて、すごく時間をかけて準備しましたね。
—準備期間を含めて、決断していかなくてはいけないことが多かったのではと思います。選択をする上で、常に立ち返るような作品の軸や判断基準はあったのでしょうか?
片山: 自分の中のコンセプトとしては、リアリティがあるものにしたいなと思っていました。ガス人間がガスになるときも、皮膚から始まり、その次に肉、骨といったように三段階で変化するとか。普通は固体が液体になって、そのあと気体になりますよね。そのプロセスをどう見せるかという細かな部分にこだわりました。なので、何か決めていく上で困ったら、リアルだとどうなるかを判断材料にしていましたね。
—ガス人間のビジュアルや存在感が固まっていく中で、UTA さんを含めたキャスティングはどのように進められたのでしょうか?
片山: コンセプトアートを作っている段階では、UTA さんは想定していませんでした。じゃあガス人間を誰にしようかとなった時に、いろいろな俳優さんの名前が上がって、その中には有名な方もいらっしゃったりして。もちろん、著名な方が演じるのもそれはそれでいいことですし、期待度も高まるんですが、いままでドラマや映画に出ていなかった俳優さんがガス人間を演じるのがいいんじゃないかと。元々 UTA さんの存在は知っていたので、演技が初めてでも大丈夫だろう、いけるだろうということで、オファーさせていただきました。
—UTA さんなら、と確信されたんですね。
片山: 演技の経験はなくても、お父さんが本木雅弘さんで、おばあちゃんが樹木希林さん。これはもう勝手にね、やれると(笑)。190cm の背丈があって、やっぱりどこか得体の知れない感じもあるじゃないですか。本人にもその雰囲気はありますし。練習すれば、本人のやる気さえあれば、いけるんじゃないかなと。年齢的にも、そろそろ映像に出たい時期なんじゃないかなという期待も込めてお声がけをしたら、タイミングがちょうどバッチリあったという感じですね。
—いざお声がかかって、UTA さんはどう思われましたか?
UTA: すごいセットアップされていたんですね(笑)。素直に嬉しかったです。ただ、経験のなかった世界ですし、これだけの規模感で、豪華キャストの方々もいらっしゃる中なので、本当に自分でいいのかっていうのも率直な思いでした。今回は、プロデューサーの馮さんや片山監督をはじめ、皆さんの助けもあり、しっかり準備期間を用意していただいたので、それはとても心強かったです。その中でできるだけ準備をして撮影に挑みました。
—現場に入るまで、実際にどのような準備をされていたのでしょうか?
UTA: まずは体づくりです。全裸で映るシーンが多いので、どんな身体であるべきかを片山監督と一緒に考えました。筋肉がつきすぎても違和感がありますし、逆にガリガリすぎても変なので、その間の異様で無機質な体を目指しましょうと。演技については、今回が初挑戦ということもあって、演劇のコーチと一対一で3ヶ月間トレーニングをしました。まずはとてもベーシックな基礎トレーニングで、とにかく恥ずかしさをほぐすところから。そのトレーニングの様子を、馮さんや片山監督が、実はカメラで見ていたっていう(笑)。台本は、トレーニング期間の後半になって初めて目を通しました。
—片山監督の作品は、極限の状態で見える人間性にすごく心を掴まれるのですが、今回のガス人間でいうと、どのように人間味を構築されていったのでしょうか?
片山: そうですね。途中でガス人間になる前の、青年・レンの姿が描かれるじゃないですか。レンとガス人間に、性格的な落差があればあるほど、見ている人は面白いんじゃないかと思ったんです。「こんなに明るい青年がこんな風になっちゃったんだ」「なんてひどいことをされたんだ」というように、間接的に感じやすいだろうなと。だからこそ、レンの人間の部分というのは、自分でも特にこだわったところではあります。ちゃんと人間味があるように見せなきゃいけないなと。表情が豊かな青年と、無表情で瞬きもしないガス人間。そこの落差は自分でもとても大事だなと思っていました。
—UTA さんは、青年・レンとガス人間という対照的な存在を演じる上で、どのようなことを意識されましたか?
UTA: ギャップをどれだけ見せられるかというのはもちろん意識しました。それと、レンは京子という人物と出会って初めて、人生の中で守りたい存在ができたわけですから、「京子を守る」という想いをどこまで働かせられるかを、一番大事にしていました。実は、レンのシーンはクランクイン初日に撮ったんですよ。
—そうなんですか!
UTA: 今日初めて、その撮影順だった意味を知ったんですが、片山監督は、過去編のレンを経てこそガス人間を演じられると考えていたそうで。とはいえ、演技が本当に初めてだった自分にとって、ある意味一番怯えていたのが、人間味のあるレンのシーンでした。ガス人間とは対照的に、プレイフルで子供っぽい部分がある青年なので、そのギャップをどう見せるか、難しさを感じることもありました。
片山: 助監督から、過去から撮った方がいいんじゃないかという意見があって、たしかにそうだなと。自分は後でもいいんじゃないかと思っていたんですが、最初に撮るシーンって、その後のお芝居のベースになるじゃないですか。そこを基準に色々考えていけるんですよね。その基準を作れたというのは大きかったですね。
—画作りについても伺います。監督の作品はカメラワークやロケ地も印象的ですが、本作は VFX も見どころの一つです。ヨン・サンホさんや白組とどのように連携していかれたのか伺いたいです。
片山: VFX に関しては、クリーチャーというか、人ならざるものを VFX で作るというのが初めてだったので、ヨン・サンホさんと色々なアイデアや意見を交換しながらやらせていただきました。VFX の場合、いままでは予算や期間の都合上、出来上がりに関して多少妥協せざるをえない部分もあったのですが、今回は、自分の想像よりもクオリティの高いものになったんじゃないかなと思います。
—特にこだわったシーンはありますか?
片山: 広瀬すずさんが川に落とされる水の中のシーンとかね。あれ実はプールで撮ったんですよ。
UTA: とてもプールだとは思えないですよね。
片山: 実際にあそこで広瀬すずさんを投げるわけにもいかないですし、泳がすこともできない。あとはそこまで水深がないので、絵コンテのアングルに合わせた画をプールで撮って、水面を合成しようと。ジェットファンで水流を作って流される画を撮って合成したんですが、実際に入って流されているようにしか見えないですよね。このクオリティは、ちょっと自分でも感心しました(笑)。あれはよかったですね。映画『ゴジラ-1.0』の白組に入っていただいて、すごく自然でさすがでした。
—そうした画作りに、さらに迫力を持たせたのが音楽でした。残酷なシーンほど華やかな楽曲が流れ、そのギャップに翻弄される感覚がありました。今回、サザンオールスターズの「いとしのエリー」の起用も含め、音楽と映像の相互作用を、どのように考えられたのでしょうか?
片山: 今回はですね、90年代のアメリカ映画のような、ようはゴジラとかもそうですが、テーマソングのような音があって、映画を観たらなんとなくその曲が耳に残る、みたいなことをやりたかったんです。いまの音楽ではなくて、昔のように少し主張のある音楽が今回の狙いです。なのでリファレンスの曲も、90年代よりももう少し前ですが、小椋佳さんの「めまい」(1975年)とかそういう昔の曲を画に当てて考えたりもしましたね。
—完成された作品をご覧になっていかがでしたか?
UTA: もう今は「いとしのエリー」がかかるだけで、すごくグッと来るんですよね。カラオケで歌うってなったら、自分の中ではもう別の意味になってきます(笑)。あとは過酷なシーンでこそオーケストラの優しい音が入ってきて、特に8話はめちゃくちゃ泣いたんですよ。まさに音楽に感情を引き出されたと思いましたね。オープニングも、それこそゴジラのような、本当に怪獣が来たようなサウンドになっていて、自分が知っているドラマではあまり聞いたことがないような音で。音楽の世界もぜひみなさんに味わってほしいなと思います。
















