写真家・Charlie Engman (チャーリー・エングマン) インタビュー
Charlie Engman
photography: hidemasa miyake
interview & text: miwa goroku
ユニークな身体表現とグラフィカルなコラージュ、鮮烈な色使いを得意とし、ファッション写真に新たな地平を開いている Charlie Engman (チャーリー・エングマン)。『VOGUE』『AnOther Magazine』を始めとする数々の海外ファッション&カルチャー誌で活躍し、コマーシャルのオファーも絶えない今注目の若手人気フォトグラファーだ。最近では「Hermès (エルメス)」「StellaSport (ステラスポーツ)」などのキャンペーンで、彼の写真を目にしたことのある人も多いはず。現在27歳、名門オックスフォード大学でBA (日本、韓国研究の文学士号) 取得という、実はスーパー高学歴の持ち主でもある。日本では今年、資生堂の企業文化誌『花椿』でファッションエディトリアルを連載しており、今回も同誌の撮影にあたり来日。待ち合わせた渋谷のカフェで、独自の写真表現を確立するにいたったバックグラウンドを聞いた。
写真家・Charlie Engman (チャーリー・エングマン) インタビュー
Portraits
— 出身と現在の拠点について教えてください。
生まれと育ちはシカゴ。イギリスのオックスフォード大学を卒業後、ニューヨークにアパートを借りて住んでいます。
— 大学で日本研究を専攻したそうですが、きっかけは?
一番の理由は、日本の友人がいたから。シカゴの実家の近くに日本人のファミリーが住んでいて、すごく仲が良かった。クリスマスやホリデーを一緒に過ごしたり、家族ぐるみの付き合いだよね。でも僕が12歳の頃に、彼らは日本に帰国。僕はすごく会いたくて、母親にひつこくおねだりしていたら、じゃあ日本に遊びに行こうとなった。それが初めての海外旅行。すごく刺激的だった。
— 日本のポップカルチャーが流行り始めた頃ですね。
そう。僕はポケモン世代。アニメはあまり観てないけど、いつもゲームで遊んでいたよ。
— 大学では具体的にどんなことを学びましたか?
日本の文化、政治から経済まですべて。その後に韓国語もちょっと勉強。
— それにしても、すごく流暢ですね。
日本映画も好きだし、本もたくさん読んだから。留学先が大阪だったから、関西弁でしゃべっていた時期もあるよ。でも以前日本人の友達に、僕が話す日本語は女子高生みたいだといわれた時はびっくり (笑)。
— 笑。間の取り方とかリズムとか、掴んでるなと思います。写真を撮るようになったのはいつですか?
もともと興味があったのはアート。でも経済的な話をすると、アートってちょっと曖昧だし、やっていけるかわからない。両親を安心させたい思いもあったし、まずは大学に進学して、好きだった日本の勉強を始めた。それはそれで面白いんだけど、やっぱり何か足りない気がする。そんな中、ダンスとか映像とか、動きに関係することに興味を持つようになって、ロンドンでコンテンポラリーダンスを始めたんだ。でもその時点では、まだ写真のことはまったく頭になかった。
— ユニークな身体表現は、ダンスから来ているのですね。
この動き面白いな!と思った時に、スケッチしたくなる。そのツールが写真だった。当時はまだiPhone がなかったけど、もしカメラフォンがあったらそれで撮っていたかもしれない。それくらい最初は、写真自体にこだわっていなかった。写真は、後で本当のアートにするためのメモ書きみたいなもの。
— どんなアートを作ろうと思っていたのですか?
いや、結局アートは作らなかったんだよね。ただ写真だけが集まっていった。僕はなんで写真ばっかり撮っているんだろう? とか思いながら (笑)。でもある瞬間、気づいたんだ。僕がコミュニケートしたいことは、すべて写真に入っている。写真にはプレゼンする力があるし、これを媒介にいろんなことが表現できる。だったら写真でいいんじゃないの? って。
— 誰かに師事した経験は?
ない。すべて独学。大学生の時に初めてちゃんとしたカメラを買って、フォーカスから加工まで自分で勉強した。あと、写真にもアートのように独自の歴史があることを知って、写真そのものにも興味を持ち始めた。
— HPにある “Domestic Diorama” は初期の作品でしょうか?
そう。HPに載せているのは、写真を撮るということを意識して、改めて撮り直した大学時代のセルフポートレートのシリーズ。僕がかつてダンスのスケッチ代わりに撮っていた写真は、これにかなり近い。うまく説明できないけど、深く考えずに自分から出てきた原点みたいなもの、かな。
— 被写体が普通のモデルの場合、どんなディレクションを出すのでしょう?
写真の良さは、その場ですぐに反応できるところ。撮影のシチュエーションも同じで、最初からあまりプランを固めず、その場でモデルのムードとかを読み取って、即興的にシチュエーションを作っていくのが好き。間接的な答えかもしれないけど、ディレクションの仕方は撮影によって全然違う。
— かなり難易度の高いポージングもありますよね。
すごいでしょ。時々ロンドンのダンサーの知り合いに入ってもらったりしている。この『Garage Magazine』の撮影もすごく大変だったけど、みんなにがんばってもらいました(笑)。Lily McMenamy (リリー・マクメナミー) も普通のモデルじゃない。身体がすごく柔らかいし、よく動ける。
— フォトグラファーとしてのキャリアについて。最初はコマーシャルからスタートしたと聞きました。
ファッションをたくさん撮るようになったきっかけがコマーシャルかな。それ以前、最初に撮っていたのは、自分のためのアート系の写真ばっかり。
— では、最初に手掛けたコマーシャルは?
Urban Outfitters (アーバン・アウトフィッターズ)。けっこう大きなプロジェクトのカタログで、世界中の人に届くキャンペーンだったから、いきなりのスタートだよね。Urban Outfittersは若手を応援する社風を持っている。僕はラッキーだったと思う。
— もともとファッションに対して、どんな考えを持っていましたか?
正直、興味はそこまでなかった。服は好きだし面白いけど、僕は関係ないと思っていた。でもある時知り合いに、僕の写真はファッション写真に似ているっていわれて。それで何回か撮ってみたら、ファッションもいいかもと思い始めた。
— やはりポージングの面白さでしょうか。
そう、動き。ポーズは重要。あと、グラフィックデザインとも近いところがある。僕はコラージュとかすごく好きだから。ヴィヴィッドな色使いも。
— 撮影して感じるファッションの魅力は?
ファッションはすべて平らな布からスタートするでしょう、それが三次元の服になる。写真はその逆で、三次元を二次元にする。この正反対のアプローチに気づいた時、すごく面白いと思った。
— 今の仕事はファッションがメインですか?
いつのまにか自然にそうなっちゃった。でも、世界のいろんなところに旅行できるし、今のところはいいかな。僕はなぜかヨーロッパの仕事が多くて、時々日本や南アフリカ、モロッコやアイスランドに行くことも。もう少しニューヨークに居れたらいいなとも思うけど。うまくバランスを取っていきたい。
— プライベートでも写真を撮りますか?
撮ります。でもファッション写真ってものすごいエネルギーが要るから、ここ2年くらいはあまり余裕がない…… 人生について考える暇もないくらい、すごく忙しい。
— 現在進行中のプロジェクトは?
「Mom.」(自身の母親をミューズにしたシリーズ) に集中している。彼女は近くにいる存在だし、最初は何も考えずに撮り始めた感じ。5年前くらいからかな。ある時、誰かにこのシリーズが面白いといわれて、それから意図的に撮り始めて、プロジェクトになった。撮影の時は、シカゴからニューヨークに来てもらっている。
— とてもクールなお母さんですね。
撮れば撮るほど反応が良くなるし、写真も面白くなっていく。僕のお母さんだからね、辞められないよね。いつまで続くかは僕にもわからない。
— 撮影はいつもデジタルですか?
フィルムも使ったことはあるけど、デジタルのほうが便利だし扱いやすい。最近は写真を素材として見たいから、やっぱりデジタルだね。
— Instagram (@charlieengman) にもよくアップしていますね。
ハマっちゃってる (笑)。深く考えないで、とにかくこれが面白い、他の人に見せたいとか、そういう衝動が簡単にシェアできる。いいツールだと思う。ただ、フォロワーとかいいね!の数が見えるのはちょっとコワいな…… 数を意識することによって、ポストする写真とか、自分の見せ方が変わってしまうのは良くないと思うから。
— これから一緒に仕事をしてみたい人は?
うーん。いるだろうけど、ぱっとは思い浮かばない。何が面白いのか、その場に行って反応するのがやっぱり一番好きだから。もちろん僕にも好き嫌いがあるけど、それを自覚しながらやっているわけでもないし。世の中、面白い人だらけでしょ。僕の意図より、世界のほうが面白い。そういう感覚かな。
Charlie Engman/チャーリー・エングマン
PROFILE: 1987年シカゴ生まれ。英国オックスフォード大学で日本研究、韓国語を専攻しBA取得。在学中にダンスを始めるかたわら、セルフポートレートを撮り始める。卒業と同時にニューヨークに拠点を移し、『VOGUE』『AnOther Magazine』『Dazed & Confused』をはじめとするファッション&カルチャー誌のエディトリアル、ブランドのキャンペーンを多く手掛けている。2013年、横田大輔、Nerhol (ネルホル) ら11名の日本人若手作家の作品をアレンジして本に収録した『COMPILATION TOKYO: REMIX』を刊行。