Hirofumi Arai
Hirofumi Arai

俳優・新井浩文インタビュー

Hirofumi Arai

Portraits/

今年の東京国際映画祭で注目を浴びた、一本の映画がある。映画史上初、人間と本物のアンドロイドが共演した作品『さようなら』だ。アンドロイドといえば、バラエティ番組「マツコとマツコ」でマツコ・デラックスと瓜ふたつのアンドロイドが、マツコ本人と会話を繰り広げる様子が話題となった。そんなアンドロイドの開発者・石黒浩と、劇作家の平田オリザによる「ロボット演劇プロジェクト」は2007年に始まり、2010年には人間とアンドロイドが共演する演劇「さようなら」を製作。本作は、当初10分間程度だった舞台の内容を原作に、深田晃司監督が映画化した作品である。そんな異色作に出演する新井浩文が語る、映画『さようなら』の魅力とは。

俳優・新井浩文インタビュー

取材・文: 髙橋恵里 写真: 上澤友香

 

今年の東京国際映画祭で注目を浴びた、一本の映画がある。映画史上初、人間と本物のアンドロイドが共演した作品『さようなら』だ。アンドロイドといえば、バラエティ番組「マツコとマツコ」でマツコ・デラックスと瓜ふたつのアンドロイドが、マツコ本人と会話を繰り広げる様子が話題となった。そんなアンドロイドの開発者・石黒浩と、劇作家の平田オリザによる「ロボット演劇プロジェクト」は2007年に始まり、2010年には人間とアンドロイドが共演する演劇「さようなら」を製作。本作は、当初10分間程度だった舞台の内容を原作に、深田晃司監督が映画化した作品である。そんな異色作に出演する新井浩文が語る、映画『さようなら』の魅力とは。

– 放射能に侵された近未来の日本が舞台の本作。静かな時間が流れる中でゆっくりと光が動いていく様子がじつに美しかったです。作品の脚本を読んでみた感想をお聞かせください。

深田監督のワールドが全開だなと。深田さんの作品は、画がとてもきれいなので。その画が想像できる内容だと思いました。

– 難民であるターニャの恋人役を演じてみていかがでしたか?

ゴミ人間だなと。ただ、どの作品でもそうですが、役を演じるときは監督が言ったことがすべてなので、どう演じるかを自分ではあんまり深く考えないですね。

– 演劇版でも登場し、国内外で注目を浴びているアンドロイドとの共演についてはどう思いますか?

最初、アンドロイド役を誰がやるのかなって思っていて。人間が演じると思っていたから。まさか本物のアンドロイドを起用するとは思っていなかったので、ビックリしましたね。

– 本作のオファーが来る前から、アンドロイドの存在については知っていましたか?

何年か前にインターネットで見たことがありました。一時期、ニュースで話題になりましたよね。

– アンドロイドを相手に演じることに対して、抵抗はなかったですか?

劇中の設定は、アンドロイドが共存する近未来。そこに居て当たり前という世界で演じていました。撮影で登場したアンドロイドは、パソコンに繋いでボタンを押せば、インプットされたセリフを話すというシステム。アドリブは一切きかないですよね。ただ、劇中で歴史的なことについてアンドロイドと会話をする場面があるのですが、「そうなの?」なんて何気なく聞いたら、「わかりません」って答えが返ってきて。それは操作する人がボタンを押し間違えただけだったんですけど、思わずアンドロイドの方を「え?」って見ちゃいましたよね(笑)。人間同士であればそこから会話が続くけど、そういうわけにもいかないから。

– 映画では近未来の話ですが、アンドロイドは実際の我々の生活にも普及する兆しがありますね。アンドロイドと一緒に生活するとしたら?

全然ありですね。ウチ独身だし、掃除とかそういうのを全部やってくれて、外見が自分好みの女の子なら、絶対買うね! まぁ、値段にもよりますけど。買える値段だったら買いますね。

– 印象に残っているシーンはありますか?

映画というのはそもそも、フリがあってオチがあって、その全部を含めてひとつの作品になるわけなので、ひとつだけ切り離してどこのシーンが良いかといわれると難しいですけど。人間がミイラ化していく中、その傍らにアンドロイドがいるというシーンがあって。そこの描写はとても良かったと思います。生きるとはなにか、死にゆくとはなにか。この作品の最大のテーマが表れていますよね。1シーン長回しというシーンが多いので、現代の映画によく見られる、カット割りが多い作品を見慣れている人の中には、退屈に感じる人もいるかもしれない。そこは、観る人に委ねたいですね。

– アンドロイドのレオナが、詩を朗読する場面もこの作品の見どころですね。劇中、詩を読み終わったレオナが話した「日本人は寂しさのない国を探す、ドイツ人は幸せのある国を探す」という言葉が印象的でした。新井さんが住む国に求めることとは何ですか?

まず、日本以外の国は無理ですね。たぶん、慣れのせいなんでしょうけど。舌がどうしても日本の味で育っているから、海外の飯は苦手なんですよ。以前、撮影でウクライナに2ヶ月間滞在したことがあるんですけど、主食として蕎麦の実が出てきたんです。蕎麦はすごく好きなんですよ。蕎麦茶もすごく好き。でも、実だけ食べたらすごくまずくて。よく日本人は蕎麦の実を擦ったなって。それで、それを粉にしてこねたなって。天ぷらとかも、よく揚げたなって思いません? あんなにサクッとね。とにかく、飯が重要なんです。

Photography: Yuka Uesawa

– 食にこだわりがある新井さん。行きつけの店を選ぶ基準とは?

最初は知り合いに連れて行ってもらったり、ネットで調べたり。おいしいなと思ったら、また行く。基準は安くておいしいこと、それにお店の人の人柄がいいと、常連になっていきますね。

– BSフジで放送中の「美しき酒呑みたち」ではナビゲーターを担当して、日本各地の酒場を訪れていますね。

番組を通じて、全国に行きつけのお店が増えましたね。撮影で訪れたお店に、プライベートでもまた行ってみたりして。ツイッターでお店の情報を集めるんですけど、実際においしいお店が多いんです。

– 役者になったきっかけは、偶然屋台で居合わせた思いがけない人との出会いだったんですよね。

この世界に入るきっかけとなったのは、映画プロデューサー荒戸源次郎さんとの出会い。この出会いは、人生のターニングポイントのひとつだと思います。ただ、今まで生きてきた中で分岐点というのはいくつかあって。地元の青森から上京した時や、今思えば高校を退学したのもひとつだと思う。でもそれをいってしまえば、毎日が分岐点なんですけどね。それが分岐点になるかどうかは、自分の考え方次第だと思うんです。

– 自身のファッションを選ぶポイントも、やはり人との出会いが影響してきますか?

普段よく着るブランドは《アナクロノーム》や《クーティー》など、友達がやっているブランドしか着ないんです。洋服を選ぶ基準も、やっぱり人。作っている人が見えていることが重要です。あとは、着やすいということ。見た目よりも機能性重視ですね。高校生の時は、よくファッション誌を読んでいて。ウチの時代は『メンズノンノ』と『チェックメイト』だったんですけど。でも、そのうちどうでもよくなってきて。流行りとかどうでもいいし。あと結局、服でいくら着飾っても、中身が格好良くないとね。なんにも意味がないかなって。

– 食や演じること以外に熱中していることは?

ギャンブルとゲーム。ゲームの中ではオンラインゲームがとくに好きで。オンライン上で知り合って、そのうち仲良くなって。オフ会しようっていって、会ったこととかもあります。日本全国にゲーム友達がいるんですよ(笑)。

– 2013年には、『葛城事件』で初舞台を経験していますね。映画と舞台とで違う点は?

映画は、良くも悪くも始まりから終わりまでが100%。監督がOKを出したシーンを編集して映し出されるので、それ以上でも以下でもない。でも舞台は日によって違うじゃないですか。自分も共演者も100%というのは、ほぼないんです。不思議と舞台が終わった後に話が盛り上がるのは、ミスった時の話をした時。出来が良かった舞台よりも、ミスをした時の方がなぜか記憶に残っていますね。

– これまでさまざまな役柄を演じてきましたが、今後挑戦してみたい役柄はありますか?

基本は作品ありきで考えているので、あまり役を限定するというのはないんですが。強いていうなら、ライヴができる役ですかね。バンドのメンバーとか。学生時代にバンドをやっていたとかではないんですけど、単なる憧れですね。

強面の不良役や犯罪者役から、刑事役や教師役に至るまで、出演作が増えるにつれて演じる役の幅に広がりを見せる俳優、新井浩文。彼のような存在が、これからの映画界をおもしろくしてくれるだろう。

 

<プロフィール>
1979年生まれ、青森県出身。2002年に松田龍平とダブル主演を務めた『青い春』で映画初主演を果たす。2012年、北野武監督作品『アウトレイジ ビヨンド』で、第22回東京スポーツ映画大賞男優賞を受賞。2106年に、柳沢翔監督による『星ガ丘ワンダーランド』、ウェイン・ワン監督作品の『女が眠る時』が公開予定。

<映画情報>
『さようなら』
企画・脚本・監督:深田晃司
出演:ブライアリー・ロング、新井浩文、ジェミノイドFほか
配給:ファントム・フィルム
2015年11月21日(土)新宿武蔵野館ほか、全国ロードショー
HP: sayonara-movie.com