Yutaka Takenouchi
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俳優・竹野内豊インタビュー

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Portraits/

数々の名作ドラマを生み出してきた石橋冠監督が、“一生に一本映画を撮りたい”という思いで実現した『人生の約束』が1月9日(土)に公開する。富山の美しい街並みを舞台に、人生の歓びと哀しみを描く本作で主演を務めるのが、竹野内豊だ。

俳優・竹野内豊インタビュー

取材・文: 髙橋恵里 写真: 上澤友香 スタイリスト: 壽村太一(SIGNO) ヘアメイク: RYUJI (DONNA)

 

数々の名作ドラマを生み出してきた石橋冠監督が、“一生に一本映画を撮りたい”という思いで実現した『人生の約束』が1月9日(土)に公開する。富山の美しい街並みを舞台に、人生の歓びと哀しみを描く本作で主演を務めるのが、竹野内豊だ。

 

– 石橋監督映画デビュー作に出演が決まった時の心境をお聞かせください。

やはり石橋監督のドラマシリーズ「池中玄太80キロ」を観て育ったので、このお話をいただけた時はうれしかったです。これだけの豪華なキャストがそろったわけですから、身が引き締まる思いで挑みました。ましてや冠監督にとって映画第1作目となる作品で声をかけていただけたのは、本当に光栄でしたし、自分にとっても特別な作品になりました。

– 「つながる」がテーマとなっている本作。脚本を読んだ時の感想は?

最初に脚本を読んだ時、「つながる」ということはどういうことなのか。わかったつもりになっていて、でも本当はわかっていないような気がして。正直に監督に聞いてみたんです。そうすると、監督自身もわからないとおっしゃったんです。「わからないからこそ、自分が思っている気持ちを映画にしてみたいんだよね」と話してくださったのが印象的でした。

– 今回演じた中原祐馬という役については、どのような印象を受けましたか?

親友と一緒に立ち上げた会社であったにも関わらず、会社の拡大にしか興味がない仕事人間。いつからか、彼の中で考え方が変わっていってしまったんです。富山という場所は、古き良き日本がまだ残っているところ。曳山祭りで曳山に実際につながって、彼の中での心境の変化というのがあったんです。そこで変わって、再生していくわけですよね。親友の故郷であるこの地を訪れなかったら、彼はすべてを失っていたんじゃないのかなと思います。

– 今回のロケ地となった富山県射水市に位置する新湊地区は、「日本のベニス」とも称されるほど、美しい情景が広がる場所ですよね。

日本人として、今まで見たことのない景色というのがまだまだ日本各地にあると思うんです。地域に密着して、ひとつの映画をつくることによって、地方にこういった祭りがある、こういう人たちがいるんだなと感じました。この映画に参加して、そういうことを知ることができて完成したものを、全国のみなさんに観ていただけるというのは、すごくいいことだと思います。

– 今回、江口洋介さんは自らの案で角刈りにして、地元の漁師になりきっていましたね。意外にも本作が初共演ということですが、共演されてみていかがでしたか?

江口さんは歳が3つ上で、まだ自分が駆け出しの頃から江口さんはすでに第一線で活躍されている先輩です。今回、対立する役柄で江口さんと一緒にお仕事をすることができて、ちょっと信じられない気持ちもありました。しかも撮影は、いきなり殴り合うシーンからのスタート(笑)。撮影開始当初は、江口さんとは挨拶程度の会話しかなかったんです。どこかで江口さん演じる鉄也との距離感を多少意識していた部分もあったのかもしれないです。富山には3週間ほど撮影で行っていたんですけど、10日目くらいかな。そのあたりから一緒に飲みに行けたり、空き時間に釣りに誘ってくださったりして。距離感もぐっと縮まりましたし、自分たちが演じていた祐馬と鉄也の距離感というのも、少しずつお互いを認め合えてくるという時だったので。そういうシーンが実際に後半から増えてきて、空き時間での距離感を撮影現場でも反映できたと思います。江口さんはとにかく熱い方で、本当に一生懸命なんです。江口さんがよく私のことを頑固だね、っていうんですけど、江口さんも頑固だと思います(笑)。入り込む余地がないくらい、ものすごくストイックなんです。 ただ、周りを受けつけない、受け入れないといったストイックさだけではなく、懐が深くてすごく柔軟性のある方だなと、今回ご一緒させて頂いて感じたんです。見ていてとても勉強になりました。

– 本作では、世代を超えた豪華俳優陣が見事に集結しました。中でも、西田敏行さん、柄本明さん、ビートたけしさんといった大ベテランの俳優陣に囲まれての撮影はいかがでしたか?

非常に刺激を受けました。実際に目の前で見てみると、西田さんと柄本さんでは演技へのアプローチの仕方がまったく違うんです。おふたりともまた違った個性があって、すごく勉強になりました。ビートたけしさんも今回が初共演だったのですが、やはりすごい方でしたね。たったひと言に色々な意味を込められる人なんだな、と。刑事役のたけしさんが、「もういいかな」と言うセリフがあるんですけど、凄みを利かせる訳でもなく、あのひと言に色んな意味が含まれている気がしたんです。刑事としての色んな背景が見えてくるような気がして。あんな言われ方で「いいかな」なんて言われたらもう、従うしかないですよね(笑)。江口さんも格好だけではなく、芯から漁師に見えるというのは、人として滲み出るものが江口さん自身の中にあるからこそだと思うんです。それは今回共演した、どの役者さんにもいえることだと思います。石橋監督と一緒に仕事をしてきた方たちなのでやっぱりすごいなと思いましたし、そういった作品に呼んでいただけて、改めて光栄だなとも思いました。

– それだけの実力を持った役者たちとの現場。やはりプレッシャーも大きかったのではないでしょうか?

そうですね。西田さんもたけしさんといったあれだけの俳優さんたちが、監督が話すことに対して「はい」、「はい」と答えているような現場でしたから(笑)。プレッシャーはありましたけど、ちゃんとしっかりやらなきゃというか、いい意味での緊張感というのは常に持って現場に挑んでいました。

– 中原祐馬という人間が演出された人物ではなく、実際に存在している人物のようで非常にリアルに感じられました。“役を演じる”のではなく、“役になりきる”ための何かコツはありますか?

こういった撮影ロケ地となる町の中に、ぽんっと入り込むというのも大きいですよね。撮影が終わって自宅に帰ると、どうしても現実に戻されるので。今回は撮影が終わったらホテルに戻って、その後は衣装であるジャージ姿のままの江口さんと飲みに行ったり(笑)。ずっとその世界に浸かっていたような感じだったので、意識しなくとも自然と役に入り込めたような気がします。 普段、僕の場合は着替えることで、なるべくオンとオフを切り替えるようにしてはいて。なので、今回演じた中原祐馬という存在や本作についても四六時中考えていたわけではないですけど、常に頭のどこかには置いてあって。ふとした時に思い出したり、日常生活の中で何かを見たり、行動した時に、演じる役とリンクしたり。 そうやって、役に少しでも近づきたいなと思っていたんです。これは稀なんですけど、知らないうちに意識しなくても、なにをやっても、その役になれる時があると思うんですよ。そうなったらもう占めたもんで。そういう時もあれば、「今までの撮影が全部リハーサルで、ここから全部撮り直したい」と思うこともある。こればっかりは、役者をやっていく以上はずっとつきまとうことなんでしょうけどね。

– 中原祐馬、そしてかつて彼の親友であり、共に会社を起業した塩谷航平。このふたりの人物を本作では、“走り出してから考えるタイプ”と“考えてから走り出すタイプ”というふたつの対極的な人物像で描いていますね。ご自身はどちらのタイプだと思いますか?

どっちも、ですかね。その時々によって違うかもしれないです。常に“走り出してから考えるタイプ”というわけでもないですし。若い頃は、考えてから走り出すことが多かったかも。でも段々、走り出してから考えればいいか、という思考になってきているのかもしれない。というのも、自分がいくら考えても、実際にやってみるとそんなに考える必要がなかったんじゃないかなと思う時が過去にあったからなんです。

– 本作のテーマ、「つながる」を表現する曳山祭のシーン。本来であれば毎年10月に開催される、この曳山祭。今回は撮影のためにゴールデンウィークに完全再現。総勢1400名のエキストラと地元の見物客で賑わいをみせ、その臨場感についスクリーンに引き込まれてしまう。役としてだけでなく、自身も初めて曳山につながってみて、何か感じるところもあったのではないですか?

「実際につながってみないとわからない」と、 西田さん演じる玄さんも劇中で言っていましたが、本当にその通りなんです。曳山に手をのせた瞬間に、色々と見えてくるものというのがあって。感じるというんですかね。曳山は、先祖代々受け継がれてきたものでもありますし。ある時、監督がこう話していたんです。「いまの日本に足りないものは何なんだろうなってうまく言葉では表せないけど、何かが必要だよな。そう思った時、曳山祭を見て、そこでみんなが一丸となってつながっている姿を見た時に、これだ!と思った」と。自分自身としても、それはすごく感じることができました。ただある意味、中原祐馬という人物は監督である冠さんでもあり、冠さんは西田さん演じる玄さんでもあると思うんです。そして冠さんそのものは、曳山でもある気がします。私自身、人生の踊り場地点にいるのだとしたら、まだまだこれから先のことは見えていないわけで。今回曳山を曳けた意味、 監督がこの映画に込めたかったエールの本当の意味というのを理解するのは、もう少し先になってからなのかもしれない。そう考えると、きっとこの作品は自分にとって大切な財産になっていくのだなと思います。

– 俳優として次のステージに向かうにあたり、挑戦したいことはありますか?

どうしても求められることが重なってきたりするんですね。例えば、三枚目の役をやると、そういう役が続いたりだとか。それはそれでいいと思うんですけど、やっぱり新しいものをやってみたいという気持ちは常にあって。今まで自分がやってきたことのない役柄に挑戦してみたいなと。やってみないと見えてこないこと、わからないことってあると思うし。まずはそういうきっかけを、なるべくつくっていきたいとは思っています。

– 『人生の約束』というタイトルですが、ご自分の中で交わした約束というのはありますか?

人生、となるとすごく大きいことのようで難しいですけど。今回、石橋監督とも出会うことができて、この作品を観て思ったのが、大切な“心”というものを忘れてしまうと道を踏み外すというか、向かっていくベクトルも違った方向になってしまうな、という感じがしたんですね。仕事をしていく上で、気持ち、そして心をちゃんとしっかり持つ。それは当然のことでもあるんですけど、たまに頭ではわかってはいてもビジネスが優先になってしまったりすることもありますよね。でもそういった仕事でもきちんと気持ちを持って挑んでいこうと。そういう気持ちというのは、忘れないようにしていきたいと思います。

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– 俳優業以外に興味があることはありますか?

写真は最近やってみたいなと思っていますね。たまたまカメラを持っていたというのもあるんですけど。携帯でもいいんですが、撮りたいなと、ふと思った時に撮ることが多いですね。

– 主な被写体は?

特に決まっていないですね。その時々で気になったものを撮っています。今回のロケ現場にはカメラを持って行かなかったんですけど、富山県の町並みというのは写真を撮りたくなるような綺麗な景色がたくさんあって。ある日天気が良くて、立山連峰がすごく綺麗に見えていた時に、みんなは立山連峰を撮っていたのに自分だけ全然違うものを撮っていたりして(笑)。現地でイカ釣り漁船を初めて見たんですね。夜に電球が煌々と光っていて。宇宙からでもその光が見えるみたいなんですけど、そうやって宇宙からでも見える明るい電球なんだなと思って。1つ1つの電球がすごくでかいんですよ。それを、アングルを考えて色々撮っていて。自己で満足して、勝手に喜んでいたんですけどね(笑)。周りには、普通は立山連峰とか撮らない?なんて言われたんですけど、それはもう目の中に焼きつけたことなので撮らなくてもいいかなと思って。そうやって普段とは視点を変えて、写真に収めるのも楽しいですよね。

– 劇中ではビシッとしたスーツ姿がとても素敵でした。普段、ご自身はどういったスタイルがお好きですか?

すごくカジュアルですよ。ジーンズにスニーカーを履いたり、とかですかね。

– スニーカーとは意外ですね。

確かに、最近はスーツスタイルが多いからカジュアルなイメージがないのかもしれないですね。でも一時期、スニーカーがすごく好きで。でもなんだかんだいって、結局オーセンティックなモデルに戻っちゃいますね。

– 古着もお好きだったりしますか?

昔は、古着が好きでしたよ。古着のジーンズしか履かなかったですからね。昔買ったジーンズでいまだに捨てられないものとかもあります。やっぱり思い出、歴史があるので。基本的にはモダンというよりは、クラシックな物の方が好きなのかもしれないですね。ヴィンテージの物とか。靴でもなんでもそうなんですけど、新しいテイストの物よりも温もりがあったり、クラシカルなデザインの物の方が好きだったりします。バッグも新しい製品のものよりも、ちょっとくたっとしたような、使い込んだようなものとか。新品の物でも自分で使い込んでいくのも好きですよ。使っていくうちに味が出てくるのが楽しいですしね。

40代半ばを迎え、まさに人生の踊り場地点に立っている俳優、竹野内豊。本作では繊細な演技で見事な存在感を放った彼が、50代、60代を迎えた時にどんな演技を見せてくれるのか。今から楽しみで仕方がない。

<プロフィール>
1971年生まれ、東京都出身。1994年、「ボクの就職」(TBS)で俳優デビュー。2001年に主演した映画『冷静と情熱のあいだ』で第25回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。2011年には『太平洋の奇跡・フォックスと呼ばれた男 – 』に主演し、第54回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞した。2016年7月29日(金)には、『シン・ゴジラ』が公開予定

<映画情報>
『人生の約束』
監督:石橋冠
出演:竹野内豊、江口洋介、松坂桃李、ビートたけし、西田敏行 ほか
配給:東宝 ©2016「人生の約束」製作委員会
2016年1月9日(土)全国東宝系ロードショー
HP: www.jinsei-no-yakusoku.jp