アーティスト・空山基インタビュー
Hajime Sorayama
セクシーロボットのイラストやAIBO のデザインで世界的に知られ、「エアブラシ技法のゴッドファーザー」の異名を持つ日本人アーティストの空山基が、自身のキャリアやフィロソフィー、最新作、そして日本のアートシーンについて肉迫。
アーティスト・空山基インタビュー
Portraits
人体と機械の美を追求した作品を次々と世に送り出し、国内外で伝説的な存在となっているアーティスト、空山基 (そらやま・はじめ) 。「エアブラシ技法のゴッドファーザー」の異名を持つ彼だが、その活動はアートのみにとどまらず、ファッション、音楽などの他分野からも高い注目を集めている。2016年には既に5つもの展覧会を予定している同氏に、自身の生い立ちから、作品制作に対する想い、そして今後の活動までを伺った。
— エアブラシを使うようになったのは、小さい頃に遊んでいたプラモデルがきっかけだったと伺いました。この世界に入ることになった原体験はありますか?
当時は、ただただ絵が好きで、飛行機の絵を描いたり、プラモデルを塗装したりして遊んでいました。他にも色々なことをしていたんだけど、どれもイマイチ。スポーツは、他の姉弟の方が得意だったから、自分は褒められたことがなかったしね。だけど、絵だけは褒められて、周りじゅうが声をかけてきたんです。最初から才能がある人なんて、ほとんどいないのよ。だけど褒められると、そこに気持ちが集中する。「豚もおだてりゃ木に登る」で、褒められると、大抵の馬鹿もその気になる。好きな気持ちと、ある程度のちょっとした才能があれば、人間は成長していくものなんですよ。
— 1950年代は、イラストレーターがまだ専門職として確立してなかった時代ですが、将来の夢は何でしたか?
宮大工や刀鍛冶、パイロットなど、ありとあらゆるかっこいい職業に憧れていました。お金や損得とは関係なく、単純に子どもが憧れるものってあるでしょ。俺は背が低かったから、 F1 や飛行機のパイロット、宇宙飛行士、ジョッキーも意識したんだけど、視力が悪かったからダメでしたね。
— 幼少期の憧れの対象は、現在空山さんが描く作品の世界観に繋がっていますね。
それはありますね。好きなものに対しては、ずっとアンテナを張ってますから。刀鍛冶になりたかったのは、幼いながらにも、刃の金属のエロティックでセクシーなところに惹かれたんでしょう。あとは光っているものに興味があった。もちろん、当時は理解できていないのだけど、何だかかっこいいなって思って見ていました。それは今でも同じ。子どもの頃に惹かれた、光や反射、透明感を作品で再現しようと、ずっと足掻いています。
— 東京に出てきたきっかけを教えてください。
高校卒業までは地元の愛媛県今治市で過ごし、中央美術学園への進学を機に上京しました。学校ではデザインの課題をこなしていたけど、面白くもなんともなかったね。「誰に絵の描き方を教わったんですか」とよく聞かれるけど、俺の絵には先生なんかいないのよ。こういう絵を描いている人なんて、いなかったから。リアルで写実的なだけの作品は誰も相手にしないし、今、デビューしても一発で差が分かるから虚しい。みんな勝負に出ないんでしょうね。
— 空山さんの作品は、若い世代にも影響を与え続けていますが、現在の美術教育についてどうお考えですか?
そもそも、美術学校は諸悪の根源だと思いますね。ヨイショして若者を持ち上げるだけだから、卒業しても結局ほとんどが食えないままじゃない。要するに、学校は作家を育てる気がなく、授業料で金儲けして運営維持することしか考えてないんですよ。
知り合いの若者に、作品についてコメントを下さいって言われることがあるけど、本当のことを言ったら、みんな泣いて帰っちゃうの。褒めるって言ったって、褒めようのない人ばっかりだよ (笑)。やれば出来るなんていうのは大間違いで、やって出来るのは妊娠くらいです。必死で歯を食いしばって努力しても物にならないなら、早めに諦めた方が良いんです。努力とは無能の証明。好きなことをしていたら、努力なんて感じないでしょ。それを、努力している、苦労しているなんて言うのは二流止まりで、向いていないってことんです。それでも本当に能力があったり、やる気がある人は、芽が出てくるもの。だから若いうちは、たくさん叩かれた方が良いんですよ。
— プロフェッショナルと、趣味の延長の差って何でしょうか?
世の中には、好きなことと、どうでも良いことしかないわけ。皆、自分が好きなことはモチベーションが上がるから、少しくらい大変でも続けるじゃん。でも、世間に無視されたらただのオタクで、プロではないんです。 99% の人がそれでは食べていけないから、全く関係のない仕事をして生きている。自分に能力がなければ、嫌なこともしなければならないけど、それは仕方がないことなんです。 残りの 1% の人だけが好きなことで稼げていて、活動を続けていくうちに、それに比例して徐々に抜きん出ていくの。能力があれば、お金は自然と後から付いてくるものなんです。でもないかあ~?(笑)
— 中央美術学園卒業後は何をされていましたか?
1970年前後は、フリーランスは無職同然だった時代。人並みの生活はできていたのにも関わらず、一族の恥と見なされてしまった。義理の父に「会社に勤めて名刺を持てる人間になれ」と言われたのをきっかけに、アサツーディ・ケイに入社しました。そこではカンプを担当していたんですが、嫌で嫌で仕方なかった。入社して2ヶ月で潰瘍が出来たくらい辛かったけど、社会のシステムが見えて良い勉強だったと思います。「世の中には、理不尽なことがこれだけあるんだ。世の中は汚い。」っていうのが分かったからね。全ての業界で言えることですが、ビジネスは綺麗事ではなく詐欺なのよ。人って酷い目にあえば学習するもので、逆にこちらも、汚い奴らを騙す方法を学びました。ちょろいちょろい、こちらも卑怯なことをすればいいのよ (笑)。アサツーには2年間勤めましたが、それでも嫌で仕方なかったので、自分の身を守る為に退職を決めました。以降はずっとフリーランスです。
— エアブラシ技法のゴッドファーザーという異名をお持ちですが、作品を制作する上で大切にしていることは何ですか?
作品は、ほとんど筆で描いていて、エアブラシはポイントで使っています。エアブラシの技術には興味がなく、その効果のみが欲しいわけ。アートやデザインだけじゃなく、どの仕事においても、キャスティングが大切。この場所にこの効果を入れたら良いものになるな、という見極めが大切です。世の中の馬鹿は、技術ばかりを重視して、そこしか褒めないでしょ。そうすると、せっかく才能のあるアーティストも、上手く描くことだけに集中してしまいがち。ヘボだなあって思いますよ。常に別のステージから、自分と作品を客観視することは不可欠です。
作品には、コアなコレクターが納得するようなモチーフを忍ばせることが多いです。例えば、マリリン・モンローの腕にシャネルの5番の刻印や、ジョン・F・ケネディの家紋を描いたり、額に手旗信号で FUCK と入れたり。分かる人に共鳴する様な仕掛けをしています。
— 作品制作とコマーシャルワークのバランスは、どのように取っていますか?
クライアントの注文に媚びるようなことをしていると、使い捨てにされちゃいます。俺は昔から、相手をヨイショしながらも、だけど原画は独立作品として売れるようにっていう方向で描いているんです。現在は注文の仕事が少なくなりましたが、以前はたとえ挿絵であっても、クライアントに振り回されるのではなく、自分の世界観を極力入れるように、常に駆け引きをしていました。
— 空山さんは、ソニーが開発したエンターテイメントロボット「AIBO」のコンセプトデザインを手掛けたことでも有名ですが、開発当時のお話を聞かせて下さい。
ソニーの土井利忠 (どい・としただ) さんとは、元々ヨット仲間だったんです。それで頻繁に会社に遊びに行っているうちに、「お前、そろそろ一緒にやるか?」と声をかけられて、手伝うことになりました。それからは、社内の金儲けしか考えていない人たちと対立して、喧嘩の日々でしたよ。幸いなことに、技術者は全てこちらの味方について協力してくれたんです。いかに自分がこの仕事を愛しているか、興味があるかっていうのが、周りに伝わったんでしょうね。ようやく会社が動いてくれるようになって、出来る範囲のことを一生懸命引き出してもらいました。こちらの無茶なリクエストも、技術者が良い落としどころを見出してくれました。俺がデザインした初代 AIBO は、分かりやすいコミュニケーションがコンセプト。関節や骨の動きなどの構造、ここはこう動くものだっていうのを全て視認化したんです。制作にあたって一番致命的だったのは、バッテリーが長く持たないことでした。 AIBO の体内温度は80度にもなるから、コンピューターが全て壊れちゃうのよ。全ての基本であるバッテリーが持たないので、強制排気は致命的でしたね。現在もスマートフォンの充電がすぐになくなってしまうけど、あれは、未だに基礎研究が足りていないと思います。
— 現在のロボットデザインについてどうお考えですか?
今のロボットはパーだと思いますよ。全部上の意見をヨイショするだけのイエスマンがしているデザインだから。本当にこういうことしたかったの?ってデザイナーに聞いたら、ずっと言い訳をすると思うな。上司の年寄りのセンスがダメ。そもそも、センスがないやつがデザインしちゃいけないのよ。それはどの業界にも言えることで、鈍臭い会社はトップが鈍臭い。それは、今回のオリンピック、国立の問題にも通じることだと思いますね。俺なんか、若い時は「オジン、邪魔だから死ね」ってずっと思っていましたよ。今、自分もオジンになっちゃったけど (笑) 。
— 2001年に発売された Aerosmith (エアロスミス) の『Just Push Play』。ジャケットにあったモンローのロボットはとても印象的でした。
彼らが、俺の画集に載っていた作品を見つけてオファーしてくれたんですが、先方の担当者が間違えて画像を裏焼きで使ってしまって。左右反転のままプレゼンを進めちゃったんだ。気がついた時には後の祭り。今更正しい位置に戻せなかったという思い出があります。どうでも良いけどね (笑) 。
海外ではアートに対しての敬意があるから、愛情や情熱が表現されていれば勝負できる
— アートを続けいている中で感じた、国内と海外の差はどのような点ですか?
大きく異なる点は、敬意とお金ですかね。日本企業は予算が少ないから、制作費がもの凄く低い。海外はアートに対しての敬意があって、お金の面でもきちんと評価してくれるの。
例えば、3~4年前に受けたジョージ・ルーカスの仕事は、エディトリアルだったから謝礼は低いと思っていたんだけど、結局こっちが提示した額の3~5倍を払ってくれたんです。ウォルト・ディズニー・ジャパンや、アメリカ本国のザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーとも何度か仕事をしてきたけど、きちんと主張をすれば、真摯に対応してくれるし、認めてくれる。アートに対しての敬意があるから、愛情や情熱が表現されていれば勝負ができるんだよ。
俺は、ビジネスであっても誇れることをする。恥じることはしない。誇れることっていうのは、霊長類には通じます。媚びたり、金儲けばかりを追及するのは、哺乳類以下なんです。
参考リンク: 『STAR WARS ART: CONCEPT』
— 今後のご活動を教えて下さい。
今年は、年明けから予定が盛り沢山です。まず、1月の Pitti Uomo Collection で韓国のサムスングループのブランド、 Junn. J とのコラボレーションが発表されます。同1月中旬には、 ロサンゼルスの Darkstar (ダークスター) から、俺のデザインのスケートボードが発売されます。近頃コレクターの中では、アーティストがサインしたスケートボードや T シャツをコレクションして飾るのが流行っているみたいですね。プリント作品を買うよりは遥かに安いから、今後世の中の動きも変わって行くんじゃないかと思って見ています。そして、1月30日 (土) からは、渋谷の NANZUKA で個展が始まります。今回は、モンローをモデルとした新作ペインティングを中心に発表する予定で、もう20点近く完成しています。是非見に来て下さい。
取材: 室岡優友、写真: 宮下祐介、スタイリング: 岡部駿佑
衣装協力: ヴィヴィアン・ウェストウッド インフォメーション (Vivienne Westwood MAN) 03-5791-0058
HP: www.viviennewestwood-tokyo.com
展覧会名 | 「女優はマシーンではありません。でも機械のように扱われます。」 |
会期 | 2016年1月30日〜 3月5日 |
場所 | NANZUKA |
住所 | 東京都渋谷区渋谷2-17-3 渋谷アイビスビルB1F |
開演時間 | 11:00-19:00 (火〜土) |
休館日 | 月、日、祝祭日 |
TEL | 03-3400-0075 |
HP | nug.jp |
展覧会名 | 「現代美術展」 |
会期 | 2016年2月6日〜 2月28日 |
場所 | 今治市河野美術館 |
住所 | 愛媛県今治市旭町1-4-8 |
開演時間 | 9:00〜17:00 |
休館日 | 月曜日 |
TEL | 0898-23-3810 |
HP | museum.city.imabari.ehime.jp |
展覧会名 | 「Alloy & Peace 展」 |
会期 | 2016年4月18日〜4月24日 |
場所 | スパイラル ガーデン |
住所 | 東京都港区南青山5-6-23 |
開演時間 | 11:00~20:00 |
入場料 | 無料 |
協賛 | 株式会社平和合金、株式会社オノウエ印刷 |
TEL | 03-3498-1171 (代表) |
HP | www.spiral.co.jp |
展覧会名 | 「AAF 展」 |
会期 | 2016年 (未定) |
場所 | 山脇ギャラリー |
住所 | 東京都千代田区九段南4-8-21 |
TEL | 03-3264-4027 |
HP | yamawaki-gallery.com |
展覧会名 | 「コズミックフュージョン」 |
会期 | 2016年7月29日〜8月3日 |
場所 | O美術館 |
住所 | 東京都品川区大崎1-6-2 |
TEL | 03-3495-4040 |
HP | www.shinagawa-culture.or.jp |