Masamichi Toyama
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株式会社スマイルズ代表取締役社長、遠山正道インタビュー

Photography: Yusuke Miyashita

Masamichi Toyama

Portraits/

Soup Stock Tokyo (スープストックトーキョー)、 PASS THE BATON (パスザバトン) 、 giraffe (ジラフ) ー現代の新しい生活の在り方を提案し、私たちの毎日を鮮やかにしてくれる場所。これらすべてを手がけるのは、「世の中の体温をあげる」がキーワードの株式会社スマイルズ。その代表の遠山正道 (とおやま・まさみち) 氏は、東京のラフスタイルを語る上では欠かせない人物である。既成概念や業界の枠にとらわれず進み続ける同氏に、幼少期の原体験から、現在の想いまでを伺った。

株式会社スマイルズ代表取締役社長、遠山正道インタビュー

Soup Stock Tokyo (スープストックトーキョー)、 PASS THE BATON (パスザバトン) 、 giraffe (ジラフ) —現代の新しい生活の在り方を提案し、私たちの毎日を鮮やかにしてくれる場所。これらすべてを手がけるのは、「世の中の体温をあげる」がキーワードの株式会社スマイルズ。その代表の遠山正道 (とおやま・まさみち) は、東京のラフスタイルを語る上では欠かせない人物である。既成概念や業界の枠にとらわれず進み続ける同氏に、幼少期の原体験から、現在の想いまでを伺った。

—遠山さんの幼少期のお話を聞かせて下さい。今の事業に繋がるような原体験はありましたか?

私は、Soup Stock Tokyoを着想するときに、自分の得意なことや他者との違いを探しましたが、何もないことに愕然としました。あるとすれば、サラリーマンで絵の個展をしたときの経験、60年代に青山で生まれ育ち、そのキラキラした世界を知っているということ。その位しか他者との違いが思いつかなかったので、それを握り締めるようにして自分の個性、立ち位置としました。

1962年に生まれたときの家は大変にモダンで、エール・サーリネンの椅子や、肘つき革張りのセブンチェアで食事をしていたり。いわゆるミッドセンチュリーの真ん中で生まれていたわけです。家にあったタイルの絵を毎日見ていたので、私の個展のコンテクストとしてもタイルを用いました。当時の世の中は、ビートルズ、アポロ13号、東京オリンピックと大変にキラキラとモダンで活気がありましたが、その後の高度成長期に、安かろう悪かろうのモノが世の中に溢れて。なので、かつての世界観を取り戻したい思いを込めて、Soup Stock Tokyoと東京という言葉を入れ込みました。

Soup Stock Tokyo

Soup Stock Tokyo

—当時の「お気に入り」を教えてください。

小学校に入ると、Peter Fonda (ピーター・フォンダ) の『イージー・ライダー』さながら、コーデュロイのブッシュパンツを履き、Kiddy Land (キデイランド) で買ったチョッパーハンドルの自転車に乗って、仲間と根津美術館の雑木林や有栖川公園でザリガニ釣りをして遊んでいました。8 − 9歳になると、既に嗜好が明確になっていて、子ども部屋のブラインドやカーテン、ベッドカバーの色を、自分で選び黄色にしてもらったのを覚えています。その頃は、パリの百貨店で購入してもらった白い麻のライダースとパンツのセットアップがお気に入りで着ていました。

—幼少期に培われたそのような感覚や美意識は、現在遠山さんが作り出すものにも影響を与えていますか?

白くて光が溢れるモダニズムの空間が好きなのは、子どもの頃の影響でしょうね。そういう世界を大切にしたいなと思っています。店舗デザインにも、自分が生まれ育った家の様子を落とし込むことがあります。Soup Stock Tokyo 1号店のヴィーナスフォート店にある白い煉瓦の壁は、当時の自宅にあった壁から着想を得ていますし、PASS THE BATON 1号店の丸の内店では、青山マンションを取り壊す際に保管しておいた内装のトラバーチンを什器として使用しています。

PASS THE BATON MARUNOUCHI

PASS THE BATON MARUNOUCHI

—大学卒業後に入社した三菱商事では、どのようなお仕事を担当されていましたか?

 

Soup Stock Tokyo

Soup Stock Tokyo

入社当初は、都市開発の部署に所属し、天王洲の開発を担当していました。モノレールが完成した際には、横羽線の道路を閉鎖し、高速道路の上で竣工式を行ったのを覚えています。その後、情報産業グループに異動すると、自分でジャッジできるような生活に身近な仕事がしたいと考えるようになりました。関連会社の日本ケンタッキー・フライド・チキンに出向して外食産業を学び、新事業の立ち上げを考えていた時に、「スープを飲んでホッとしている女性のシーン」がひらめいたんです。早速、企画書を制作しました。一言で言うと「共感」がテーマ。そこには「共感の為の軸がスープである。だから、スープストックはスープを売っているがスープ屋ではない。」ということを書きました。もちろん、真面目にスープを作るのは前提ですが、単なる飲食ビジネスではなく、スープというものに共感して集まってくれた仲間と一緒に、自分達のアイデアを世の中に提案したいという想いがあったんです。お客様や世の中との共感や関係性が生まれれば、他のサービスにも広がっていけると確信していました。

—スマイルズは新しいビジネスや活動に積極的に挑戦されていますね。昨年の夏には、作家として「越後妻有アートトリエンナーレ 2015」に出展されていますが、アート活動を始めた経緯をお聞かせ下さい。

私は三菱商事時代にサラリーマンをしていて、このまま定年を迎えたら満足しないだろうなと思い個展を開催したことから今日に至っているので、常にチャレンジをしていたいんです。「20世紀は経済の時代、21世紀は文化 (価値) の時代」だと思うのですが、価値とは、目に見えず分かりにくいものですよね。その意味では、現代アートは価値そのものです。そもそもアートとは、まだ誰も知らないような美しいものを想像し探り当てる、執念と実行だと思うんです。アート作品は、企業にとって利益は生まないし、コストはかかる。その上、社会貢献にもならない。広告としてなら他にもっと良い手段がありますが、しかしだからこそ、その価値を探りにいこうと思ったんです。価値自体を知り、自分達が生み出すために、現代アートに挑戦しようと決めました。将来的にグローバルな視点での評価を目指すにあたり、日本の要素やスマイルズの必然性を考えて、作品の下敷には、「食」、「技術」、「おもてなし」という3つのコンテクストを選びました。「食」は、スープ。「技術」は、DENSO (デンソー) のロボット技術です。以前、講演会に伺った際に拝見したロボットのデモにすっかり心を奪われたのがキッカケでした。「おもてなし」は、我々スタッフが会期中現地に駐在し、生身の人間しかできない素敵なパフォーマンスを行いました。

 

—完成した「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」には、何か面白い仕掛けがあるようですね。

Soup Stock Tokyo はファストフードなので、お客様とのコミュニケーションが短いんですが、その中でも、相手の胸を射止めることができないかと考えました。まず、システィーナ礼拝堂にあるミケランジェロの天井画のような手の動作をしたロボットが、近未来的な動作で、スープにあるハート形の浮身を目がけてバルサミコ酢を打ち込むんです。そして、出来上がったスープを手渡す際には、スタッフがお客さんの至近距離で「ズキュン」とハートを射抜くパフォーマンスを行いました。最初は緊張していたお客様も、終わった頃には笑顔で喜んでいただいて嬉しかったです。

「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」

—今後予定されているアート活動はありますか?

今年は「瀬戸内国際芸術祭 2016」で豊島に出展予定です。「檸檬 (れもん) ホテル」という名前の作品を予定しています。ホテルってどこも似ていて、個性的なものがないので、いつか自分が宿泊を企画したいなと以前から考えていたんです。Soup Stock Tokyo のボルシチには、瀬戸内海に浮かぶ生口島産の瀬戸田檸檬をずっと使っていて関係があったこともあり、「檸檬」と「ホテル」の組み合わせをひらめきました。既に3年前には商標を取っていたんですが、いよいよこの機会に、作品化しようと決めたんです。今回のプロジェクトには、「アート」、「宿泊」、「人生のプロジェクト」という3つの要素があります。

—事業に関わらず、社員の方がみなさん生き生きと働いていらっしゃいますが、秘訣はありますか?

ビジネスは、規模が小さければ小さい程、自分の役割が増え、存在が際立ち、相対的にやりがいが増えていくものです。個人にスポットを当てたビジネスをたくさん応援していきたいと思っています。スマイルズには、それぞれの社員が虎視眈々と持っているアイデアの実現を応援する気風があり、何かあったら話を聞く窓口を社内に設けています。新しい会社を作る際にも、突然脱サラすると大変ですので、スマイルズの社員として給料があるまま、会社のオーナーとして出向し、プロジェクトに集中できる仕組みを採用しています。もちろん、そこに魅力や価値がないと成立しないわけですが、逆に魅力さえあれば入口のハードルは低いんです。小さい会社だとしても、社員がオーナーになり、自立して運営していくことで、個人の生き方と働き方が重なっていく。仕事がその人の生きることを引き上げる役割になったら素敵ですよね。そこで生まれた仲間との価値観やネットワークはお金で買えるものではないので、そういう企画が、この3年で50個くらい出来たら良いなと思います。

—この2月に Soup Stock Tokyo が分社化されますね。

Soup Stock Tokyo

Soup Stock Tokyo

時期が来たら、giraffe も分社化してもいいと考えています。分社化して1つの企業になると、各社員にとって仕事が身近な自分ごとになってくる。そうすると、考えがより現実的になって、改善できる部分が見えたり、新しい展開を思いついたり出来る様になると思うんです。

—やりたいことのひらめきと、利益のバランスはどのようにとっていますか?

私は四行詩と呼んでいるんですが、「やりたいということ」、「必然性」、「意義」、「なかったという価値」の4つの要素を大切に、事業を進めています。何かを始める際には、基本的に上手くいかないものという前提で考えていた方が良いんです。我々は、実業と妄想を得意としていますが、実業で利益を上げていくことはそう簡単ではありません。Soup Stock Tokyo も利益が安定したのは8年目ですし、giraffe や PASS THE BATON は単月黒字化はしているものの、十分な利益を上げるまでは至っていないので、まだまだ課題が残っています。上手くいかなくても、楽できなくても、それでもやりたいと思えるものでなければ、続けていけないんじゃないでしょうか。他人が言ったことや、単にカッコいいからというのは理由になりません。1人1人、それぞれの必然性や意義を考えることが大切だと思います。

—Soup Stock Tokyoはシンガポールにも出店されていますが、海外での反応はいかがですか?

国内でも事業が安定するのに時間がかかりましたので、シンガポールだから楽ということは、もちろんないわけです。初出店の際には少し用心深くなりすぎて、中途半端な立地にオープンしてしたんですが、案の定反応が悪かった。その反省をふまえて、3店舗目は良い立地に出店したところ、なかなかの利益を上げるようになりました。その辺りから見えてくるところを、更に探っていくつもりです。今後はもう少し勢いをつけて、ロンドンやパリにも出店したいですね。アイデアはたくさんあります。

—国内の若手ファッションブランドは、クリエーションは素晴らしくても、ビジネスが上手くいかないところが多いようです。ファッション事業もがいくつか手がけていらっしゃいますが、どのようにお考えでしょうか?

ファッションは楽しくて好きですが、大変だと思います。サンプル代も馬鹿にならないし、セールスもなかなか厳しい時代です。そんな大変な状況の中で新しいものを作り続け、シーズン毎にセールをして、過去の自分のものですら、なかったことにしていく。そういう状況に対してある種の疑問を感じ、PASS THE BATON や giraffe を始める際には、新しさや古さに関係ないものを作りたいという想いがありました。PASS THE BATON はリサイクルがベースですし、giraffe ではずっと使える定番を提案しています。最初からセールがないのも同じ理由です。

—最近は、自社事業以外に、コンサルとプロデュース業にも力を入れていらっしゃいますね。

切り口や扱う商品は違いますが、取り組んでいることはすべて「世の中の体温をあげる」事業です。ほんの少し、毎日が楽しくなることを目指しています。今までは直営主義で、自分達の想いを大切にやってきたんですが、最近は外部と連携し、新しいアイデアでプロデュースすることに面白みを感じています。例えば、NEMIKA (ネミカ) は、大手婦人服ブランドのレリアンから依頼を受け、若いターゲットにアプローチすることを目的にプロデュースしたブランドです。ロゴのデザインは KIGI (キギ) の植原亮輔 (うえはら・りょうすけ) さんと渡邉良重 (わたなべ・よしえ) さんに、インテリアや空間デザインは SANDWICH (サンドイッチ) の名和晃平 (なわ・こうへい) さんに依頼しました。また、昨年の11月には、横浜市が取り組む「創造的産業の振興」の一環として、企業とクリエーターを結ぶ1週間「YOKOHAMA CREATIVE WEEK」の事業全体を企画・プロデュースしました。プロデュース業は、今後も積極的に取り組んでいきたいと考えています。

PASS THE BATON KYOTO GION

PASS THE BATON KYOTO GION

—遠山さんが注目されている方はいらっしゃいますか?

最近は、サカナクションの山口一郎 (やまぐち・いちろう) さんと仲良くさせてもらっています。彼は、音楽だけに留まらず、ANREALAGE (アンリアレイジ) の2016年春夏パリコレクションのサウンドディレクションを担当するなど、色々な活動をされていますよね。音楽を、単なる音楽としてだけではなく、幅広く扱っているのが興味深いです。

—東京のお気に入りのスポットを3つ教えてください。

1つ目は、 toilet (トイレット) というバーです。うちのスタッフが始めたところなので手前味噌なのですが、新宿1丁目という何もない立地で、毎日朝5時まで営業しています。意図的に宣伝をしないスタイルなので、店の看板もないのですが、店内にはRyan McGinley(ライアン・マッギンレー)の作品があったりします。業界を問わず、色んな面白い人の社交場になっていますね。

toilet
HP: https://www.facebook.com/toilet-256647061198236/

2つ目は、我田引水ですが、去年まで私が初代会長を務めていた代官山ロータリークラブが主催するイベント「卓話」です。ゲストスピーカーを招き、月に1 – 2度開催しているトークイベントなんですが、これまでには、鳴戸勝紀さん (元大関・琴欧洲親方) や、伊勢丹の大西洋 (おおにし・ひろし) 社長、チームラボの猪子寿之 (いのこ・としゆき) さん、建築家の伊東豊雄 (いとう・とよお) さんなどに出演していただきました。今後は DJ の沖野修也 (おきの・しゅうや) さんや、文化人類学者の竹村真一 (たけむら・しんいち) さんに出演していただく予定です。1回2千円でどなたでも参加でき、ゲストも参加者も飲みながら話すので、お互いの距離が近くて面白いイベントだと思います。

代官山ロータリークラブ
HP: http://rctd.club/

3つ目は、神宮前2丁目にあるエスニック料理のレストラン、 irodori (イロドリ) です。 LGBT の活動家である杉山文野 (すぎやま・ふみの) さんが開いたお店で、元々フレンチのシェフをやっていた方が調理しているので、とても美味しいんです。

irodori
HP: http://irodori-newcanvas.com/

 

Photography: Yusuke Miyashita

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