女優・成海璃子 (なるみりこ) インタビュー
Rico Narumi
女優・成海璃子(なるみりこ)にとって新たな代表作となった映画『無伴奏』。そこで見せた渾身の演技について、本人にインタビュー。
女優・成海璃子 (なるみりこ) インタビュー
Portraits
小池真理子が自身の体験をもとに書いた小説が原作となった映画『無伴奏』の舞台は、学生運動に沸く1969〜71年の仙台。成海璃子 (なるみりこ) 演じる高校生の響子は、友達に連れられて入ったバロック喫茶で、祐之介、エマと一緒に来ていた大学生の渉と出会う。すぐにひかれあう響子と渉だが、次第に想像もしなかった三角関係に引きずりこまれ、最後に悲劇を生む。とはいえ、これは衝撃の展開でオーディエンスを魅了するタイプの映画ではない。何だったら、ストーリーの全容をここに書いたって、作品を楽しむうえで大した問題にならないはず。なぜなら、『無伴奏』は“由緒正しき、甘酸っぱい青春”に胸を締め付けられるための映画だから。また、オーソドックスな物語の中で、いきなり世の本質を言い当てるような台詞がいくつも飛び出すという点では、ウディ・アレンの諸作に通じる魅力も感じた。何より、メインの俳優たちが当時の若者を“演じ切った”ことによって、チープな恋愛ものにならず、上質な雰囲気を終始保っているのが素晴らしい。その中で主演の成海璃子は、時代に翻弄される健気な響子にコミットしているようにも見えるし、一方で第三者的な語り部役を担っているようにも見える。はたして、彼女はどんな心持ちでこの役に挑んだのだろうか。その質問から、今回のインタビューを始めてみることにした。
―『無伴奏』は、70年前後のカラフルな時代描写はさることながら、王道の青春映画として魅力的だと思います。時代の大きな流れの中で翻弄される響子に対しては、どのような共感を覚えましたか?
もし響子と同じように、自分の好きな相手に恋敵がいたら、己のプライドが勝ってしまって、以前と同じように好きでいつづけることはできないと思います。だって「奪いたい」と思うほどのめり込んでしまったら、恋愛関係において自分が下になってしまうような気がするから。響子には純粋な思春期ゆえの“激しさ”がありますよね。共感という意味では、微妙だったかもしれません。
―すこし引いた目線で響子というキャラクターを理解したということですか?
私の場合、役への取り組み方は毎回そうなんです。もちろん、脚本を読んで何かしらは感じますが、結局自分がその役を務める、ということはそういう(俯瞰で見る)ことなんだと思います。ただ、響子はあまりに素直で健気だから、照れくさいシーンがいくつかありましたね。
―具体的にどのシーンでしょう?
彼女は日々思ったことをデッサンノートにつけているんですが、恋人の渉が姉の勢津子さんに並々ならぬ愛情を持っていることを察した時に、「渉さんは勢津子さんと何かあるのかしら」って書いてしまうシーンがあって、いじらしいなって。自分だったら「聞けばいいのに」って思っちゃう(笑)。
―私はそこまで健気ではないなと(笑)?
そう(笑)。たとえば動物園で渉とデートするシーンでも、渉がなぜか勢津子さんを連れてきてしまって、響子は2人の後ろをトボトボと歩いているんです。私はそれを演じた後に、「何で文句も言わずにあんなに離れて歩いているの」って、矢崎(仁司)監督に文句を言っていました(笑)。
―響子の人物像には成海さんのパーソナリティがそのまま反映されているようなリアリティがありましたよ。
意外ですね(笑)。高校時代の自分だったらこうだったのかもしれませんが。
―成海さんが『無伴奏』と同じ時代に生きていたとして、響子と同じように学生運動にコミットして自分の居場所を模索していたと思いますか?
うーん……私は小さい頃からこの仕事をしているので、正直自分から何かを見つけようとしたことがないんです。
―自分の居場所を模索した経験はない?
学生時代、「私は他の人とは違う」とは思ってましたけど(笑)。そういう意味ではモヤモヤしていた。その正体が何なのかはわからない。仕事でも、すべての現場で自分が1番歳下だったから、子供扱いされることにイライラしていた。あの時期にはぜったいに戻りたくないです。
―当時の口調を再現するのに、何か参考にした映画などはありましたか?
それはありません。どんな言葉であれ、基本的にはそれを言わなきゃいけない、というだけなので、“台詞を自分のものにする”ことをすごく意識しました。それと、一緒に話すシーンが多かった池松(壮亮)さんがいつもどっしりしてくれていたから、私はすんなり入ることができましたね。
―詩的な言葉も馴染んでいましたが、それは元々成海さんの中にあったものだったんじゃないですか?
私はそもそも思いを言葉にすることが本当に苦手で……まったく詩的な人間じゃありません(笑)。
―その中で、まさに普段思っていることだな、と思った台詞はありましたか? 個人的に、渉に「大学に何で入るの?」と聞かれて、「目茶苦茶に生きても、頭は悪くなさそうだ、って言われたいからよ」と返すシーンが、何となく成海さんっぽくて頭に残っています。
たしかに私も自意識過剰だから、そこは共感しましたね。賞をもらうと素直に嬉しいですし、何かやらかしても、「あの人、一応◯◯賞を取っているのよ」と言われるじゃないですか(笑)。
―それって、自分でアウトサイダーとしての立ち位置を認識しているということですか?
そもそも、今は何がメインストリームなんでしょうか。私も、10代後半は映画を中心にやりたいと思っていましたが、今は「この役をやるのが夢」とか、「この監督で」というのはなくて、何でもやりたいんです。どんなことでも、何かで楽しもうという気持ちになっていて。言い方を変えると、この自分がどこまでやれるのか、っていうのを試したい。「こんな私でも恋愛ドラマ出ちゃってます」とか(笑)。どこにいても通用する人になりたくて。
―今回はそんなフラットな姿勢だからこそ演じ切ることができたのかもしれませんね。
ありがとうございます。実は、これまでで1番強烈な現場だったんです。自分自身もこんなに取り乱すかと驚くくらい。
―精神的な波があったということ?
そうですね。“きちんと撮り切る”ということにここまでナーバスになったことはなかった。楽しいというよりも、すごく責任を感じていました。矢崎監督からも「今回は成海璃子さんの代表作を作るつもりです」と言われていたので。
―実際にターニングポイントになったと実感しましたか?
脚本を読んだ時からそれは思っていました。プレッシャーとか、そういうわけでもないんですが、終わった後は誰かと会う度に「辛かった~」って泣いていた(笑)。具体的に何があったのかわからないんですけど、それだけのめり込んだ映画でした。
―矢崎監督とはどういうやり取りをしながら進めていたんですか?
最初に「健気でいてください」と言われました。そういえば、初体験の前に渉と話すシーンで監督が涙ぐんでいたことがありましたね。本番ではなくテストの時だったんですが(笑)。
―演技指導はありましたか?
「ああしろ、こうしろ」と言葉で指示されることはほとんどなかったと思います。
―脚本を読んだ時に、一読者としてどう思いましたか?
このストーリーが好きとか嫌いとか、そういうのはまったく考えられなかった。「私にこの役が来たか」と衝撃を受けて、やるかどうかもすぐに決断できなかったんです。
―個人的に好きなシーンは?
渉と連れ込み宿に入るシーン。ハイテンションで階段を駆け上がるんですが、あれは撮っていて楽しかったですね。それと、同級生のジュリーがにんにくを食べて「欲情してきた〜」とか言って私が寝ているベッドに入ってきていちゃつくシーンも。
―「これからも続いていく」というような、ポジティブな空気が流れる最後のシーンも秀逸ですよね。
あのシーン、実際は渉、祐之介、エマの3人も現場にいて、私はみんなが去っていく姿を見ていたんですよ。
―なるほど、だからあのシーンには何となく3人の気配があったんですね
試写を見て初めて「あ、こうなったんだ」と気付きました。
―最後、成海さんは今後女優としてどういう表現を行っていきたいですか?
女優である以上、常にむき出しでいたい。サバイブして、のめり込んで、楽しむ。いつでも自分を投げ出す覚悟は持っているつもりです。
<問い合わせ先>
ランバン ジャパン 03-4500-6172 HP: www.lanvin.com
タイトル | 無伴奏 |
出演 | 成海璃子、池松壮亮、斎藤工 |
監督 | 矢崎仁司 |
原作 | 小池真理子『無伴奏』(新潮文庫刊、集英社文庫刊) |
脚本 | 武田知愛 、朝西真砂 |
配給 | アークエンタテインメント |
HP | http://mubanso.com |
2016年3月26日より、新宿シネマカリテ他全国ロードショー |
Photographer: Yusuke Miyashita
Stylist: Naomi Shimizu
Makeup: Rumi Hirose