元祖原宿アイコン、Baby Mary (ベイビー・マリ) インタビュー
Baby Mary
Baby Mary (ベイビー・マリ) の名前を知らないという人は、「原宿ストリート検定」の初級から勉強し直した方がいい。万が一そんな検定があった場合の話だが。
元祖原宿アイコン、Baby Mary (ベイビー・マリ) インタビュー
Portraits
Baby Mary (ベイビー・マリ) の名前を知らないという人は、「原宿ストリート検定」の初級から勉強し直した方がいい。万が一そんな検定があった場合の話だが。
鮮やかなピンクのリップに同じく個性的なファッション、独特のアクセントで「ハ~イ、ダーリン」と呼ぶ声がすれば、それは Baby Mary だ。今や世界的に一大カルチャーとして人気を集める「原宿カワイイ」の元祖として、長きに渡りストリートシーンを牽引し、また世界中のデザイナーから信頼を集めるアイコン。世界を股にかけるあのガールズ DJ だって、東京一スタイリッシュな美容師のあの方だって、みんな Baby Mary のお眼鏡に叶って羽ばたいていった逸材たちだ。東京では誰もがよく知る彼女だが、しかしその一方でこれまでの経歴について語られることはさほど多くなかった。
今回、彼女の “Now and Then” を紐解くため足を運んだのは、昨年のクリスマスにオープンした新店舗 Miss Faline (ミス・ファリーン)。竹下通りで長きに渡り居を構える Faline Tokyo (ファリーン・トーキョー) に同じくピンクを基調にした店舗で、Baby Mary は愛猫の Pepe (ペペ) と共に迎え入れてくれた。
― Mary さんと知り合ってかなり経つ気がしますが、これまでの経歴について聞いたことがありませんでした。名古屋にある第1店舗、Faline (ファリーン) をオープンされたのはいつのことでしょう?
あたしが28歳とかの時だったと思う。
― そもそも Baby Mary の年齢を知っている人もほとんどいない気がするのですが (笑)
いい歳なのは確かね、年齢にはこだわらないの (笑)
― では Faline をオープンされるまでの経緯について聞かせてもらえますか?
一番最初は美容師だったの。名古屋の美容院で働いていて、当時の店長が食器を売りたいと。その時まだ24歳とかだったかな。Antenna Sweet (アンテナ・スイート) っていう名前の輸入食器屋をオープンして ロンドンでアンティークの素敵な食器を集めて売ってたのよ。でもやっぱり食器って取り扱いが大変でしょ。割れたりするし。
― その Antenna Sweet というお店は今?
もう無いわ。その跡地に Faline を立ち上げたから。
― それにしても、ロンドンでアンティークの食器を買い付けていたとは意外です。ロンドンはそれ以前にも?
最初に行ったのは18ぐらいの時ね。大学生の時。その当時から ロンドンが 大好きで。実際いたのはロンドンからは 少し遠いボーンマスという港町だったんだけど (笑) 夏の間だけのホームステイを経験したわ。そのあと 一目惚れした Vivienne Westwood (ヴィヴィアン・ウェストウッド) を買いに WorldEnd (ワールズエンド) にいったり そのつながりで お洒落なロンドンっ子達とクラブでお友達になったりして今の交友関係のベースを築いたわ。
― なるほど、その思いが後の Faline のセレクトに繋がるということですね。今でこそ「カワイイ」のイメージで知られていますが、創業当初は Vivienne Westwood をはじめかなりエッジの効いたセレクトだったと聞きました。
Vivienne Westwood が最高だった時代よ。Faline をオープンした時も、店内全て Vivienne で埋め尽くしてたわ。今でこそ日本中でお店があるけど、当時も Vivienne の可愛いセレクトをあれだけ集めていたのはうちだけだったし、ピンクのロッキングホースシューズも Falineが 始まりだったはず。
セレクトショップのノウハウなんて無かったけど、とにかく好きの一心でお気に入りの黄色いマキシドレスを着て神戸の大きな会社に乗り込んだの。その後 Vivianne のメンズラインが始まったから、ちょうど空いてた隣のテナントにオープンしたのが Bambi (バンビ)。Bambi は今でも変わらず、メンズのストリートカルチャーの発信源としてたくさんのお客さんが集まってきてる。
その後流行も移り変わって今のセレクトショップ形態になったんだけど、やっぱりここでもロンドンのVivienne のファンとの繋がりが大きかったわ。中でも、同じ時期にロンドンでお店をオープンしたデザイナーの Marjan Pejoski (マラヤン・ペジョスキー) はFaline にとって一番の旧友よ。同時期にパリで出逢った Pierre et Gilles のミューズ Fifi Chachnil (フィフィ・シャシュニル) とか。
― Mary さんのイメージといえばやはりピンク。ピンク好きはいつから?
子供の頃から。今と一緒。一番新しい店舗、Miss Faline (ミス・ファリーン) を去年の12月にオープンしたんだけど、完成したピンクの内装を見て驚いたの。私が小さかった時の内装とまるで同じ雰囲気だったから。言うなれば、ママとあたしの合作のようなもの。
― Miss Faline のイメージは「ホテルのようにくつろげる空間」とのこと。そもそも、第5店舗目をオープンするきっかけってあったんでしょうか?
直感。私いつも自分の直感を信じていて (笑) 5年付き合ってた Jason (ジェイソン) と去年結婚したんだけど、それもかなりの直感だったの。じゃあなんで結婚したのに“ミス” なのかというと、結婚したからって急に大人になれないじゃない? 日本人の感覚だとやっぱり “マダム” や“ミセス” って呼ぶより “ミス” の方が 響きが 素敵に聞こえるでしょ。
外国で “Miss Babymary” と言われたりするのも好きなの。Coco Chanel (ココ・シャネル) が生涯マドモアゼルだったように、結婚した女性の気持ちも無理して慌ててミセスになる必要もないと思ってるの。
― Miss Faline で取り扱っているブランドは、他の店舗と比べて具体的にどのような違いが?
置いてるブランドは原宿の Faline Tokyo よりお姉さんで肩の力を抜いたというか、フレンチシックの代名詞 Ines de la Fressange (イネス・ド・ラ・フラサンジュ) のように定番のスタイルを長く愛するブランドがメインなの。
Fifi Chachnil はどの年代の女性にも支持されると信じてるし、Olympia Le-Tan (オランピア・ル・タン) のガーリーな世界観も当然人気。彼女はこのお店がオープンした時にも真っ先に駆けつけてくれたのよ!ほかにも紹介したいブランドはたくさん。Jill Stewart (ジル・スチュアート) の娘の Morgan Lane (モルガン・レーン) の上質なレースの部屋着、オーガニックコットンのオーストラリアのブランド Bon (ボン)、イタリアのニットメーカー Roberto Collina (ロベルト・コリーナ)、Wheels and Dollbaby (ウィールズ・アンド・ドールベイビー)、The Vampireswife (ヴァンパイアワイフ)、Harley Viera-Newton (ハーレー・ヴィエラ・ニュートン)、大好きな食器ブランドの Burleigh (バーレイ) のティーセット、あと男性に向けて Garçon Infideles (ギャルソン・インフィデレス)…アップカミングなブランドがとにかく目白押しよ!
なんだろう、綺麗な小箱に入ってるチョコレートみたいな感じ。少しずつ、でも最高にロマンティックなものを集めてる。結婚をしたことで自分の中に新しく見つけた世界観を表現したかったの。
― 上質なものを長く大切にする、というのは昨今のファッションシーンにおいても顕著な消費傾向のように見えますね。
あたしは ファッションの世界にいるから、半年に一回は新しいワードローブに変えることが当たり前だけれど、その一方でFaline Girls だって大人になっていくの。結婚したりママになったり。様々な生き方がある中で、いつだって可愛くありたいと願う彼女たちがインスピレーションなの。
この前 Olympia Le Tan とご飯をしながらしゃべってたんだけど、彼女が作る本の形のクラッチバッグってシーズンがあるようで無いのよ。一つ一つのデザインがアーカイブで、半年で売り切らなきゃいけないっていう打ち出し方をしてないの。何で Chanel (シャネル) がみんな好きかって、もちろん色んな理由があるけど、いつまでたっても価値が色褪せないからだと私は思うのね。
トレンドのサイクルと反比例するように、消費者はより賢く、長く使えるものに魅力を感じてるはず。MissFaline はこうした人たちのニーズに応えられるよう、時を越えて愛されるお店に育てていきたい。
四角い画面から顔をあげて、ストリートに飛び出して!
― Faline といえば個性的なセレクトももちろんですが、「ファリーン・キッズ」と呼ばれる原宿キッズのコミュニティでも知られています。
Faline にはいつもファッションの感度の高い子たちが集まってくるの。彼女や彼らたちの中からスタッフとしてお店に立ってもらったり、イベントに来てもらったり。そこからコミュニティーが出来上がっていって、次第にカルチャーと呼ばれるようになったの。
― かつてのストリートスナップといえば、東京のファッションシーンの登竜門として誰もが憧れていたように感じます。
みんなストリートスナップの雑誌を毎月誰が載ってるか期待しながら買ってたものね。いまは『Instagram (インスタグラム)』とかソーシャルメディアが全盛よね。 色んな事が均一で麻痺してきてきて、感動が薄れているような感覚ね。
― 確かにお店で会話する、とかストリートスナップで声をかけられる、とかフィジカルな経験に比べ、ソーシャルの世界は無機質ですよね。
いつでもどこでもネットサーフィン出来る時代、当然ドキドキする感覚は薄れるはずよね。お店の女の子たちに聞くと、今の若い子たちは無難に生きたいんですって。バーチャルな世界だけじゃなくて、思い通りにならない事こそ大切だってことを知ってほしい。
私ときたら『The Face (ザ・フェイス)』(80年代に人気を博したイギリスのカルチャー誌) のページに載ってた Vivienne Westwood のクリノリン付きのコルセットドレスが欲しくてたまらなくてロンドンに飛んで行ったぐらい。そのことを伊勢丹のトークショーでゲストに呼ばれたときに話したら、思いの外若い子たちからの反響があったのは印象的だったわ。
とはいえ、また雑誌や写真集の1ページに釘付けになる時代が来るはずと信じてるの。カセットテープやレコードがリバイバルしているように。私は価値のある物を身体で覚えていくことで、自分の財産になっていくと思ってる。
― 世界中のデザイナーやクリエイターと親交の深い Mary さんから見た、東京の魅力とは?
文化よ。東京だけじゃない。京都に行った時にも感じたの。日本ってなんて文化的な国なのかしらって。昔は受け入れられなかったことが、今ではこの国の美徳なんだと気付いたの。繊細よね。海外の人たちと触れ合うほどそれを痛感するわ。東京は大好きな街だし、原宿ほど毎日ファッションで溢れかえってる街は無いと断言出来る。まさに夢の街ね。
― 東京のストリートの文化を端的に表すとしたら?
みんな自分の好きな格好してるじゃない。ユニークでしょ。自由で トレンドとはまた別のところにある、東京のストリートのルール。これがやっぱり他の国には無い文化だと思う。Jeremy Scott (ジェレミー・スコット) も原宿のティーンエイジャーの感覚が大好きで、ストリートスナップマガジンの『Fruits (フルーツ)』を愛読してた。
最近では洋服も安いものばかりが出回っているけど、だからこそ真価が発揮されるのも今の時代だと思うの。いいものを見て、触って、経験して。時代に関係なく、人生はチャレンジだから、私自身一生勉強していたいなと思ってる。
東京がこれまで世界的に評価されてきたのは、そこにいる人たちの個性が際立っているからじゃない。四角い画面から顔をあげて、ストリートに飛び出してほしい。無難に生きるなんてつまらないし、人生を楽しまないと!私にとって、人間らしいコミュニケーションが無いと幸せだとは言えない。
愛がすべてよ。
― さすが、切れ味がありますね。スマホばかり眺めてる若い子たちに、Mary さんから喝をお願いします!
旅をしましょう!恋をしましょう!
― スカッとしました!それでは最後に、コミュニケーションの達人 Mary さんにとって最も印象的だった出来事を3つ教えて下さい。
あり過ぎて思い出せないけど…3つよね?
― はい、3つお願いします。
私が大好きなイビザ島の思い出がまず一つね。ロンドンにいた時に、偶然出会ったダンサーの友達が、大きなパーティーをイビザでやってるから来ないかと誘われて、迷ってる間も無くパスポートを取りに家に帰ってそのまま空港へ向かったの。£ 60 (約8,000円) だけ握りしめて、気づいたら真夜中の陸の孤島に降り立ってたの。その時の島の匂い、そして地中海を一望する美しい光景は今でも鮮明に覚えてるわ。今考えればなんて向こう見ずなんだろうと驚くけど、同時の私にはとにかく新鮮で、今でもイビザ島にはよく通ってる。
大好きな Vivienne Westwood のショーはいつでも刺激的だった。中でも一番覚えてるのは、1994年春夏の「Cafe Society (カフェ・ソサエティ」というコレクション。Kate Moss (ケイト・モス) がマイクロミニのドレスを着てアイスクリームを舐めながらランウェイを歩いたこのショーは、今でも業界人の語り草だけど、ショー会場はそれ以外にもエキサイティングなことばかりだった。元祖スーパーモデルの Christie Turlinton (クリスティ・ターリントン)、Naomi Campbell (ナオミ・キャンベル)、Linda Evangelista (リンダ・エヴァンジェリスタ) なんかが、L’Hôtel de Crillon (オテル・クリヨン) のラウンジでシャンパンをすすっていたり、John Galliano (ジョン・ガリアーノ) がロビーで悠々と歩き回ってたり。ファッションシューティングの現場にいるような夢のような空間だったわ。
東京で一番記憶に残ってるのは、間違いなく2006年に開催された Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン) のパーティーね。当時ファッションパーティーといえば、業界人だけしか足を踏み入れることを許されなかった時代に、パリの友人でアートディレクターの André Saraiva (アンドレ・サレヴァ) の助言もあって原宿キッズ総勢100人を、Babymary 号というバスで招待したの。会場は、夢の島。名前のように、一晩限りのイベントのために作られたドーム型の会場はまさに夢のような空間だった。
当時のデザイナーだった Marc Jacobs (マーク・ジェイコブス) はもちろんのこと、Grace Jones (グレース・ジョーンズ) がパフォーマンスをしていたり。シンデレラの魔法みたいに次の日には跡形もなく消えてしまったこの夢の島は、今でも原宿キッズの間で語り継がれる伝説よ。このイベントがあったおかげで、最近ではファッションブランドのパーティーに若い子たちが招待されることも珍しくなくなった。その転機となったという意味でも、このパーティーが持つ意味は計り知れないわね。
― 聞いているだけでワクワクしますね!Mary さんのように人生を謳歌出来るよう、僕も精進します。