Sies Marjan (シエス・マルジャン) デザイナー、Sander Lak (サンダー・ラック) インタビュー
Sies Marjan
Sies Marjan と書いて、”シエス・マルジャン” と読む。いや、”シース・マルジャン” かもしれない。3月に開催されたパリファッションウィークに際して行ったインタビューのテープ起こしをしながら、必死にカナ表記を考える。何故なら、今後この名前を幾度となく目にすることなると確信しているから。
Sies Marjan (シエス・マルジャン) デザイナー、Sander Lak (サンダー・ラック) インタビュー
Portraits
Sies Marjan と書いて、”シエス・マルジャン” と読む。いや、”シエ・マルヤン” かもしれない。3月に開催されたパリファッションウィークに際して行ったインタビューのテープ起こしをしながら、必死にカナ表記を考える。何故なら、今後この名前を幾度となく目にすることなると確信しているから。
2016-17年秋冬パリコレクションでデビューした Sies Marjan (シエス・マルジャン)。デザイナーはオランダ人の32歳、Sander Lak (サンダー・ラック)。ロンドンの名門 Central Saint Martins (セントラル・セント・マーチン) を卒業後、Marc Jacobs (マーク・ジェイコブス)、Phillip Lim (フィリップ・リム)、Christophe Decarnin (クリストフ・デカルナン) による Balmain (バルマン) をはじめ名だたる名門メゾンにて経験を積んだ後、Dries Van Noten (ドリス・ヴァン・ノッテン) のデザイナーとしてその手腕を発揮してきた。
フレンチクチュールのような繊細なディティールワークに、オランダらしい肩の力の抜けたエフォートレスなスタイリング、そしてアメリカンブランドに匹敵するリアリティ。幼少時代をアジア、アフリカ、ヨーロッパ、そしてアメリカを旅して過ごしたハイブリッドな新星のデビューコレクションは、世界中の著名ジャーナリストたちからの賞賛を以って迎えられた。9月中旬からは日本でも BARNEYS NEW YORK (バーニーズ ニューヨーク) での取り扱いが決まり、ネクスト・スターデザイナーの呼び声高い Sander Lak。元『The Reality Show (ザ・リアリティ・ショー)』編集長の Tiffany Godoy (ティファニー・ゴドイ) による独占取材とともに、その才能の片鱗を垣間見る。
— デビューコレクションにして著名セレクトショップからのラブコールが相次いでいますが、若手でありながらラグジュアリーマーケットをターゲットにするのは大きな挑戦だったのではないでしょうか?
もちろんラグジュアリーもブランドのDNAの一つだけど、それ以上に新たな美学だったりブランド独自のビジョンやテイストにフォーカスしている。商業的な目線からみても、さまざまな場面やマーケットにおいてたくさんのチャンスが転がっていると思っている。そのひとつがラグジュアリーマーケットで、Opening Ceremony (オープニング・セレモニー) でビジネスの基盤を築いた Joey Laurenti (ジョーイ・ローレンティ) のビジョンやアトリエをベースにブランドストーリーを描いている。
— リテールのバックグラウンドもブランドにとって重要な要素になっていると思います。その経験を生かしてラグジュアリーの中でもニッチな市場にスポットを当てていこうと思っていますか。
そう思う。この市場はしっかりと明確化されていて、注目も集めていると感じている。この市場を開拓するまでに結構な時間を費やした。あと、ニューヨークの僕たちのアトリエをそのまま映し出していて、そこも重要なポイントなんだ。
— あなたにとって最近のラグジュアリーマーケットってどんなものですか?このマーケットに惹きつけられる理由は何ですか?
まず第一に、デザイナーズブランドをアメリカのファッション市場に参入させたいというパッションと欲望がある。今、ニューヨークのファッションシーンは盛り上がっていて、デザイナーやブランドにとって新たな挑戦をすることは本当に楽しいことなんだ。そんな中でも、僕たちはブランド独自のクリエイティビティや独創性を重視している。何か決断を下す時も常に僕たちのアイディアが反映されているし、最高のチームやパートナーに出会えて素晴らしい経験もさせてもらっている。そのひとつに制作会社のデベロッパーともコラボしている。彼は4年ぐらいこの業界に携わっていて、大事な仲間の一人だよ。
これは、ベーシックラインの中でも特にリコメンドしたいアイテムだよ。コレクションの中で最もリーズナブルな価格帯、799ユーロで展開している。同じ素材を使用した美しいドレスは他にもあるよ。ピンク色がとっても際立つでしょ。カラーはとても重要だよね。次にこれは、柔軟剤を用いてウォッシュド加工されたもので、柔らかい素材が肌に馴染むよ。この素材はクレープオンというもので僕たちの使用しているファブリックの中でも、特に目を引くものなんだ。アシッドイエローで染めたこのカラーがとても素敵でしょ。そしてこれが定番のデニムジャケット。これのほかに、ファーを施したものもあるよ。最後にこれが僕たちのお気に入りのカーゴパンツだよ。
— ゴージャスなアイテムが揃っていますね。
デザインだけでなく素材も同じくらい重要視している。これがメンズウェアでストライプの素材を用いたもの。これは、タキシードシェイプのエンブリッシュドシャツ。その彼が身に着けているものはウォッシュドダブルダッチーズ素材を用いたものだよ。とても上質なシルクでしょ。ほかにはカシミヤニットとか…
— ファブリックは全てオランダから仕入れたものですか?
90%はイタリア産だよ。このコーラルや軽やかなライムファーもイタリア。ほかにチェリー色もある。それからこれがダブルダッチーズTシャツね。
— リラックス感のあるアイテムだけど、とてもゴージャスで高級感の溢れる素材ですね。
これはめったに手に入らないとても上質なシルクだよ。
— トーン・オン・トーンのイエローなんて大胆。大好き。しかもエフォートレスに仕上がっていて Sies Marjan (シースマルヤン) の魅力も表現されています。
ドレスに施されている華麗な装飾も最高の腕を持った職人たちによって仕上げられている。全てニューヨークにある僕たちのスタジオでね。
— ところで、とてもハイブリッドな人生を歩んできたようですね。
そうだね。出身はブルネイだけど、マレーシア、アフリカ、スコットランド、オランダ、フランス、アメリカそしてベルギーにも住んでいたことがあるよ。それが僕の DNA でもあるんだ。これにはポジティブな面とネガティブな面があるけどね。ポジティブな面は多種多様なライフスタイル、そして異文化を体験できること。そしてネガティブな面は、自分がまるでエイリアンかのような気持ちになることだね (笑) オランダ人なのに、時々自分がオランダ人だということを忘れてしまう。自分の故郷って感じがしなくてね。
今、ニューヨークに住んで4年位で自分が生まれた地のような感覚で暮らしたいんだけど、この街に完全に溶け込むことはなかなか難しい。そんなマイナスの面もあるけど、それ以上にポジティブな面も多い。ありとあらゆるオプションの中から自分の道を切り開ける点とかね。もし、たったひとつの世界や文化しか体験したことのない人で、その世界に満足していたら新しい経験をすることもないでしょ。でも僕の場合は、真逆でいろいろな文化を知っている分、どの文化にも100%は触れられていないんだ。だからこそ何通りもの異なるアイディアを生み出せるんだけどね。
— なるほど。全てのものが自然に成り立っているということですね。
その通り。時には異なる要素を掛け合わせたりして、新しいアイディアが誕生することもある。もちろん、時には組み合わせた要素が合わないこともあるよ。まるでパスタを箸で食べてる感覚と同じようにね (笑)
— 最近ではスマホなどが普及して、バーチャルの世界をリアルな世界のように体験できますね。スマホをタッチして、実際にそのモノに触れているかのような感覚になりますよね。
そうですね。僕はスマホ時代がとても好き。このような現象が10年、20年前に起きていれば…と思うね。だって、スマホのスクリーンを見ただけでリアルな体験をしたように感じることができるでしょ。そんな贅沢な体験ほかにはできないよね。でも、こういう世界が僕は現実の世界と同じくらい、またはそれ以上に面白いと思う。それが新しいことをを生み出すってことだと思うんだ。さまざまな土地に足を運ぶことができて僕はラッキーだった。マレーシアの家で感じた独特の匂いとか実際にその土地に行かないと分からないことってあるでしょ。それが僕の育った環境なんだ。
Google (グーグル) で検索したら、僕が知っている以上の情報は出てくるけどね。リアルな世界とバーチャルな世界を楽しむバランスが重要だと思うんだ。素材の組み合わせやカラーの配色、デザインを決めるのも、Max Meyer (マックス・マイヤー) がどんなルックスなのかも1度頭の中で描くでしょ。その後に、実物を目にした時に“あれ?頭の中で想像してたものの方が良かったかも”って思ったりするんだ。 それでも完成した作品が美しければ良いんだ。でも僕にとっては、この理知的なプロセスが作品を仕上げる上で欠かせないんだ。
—『Instagram (インスタグラム)』を拝見しました。コレクションはここにいる90年代テイストの女の子たちにインスパイアされたのでしょうか。
もちろん、そこからもインスピレーションを受けているけどそれだけではないよ。よくコレクションのインスピレーションについて質問を受けるけど、いつも答えに戸惑う。例えば、刺繍の入ったシルクの素材があるよね。それとファー素材をミックスさせるのも、何かにインスピレーションを受けたからではなく、直感でそのコンビネーションが良いと思ったから融合させるんだ。コレクションを発表する時に、“今季はストライプ柄”といったような型にはまったコンセプトは提案しないよ。そのような手法は古いよ。MOMA (モマ) の展示会に行って、ピカソのスカルプチャーだけが並んでいてもつまらないよね。異なるアイディアを混在させた方がユニークなものが出来上がると思う。何と何がマッチするかなんて試してみないと分からない。
そうそう。そのアイディアの一つに、高校にいた女の子たちのファッションから生まれたものもあるよ。ダサいカーゴパンツを履いて、Spice Girls (スパイスガールズ) のアイコン的スニーカーとも言えるプラットフォームスニーカーを履いていた子たちのことね。実はこれがインスピレーションの源なんだ。
— 高校生の時はどこに住んでいたのですか?
オランダだよ。
— ということは、いろいろとワルい体験もしてきたのでは?
そうだね。でも、それがコレクションのインスピレーションに直結するわけではないよ。それも一つの要素ではあるけど。コレクションの背景について一つ一つ説明していたら、本の推薦文みたいになっちゃう。もちろんプレスを公開する時はそれらを明確に説明する必要があるけどね。
— まあ、ある種の後付けみたいなことですよね。
そうだね。メディア向けにね。『Vogue (ヴォーグ)』が情報を公開したら、ほかのエディターもコレクションを取り上げてくれる。でも、同じコンテンツは一つもないよ。僕のインスピレーションのベースとなっているものは一つじゃないからね。決して、何をやっているのか明確化できていないわけではなくて、さまざまな要素から成り立っているから説明するのが難しいんだ。
— 多重人格のような感じですね。
その通り。毎日、違う自分で生きている感覚だよ (笑) いやいや、そんなことはない (笑) 本能と直感で行動しているだけだよ。それはチームで行動するときも同じ。何が良いかって、感情で意思決定をするから数字に動かされることは少ないんだ。
— いわゆる、マーケティングのことですね。
そうそう。計算式がありすぎて追い切れないよ。製品を製作する時にマーケティングについては考えていないよ。モノをデザインするための数字的ルールなんて存在しない。最終段階として、何のアイテムが揃っているかチェックしたり、欠けているものを探ったりはするけどね。僕たちが良いと感じたものをそのまま形にしている。
— それはチームワークですか?
そう。僕一人の仕事じゃない。「ピンクのドレスにしよう」などと指示を出しているわけではなくて、お互い意見を出し合って決めているんだ。僕のアシスタントはとっても賢い上に、僕とは異なるアイディアを持っている。だから、たった一つのことを決めるのに5日間は意見交換をしている。そこからアウトプットされたものを全て頭の中に刻んでおく。これが僕たちのやり方なんだ。ただ、素材によっては染めたい色に染まらなかったりするから、ファブリックやカラーの本質に従うこともある。そういう時は、どんな色に仕上がるのかワクワクする。
— 今後メンズウェアやアクセサリー、店舗展開にも力を入れていくそうですね。ビジネス面でのプランは、クリエイションのプロセスにおいてどのような影響を与えているのでしょうか?
ビジネスとクリエイションは全くの別物だと考えてるんだ。これまで、いろんな会社で働いてきたしアシスタントとしての経験もたくさんある。ミスをする人や正しい決断を下す人をいつも見てきた。そんな中で、スポンジのようにこの目で見たものをそのまま吸収してきた。いつも自分に「もし僕がこの立場だったら何を選択する?どれが正しいのか?」って自分に問いかけていた。だから、自分が今何をしているのか、何をすべきなのかいつも知った上で行動している。
分からないことばかりだけど、自分の経験を元に「これに挑戦してみよう」って潔く決断を下すのって悪いことだと思わない。CEO の Joey も同じ思考を持っていて、彼の貴重な経験と僕の経験を元に動いているんだ。たとえ意見が衝突することがあってもね。パートナーシップってお互いを信じることだと思う。失敗をしても、最終的に上手くいくと信じている。それが僕たちのルールだよ。
パートナーシップを組む時も、製品をデザインする時も、クライアントやバイヤーとのミーティングでもいつもこれだけは変わらない。数字に流されるのではなく、本能に任せて決断を下すということね。ブランドが成功しているのもチームメンバーやパートナーが満足しているのも、このルールのおかげだと思う。それに僕たちのやり方が間違っていないということも証明しているよね。
あれ、このイエローのドレス見せたっけ?
— 見てないわ!素晴らしい色彩ね。
これは、僕のお気に入りのカラーの一つでもあるネオンイエローだよ。このセーターはバックに1枚、フロントに3枚入ったレイヤードが特徴的でしょ。僕は、冬でもコートのジップは開けておきたい派なんだけど、これならコートを開けてレイヤードスタイルを楽しめる。自分用にゲットする予定だよ (笑) サイズを大きめにリメイクすれば僕でも身につけられるものがたくさんあるよ。ファッションアイテムをデザインするなら、実際に着心地をチェックしないとね。
— ファッショナブルなだけではなく、現実味のあるものでないとダメってことですね。
そうだね。ファンタジーを創作しているわけではないからね。自分でもトライしてガールフレンドにも試してもらうよ (笑) モデルたちにもいつも“着心地はどう?その素材、痒くない?”って聞くようにしている。
— 最後に日本の読者向けにブランド名の読み方を教えて下さい。
Sies Marjan (シエス・マルジャン)。ブランド名の由来は、父と母のファミリーネームを掛けあわせたものなんだ。オランダの名前なんだけど、割りと珍しい名前かもしれない。名前を聞いただけでは、どこの国か特定するのは難しいかもね。Marjan はイランなどの中東地域にもありそうな名前だし、ほかのヨーロッパの国でも使われている。Sies もさまざまな国を想起させる名前だね。スペインとか。それが、ブランド名の良いところでもあるね。
HP: www.siesmarjan.com