俳優・菅田将暉インタビュー
masaki suda
Model: Masaki Suda at Topcoat
Photographer: Yuji Fukuhara at eightpeace
Stylist: Keita Izuka
Hair&Makeup: AZUMA at W
Writer: Wakako Shudo
飛ぶ鳥を落とす勢いの若手俳優、菅田将暉に独占インタビュー。これまでのキャリアからターニングポイント、まっすぐな眼差しで「好きだから」と語る自身のファッション偏愛まで、余すところなく語ってもらいました。
俳優・菅田将暉インタビュー
Portraits
「このスタイリング、ヘアチェンジしてもう一度撮りたいです。」
もちろんスタッフ一同、二つ返事で快諾する。その日、映画の撮影を終えて夜中にスタジオに入ったその男の子は、まるでさっき目が覚めたばかりかのように気だるい調子で、それでいて周囲を圧倒するような熱意と好奇心に満ち溢れていた。
菅田将暉、1993年2月21日生まれ、大阪府出身。間違いなく “今” を象徴する最も旬な俳優がその片鱗を見せはじめたのは、彼が15歳のとき。第21回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでファイナリスト12人に選出されたのを契機に現在の事務所に所属。翌年、『仮面ライダーW』にてシリーズ最年少で連続TVドラマ初出演にして主役を飾り、2013年には青山真治監督作品『共喰い』の主演で第37回日本アカデミー賞新人賞を受賞。『王様とボク』、『そこのみにて光輝く』、『暗殺教室』、『ディストラクション・ベイビーズ』、『セトウツミ』をはじめ数々の話題作に出演。そのいずれも全く異なるストーリー、そして人物であるにも関わらず、驚くほどすんなり役になりきってしまう器用さは誰しもが認めるところだ。
素顔の菅田将暉からは、直感で動く素直な人という印象を受ける。それは例えば、衣装であるオーバーサイズのジャケットを着た時のボタンの閉め方を現場で即座にアイデアを出し合う様子だったり、プライベートでムートンのジャケットが欲しいと思い信頼を置くスタイリストの猪塚慶太に電話をして買い物に行くというエピソードからも伺えるわけだが、果たしてそれが本当の “素” なのか、それとも「ヤングスター・菅田将暉」を演じているのかは、正味2時間の撮影では到底判断のしようがない。ただ、「ファッション好きだから」とぶっきらぼうに言いながら、モニターの写真を食い入るように見つめる姿からは、”ただのイケメン” には無い、何か内に宿した特別な光が垣間見えた。
― まず初歩的な質問ですが、芸名の由来を教えてもらえますか?本名から一文字残していますね。
そう、僕、本名もちょっと珍しいんですけど、芸名は、特に意味はなく、画数重視で (笑)。将暉の暉が、「輝く」と似たような意味があるらしくて。暉暉 (きき)っていう単語があるんですよ。光が照り輝く、という意味なんですけど。でも「菅田将暉」であることによって切り替えというか、ちゃんと「明るいところ」にいられる気はしますね。
― 明るいところ (笑)。菅田さんの印象として、暗いところから出てきた人、っていう感じは一切しませんが。
別に暗いのが好きだったとか、そういうことではなく (笑)、普通は、なかなかああやって…できないですよね。でもお芝居って、普通であることが大事だから。その両方がないと、って。
― 普通の人間の日常と、選ばれた者が見せる華やかさ。菅田さんの演技にはその振り幅があります。たとえば、映画『ピンクとグレー』では一人二役のようなものに挑戦していましたね。前半では芸能人を目指す普通の青年を等身大に演じていて、後半では一転、その青年役を演じた設定の売れっ子のイケイケ俳優に。でも、前半の役柄が素の菅田さんに近い、というわけでもないのでしょうか?
うーん、そこの棲み分けは、自分でも良く分からないですね。両方自分だし、両方違います。それはもう見てもらって、好きに判断して楽しんでもらえたら。『ピンクとグレー』に関しては、あの映画は途中に転換する仕掛けがあって。前半に出てくる僕の役柄「河田」は、実は後半で登場する性格の悪い人気俳優の「成瀬」が演じているキャラクター、ってことだったんで、つまりはじめから「成瀬」がベースなんですよね。「成瀬」だったら、きっと、芸能界も上手く渡り歩いてて、お芝居も上手くて、ちゃんと、脇役だけど自分を立たせるようなお芝居ができるんだろうな、と僕は考えたんです。だから僕がリアルに前半の「河田」を演じてしまうよりは、少し、印象として憎たらしめに、わざとちょっとそれが残るように演じた方が、「成瀬」が演じている感じが出ていいのかな、と。
その辺は、行定勲監督とお話しながらですけど、不必要に、ここ泣かなくていいのにっていうシーンで泣いてみたりだとか、「俺、上手いでしょ?」っていうのをわざと要所要所に出してます。それが、後半のあのやらしさに繋がっていて、いいのかな、と。後半で、「河田」の幼馴染で片思い中の「サリー」を急に襲うシーンで「河田」が泣くんですけど、あそこも、いい涙にはしたくなくて。
― というと?
すごく、ピュアな役じゃないですか「河田」って。でもあのままピュアに泣くと、カッコよすぎちゃうというか。キレイすぎちゃう。けどたぶん「成瀬」だったら、その涙に技術的なものが入ってた方がいいのかな、と。もちろん、そう思ってても本当にできるかどうかは、現場行ってみないとわからないんですけど。だから、自然と湧き出てくるものを待つのではなく、あらかじめ用意していったものを、出す、という方法でやってました。その方がピュアじゃなくて、あの映画の場合はいいかな、と。ちょっと小難しい話ですけど (笑)。
― 東村アキコの人気漫画に基づいた作品『海月姫』のときは、女装シーンのためにかなりの短期間でウエイトコントロールされてましたね。トレーニングや食事制限はハードでしたか?
あれは、体重は意識せず、見た目に集中しました。女性の洋服を着たときに、鏡に映った自分の姿が、ちゃんと女の子としてどんだけ可愛く見えるか、っていう (笑)。女の子が、自分を可愛く見せるためにどんな体でいるか、どう振る舞うか、それって僕には未知の領域なので。現場のヘアメイクのアシスタントさんが、「ときどき夜のお仕事の女の子たちの髪をセットしてます」っていうので、その子たちが知る、細くて可愛い女の子でいるためのリアルっていうのを、いっぱい教えてもらったりして。その力がすごい発揮されてると思います。で、気付いたらすごく痩せてました。ある日、銭湯行って体重計乗ったら、もう10何キロも落ちてんじゃん!って。毎日自分を見てるから、際限がないんですよね、どこまでいけばいいか分からなくて。とくにトレーナーをつけてカロリー計算してあの体を作った、っていうのではなかったです。整体に行って骨格を変えて、とりあえず、落とす、っていう生活でした。
― 個性的な役柄を数多く演じてますが、自分の中で、転機になった作品は?
『共喰い』ですね。あとは『そこのみにて光輝く』かな。色んな転機ってあると思うんですけど、たとえば、au (エーユー) の CM の鬼ちゃんも転機ですし。あれで色んな方に知ってもらえたかなって。
― 2017年は映画『キセキーあの日のソビトー』でも、バンド GReeeeN (グリーン) のメンバーを演じた「グリーンボーイズ」名義でCD デビューを果たしましたね。とても透明感のある歌声で、演技しているときとは別人のようですが、これミュージシャンでしょ?と思うほど歌が上手くて驚きました。
サッカー日本代表応援ソング(注:「見たこともない景色」auサイトにて配信、ハイパーリンク)を歌わせて頂きました。。ボイストレーニングは、『キセキーあの日のソビトー』の「グリーンボーイズ」で受けてましたが、「上手い」って言ってもらえるとは思わなかったですね。まず、auのCMで歌うことが決まり、音楽プロデューサーさんとお話した際に疾走感があってクリアな、男性だけでなく女性にも受け入れてもらえる気持ちいいものにして欲しい、というリクエストをしました。家に帰って好きなバンドの色んなボーカルの真似をしてみたり。面白かったですね、ああやって、声で何かに近づける、というのは。喋ったり演技しているときの声とはまた違うんですけど、歌ってても、どうしても自分が出るので。歌の仕事は、楽しかったですねー。
― 2017年には、アニメーションの声優にもチャレンジした『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』が公開されますが、声のお仕事の手応えは?
僕がやったのが中学生の子供の役だったので、難しかったですね。僕、あまり声が高い方じゃないので。そのまま声当てると、えらい渋い中学生になってしまって。鬼ちゃんをやるときは、だいぶ高めに声が出るように意識してやってるんですね。でも映画でそれやると、ずっと元気な子、っていうキャラクターになってしまうし、抑揚がつけにくかったりするんで。なんか、中学生ならではの、おぼこい、素直さと、柔らかさみたいなものを作っていくの、難しかったですね。でも横に、相手役の広瀬すずさんがいて、パーン!ってキレイな声で美少女をやってくれてたので、それに僕は寄り添うようにやっていった感じです。
― 2016年に話題となった映画『溺れるナイフ』では、主人公の中学生から高校生にかけてを演じてましたが?
少女漫画が原作で、ちゃんとカッコ良くなきゃいけない役、って、あれがはじめてだったんですよね。あのコウちゃんっていう役は、すごく魅力もあるし、小松菜奈さん演じる東京でモデルやってた女の子が田舎にやってきて惚れる男の子、っていう、まぁハードルが高い役で (笑)。劇中でも「神さん、神さん」って言われる神々しさ、それって、なんだろうな、って思いながら演じてたんですけど。シンプルに女の子が喜ぶことをやってればいいわけでもないし、監督に言われるものをただただやっていくだけでは、あの役の「全能感」みたいなものが消えてしまいそうで、嫌で。自信みなぎる!みたいなものが大事な役だったので。あれは本当にあのときの自分にしかできない役でしたね。
―同世代の俳優さんと共演されることが多いですが、影響を受けたのは?
うーん、沢山います、色んな刺激があるし。同世代だと、上京してちょっと経ったぐらいのとき、太賀と出会って。彼と出会うことによって、同世代の役者、染谷将太くん、池松壮亮くんらとも出会って刺激を受けました。俳優であるってことを離れても、みんなまず、映画が好きで、物作りが好きで、日常がすごく遊びに溢れてるんですよね。別にそんなことしなくてもいいのに、ってことで盛り上がったり。
―そんなこと、とは?
たとえば、太賀が「ゴールドアンダーヘアーズ」っていうバンドを組んでたことがあって。メンバーが陰毛を金髪に染めてるだけなんですよ。見えないのに。なんか、楽しいじゃないですか、そのくだらなさと、発想力と、あと実行力ですよね。形にちゃんとしていく、っていう。でも一方では真面目に映画やったり写真撮ったりしている。なんかその人たちとともに過ごすクリエイティブな時間は、上京してきてすごく刺激的で。で、そういう人たちのお芝居を観に行くと、やっぱり素敵なんです。年齢的にはそのちょっと上に、山田孝之さんとか、妻夫木聡さんとかがいる、っていう感じで、影響は受けてると思います。あ、あと柳楽優弥くんか。柳楽くんとは2回共演してるんですけど、もっとしてそうな気がする (笑)! 柳楽くんは僕よりちょっと年上なんだけど、もっとすごい上っていう感覚があるんですよ。もちろんキャリアの長さ、っていうのもあるんですが、あの存在のデカさは…ね。
ハリウッド、必ず立ってみたいですね
―今はもう若手俳優の中でも、日本映画界を背負って立つ、という地位を確立した感がありますが、今後、ハリウッド進出への野望はありますか?
もちろん、挑戦してみたいなとは思います。まだでも情報として向こうのことは何も知らないし、とりあえず日本でだな、とは思ってます。でもやるからには、必ず、立ってみたい世界です。夢がありますよね、ハリウッドだけじゃなく、海外って。日本の文化だけじゃないところで、映像を作るっていうのは。
―海外の映画祭へは今までスイスのロカルノと韓国の釜山と2回行かれてますね。釜山の国際映画祭では髪をピンクに染めた姿が話題をさらいましたが、観客の反応は日本とは違うと感じますか?
いやーやっぱり全然違いますね! 環境がそもそも違うから、そうなるんでしょうけど。ロカルノでは映画祭をやっている期間中、街全体が活動として映画祭を盛り上げてて、当たり前のように学生の子たちがボランティアで参加していました。関係者ではないごく普通の人たちが、映画を観て感想を言い合ったり、普段からしてますから。そういう感性に育つし、色んなアーティストが生まれてくる土壌がありますよね。そういう点では、日本の映画祭とは全然違う。海外に行くと、「こういうところでスターは生まれるんだな」という感覚になりますね。あとやっぱり、美しいです。街も人も、どこを見ても美しい。
―オフの日の過ごし方は?
フラフラしてます (笑)。でもほんと、やりたいことをやるっていうのがベースで。2016年は「こもらない」ってのがテーマでした。こんな服欲しいなって思ったら、スタイリストさんにすぐ電話してアドバイスもらって、出かけていく。昨日もちょっと友だちとカラオケ行ってたんですけど、「まさきー、来いよ」って言われてパッと。そしたらもうグリーンボーイズの曲が入ってたから嬉しくて歌いました (笑)。あとは生地買ってきて、洋服作ったり。そのとき楽しそうなことを、色々やってますかね。
―今日の撮影を見ていて、本当にファッションに対する感度が高いことに驚きました。
楽しいんですよね。今日はスタイリストの猪塚さんとずっと何かやりましょうって言ってたのが叶った日、っていうのもありますけど、最近ずっと映画の現場にこもってたので、違う空気の現場で、はしゃいだんでしょうね (笑)。
―モデル経験のない俳優さんで、あんなに服を着こなせるというのは驚きです。
あ、ちょっと僕それ認識が違うのが、僕のイメージですけど、モデルさんの仕事って、「服を見せる」ってことじゃないですか。表情はフラットに、服を引き立てるように、ってなると思うんですね。
でも、たとえば今日みたいなのは、見せるものは「僕」でいいわけなんで。僕が楽しんでる方がいいに決まってる。歌もそうですけど。「僕が歌う」ってことを、ちゃんと感じないと、やる意味はないし。僕が服を着る、っていうことを意識しないと意味がない。なんですかね、これが Vetements (ヴェトモン) のルックブック撮影だったら、またやり方は違うんでしょうけど。逆に、僕にはその技術はない、っていうか。楽しくいるしかないんです。あとまあ、工夫しないとモデルさんほどカッコ良く写らない、っていうのもあるんですよ(笑)。やっぱり180何センチもあって顔も小さくて濃い人は、何もしなくてもカッコいいから (笑)。僕なんかは、着飾らないと、戦っていけない。僕が服好きになった理由もそこなんで。そこは、役者としてモデルとは違う風に、振る舞いたいな、っていうところですかね。撮影、楽しかったです。
―プライベートでも色んなことにマルチタスクでチャレンジされてますが、切り替えはどうしてます?
たとえば洋服を作ってるのは完全にプライベートですし、今やってることは全部好きでやってることなんで…しんどいってなることはないですが、単純に、時間が足んないな、って思うときはありますね。こんなに仕事してても、プライベートの方が忙しい、みたいな (笑)。そんなときは、切り替えっていうのは、「気分」でやってますね。あと、僕がやりたくてやってることは、一人じゃできないことが多いので。その日会える人と、一緒に何かやる、っていう楽しみもあるし。もちろんパッとした思いつきじゃなく、長期的に計画を立ててやってることもありますけど。一回立てた計画はちゃんと遂行します。それはお金をもらってやってることじゃないから。自分の好きなタイミングでいいのかなって。
―お仕事でも、今年は歌手デビューを果たし、次は監督デビューもあるのでは? 監督業も軽々とこなしてしまいそうですが。
うーん…これは、僕が撮らなきゃダメだな、っていうテーマじゃない限り、安易にやらなくてもいいような気が今はしてて。僕、漫画が大好きで、これが映像化されるなら自分が演じたい、って思うことが多々あるんですよね。この役は絶対僕がやりたい!ってよくマネージャーさんにも伝えているんです。今はまだ、この作品を僕が映像化したい!より、演じてみたい!という欲の方が先にきます。音楽も、以前はまったくやろうと思ってなかったんです。つい数ヶ月前までは。それが『キセキーあの日のソビトー』のグリーンボーイズでそんな流れになって、CD出すことになるなんて、思ってもなかったのでこの先も何があるか分からないです。
―次にやってみたいことは?
どうでしょう。基本的に好奇心の塊なので。知らないものが好き、見たことないものが見たい。だから、この質問の答えがあるとしたら、それを僕は今まだ知らない、ってこと。だってこれがやりたい、って思ってたら、僕ならもうやってると思います (笑)。
<プロフィール>
菅田将暉 (すだまさき)
1993年2月21日生まれ。大阪府出身。TOPCOAT 所属。15歳で第21回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでファイナリスト12人に選出される。『仮面ライダーW』にてシリーズ最年少で連続TVドラマ初出演にして主役を飾り、2013年には青山真治監督作品『共喰い』の主演で第37回に本アカデミー賞新人賞を受賞。主な作品は『王様とボク』、『そこのみにて光輝く』、『暗殺教室』、『ディストラクション・ベイビーズ』、『セトウツミ』等。