Maiwenn
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映画監督・Maiwenn (マイウェン) インタビュー

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かつて激しく愛し合い、そしてゆっくりと息切れしていく元夫との波乱に満ちた10年間を巡る愛の物語、『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』。2015年に主演女優の Emmanuelle Bercot (エマニュエル・ベルコ) がカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したことでも話題になった本作が、いよいよ3月25日より公開される。

映画監督・Maiwenn (マイウェン) インタビュー

かつて激しく愛し合い、そしてゆっくりと息切れしていく元夫との波乱に満ちた10年間を巡る愛の物語、『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』。2015年に主演女優の Emmanuelle Bercot (エマニュエル・ベルコ) がカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したことでも話題になった本作が、いよいよ3月25日より公開される。

スキー事故で膝に大怪我を負い、リハビリ施設にやってきた弁護士のトニー。膝と共に心理カウンセリングを受けることから、物語は動き始める。施設で出会った”過去”の自分を知らない仲間たちに囲まれて自身の肉体の痛みと向き合うリハビリの日々は、やがて彼女を元夫ジョルジオと過ごした愛憎の10年へと想いを誘なってゆく。運命的な出会いから夢中で愛し合った日々、そして結婚・出産を経て二人で築いた愛の帝国、幸せが頂点に達した頃に鳴り響いてきた崩壊の音、途端に訪れる波乱の日々…。

この施設でトニーが経験するのは、かつて彼女の魂を支配していた愛しい”王様”ジョルジオの呪縛から解き放たれる旅路であり、ジョルジオとの長きにわたる関係で傷ついてきたトニー自身の心のリハビリでもあると言えるだろう。肉体の直接的な痛みが心理的な痛みや反復・葛藤を喚起させ、そして自分の肉体と魂を見つめ直してゆくという手法で物語は織り成されてゆく。

© 2015 / Les Productions Du Trésor - STUDIOCANAL - France 2 Cinéma - Les Films de Batna - Arches Films - 120 Films – All Rights Reserved

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中でも印象的なシーンで、カウンセリング中に「膝の痛みには諦めや譲歩を伴う」と話す医師のセリフがある。

「フランス語では”膝(genou/ジュヌ)”というのは、”私”の”je/ジュ”を意味します。日本語では翻訳しにくいと思いますが…。その瞬間の心の状態の影響を示しているのではなくて、過去の心のことを表しているのです。このカウンセリングで、医師が”体の肉体の中で、膝だけが、後ろ向きにしか曲げられない”と話すセリフがあります。”後ろ向き”というのは、すなわち”過去”を表しています。つまち”膝”とは”過去”なのです」。

そう答えるのは、本作の手綱を握る Maiwenn (マイウェン) 監督。前作『パリ警視庁:未成年保護部隊 (POLISSE)』(2011) でカンヌ映画祭審査員賞を受賞し、また『レオン』(1994) や『フィフス・エレメント』(1997) など女優としても多数活躍している Maiwenn の独特で時に残酷な視点は、トニーが自分の”王様”である元夫ジョルジオに真綿で首を絞められるように心地よく支配されてゆく様子が、時に細やかに時に鬼気迫ってくる迫力から目を背けることを許さない。また監督はこう言葉を続けてくれた。

「この”私の王様”(モン・ロワ)というタイトルには、幾つもの意味があります。第一義的な意味は、ストーリーの最初の頃に、本当にトニーがジョルジオに夢中になって”私の王様”と賛美するシーンに象徴されている、彼らの一番幸せな頃の、ジョルジオが”王様”だったという意味。二つ目は、関係がうまくいかなくなって少しずつジョルジオがトニーを支配するようになり、とても独裁的で、どちらかというとクレイジーないじわるな”王様”です。この二つの意味を、このタイトルに込めています」。

モデルや美女たちと派手な関係を持ってきたジョルジオに対して、決して美人の類ではなく引け目を感じてしまうトニー。その関係性の上でめくるめく、軽やかだけど”NO”と言わせない手慣れた誘いの手腕。まるで食材のように扱われる、キッチンでの激しいセックス。それでいていつまでも断とうとしない昔の恋人との関係や、派手な友人達との乱痴気騒ぎ。やがて始まる強引で自分勝手な別居生活、それでも離婚には同意せず、離婚後もトニーとの関係を迫り続ける”王様”ジョルジオ…。しかしトニーは周囲からどれだけ反対されても、決して彼との人生を諦めることをせず、ファイティングポーズを崩さない。そもそもスキー事故にあった時も、息子の制止する声を振り切ってまで前へ進み、それで大怪我を負うことになったほどなのだから筋金入りの猪突猛進な性格なのだ。

そんな一途な弁護士トニーを演じるのは、『なぜ彼女は愛しすぎたのか』(監督・主演) で14歳の少年に溺れる大人の女性を熱演した Emmanuelle Bercot。愛に溺れる様を生々しく戦う雄々しい女性を演じるフランス女優として、いま一番脂がのっている存在だ。そして彼女を振り回す奔放で激情的な元夫ジョルジオ役には、『憎しみ』(1995) や『ブラック・スワン』(2010) などフランス映画男優を代表するひとりの Vincent Cassel (ヴァンサン・カッセル) が華々しく登場。またこの映画に登場するもう一組の若いカップルとしてえ、Louis Garrel (ルイ・ガレル) と Isild Le Besco (イジルド・ル・ベスコ) が脇を固めているのも見逃せない。ヌーヴェル・ヴァーグの孫世代を代表するこの二人は、長きに渡るトニーとジョルジオが巻き込まれる大嵐の10年を見守る灯台のような存在として、物語とトニーを支え続けている。

Emmanuelle Bercot は本作で、Maiwenn 監督の前作『パリ警視庁:未成年保護部隊』(2011) に続く出演作品となる。また彼女は『なぜ彼女は愛しすぎたのか』(2004) や『太陽のめざめ』(2015) (主演:カトリーヌ・ドヌーヴ/フランス映画祭2016公開作品) など、女優業のみならず監督作品も数多く手がけている彼女。同じく女優・監督の両分野で活躍している Maiwenn 監督とベルコとは、実際に撮影現場で、どのようなやり取りがあったのだろうか。

Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

「ベルコは女優だけでなく監督業も行っているので、監督としての自分が女優の演技として滲み出る傾向があるんです。私としては自分を投げ出して演技してほしいと思っていたんですが、彼女は自分がいま演じている演技を客観的に見ている監督としての自分が常にいるんですよね。だから私は彼女に、そうじゃなくて本当に自分を投げ出してほしい、本当に自分でコントロールしたりしないで、と伝えるようなやり取りが何度かありました。

また彼女は当初、今回の役柄に対してかなりのプレッシャーを感じていました。メモやノートを取るなど総準備をして、全身全霊で臨もうとガチガチに息苦しいほどの気持ちになっていたんです。”自分がどうしてこの役に選ばれたのか、全くわからない。だからすごくうまくやらなきゃいけない”。そういう気負いがあったようです。でもそれは監督である私にとってポジティブなことでした。なぜならそのプレッシャーは、”ジョルジオがなぜ私を選んだのかわからない”と戸惑っているトニーの心境と重なり合うので、それはすごくいいことだと思ったんです。それでもあまりにも緊張していたので、監督として私の役柄というのは彼女の溢れる気負いをやわらげるというのが、現場での私の役割でしたね」。

その結果、2015年のカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したのだから、ベルコとマイウェンのコンビネーションは120%以上の成功をおさめたのだと言えよう。静かに自分の肉体と痛みに向き合う日々と、かつて過ごした激しく巡る想いの旅路。”静”と”動”の緩急をつけてドラマチックに描かれ、破壊の後の静けさが不気味に優しく響き渡る。

「何もなかったかのように普通に歩けるようになる?」

「それは無理だ。何年もかかるし、完全に昔の通りにはいかない」

リハビリ中に仲間と交わす何気ない会話の一節だが、これは現在の彼女自身の人生を述べていると言えよう。リハビリ施設で巡らせたこの魂の旅路はやがて、トニーに新たな感情と関係を与えてくれることになる。このささやかで切ないハッピーエンドは、見る者全てに不思議な希望を与えてくれることだろう。

<プロフィール>
Maiwenn (マイウェン)
1976年4月17日、パリ近郊のレ・リラにて生まれる。本名は Maïwenn Le Besco (マイウェン・ル・ベスコ) で、Isild Le Besco (イジルド・ル・ベスコ) は妹、母は女優として活躍した Catherine Belkhodja (カトリーヌ・ベルコジャ)。母親が彼女をスターにすべく、3歳の頃から子役として数多くの作品に出演させられていた。1991年に Luc Besson (リュック・ベッソン) に出会ったことから自身の天職に気づき、女優業を一時休止。1993年にベッソンと結婚し、『レオン』(1994) で小さな役を演じた以外は、1996年に『フィフス・エレメント』(1997) のディーバ役を演じるまで映画出演はなかった。だが、ベッソンとは1997年に破局、そのショックで一挙に太ってしまったという。その後、女優に復帰すべく演技を学び直し、最初は舞台で、次いで2003年に Alexandre Aja (アレクサンドル・アジャ) 監督の『ハイテンション』(2003) で映画にも本格復帰。さらに Claude Lelouch (クロード・ルルーシュ) の『Les Parisiens』(2004)、『愛する勇気』(2005) にも出演。そして2006年には『Pardonnez-moi』で監督デビューを飾る。2009年には長編第2作『Le Bal des actrices』を、2011年には第3作『パリ警視庁:未成年保護特別部隊』でその演出力も認められ、セザール賞の最優秀作品賞のほか監督賞、脚本賞にもノミネート。名実ともにフランス期待の女性監督に。さらに本作では、カンヌ映画祭に正式出品され、主演のエマニュエル・ベルコに女優賞をもたらしたほか、セザール賞の作品賞、監督賞にふたたびノミネートされた。

作品情報
タイトル モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由
原題 MON ROI
監督 Maiwenn (マイウェン)
出演 Emmanuelle Bercot (エマニュエル・ベルコ)、Vincent Cassel (ヴァンサン・カッセル)、Louis Garrel (ルイ・ガレル)、Isild Le Besco (イジルド・ル・ベスコ)
製作年 2015年
製作国 フランス
上映時間 126分
配給 アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル
HP  http://www.cetera.co.jp/monroi
© 2015 / Les Productions Du Trésor – STUDIOCANAL – France 2 Cinéma – Les Films de Batna – Arches Films – 120 Films – All Rights Reserved
3月25日 (土) YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開