valentina magaletti

Valentina Magaletti が刻む、即興の美学。東京の街でルメールをまとって

LEMAIRE (ルメール) が注目するアーティストのひとり、ロンドン拠点のドラマー、パーカッショニスト、作曲家の Valentina Magaletti (ヴァレンティーナ・マガレッティ) をご存知だろうか。ソロ名義におけるブランドとのコラボレーションのみならず、Vanishing Twin (バニシング・ツイン)、Tomaga (トマガ)、V/Z といった関わるプロジェクトの楽曲がコレクションミュージックに加え、定期的に更新されるプレイリストに選定されていることも見逃せない。

彼女の音楽性は、エクスペリメンタルを軸にしながら、リズムの質感を探究する繊細さとパワフルなアティチュードが見事に調和している。ローファイなドローンや、フィールドレコーディング、変調したパーカッションを巧みに組み合わせた壮大な音のコラージュ作品は、いつかの記憶と重なるかもしれない。美術館のホールでかすかに響くサウンドインスタレーションの余韻、ホラームービーのひりひりしたワンシーン、はたまたお気に入りのレストランで過ごした至福のひととき。解釈は人それぞれとしても、想像の翼を授けてくれる奥行きある世界観が魅力だ。

6月1日から9日まで行われた実験音楽、オーディオビジュアル、パフォーミングアーツを紹介するイベントシリーズ「MODE 2024」で来日した彼女に、パフォーマンスの翌日インタビューを敢行。ステージでも着用した LEMAIRE のお気に入りのウェアに身を包み、写真家の野田祐一郎が撮影をした。

valentina magaletti

model: valentina magaletti
photography: yuichiro noda
styling: yoshiko edstrom
interview & text: ayana takeuchi
edit: manaha hosoda

―まずは、ドラムとの出合いとともに音楽的ルーツをおしえてください。

出身地であるイタリアのバーリに住んでいた子供時代、ポップミュージックに夢中になっていました。特にバナナラマやバングルスのような女性バンドのMVを見て、ドラマーに憧れていたんです。それで、地元の音楽学校に通ってドラムを習ったのち、オーケストラでもプレイできるようなパーカッションの基礎を学びました。音楽遍歴としては、さっき話したような80年代のマスロックから徐々にアカデミックなものを掘り下げて、ミニマルな音楽に辿り着いた感じですね。

―今回出演した「MODE 2024」は、草月ホールでの開催でした。過去のインタビューで「フルクサス」(1960年代に誕生し世界的な広がりを見せた、前衛芸術運動および集団)のファンだと読んだのですが、過去にそのメンバーの一人でもあるヨーコ・オノが John Cage (ジョン・ケージ) 等とともにパフォーマンスをした場所でもあります。どんな気持ちでプレイしましたか?

東京に到着するまでの旅路でいろいろあったのですが、その大変さを忘れるくらい素晴らしい空間でした。ちょうど一ヶ月前にロンドンの Tate Modern (テート・モダン) でヨーコ・オノの展示を見たばかりなんです。草月ホールで行われたパフォーマンスの写真や映像も展示されていました。それを思い出して、この場所でライブができることに幸運を感じましたね。ソロ名義では初めての日本公演ということもあり、40分の尺のなかでこれまでのキャリアを遡ることに。それと同時に「フルクサス」にトリビュートするライブを目指したんです。さまざまな表現が語り継がれているムーブメントですが、特に詩とドラミングが好きだったので、壊れたラジオから流れるようなポエトリー・リーディングのサンプリング音を自分のドラミングと組み合わせる方法を取り入れました。私にとってパフォーマンスは、オーディエンスとの対話のようなもの。観客もステージにいるような感覚で、自分はシャーマンのように儀式を執り行い、偶然性のはらんだ音空間をつくりたい。会場のムードやエネルギーを相互的に循環させてこそだと思っています。

―制作においても、即興性を意識することはありますか?

ソロ作品においては、フィールドレコーディングしたものと書き留めているリズムをミックスする方法が多いです。ツアーでいろんな街を訪れるとインスピレーションが湧いてくるので、日常的にスマホでサウンドダイアリーのようなものとして記録しておきます。バンド編成やコラボレーションも度々行なっているので例外もありますが、これまで聴いてきたさまざまなリズムを抽象的にコラージュしている感じかもしれません。とはいえ、すごく無意識的なプロセスではありますが。

―ライブでもプレイしていた最新EPの『Lucha Libre』は、書籍『Basta Now』と連動した作品だそうですね。

本と音楽をリリースする「Permanent Draft (パーマネント・ドラフト)」というレーベルを一緒に運営している、Fanny Chiarello (ファニー・キアレーロ) と始めたプロジェクトです。本のコンセプトは、実験音楽における、女性、ノンバイナリー、トランスジェンダーのアーティストを紹介するというもの。私自身、音楽フェスのキュレーションを任される機会が増えるなかで「実験音楽のジャンルで、ほかの女性アーティストが分からない」と言われ続けて痺れを切らしていたこともあって(笑)。周りにたくさんいるし、この本でリサーチして欲しいという気持ちから、イタリア語で『Basta Now』(「もうやめませんか?」の意)というタイトルにしました。今は3度目の重版が決まっているのですが、初版から順次アップデートするかたちをとり、2700人の名前が記載されています。

―EPにはどんな思いを込めたのでしょうか?

ここまで続けられたのは、すごくラッキーなこと。実験音楽を奏でるアーティストの一人として、何が届けられるか考えた結果、私の名前やパワーを使って、もっと周りのアーティストをサポートできたらという気持ちを込めた一枚です。「音楽にジェンダーは関係ない」という意見も分かるけれど、問題にしているひとたちがいるのであれば、もっと話さないといけないですよね。

―ライブだけでなく、今回のシューティングでも LEMAIRE を着用しています。これまでもブランドと度々仕事をしていると思いますが、どんな魅力を感じていますか?

音楽ディレクターを務めている Cédric Pilooski (セドリック・ピロースキー) を介して、創業者の Christophe Lemaire (クリストフ・ルメール) と出会いました。ショーの音楽を手がけることもありますが、Tomaga の『Intimate Immensity』がリリースされたときには、そのグラフィックを Christophe が気に入って一緒にコレクションを作ったこともあるんですよ。ロンドンのデザインデュオ Ichinori (イチノリ) とのトリプルコラボとして展開しました。Christophe とは先日もパリで会ったばかりで、とても仲良し。ブランドのジェンダーフルイドなスタイルに魅了されています。