2015年ファッションシーンに吹き荒れた怒涛のパワームーブを総まとめ
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2015年ファッションシーンに吹き荒れた怒涛のパワームーブを総まとめ
Edition 2015: Round Up The Power Moves In The Fashion Scene
とにもかくにもデザイナー交代が相次いだ2015年。もはや日常茶飯事のようにも感じられる昨今だが、有名ブランドのトップが交代するとなれば黙ってはいられない。新たな年を迎える前に、この1年に起こった “パワー・ムーブ” を総ざらいしてみよう。
Editor – Shunsuke Okabe
とにもかくにもデザイナー交代が相次いだ2015年。もはや日常茶飯事のようにも感じられる昨今だが、有名ブランドのトップが交代するとなれば黙ってはいられない。新たな年を迎える前に、この1年に起こった “パワー・ムーブ” を総ざらいしてみよう。
<January>
「モードシーンの鬼才が復活」、そのヘッドラインに胸を高鳴らせた人も多いだろう。John Galliano (ジョン・ガリアーノ) による Maison Margiela (メゾン・マルジェラ) のデビューコレクション。ブランドのオートクチュールラインにあたる「ARTISANAL (アーティザナル)」2015年春夏コレクションは、100席程度の小規模なオーディエンスに迎え、渾身の24ルック、そして各ルックのトワレ (仮縫い用のボディ) を披露した。
John Galliano による Maison Margiela が、通常のオートクチュールスケジュールを前倒しして単独によるショーを行ったのも束の間、ミラノでも大きな動きが。Gucci (グッチ) のクリエイティブ・ディレクターに、Alessandro Michele (アレッサンドロ・ミケーレ) が就任。発表から1週間足らずで完成させたという2015-16年メンズコレクションは、ブランドが誇る最高級の素材とテーラリングを、ジェンダーレスという新しいディレクションで強烈なデビューを飾った。なお Alessandro Michele は11月に英国ファッション協会 (The British Fashion Council、通称 BFC) による年に一度のファッションアワード、British Fashion Awards (ブリティッシュ・ファッション・アワード、通称BFA) にて「インターナショナル・デザイナー・オブ・ザ・イヤー」を受賞している。
<February>
ワークウェアをルーツにもつ英国のラグジュアリーブランド、Belstaff (ベルスタッフ) のヴァイス・プレジデント兼デザイナーに就任した Delphine Ninous (デルフィーヌ・ニヌー) によるデビューコレクションを発表。バイカースタイルとソフィスティケートされたスタイリングは、老舗の復活にふさわしい堂々たる佇まいだ。
<March>
パリの老舗クチュールメゾン Carven (カルヴェン) がフレッシュなコンテンポラリーブランドへと変身を遂げたことは、ここ数年の中でも特に業界人の目に印象的に映ったはずだ。その仕掛け役である Guillaume Henry (ギョーム・アンリ) が Carven を辞任することが報じられたのが2014年末のこと。その後同じくフランスのクチュールメゾンである Nina Ricci (ニナ・リッチ) に移籍した Guillaume Henry によるデビューコレクションは、パリ2015-16年秋冬コレクションにて披露。ミニマルモダンな中にリュクスな素材感を存分に生かしたコレクションは、新生 Nina Ricci を強く印象付けた。
一方で Carven の方はというと、同じく3月に新アーティスティック・ディレクターデュオ、Alexis Martial (アレクシス・マーシャル) と Adrien Caillaudaud (アドリアン・カヨド) が就任している。
Nina Ricci の Guillaume Henry、そして Carven の Alexis Martial と Adrien Caillaudaud のデュオに続き、3月は特にデザイナー交代が多く見受けられた。とはいえ、ミラノのスターデザイナー Peter Dundas (ピーター・デュンダス) の Roberto Cavalli (ロベルト・カヴァリ) クリエイティブ・ディレクター就任は、業界筋からすれば順当といったところか。というのも、同氏は2002年より Roberto Cavalli にてデザイナーとして参加している経緯があるからだ。ハリウッドスターばりのブロンドヘアに等しく、ゴージャスなレッドカーペットガウンで知られる同氏による Roberto Cavalli のデビューショーは9月 ながら、それに先立って5月に開催された MET GALA (メット・ガラ) では、 Kim Kardashian (キム・カーダシアン) をはじめとするトップセレブリティたちがこぞって Peter Dundas による Roberto Cavalli のカスタムドレスを着用し、華やかなデビューを飾った。
<April>
昨年10月の創業者の訃報に続き、アメリカが誇るクチュールメゾン Oscar de la Renta (オスカー・デ・ラ・レンタ) のクリエイティブ・ディレクターに就任した Peter Copping (ピーター・コッピング)。デビューショーは、クチュールメゾンならではのブライダルコレクションで披露。今のところプレタポルテ、プレコレクションと続き、メゾンのアーカイブに忠実なクリエイションを展開している彼の真価が問われるのは来年のことになりそうか。
Chanel (シャネル) の天敵、20世紀モードの女帝、ショッキング・ピンクを生んだ女。Elsa Schiaparelli (エルザ・スキャパレリ) の異名は数多く知られている。2013年よりブランドのクリエイティブ・ディレクターに就任した Marco Zanin (マルコ・ザニーニ) のユニーク (?) なコレクションが2シーズンに終わった後指名されたのが、Bertrand Guyon (ベルトラン・ギュイヨン) だ。Christian Lacroix (クリスチャン・ラクロワ)、Givenchy (ジバンシィ)、Valentino (ヴァレンティノ) などで経験を積んだ同氏によるデビューコレクションは7月のパリ2015-16年秋冬オートクチュールコレクションにて披露。メゾンのアーカイブを斬新に生まれ変わらせたコレクションは、各国のジャーナリストから高い評価を得た。
<May>
1月から2月にかけてのメンズ、クチュール、3月のウィメンズプレタポルテ、そして4月のブライダルとノンストップのファッションウィークが続いた後、5月に飛び込んできたニュースが DKNY (ディーケーエヌワイ) の新クリエイティブ・ディレクター就任。ニューヨークのメンズファッションシーンのトレンドセッターであり、International Woolmark Prize (インターナショナル ウールマーク プライズ) のグランプリ受賞者である Public School (パブリック・スクール) の Dao-Yi Chow (ダオイー・チョウ) と Maxwell Osborne (マックスウェル・オズボーン) が選ばれた。
昨今のファッションシーンの一番のトレンドといえば、ヘリテージブランドの再建だろう。先のSchiaparelli 然り、Carven 然り、誰もが過去の栄光が蘇るルネサンスを求めている。Julien Dossena (ジュリアン・ドッセーナ) による Paco Rabanne (パコ・ラバンヌ) も大きな注目を集めているが、今年の5月に新たに発表されたのが、元 Coperni (コペルニ) のデザイナーデュオ Arnaud Vaillant (アルノー・ヴァイヤン) と Sébastien Meyer (セバスチャン・メイヤー) による Courrèges (クレージュ)。60年代のフューチャリスティックファッションを牽引したブランドのリバイバルにあたり両氏は、トラペーズラインのみならず、象徴的なサングラスを現代へと蘇らせた。
<June>
DKNY の新クリエイティブ・ディレクターが注目を集める中、本家 Donna Karan New York (ダナ キャラン ニューヨーク) の創業者でありデザイナーの Donna Karan (ダナ・キャラン) の辞任が大きな話題を集めた。
新生 Roberto Cavalli (ロベルト・カヴァリ) のクリエイティブ・ディレクターに就任した Peter Dundas のデビューコレクションに注目が集まる中、元鞘である Emilio Pucci (エミリオ・プッチ) は一足お先に “リヴァンプ” した姿を披露。イタリアのコンテンポラリーブランド MSGM (エムエスジーエム) の Massimo Giorgietti (マッシモ・ジョルジェッティ) による新生 Emilio Pucci (エミリオ・プッチ) によるカプセルコレクション「THE PILOT EPISODE (ザ・パイロット・エピソード)」は、Peter Dundas 時代に比べガラっとコンテンポラリーにシフトしたクリエイションが光る。なお Massimo Giorgietti による Emilio Pucci のデビューコレクションは9月にミラノにて発表された。
<July>
バカンスに行くのはまだ早い、とばかりに7月に飛び込んできたのが、Stefano Pilati (ステファノ・ピラーティ) の Agnona (アニオナ) クリエイティブ・ディレクター辞任 。とはいえ Agnona の本家メンズ版である Ermenegildo Zegna (エルメネジルド・ゼニア) は引き続き携わるとのことで、9月には日本だけのエクスクルーシブなカプセルコレクション「メイド イン ジャパン」を発表している。なお Agnona の後任には Ralph Laurent (ラルフ・ローレン)、Michael Kors (マイケル・コース)、Jimmy Choo (ジミー・チュー) などで経験を積んだ Simon Holloway (サイモン・ホロウェイ) が就任している。
そして今年のスクープランキングの中でも特に衝撃を与えたのが、Alexander Wang (アレキサンダー・ワン) の Balenciaga (バレンシアガ) 辞任。この辺りから、若手デザイナーが老舗ブランドに起用されることに対して問題視する声が挙がりはじめた。なお Balenciaga の後任には、後述の気鋭デザイナーが就任し話題を集めた。
<September>
比較的穏やかだった8月はどこへやら、9月といえばファッションウィークだ。今年のファッションウィークは初物揃いだ。先の Peter Dundas による Roberto Cavalli、Massimo Giorfietti による Emilio Pucci、そして Arnaud Vaillant と Sébastien Meyer によるクレージュ。それぞれ老舗の復活に業界内から寄せられる関心は高く、来年にかけての更なる飛躍が期待される面々だ。
そして出会いがあれば別れがあるのが世の常。アメリカン・カジュアルのオーソリティである Ralph Lauren (ラルフ・ローレン) が自身の会社から退くことが発表された9月。後任には元 Old Navy (オールド・ネイビー) の Stefan Larsson (ステファン・ラーソン) が就任している。
<October>
さて、天変地異かと思うほどスクープが飛び交った10月だ。まず最初に飛び込んできたのは Balenciaga の後任である Demna Gvasalia (デムナ・ヴァザリア)。自身のブランド VETEMENTS (ヴェトモン) でパリのファッションシーンを牽引する同氏による Balenciaga (バレンシアガ) のデビューは、来年1月の2016-17年秋冬メンズコレクションとされているが、一部の関係者によると2016年プレフォールコレクションでは既に Demna 氏によるクリエイションが披露されているという。
このニュース無くして2015年のファッションシーンを語ることは出来まい。Raf Simons (ラフ・シモンズ) の Dior (ディオール) 辞任。クチュールシーンきってのトレンドセッターである Dior の後任は未定。来る2016-17年秋冬コレクションはデザインチームが手がけるという。
Dior に続いて衝撃を与えたのが、Alber Elbaz (アルベール・エルバス) の Lanvin (ランバン) 辞任。フランスが誇る世界最古のクチュールメゾンを現代へ蘇らせたモード界のプリントとの別れを惜しむ声は、次第に労働訴訟へと発展したが、12月には法廷闘争もひと段落。彼の後を継ぐデザイナーが誰になるのか、その発表は年明けか。はたまた年内にブレイキングが飛び込んでくる…ことはまず無いだろう。
さて、こう書き出しているだけでもいかに今年1年間でファッション業界が大きく様変わりしているかということが分かるだろう。この変革期を遂げ、来年度それぞれのブランドがどのような進化を遂げるのか。そして次に交代するデザイナーは誰なのか…続報待たれよ。