女優・Lou De Laâge (ルー・ドゥ・ラージュ) インタビュー
Lou De Laâge
際立つ美しさの中に強さと脆さを秘めた、若手俳優 Lou De Laâge (ルー・ドゥ・ラージュ)。注目の最新主演作は『美しい絵の崩壊』(2013) や『ボヴァリー夫人とパン屋』(2014) など女性の生き方を丁寧に描く Anne Fontaine (アンヌ・フォンテーヌ) 監督の『夜明けの祈り』だ。信仰と現実の板挟みによって苦しむシスターたちとともに過酷な現実に向き合い、一筋の光となった女性医師を演じる Lou De Laâge に話を聞いた。
女優・Lou De Laâge (ルー・ドゥ・ラージュ) インタビュー
Portraits
際立つ美しさの中に強さと脆さを秘めた、若手俳優 Lou De Laâge (ルー・ドゥ・ラージュ)。Mélanie Laurent (メラニー・ロラン) 監督作品『呼吸—友情と崩壊』(2014) では美しく謎めいた高校生を演じ、Juliette Binoche (ジュリエット・ビノシュ) との共演で話題を呼んだ『待つ女たち』(2015) では恋人を待ち続ける若い娘を初々しく演じて高い評価を得た。注目の最新主演作は『美しい絵の崩壊』(2013) や『ボヴァリー夫人とパン屋』(2014) など女性の生き方を丁寧に描く Anne Fontaine (アンヌ・フォンテーヌ) 監督の『夜明けの祈り』だ。舞台は1945年12月のポーランド。ソ連兵によって身ごもり、心身ともに深い傷を負った修道女たちを救うために、幾多の困難に直面しながらも立ち向かうフランス人医師マドレーヌ・ポーリアックの実話を映画化した本作。信仰と現実の板挟みによって苦しむシスターたちとともに過酷な現実に向き合い、一筋の光となった女性医師を演じる Lou De Laâge に話を聞いた。
—本作は第二次世界大戦直後のポーランドで実際に起こった悲痛な事件をベースにした作品ですが、脚本を読まれた時の率直な感想を聞かせてください。
ポーランドの修道院で行われていたことはとても残酷ですし、それを社会によってひた隠しにされていた事実にもものすごく胸を締めつけられました。でもそこには被害者の女性に医療を施し、心の傷を癒したフランス人医師、マドレーヌ・ポーリアック (映画の中ではマチルドという役名) という人物が実在していて、そのことにとても感銘を受けました。真の英雄とは彼女のような人のことをいうのだと。私がこの女性を演じることで、彼女が行ったことを一人でも多くの人に伝えたいと思いました。あとは、ストーリーが希望に向かって終わるところが気に入りましたね。心が救われる思いがしました。
—一部の歴史専門家にしか知られていなかった事件ということで、かなり衝撃的な内容でした。マチルドは当時でも珍しい女性医師で、大学を出たばかりの若さでこの残酷な現実に立ち向かうわけですが、役作りはどのように行いましたか。
撮影前に助産師と1週間、医師と1週間、つきっきりで指導を受けました。医者としての動作や振る舞いが自然にできるように徹底的にトレーニングを重ねてから撮影に挑みました。私はフランス人医師の役ですが、作品の舞台はポーランドなので、撮影に入る直前の1週間はポーランドの俳優たちと一緒に演技の練習もしました。
—キャストのほとんどがポーランド人俳優という環境の中、Lou さんはポーランド語が話せなかったそうですが、彼らとはどうやって交流をはかったのでしょうか。
逆に話せなかったからこそ、彼女たちと仲を深めていく過程が、映画の中のマチルドと修道女たちが心を通わせていくストーリーと平行していてよかったと思います。フランスとポーランド、医師と修道女というそれぞれ違う世界にいる者たちが少しずつ近づいて、試練に立ち向かう姿をリアルに表現できたかな、と。ただ、ポーランドのスタッフや俳優たちはクランクインのときからとても温かく迎え入れてくれましたし、中には自分でフランス語を勉強して、片言で話しかけてくれる人もいたんです。そういう人の温かさに触れてなんとか撮影を乗り切れました。
—言葉の壁もありながら挑んだ撮影は、小さなコンビニが2軒あるだけのポーランド北部の片田舎で2ヶ月間に渡って行われたと聞きました。なかなか厳しい環境だったと思います。
はい。ポーランドは歴史的に長く暗い時代があって、その過去が今でもどんよりと影を落としています。しかも、今回は廃屋に近い修道院での撮影がメインだったので、私の中にも重々しい空気が流れていました。ここにいるだけで気持が暗くなってしまうような、そういう空気感が画面上にも映し出されていると思います。そうそう、フランスと違って、週に1度しか休みがないというのも個人的にはなかなか苦労しました。私たちフランス人は週に2日しっかりと休みをとりますから、リフレッシュのタイミングがなかなか掴みきれなかったですね。でも、私の中に静かに蓄積した疲労のおかげで、大げさに演技せずともマチルドが過酷な現実に向き合う姿が自然と表現できたとも思います。
—本来の仕事であるフランス軍兵士の医療という激務の合間を縫って、遠く離れた修道院に通い、修道女たちに医療を施す日々を送るんですよね。精神的にも肉体的にもかなりの疲労が伴いながら、無償の人道支援に身を投じたマチルドの強さに胸がいっぱいになりました。作品の中には印象的なシーンはたくさんあるのですが、Lou さんにとって思い出深いシーンはどこですか?
修道院の中で修道女たちがずらっと並んで歌っているシーンですね。監督から、歌に聞き入っているマチルドの表情を撮りたいと言われましたが、私はその必要はないと伝えました。だって純粋にとても感動したから。あともう一つ、修道女たちが私を取り囲んで、腕の中に飛び込んでくるシーンが胸に残っていますね。そう、パンフレットの表紙にも使われている場面です。そしてなにより、シスター・マリア役の Agata Buzek (アガタ・ブゼク) との交流が思い出深いですね。彼女と過ごした時間は私にとって貴重な学びの時間でしたし、撮影期間中の楽しいひと時でした。
—今作はAnne Fontaine (アンヌ・フォンテーヌ) 監督が、Mélanie Laurent (メラニー・ロラン) 作品に出演されていた Lou さんの演技をみて感銘を受け、オファーを決めたと伺いました。Lou さんにとって監督にはどのような人ですか。
Fontaine 監督はフランスではとても有名ですし、一緒に仕事をする前はいろいろと噂も聞いていたんです。どちらかというと冷たくて、厳しい人だと聞いてたのでちょっとドキドキしてたんですが (笑)、実際に会ってみたらとても穏やかで優しい人でした。ただ、仕事をするときには絶対にブレない。とにかく自分がしたいことを淡々とやっていく方なので、こちらはそれについていけばなにも問題がない、そういう大きな安心感がありました。
—では、ここから映画の話から離れて、パーソナルなことについても教えてください。Lou さんが最初に女優を志したきっかけはなんですか?
ん〜、それはとても難しい質問ですね。どうしてあなたはあなたなの?と聞かれていることと同じくらい。私にとっても謎です (笑)。でも、小さい頃から漠然と舞台に立ちたいという強い思いがあって、最初にその夢が叶った時、やっぱりこれは単なる夢じゃなかったんだと気づきました。息をするように、水を飲むように、私にとって表現をするということは生きていくために必要なことなんだとわかったんです。
—今後やってみたい役柄はありますか?
もしかしたらできないんじゃないだろうかというような難しい役に挑戦してみたいですね。実際にそういう役があったらとても苦しむでしょうが、自分に新しいものをもたらしてくれるんだろうと思っています。
—一緒に仕事をしたい監督はいますか?
たくさんいすぎてどうしていいかわらかないくらいです!欲を言えば、Quentin Jerome Tarantino (クエンティン・タランティーノ)、Jim Jarmusch (ジム・ジャームッシュ)、Steve MacQueen (スティーブ・マックイーン) と一緒にやってみたいですね。
—今回はフランス国際映画祭のために来日されていますが、もし、日本で休みがあったら何をしたいですか?
とにかく街を散策したいですね。気になった店や通りにふらっと立ち寄ってみたい。昨日は少しプライベートの時間があったので、一緒にフランスから来ていた友達と散歩をしながら、偶然見つけた居酒屋で食事をしたんです。日本語のメニューしかなかったので、ほかのテーブルで食べているものを指差して「あれ、ちょうだい!」ってオーダーして (笑)。店の雰囲気が独特でとってもおもしろかったですね。
—ふだんのリフレッシュ法はどうしていますか?
特別なことはしないんです。仕事柄、いつもあちこちに行ってたくさんの人と会っているので、休みのときくらいは好きな人とゆっくりと過ごすのが一番ですね。そういう時間があることで、自分にとって大切なものが何かということがわかるし、それが自分の基盤を築いているんだと思います。
<プロフィール>
Lou De Laâge (ルー・ドゥ・ラージュ)
1990年、フランス・ボルドー生まれ。ジャーナリストの父と画家の母を持つ。パリのエコール・クロード・マチューで3年間学んだのち、モデルとしてキャリアをスタート。それからまもなく女優の道を歩み出し、2010年に2本のTVシリーズに出演していこう、数多くの映画、TVドラマに出演している。Christian Duguay (クリスチャン・デュゲイ) 監督作品『世界にひとつの金メダル』(2013) と Mélanie Laurent (メラニー・ロラン) 監督作品『Respire』(2014/未) で、セザール賞の有望若手女優賞に2年連続でノミネート。そのほかの主な出演作に Frédéric Louf (フレデリック・ルフ) 監督作品『女の子が好き』(2011/未/フランコフォニー映画祭での上映)、Piero Messina (ピエロ・メッシーナ) 監督、Juliette Binoche (ジュリエット・ビノシュ) 共演作『待つ女たち』(2015/未/イタリア映画祭での上映) などがある。
作品情報 | |
タイトル | 夜明けの祈り |
原題 | Les innocentes |
監督 | Anne Fontaine (アンヌ・フォンテーヌ) |
製作 | Eric Altmeyer (エリック・アルトメイヤー)、Nicolas Altmeyer (ニコラ・アルトメイヤー) |
出演 | Lou de Laage (ルー・ドゥ・ラージュ)、Agata Kulesza (アガタ・クレシャ)、Agata Buzek (アガタ・ブゼク) |
配給 | ロングライド |
製作国 | フランス、ポーランド |
製作年 | 2016年 |
上映時間 | 115分 |
HP | yoake-inori.com |
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8月5日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開 |