サウスロンドン発ソウルシンガー、Sampha (サンファ) インタビュー
Sampha
Kanye West (カニエ・ウエスト)、Frank Ocean (フランク・オーシャン)、Solange (ソランジュ)、Drake (ドレイク)、SBTRT (サブストラクト) を始めとする大物アーティストらとのコラボを次々に果たしてきた Sampha (サンファ)。才能溢れるミュージシャンたちからのラブコールが止まない彼から、今回はフジロックの会場で話を聞いた。
サウスロンドン発ソウルシンガー、Sampha (サンファ) インタビュー
Portraits
3歳でピアノと出会い、10代で既に曲を書き始めたという Sampha (サンファ)。長い音楽経歴、そして錚々たるメジャー・アーティストたちとのコラボを数々果たしてきているということもあり、多少の威圧感と重々しさを想像していた。しかし、実際に現れたサンファは、可愛らしくてとてもフレンドリー。笑顔を絶やすことなく、幸せに包まれるような柔らかい声で質問に快く答えれくれた。この脆く美しい声こそが、彼の歌声の魅力である。その美しさに更にパワフルさが加わったフジロックでのパフォーマンスでは、Sampha だけが織りなすことの出来る何とも言えない世界観を繰り広げられ、オーディエンスは皆、その異空間にみるみると惹き込まれていた。力強さと繊細さを見事に兼ね備えた絶妙のバランスが、我々を彼の深い音楽の旅へと誘うのである。
先日、今年2月にリリースされた待望のデビュー・アルバム『Process』が、英国で最も優れたアルバムに贈られる権威のあるショーとして知られるマーキュリー賞を受賞し、益々の活躍が期待されている Sampha。そんな彼は今、どのような音楽に興味を持ち、何に魅力を感じ、どこから刺激を受けているのか。今、若者の間で徐々に人気のヒップ・エリアとなっているサウスロンドンで生まれ育った彼に話を聞いた。
—ビートメーカーとしても活躍するあなたは、様々なアーティストとコラボしていますよね。そんなあなたが、今興味を持っている、もしくは面白いと感じるアーティストはいますか?
いるよ。KELLY LEE OWENS (ケリー・リー・オーウェンズ) っていうウェールズ出身の女性アーティストは面白いと思う。あとは、Owen Pallett (オーウェン・パレット) や Kendrick Lamar (ケンドリック・ラマー) もそうだし、Thundercat (サンダーキャット) もいいよね。
—Thundercat も今回フジロックでプレイしますが、彼のショーは見れそうですか?
残念だけど、明日帰らないといけないから見れないんだよ。このあと韓国でフェスがあるんだ。
—そうなんですね。Thundercat のどこに魅力を感じますか?
彼の曲構成が好き。ボーカルも素晴らしいし、彼のアルバムは全作最高のアルバムだと思う。それに、あのキャラクターも彼ならではだよね。
—あなたは The xx (ザ・エックス・エックス) の「Basic Space」のリミックスを手がけていますし、彼らとツアーでも一緒でしたよね。
同じレーベルだから、彼らのことはかれこれ8年くらい知っているんだ。お互いに自分たちの音楽の旅を見守って来た。でも、アメリカで彼らと6ヶ月くらいツアーで一緒に時間を過ごしたから、前よりももっと彼らと近くなったかもしれないな。
—一緒に過ごしたツアー期間中からの思い出、何か面白いエピソードや出来事はありますか?
ホッケーとカーレースとバスケが混ざったような変なゲームをしてたな (笑)。ツアー中って、暇な時間も多くてさ、あれは楽しかった (笑)。あと、アメリカでは野外の会場で演奏する機会も多くて、あれはすごく気持ちが良かった。二日に一回はフェスでプレイしていたからね。彼らと一緒にアメリカという国を見て感じることが出来たのは、本当に良い経験だったよ。
—私達が知らないであろう、長く彼らと時間を共にしたあなただけが知っている The xx の一面は何かあります?(笑)
ははは (笑)。それはないけど、彼らはすごく謙虚なんだ。そこは、音楽を聴いているだけではわからない部分だよね。
—ロンドンで生まれ育ったあなたですが、ロンドンという街、もしくはあなたが生まれ育った時代があなたの音楽に何かしらの影響を与えているとは思いますか?
150%そう思う (笑)。
—それは結構な数字ですね (笑)。実際どのように影響されているのでしょう?
ロンドンはすごく折衷的な街で、様々な文化がミックスされている。だから、本当に沢山の種類の音楽に囲まれているし、アクセスすることが出来るんだ。ジャズ、ダブステップ、ハウスはもちろんだし、特にエレクトロニック・ミュージックに関しては常に先を行っている。そういった音楽のプラットフォームになっている街なんだよ。小さいクラブから大きいクラブ、様々な音楽のためのベニューも沢山あるし、音楽的にすごく良い環境だと思う。グライムなんかはイースト・ロンドン発祥だしね。
—日本の若い世代は、“現代” の音楽を主に聴く傾向があります。イギリスでは、若い人たちはどのような音楽の聴き方をしていますか?皆、どのように新しい音楽を見つけているのでしょう?
やっぱりインターネットだよね。それがあるからこそ、昔の音楽を見つけることも出来る。でも、それに限らず、例えば僕の場合だと、親戚が聴いていた音楽から自分が好きなものを発見することもあったし、兄からも色々と教えてもらった。あとは友達同士の情報交換だね。でもやっぱり、今はインターネットの影響が強いんじゃないかな。ネット上でのコミュニティも色々あるし、何か好きな音楽を発見したら、それを深く掘り下げることが出来るから。僕の場合は家族や友達の影響が大きかったけどね。
—音楽的な影響と言えば、あなたはプロデューサーの Kwes (クウェズ) から大きな影響を受けたそうですね。彼が自分の人生を変えたとも話していましたが、彼はあなたの人生をどう変えたのですか?
僕が彼に出会ったのは18歳の時だったんだけど、当時は、アーティストとして黒人男性であること、またはその気持ちを歌うということが、今のようには受け入れられていなかった。それをやると、弱いと受け取られたり、少し変だと思われていたんだ。でも Kwes は、それを堂々とやっていいんだ、自分が表現したいことを自由に表現していいんだ、という自信を与えてくれた。特に、黒人に対するステレオタイプや、黒人であるからこそ僕たちが抱えているプレッシャーだね。そういったことに関して歌う勇気を与えてくれたのが彼なんだ。
—あなたが最近民族音楽にハマっていると聞いたのですが?
民族音楽全体というよりは、西アフリカの音楽だね。
—そうなんですね。西アフリカの音楽以外で、何か新しい民族音楽の発見はありました?
いや、そこまでは。フォークも民族音楽と言っていいなら、フォーク・ミュージックにはハマっているけどね。あと、最近少しガムラン (インドネシアの民族音楽) も聴いているよ。
—ガムランですか。面白いですね。ガムランはどのようにして知ったのですか?
インターネットだよ (笑)。たまたま聴こえてきて、面白いなと思ったんだ。
—民族音楽の魅力って何だと思います?
エレクトロニック要素のなさと、やはり自分にとって未知の世界であるということ。言語もだし、リズムもすごく新鮮。自分が聴き慣れている音楽との違いが魅力だね。特に西アフリカのマリの音楽が好きなんだけど、女性ヴォーカルも美しいし、すごく土っぽくてスピリチュアルなところに惹かれるんだ。
—自身のソロ・プロジェクトでももちろん、SBTRKT (サブストラクト) とも来日しているあなたですが、来日した時はどのように時間を過ごしているのでしょう?お気に入りの場所はありますか?
ないよ (笑)。まだ日本にゆっくりと滞在出来たことがなくてね。時間がなくて、日本をしっかりと経験したことがないんだ。でも、食べ物は楽しんでるよ。カツが大好きでさ (笑)。あと、温泉には行ったな。外にあるやつで、最初はどうしたらいいかわからなかった (笑)。でも、すごく良い経験だったよ。
—確かに、海外の人たちにとっては、初めての温泉は冒険ですよね (笑)。では、少しファッションについて質問させて下さい。ファッションにおいて、あなたが何か意識していることはありますか?
そうだな…僕はスポーツ系のファッションが好きなんだ。だから、フォーマルなものを着る時も、スポーツ系と組み合わせたりしてるよ。あとは僕はカラーが好きで、カラフルなジャケットやミリタリー柄の服を着るのも好き。ファッションには日に日に関心を持つようになっていて、スニーカーの数もどんどん増えてるんだ (笑)。
—ファッションのインスピレーションはどこから得ていますか?
ロンドンには色々な格好をした人がいるから、買い物に行くだけでもインスパイアされるし、アーティストから影響を受けることもあるね。あと、Wales Boner (ウェールズ・ボナー) のコレクションのために音楽を作ったことがあるんだけど、あれも刺激的だったな。
—どのような刺激を受けました?
新しい挑戦だったし、すごく面白かった。彼女のアプローチはすごく知的で、しっかりとしたテーマがある。それに合った作品を作るというのはタフだったけど、そのぶんすごくやりがいがあったし、作業していて楽しかったんだ。いい経験になったよ。
—自分の音楽を作るのとはアプローチは違いましたか?
全然違ったね。自分のために音楽を作るのとは違って、既に決まったコンセプトやテーマの周りに音楽を作っていかなければならないし、プレッシャーも大きかった。ファッション業界って、色々なことが進むペースがすごく早いんだよ。だからダラダラ作ってはいられないし、すごくチャレンジだったね。
—音楽でもファッションでも何でもいいのですが、あなたがこれから試してみたいことはありますか?
実は、自分で服を作ってみたいと思っているんだよ。
—素敵ですね。それは、自分のファッションブランドを立ち上げたいということ?
多分ね。そうかもしれないし、ただ自分のために服を作るだけになるかもしれない。あと、ショート・フィルムを作っているところなんだけど、音楽だけでなく、ストーリーも自分で書いているんだ。近々リリース出来ると思う。自分でも楽しみだね。
—私達も楽しみにしています。今日はありがとうございました!
ありがとう!
<プロフィール>
Sampha (サンファ)
サウスロンドン出身のR&B シンガー/プロデューサー。2009年に The xx の「Basic Space」のリミックスを手がけたことや、Drake の「Too Much」へのフィーチャリング、さらには SBTRKT のデビュー作で収録楽曲の多くでヴォーカルを務め、ツアーも多くの公演でゲストヴォーカルとして参加したことで一躍名前が知られるようになる。2014 年に数々の新人アーティストの登竜門となったきた英 BBC の名物企画「Sound Of 2014」にノミネートされ4位を獲得。2017年、デビュー・アルバム『Process』が、英国で最も優れたアルバムに贈られる権威のあるショーとして知られるマーキュリー賞を受賞。
アルバム情報 | |
タイトル | Process (プロセス) |
アーティスト名 | Sampha (サンファ) |
定価 | ¥2,400 |
国内盤CD | ボーナストラック6曲追加収録 歌詞対訳、解説書付き |
HP | www.beatink.com |