21世紀ロックの女王、St.Vincent (セイント・ヴィンセント) インタビュー
St.Vincent
ミュージシャンとして作品のアートワーク、ステージの衣装など、ヴィジュアル・イメージも自らプロデュースする St.Vincent こと Annie Clark (アニー・クラーク)。熟練したギターテクニック、独創的な美意識、そして生まれながらに持つ気品と凛とした美しさで、ロックの女王の名を欲しいままにする Annie Clark に話を聞いた。
21世紀ロックの女王、St.Vincent (セイント・ヴィンセント) インタビュー
Portraits
2015年にグラミー賞を受賞してから、アルバムのリリースが世界中から待ち望まれていた St.Vincent (セイント・ヴィンセント)。ニューアルバムから先行してリリースされた「New York」は叙情詩的かつドラマチックで、今までに見たことのない彼女の一面にドキリとさせられたリスナーも多かっただろう。
ミュージシャンとして作品のアートワーク、ステージの衣装など、ヴィジュアル・イメージも自らプロデュースする St.Vincent こと Annie Clark (アニー・クラーク)。彼女はここ数年、映画監督としての才能も開花させ、この夏の Hostess Club All-Nighters を皮切りにスタートした「フィアー・ザ・フューチャー・ツアー」のプロモーション映像も自分自身で監督する徹底ぶりで、St.Vincent ワールドに魅了される人々が続出している。熟練したギターテクニック、独創的な美意識、そして生まれながらに持つ気品と凛とした美しさで、ロックの女王の名を欲しいままにする Annie Clark に話を聞いた。
—この「フィアー・ザ・フューチャー・ツアー」を映像でプロモーションしようと思った動機は何だったんですか?
最近は音楽だけでなく、映像で自分の伝えたいメッセージを表現するアーティストが増えたと思います。『The Birthday Party』という短編のホラー映画を監督する機会があって。そのディレクションの経験を経て、どのように映像を作るのか、知識や技術を習得したので、今回のツアーも映像で撮ろうってアイデアが浮かんできました。監督としてどう指示をすればいいのか、そういったアイデアを考えるのも楽しくて。最近は映像も意欲的に手掛けています。
—音楽を作る過程、そして映像を作る過程で似ているところ、もしくは違うのはどんなところだと感じましたか?
音楽と映画の現場で違うって思ったのは、映画の制作がチームプレイが重要だというところだと思います。映像は大勢の人たちが協力し合う必要がある。自分にとって音楽というのは、自分ひとりか、プロデューサーとふたり、もしくはもうひとり参加してくれるミュージシャンがいるくらいで、大体が少人数での作業が多いんです。映画の場合はチームプレイで、色々な部門があって、その部門の数は音楽と比較しても全然違います。関わっている人の量も多いし、判断を下さなければいけない案件がとても多いっていう違いを実体験で感じました。共通する部分を挙げるとすれば、どちらも大きな作品の物語の中で、構成する小さなエレメントを作っていき、その集合体が作品ひとつになる、その工程自体は同じだと思います。
—個人プレイ、もしくは少人数で取り掛かる音楽制作の中で孤独を感じたりすることはありますか?
勿論強く感じますね。でもその孤独のおかげで、自分が行き着ける場所があると信じています。その場所を追求するのはとても大切なプロセスだと思うのですが、どこかのタイミングで客観視したり、他の人を受け入れたり、ひとりで取り掛かっていたその空間に空気を通す作業がいつなのか、タイミングをしっかりと把握しておくことも凄く大切だと思います。
—以前、アルバムをリリースすることを子育てに例えていたインタビューを読んだことがあってとても興味深いと思いました。これから発表されるアルバムはどんな風なことを意識してましたか?
実際、私は子供を産んだ経験がないのに、そんな風に子育てとアルバムの制作を比較したら、世界中のママを敵に回してしまいそうね。アーティストとして一つの作品を作るうえで指針になるのものっていうのは自分の直感ですよね。なので自分の直感に頼るしかないってこともある。どんなプロジェクトであろうと私はその直感を大事にしています。今回の制作に関しては、この曲はこれで完成だって思えるところまでとにかくやる、自分の心の中でまだまだいけると思ったら、自分が納得できるまでとことん追求するし、完全に納得できたら「もうはい、これは完成」ってアウトプットして、次に進む。この作品では自分の中にある直感、指針に従うことを自分の中ですごく意識しました。
—今回、来日のためにプロモーション映像を制作して、それを拝見しました。アルバムのコンセプトをその映像の中でも語っていましたが、実際のコンセプトはどんなものなのでしょうか?
そうね、あんなにグダグダした答えがコンセプトだと思われちゃうと困るからちゃんと説明するわ (笑)。アルバムタイトルである「MASSEDUCTION」というのは造語で、大衆 (MASS) を誘惑する (SEDUCTION)、自分に取り込むという意味を込めているの。それと同時に MY SEDUCTION 、私自身が誘惑されるというふたつを兼ねていて、アルバム全体としては、いわゆる権力というか、人を飲み込んでしまうような影響力がテーマになっているわ。性的なものであったりとか、政治、薬物だったりとか、人を飲み込んでしまう誘惑が今回のアルバムのコンセプトになっているわ。
—アニーさん自身はどんなものに誘惑されますか?
誰もが何かしら、誘惑にかられるものって存在しているわよね。個人的に一番、惹かれるものとしては、自分がやることを全てコントロールできる状態かな。コントロールフリークだから、その状態であることに凄くこだわりがあるの。
—アルバムに先行してリリースされたシングル「New York」は今までになく、心を揺さぶられました。この曲に込められたストーリーはどんなものでしょうか?
私自身、ニューヨークに住んで10年なんです。ある時、ニューヨークの街を歩いた時に、この大都市に来てからいろいろなことがあったなと、ふと思い返すことがあったんです。自分が住んでいるエリアの数ブロックの中でさえも、自分が住む以前から住んでた人たちもいれば、亡くなった人もいる、ニューヨークから離れてしまったすごく親しい友人もいれば、今でも住んでいる友人もいたり、その数ブロックの中でさえ多くの人々が存在し、それぞれにストーリーがある。そんなことを思いながら書いたニューヨークへのラブレターなんです。
—ステージに立つアニーさんの衣装がどれも素敵で、なかなか一番を選べないのですが、トイレ便器のコスチュームで演奏しているのは最高にユニークでした。
あれは監督をやった『The Birthday Party』の映画の中で実際に使った衣装なの。本当はその映画の中で登場する子供が着ていたものだったんだけど、あのパフォーマンスは子供のために開催したベネフィットライブだったのもあって、せっかくだからメンバー全員で子供のためにあの衣装を着ようってことになって、私はトイレを選んだわ。
—普段の衣装と比べてどんな気分でしたか??
実際に着てみたら着心地も良いのよ!あの衣装だとギターは高い位置で持たなきゃいけないんだけど、ちょうど飲み物を置ける場所もあるし、何かと便利だったわ (笑)。
—ギターの話が出ましたが、ギタリストとして長く活躍してきて、自分モデルのギターが発売されるなんて夢のような話ですよね!
ギターをプレイするようになって20年、ツアーに出るようになって10年になるんだけど、あのギター (アニーボール・ミュージックマン) しかレコーディングでは使用してこなかったほどのお気に入りなの。自分にとって一番しっくりくるギターよ。すごく柔軟性があって、本当に使いやすいギターだからもっと多くの人にも使って欲しい。こうやって素晴らしいギターを広められるのはすごく嬉しい。
—これからスタートする長いツアーですが、どんな風にその長いツアーを過ごそうと考えていますか?
ツアーと並行して様々なプロジェクトが進行しているから、そのプロジェクトについてじっくり考えてみたり、アイデアを練ってみたりする時間を自分は必要としていて、長い移動時間をそれに費やせるのはとても都合が良いの。退屈することはきっとなさそうね。
—もし自分が長いツアーに行かなければならないとしたら、家を長く空けなければいけないし、平常心ではいられないです。
私もツアーに出るときはクレイジーになるわ!毎日、違う環境に身を置かなければいけない状況で平常心じゃいられないわよね。
—映像や音楽といったフィールドで力強く自分の世界を展開しているアーティストとして、アニーさんをつい作家 Miranda July (ミランダ・ジュライ) と重ねて見てしまうのですが、女性のアーティストでシンパシーを感じる人はいますか?
Miranda July みたいな素敵な人を彷彿してくれてとっても嬉しいわ。Polly Jean Harvey (PJハーヴィー) に私はシンパシーを感じているわ。
—具体的にどんなところにでしょうか?
堂々としていて、絶対的な存在感があるところ。それと、彼女は醜いものを更に醜く魅せることも、美しく魅せることも、どちらも出来る。その才能が素晴らしいし、憧れますね。
—来日に合わせてつくられた映像の中で「パーティーの招待状はパーティーそのものよりも優れている」っていうくだりがありましたが、これはアニーさんの実体験ですか?
いつだってそうなのよ!私にとって招待状の方が断然パーティーより魅力的に感じるの。その招待状を受け取った時のワクワクがピークで、実際に行くと自分が何をすべきかわからないし、あんまり得意じゃないんだけど、自分の意思ではなくても行かなきゃいけないって大変よね。
—このインタビューがワクワクする楽しいものだったらいいのですが。
とても楽しかったわ!ありがとう。
<プロフィール>
St.Vincent (セイント・ヴィンセント)/Annie Clark (アニー・クラーク)
NYブルックリン在住のアーティスト。ポリフォニック・スプリーやスフィアン・スティーヴンスのツアー・メンバーとして活動を開始。現在までにソロ・アルバム4枚、デヴィッド・バーンとのコラボ作を1枚発表している。3作目『ストレンジ・マーシー』(2011) は全米19位を獲得し、世界中で年間ベスト・アルバム上位を獲得。デヴィッド・バーンとのコラボ作『ラヴ・ディス・ジャイアント』(2012) は各メディアの年間ベスト獲得の他、第55回グラミー賞へノミネートされ話題をさらった。『セイント・ヴィンセント』(2014) は第57回グラミー賞「最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバム」を受賞、USチャート12位を獲得し多くのメディアで年間ベスト・チャート上位にランクインした。2017年6月に突如新曲「New York」をリリース。同年8月に開催された Hostess Club All-Nighters のヘッドライナーとして来日を果たした。2017年10月13日(金)に5枚目となる新アルバム『マスセダクション』をリリース。
HP: ilovestvincent.com
アルバム情報 | |
タイトル | Musseduction (マスセダクション) |
アーティスト名 | St.Vincent (セイント・ヴィンセント) |
定価 | ¥2,490 |
国内盤CD | ボーナストラック1曲追加 歌詞対訳、ライナーノーツ付き |
HP | hostess.co.jp |