映画監督・Wes Anderson (ウェス・アンダーソン) インタビュー
Wes Anderson
Photographer: Takahiro Okawa
Writer: Tomoko Ogawa
日本を舞台に、失踪した愛犬を探す少年と捨てられた犬たちが現代社会の悪に反逆するストップモーション・アニメ『犬ヶ島』が公開した。本作の公開に合わせ『ライフ・アクアティック』(2004) 以来の13年ぶりに来日を果たした監督 Wes Anderson (ウェス・アンダーソン) に、本作への想いを聞いた。
映画監督・Wes Anderson (ウェス・アンダーソン) インタビュー
Portraits
世界で一番かっこいいオタクこと、Wes Anderson (ウェス・アンダーソン) が、ストップモーションのアニメの傑作を再び生み出した。しかも、今回は日本が舞台だという。失踪した愛犬を探す少年と捨てられた犬たちが現代社会の悪に反逆する、『犬ヶ島』は、黒澤明監督が描いた現代劇へのオマージュでもあるという。ウェスの日本映画、日本文化、日本人への愛情が、まさに101分にぎゅっと押し込まれた作品だ。『ファンタスティック Mr.FOX』(2011) も動き回るカラフルなキツネたちに顔を上へ下へ右へ左へと振り回されっぱなしで最高だったが、今作はカラーも動きも日本らしい落ち着きと静けさに満していて、
—いつも以上にのびのびとした作品だと思ったのですが、アニメーションという手法が許す、自由はどこにあると思いますか?
僕がこの手の映画で “自由” という言葉を使うときは、二つの意味合いがあります。実は、自由にはいかないことがたくさんあるので。ストップモーション・アニメの場合、すべてが入念にだいぶ前から準備されている必要がある。たとえば、映画の中に出てくる人間の表現一つをとっても、型に流し込んで作らなきゃいけない。もし、僕がキャラクターをもっと怒らせたいと思ったら、少しの調整だとしてもキャラクターが怒るシーンの2、3週間前には決めていなきゃいけません。ただ、レコーディングに関しては、完全な自由がありますね。リハーサルを録音しているような気持ちで何でも挑戦できるし、その場でアドリブで出てきたことも全部記録して、好きなように編集できる。最も自由に俳優と仕事ができる方法だと思います。
—声の録音以外にも自由さはありそうですが。
ストップモーションだと、想像できることはだいたい実現可能だという事実は、ある意味自由ですよね。誰かにすごく早く走ってほしいと思ったら、好きなだけ早く走らせることができる。実写では、思っても言えないことだけど。でも、僕にとって映画の醍醐味は、俳優と一緒に働けることなので。
—日本の声優陣はどうやって選んでいったんでしょうか?
日本の俳優のキャスティングは、長年友人の KUN (野村訓市) が手伝ってくれました。準備段階で、最初のバージョンとして絵コンテでアニメーションを作ったときに、英語のセリフは僕が、日本語のセリフは KUN が男女の役問わずに全部担当して、それをあとで録音した俳優の声に差し替えたんだけど、メガ崎市の小林市長だけは残しました。もともとはそういうプランではなかったんだけど、すごくぴったりの声だったし、KUN は低い声だけどさらに低い声を出していて。僕らは彼がそんなに低い声でしゃべるとは、想像していなかったんですよね (笑)。
—『ファンタスティック Mr.FOX』のときも思ったんですが、実写に比べて、アニメのときはセリフやキャラの動くスピードがさらに高速になっている気がします。それは意図的なものですか?
僕が大好きな作品に、Howard Hawks (ハワード・ホークス) が監督した『ヒズ・ガール・フライデー』(1986) という映画があるんです。戯曲の映画化なんだけど、脚本は180ページにもわたる長さなのに、映画自体は92分なんです。なぜなら、役者たちの話すスピードが、ものすごく速い。現代の役者にはできないんじゃないかというくらい。こちらが一度ペースを定めてしまえば、観ている人はついてくる。そう教えてくれたこの映画を、常にモデルとしてきました。小津安二郎や Wim Wenders (ヴィム・ベンダース) みたいに、静かでゆったりとした映画ももちろん好きですけど、僕の映画やコメディの場合は、速いほうがしっくりくるなと思います。
—ウェス監督の映画は、そもそも全部のセリフまわしが速いですもんね。
『グランド・ブタペスト・ホテル』のときもそうで、Ralph Fiennes (レイフ・ファインズ) は素晴らしい俳優だけど、そんなに早すぎるセリフまわしはリアリティがないんじゃないかと最初は彼も悩んでいたんです。でも、努力してナチュラルにスピーディーに話せるようになって、最後にはそれを楽しんでくれた。編集すると自然でも、セットでは速すぎるセリフまわしに違和感が出るので。僕の初期の作品、『天才マックスの世界』の頃まで遡ると、自分でもなんでそうしたかがわからないんだけど、僕はストップウォッチを持ち出して、「もっと速くできる! あと2秒減らせる! もう一回!」と繰り返していて、それがあの映画の大きな要素でした (笑)。
—スパルタの体育教師みたいですね。
ほんとだね (笑)。無意識なんだけど、今回、KUN にも全く同じことをさせてたみたいだし。「あと2秒速くできるはず!」って。
—動物の毛がなびいていたり、後ろでネズミがちょろちょろしていたり、静止画なのに常に動いている解像度の高さというか、生きた情報量の多さに感動しました。北斎の「波」のように、静止画の中の動きがインスピレーション・ソースになっていたとか。
止まっているのに動いているように見える、おもしろいですよね。北斎と広重の浮世絵、中でも静止の中で描かれる動きを参考しました。アニメーターのチームに線で書かれた雨を見せて、「雨のときはこんな感じでやりたいんだ」と伝えるのは少しおかしい話ですけど (笑)、最終的に、雨はとても小さなフィラメント糸を使って表現しました。浮世絵と同じような効果を、ストップモーション・アニメで生み出したかったので。
—日本のアニメーションで印象的だった作品はありますか?
僕が忘れられないのは、『新世紀エヴァンゲリオン』のTV放送版の第一話でエレベーターに乗っているロングシーン。観ていて、これはただの静止画なんだと気づいたんです。サウンドは変わっていくけど、アニメーションとしての動きはなかった。でも、その静止している絵が力強いなと思ったんです。
—確かに、本作もアニメのように静止したフレームと小さな動きで
動物の毛が動いているのは、フレームの中はほぼ静止していて、ほとんど犬のクローズアップだし、特に何も起こらないからです。写真でなく、映画でい続けさせるために動かしています。アニメーションの中の静止画は、映画に緊張感という感情を与えるんですよね。この映画は、動き、静止、静けさでできています。誰もほぼ何も言っていないし、音楽はあってもスペアとドラムがまばらにあるだけ。僕は、動きと静止を映画で使い分けることに、かなりハマってるんです。
<プロフィール>
Wes Anderson (ウェス・アンダーソン)
1969年、アメリカ、テキサス州生まれ。『アンソニーのハッピー・モーテル』(1996/日本未公開) で長編映画監督デビュー。続く『天才マックスの世界』(1998/日本未公開)でインディペンデント・スピリット賞監督賞を受賞し、続く『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001) でアカデミー賞®脚本賞にノミネートされる。『ライフ・アクアティック』(2004)、『ダージリン急行』(2007) を経て、初のストップモーション・アニメ『ファンタスティック Mr. FOX』(2011) がアカデミー賞®長編アニメ賞にノミネートされる。さらに、『ムーンライズ・キングダム』(2012) で、アカデミー賞®脚本賞、ゴールデン・グローブ賞作品賞にノミネートされる。そして『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014) が各国で大ヒットを記録、アカデミー賞®9部門にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞作品賞に輝く。自身もベルリン国際映画祭審査員特別賞を始め数々の賞を受賞。
作品情報 | |
タイトル | 犬ヶ島 |
原題 | Isle of Dogs |
監督 | Wes Anderson (ウェス・アンダーソン) |
声の出演 | Koyu Rankin (コーユー・ランキン)、Liev Schreiber (リーヴ・シュレイバー)、Bryan Cranston (ブライアン・クランストン)、Edward Norton (エドワード・ノートン) |
配給 | 20世紀フォックス映画 |
制作年 | 2018年 |
制作国 | アメリカ |
上映時間 | 101分 |
HP | www.foxmovies-jp.com |
©︎2018 Twentieth Century Fox Film Corporation | |
5月25日 (金) 全国ロードショー |