Jockum Halin
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OUR LEGACY (アワーレガシー) 共同創設者 Jockum Halin (ヨックム・ハリン) インタビュー

Jockum Halin

Photographer: Eriko Nemoto
Writer: Manaha Hosoda

Portraits/

「今どのブランドが良いの?」なんて質問を投げかけると、感度の高い男性がこぞって名前を挙げるのスウェーデン・ストックホルム発の OUR LEGACY (アワーレガシー)、ウィメンズも始まりますます勢いを増すブランドのファウンダー Jockum Hallin (ヨックム・ハリン) インタビュー

OUR LEGACY (アワーレガシー) 共同創設者 Jockum Halin (ヨックム・ハリン) インタビュー

Photo by Eriko Nemoto

Photo by Eriko Nemoto

ここ数年、ファッション界におけるメンズブランドの台頭には目をみはるものがあり、女性であってもメンズウェアをワードローブに加えることがスタンダードとして受け入れられるようになってきた。そんな中で、「今どのブランドが良いの?」なんて質問を投げかけると、感度の高い男性がこぞって名前を挙げるのが OUR LEGACY (アワーレガシー) だった。

2005年に Jockum Hallin (ヨックム・ハリン)、Cristopher Nying (クリストファー・ニイン)によってスウェーデン・ストックホルムで活動をスタート。 2007 年に長年の友人であるRichardos Klarén (リカルドス・クラレン) を共同経営者として迎えた OUR LEGACYは、今や信用できるバイヤーやスタイリスト達が一目を置くブランドにまで成長した。

デザインはいたってシンプル。存在感を主張しすぎない自然体なスタイル。それでいてみんながこんなにも惹かれている理由って一体何だろう。勿論、彼らのビジュアルひとつひとつをとっても伝わってくるセンスの良さは理由の1つとして挙げられるだろう。しかし、それ以上に彼らのプロダクトを実際に手に取ってみればわかる、服作りへの真摯な姿勢に心動かされるのかもしれない。

2018年10月には Dover Street Market Ginza (ドーバー ストリート マーケット ギンザ) にて日本では初上陸となるブランドの重要な鍵を握る”リテールのためのプラットフォーム”「WORK SHOP (ワークショップ)」のインスタレーションをインハウスアーティストである Hank Grüner(ハンク・グルーナー) を率いて開催。

ブランド初となるウィメンズコレクションは2019年2月に国内では伊勢丹新宿店限定でローンチされ、ポップアップイベントも開催へ。2019年1月に発表された最新コレクションも高い評価を得て、ますます勢いが止まらない OUR LEGACY のファウンダーである Jockum Hallin に話を聞いた。穏やかな調子ながらも、彼の答えからはインディペンデントでいることへの確固たる信念が率直に伝わってきた。

—まず初めにアワーレガシーを初めて知る読者のために簡単にブランドについて教えて下さい。

はじめまして、私はヨックムといいます。クリストファーと一緒にアワーレガシーを2005年に立ち上げました。私たちは幼なじみで、昔は一緒にアイスホッケーをプレーしていました。そして、グラフィックデザイナーでもあります。バックグラウンドにはアンダーグラウンドなハードコアミュージックがあって、14歳から20代前半までは音楽をやっていました。ツアーに行ったりもしたんだよ。スケートボードやスノーボードも好きです。そういったカルチャーから今の自分が出来上がっていて、私の美的感覚や考え方はそうしたバックグラウンドから作られていきました。クリストファーはアートが好きで、グラフィックデザインだけでなくアートについても勉強していました。

Photo by Eriko Nemoto

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—なるほど。そんな2人がどうしてブランドを始めたんでしょう?

私たちは何か欠けているものを作りたくて、どこにも見つけることのできない服を作ることにしたんです。なりたい理想の人物像を作り上げたかった。アワーレガシーという名前は、次の世代に何か大事なものを渡すというファンタジーから生まれたんです。あと、私たちが前の世代から服を借りたりすることがあるというところからも。私たちの世代にも合うようにフィット感や生地などが調整されたメンズのクラシックな服が見つけられなかったから自分たちでそういう服を作り始めたんです。最初のコレクションはフィレンツェで作った最高のクオリティのTシャツを発表して、そこにグラフィックを施しました。私たちにはDIYの精神があるので、全部自分たちの手でプリントしました。最初はTシャツのコレクションだったのが、数年後にはメンズウェアのコレクションになりました。2007年頃には、ちゃんとしたコレクションとなって発表しました。私たちにはファッションのバックグラウンドがないので、少しずつ進化していったんです。Tシャツがシャツになって、それからパンツへとレベルアップしていったんです。

—デザインはその頃から大きく変化しましたか?

アワーレガシーのコンセプトは、なるべくシンプルかつタイムレス。複雑なディテールだと、すぐ飽きてしまうので。だから、初期の頃は「足す」より「減らす」という概念がありました。ただ、2011年ごろにプランドとしてのポジションが気に食わなくなってきて…。周りの人から期待されるヘリテージやワークウェア、プレッピーっぽい服はもうしたくなかったんです。期待に応えるだけじゃなく、デザインに対して持っている夢を実現したかったんです。その時期から、今のブランドの方向へと向かい始めました。アワーレガシーを革新的で面白いブランドにしたかったんです。ウィメンズウェアもスタートすることで、イメージを完全に仕上げたいと思っています。

—私も含めアワーレガシーのデザインが好きだった女性には朗報ですね。

ウィメンズウェアをずっとやりたかったんです。ファッション業界ではやはり欠かせない部分ですし、ウィメンズにはたくさんの挑戦があって面白いんです。今までメンズに集中してきたのは、ベストなメンズコレクションを仕上げるためでした。メンズのコレクションに今満足しているし、成長したことで知識や予算も十分あるので、これからはウィメンズも発表していきたいんです。ウィメンズを作り始めた時に、「あっ欠けていたのはウィメンズだったんだ」って気づいたんです。それに、ウィメンズとメンズをやることによってシナジーが生まれるんです。例えば、ウィメンズでアイディアが湧いて、考えてみれば実はメンズにそのアイディアを持ってきた方が良かったりとか。いいエネルギーになっています。

—メンズ、ウィメンズ問わず、アワーレガシーにおいて重要な取り組みのひとつとなっているワークショップについても教えて下さい。実際どういうことを行っているんですか?

概念やフィロソフィーがたくさん詰まっています。13、14年間ぐらい服を作ってきましたが、ゴミを出さずに服を作るっていうのは非常に難しいことがわかったんです。どんどん余計な生地がたまっていってしまう。例えば、400枚のシャツを作るためには、500枚のシャツを作るための生地が必要なんです。なぜなら決まった量でしか生地屋は提供してくれないから。そうするとどんどん溜まっていってしまって、それを大きな会社はアウトレットで売るか燃やしてしまうそうです。でも私たちは商品に対して愛と情熱があります。新しいことにも挑戦したいと思いました。エコでクリエイティブなものを作りたくて、ワークショップを始めました。古い材料を新しく、面白いものへ変身させるんです。それがワークショップの基本的な概念です。ワークショップの半分はアトリエで、半分はお店になっています。だから、働く「ワーク」と「ショップ」を組み合わせたんです。シンプルでしょう?クリエイティブだけどごちゃごちゃしていたので、カテゴリーを作ったんです。整理するために。「クラフト」は手作りの限定品で、クリエイティブチームがしたいことが出来るカテゴリー。遊び心があったり、挑戦があったり、僕らにとってのクチュールなんです。「リサイクル」は、手染めをしたりします。売れなかったアイテムも別の色に染めることで売れたりするんです。「アップサイクル」は、5年前ぐらいの古い生地を今っぽく変えるカテゴリー。すべて一点物です。そして、「マーチャンダイズ」もあります。アワーレガシーの在庫を使って作った新しいものは、他の商品より少しストリートウェア感があるかもしれません。ストリートなビジュアルも好きなんです。

—ワークショップで作った中でも特にお気に入りのアイテムを教えてください。

たくさんあります。ビジュアルアーティストのハンクがカスタマイズした服もあるんです。ドーバーストリートマーケットで開催したワークショップでは、お客さんが気に入ったアイテムを彼が直接カスタマイズしたりしました。もし私だったらシアーリングされたベストを選んで、ハンクにアートワークを描いてもらうでしょう。彼らしいスタイルで。私にとってそれは夢のようなアイテムですね。

—ハンクは2017年からアワーレガシーに参加したんですよね。

何年も前のことですが、実は彼はアートの勉強をしながら、私たちのお店で働いていたんです。世界中のアートスクールに通って、やっと帰ってきたんですよ。それで、2017年から一緒に働き始めることになりました。今はプリントなどを手がけてくれています。シルクでできたスカーフとか。

—クリエーションの上で彼とはどのようにインスピレーションを共有したり、コミュニケーションをとっていますか?

アーティストは基本的に自由だけど、他の人に依頼される仕事もありますよね。私たちの場合も両方のシチュエーションがあります。彼にテーマを伝えて、それに沿った仕事を頼むこともあります。例えば次のコレクションがレストランや食べることについてだったら、それにちなんだものを作ってもらう。でもワークショップでの彼は、ヘッドフォンをつけて自由に作業しています。ハンクと一緒に仕事をしようと決めたのは、純粋に彼の作品のビジュアルが好きだから。彼のスタイルは私たちの服にもマッチしていると思っています。彼のスタイルは常に進化しているし、私たちのリクエストも進化しています。彼が普段やらないようなことも頼んだりしています。私たちがハンクにとって楽しくないことを頼んだとしても、そこから彼が自分らしいものを作れば、アーティストとしてさらに進化すると思います。想像していたものと違うものをハンクは作ってくれるので、私たちにとっても非常に面白いんです。いい意味でサプライズなんですよ。

—アワーレガシーは3人で共同経営されていますが、大変なこともあるかと思います。何か3人のなかで決めているルールはありますか?

リカルドが3人目のオーナーです。ファッション業界で3人の経営者がいるっていうのは珍しいですよね。外からの支援や資金もなく、13年経った今でも3人だけなんです。それでも、お互いの家族と一緒にホリデーを過ごすぐらい仲が良い。喧嘩もしませんね。たまに考えが異なることもあるけど、それがあるからこそ面白いんだと思います。お互いが支え合って、もっと良い方向へ成長しようとしています。そういう面では結構ユニークかもしれません。早すぎる段階で資金を受け取る会社もあるみたいだけど、それはお金の問題に発展しかねないと思います。共同経営者のブランドは他にもあるけど、私たちほどインディペンデントなブランドはなかなかないと思います。私たちの精神というのはインディペンデントでいることによって形成されているのです。

—スウェーデンでのあなたたちのライフスタイルを教えてください。

私は、妻と子供2人と一緒に住んでいます。3歳の女の子と5歳の男の子。頭の中を良い状態で保つためには、仕事以外の生活も充実させないといけません。仕事だけでは意味がないんです。家族は大事な存在です。それにスポーツも。子供たちにも今スノーボードを教えようとしています。あと、サーフィンにもよく行きます。ポルトガルやカリフォルニアへ行ったりも。かれこれ5年間ぐらいかな。ちなみに、アワーレガシーでは金曜日の朝にテニスをやります。健康的な生き方を推進していて、オフィスでのランチタイムにランニングを45分ぐらいする人もいます。オフィスにはきちんとシャワーもありますよ。8時間仕事に集中するためには、休憩が必要なんです。みんな外へ行って休憩を取ることを勧めています。音楽も生活に欠かせない要素ですね。ホームページに載せる音楽をミュージシャンに作ってもらったり、DJとも一緒によく仕事しています。一番最近一緒に仕事をしたのは、Baba Stiltz (ババ・スティルツ)。アワーレガシーのLPに彼の曲を収録しています。ベルリンのショップのオープニングパーティーではそのLPをお客さんに配りました。彼とは仲の良い友達でもあります。

 

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—彼も以前来日して渋谷のWWWでDJしていました。映画も見たりしますか?

映画もたくさん見ます。一番最近だと、『君の名前で僕を呼んで』は良い映画でしたね。私たちの写真も撮ってくれているMikael Olsson (マイケル・オルソン) が Luca Guadagnino (ルカ・グァダニーノ) 監督の次の映画(=『サスペリア』)に出てるんです。他にも Jonah Hill (ジョナ・ヒル) が出てる『Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot』(ガス・ヴァン・サント監督最新作、2019年5月公開予定)も好きでした。また音楽に戻ってしましますが、パンクやラップも好きですし、ヒップホップやジャズも聞きます。坂本慎太郎も聴きます。

Photo by Eriko Nemoto

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<プロフィール>
OUR LEGACY (アワー レガシー)
2005年にスウェーデン・ストックホルムで設立されたメンズウェアブランド。2007年からは フルコレクションを発表。ブランド初のフルコレクションが大きな反響を呼び、 翌年にはスト ックホルムのセーデルマルム地区にオンリーショップをオープン。OUR LEGACY のファース トコレクションは、消費主義的な現代ファッションへのアンチな姿勢として、マーケットに迎 合すること無く、真摯に服作りと向き合うことで誕生した。自然体かつ流行に左右されないデ ザインを、最高の素材と技術を用いてプロダクトに落とし込む。そんな普遍的な物作りを核と している。現在は、240を超える世界主要都市のセレクトショップ・百貨店で取り扱われている。

HP:www.ourlegacy.se