Chad moore
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夢のような一瞬を記録する写真家 Chad Moore (チャド・ムーア) インタビュー

Chad moore

Photographer: UTSUMI
Writer: Arisa Shirota

Portraits/

チャド・ムーアは、ニューヨークを拠点に活動する写真家で、もともとは BMX ライダーとして活動していた。そして、過去には世界で最もアイコニックな写真家の1人である、Ryan McGinley (ライアン・マッギンレー) のアシスタントを勤めた経歴を持つ。世界各国で写真展を開催し、次世代を担う気鋭の写真家として注目を集める彼は、どのようなスタンスで創作を続けているのだろうか。agnès b. galerie boutique (アニエスベー ギャラリー ブティック) で4月28日まで開催中の自身の写真展『MEMORIA』のために来日した彼に話を聞いた。

夢のような一瞬を記録する写真家 Chad Moore (チャド・ムーア) インタビュー

人の心を動かす圧倒的な作品は、見ている側が少し不安にさえなるような不確かな要素で遊び、何かを考えさせる余地をどこかに残しているものなのかもしれない。彼の写真からはそれがわかる。ときには水で、ときには光で、ときには花火で遊び、被写体の自然な目線、表情、ポーズを捉える。そこにあるのは、設定された中で生まれる自然さ。彼はあらゆる手段で、写真を見ている側に、面識のない被写体に対して愛おしささえ感じさせる魔法をかける。例えば、モデルがポーズをとっている写真ひとつにしても、単なる綺麗なファッション写真以上の何かがある。完全に作り上げられた美しさだけではなく、どこからか被写体の素顔が滲み出る。理想とされているものだけではなく、どこか不完全で不確かな雰囲気さえあるのだ。でも、それがあるから味が出る。

木曜日の昼下がり、取材場所の agnès b. (アニエスベー) のギャラリーに入ると、そこにはカメラを片手に仲間とじゃれ合う Chad Moore (チャド・ムーア) の姿があった。その表情は本当に嬉しそうで、思わず「かわいい」と漏らすと、彼の友人がすかさずその言葉を繰り返した。

チャド・ムーアは、ニューヨークを拠点に活動する写真家で、もともとは BMX ライダーとして活動していた。そして、過去には世界で最もアイコニックな写真家の1人である、Ryan McGinley (ライアン・マッギンレー) のアシスタントを勤めた経歴を持つ。

世界各国で写真展を開催し、次世代を担う気鋭の写真家として注目を集める彼は、どのようなスタンスで創作を続けているのだろうか。agnès b. galerie boutique (アニエスベー ギャラリー ブティック) で開催中の自身の写真展『MEMORIA』のために来日した彼に話を聞いた。

写真展『MEMORIA』

写真展『MEMORIA』

—ピンクや赤など、カラフルな色が印象的な写真が多いですが、カメラやフィルムは何を使用していますか?

基本的には Yashica (ヤシカ) のT4を使っているんだ。小さくて、手軽にどこでも持って行けるからね。日本で買った方が安いから、日本に来たらつい探してしまう。ほとんどの写真は35mmフィルムで撮っていて、一番気に入っているフィルムは Kodak portra 800 (コダック ポートラ 800)。それ1本で昼も夜も撮れるから、もう手放せないよ。カラーが印象的な写真は、多重露光で撮っている写真かな。透明なビニール袋をレンズに被せて色を出すためだけに1枚目を撮って、その上に2枚目の写真を重ねる。自分で色々と実験してみるのがとても楽しいんだ。

—被写体は人がほとんどですよね。人同士の親密な関係性がわかるような写真や、絶妙な表情を捉えたドリーミーな写真が多い。

写真を撮るということは、人に敬意を表すことだと思っているよ。全て、アーティストやミュージシャンの友達を写しているんだ。彼らには言葉には表せないマジカルな魅力がある。言葉にできないから更に気になってしまうのかも。皆家族のように仲が良くて、今では撮っていることに気づかれないくらい近い関係なんだ。だいたい1週間に20から30ロール分くらいの写真を撮るんだけど、その写真の中で展示したり写真集に含まれるのは1枚くらい。でも、僕にとっては全ての瞬間が宝物。写真を、ダイアリーとしてドキュメントするような感覚で撮っているのかも。写真を撮って、思い出を残している感じかな。

—儚い一瞬の表情をとらえるコツは何ですか?

自然に起こることを、そのままに撮るようにしていて。時には、何か小物をセットしたりすることもあるけれど、そこからは被写体がそこにある環境とどのように関わり合うかが問題になってくると思うんだ。大切にしているのは、制約された環境の中で何が自然発生するかということ。それと、写真家と被写体との信頼関係は、写真を撮る上でとても大切なものだと思っているよ。一番重要なものは、目。写真に映った人の目を見ることで、彼らが撮っている側を信頼しているかどうかがわかるからね。

—写真を通して写真家と被写体との関係性がわかるのですね。

僕の写真に写っている人たちは、僕のことを信頼してくれている。というのも、僕は同じ人たちを何年も撮っているんだ。親密な雰囲気の写真が多いんだけど、実は僕はとてもシャイな性格で。カメラは、自分にとって世界と関わる手段なんだ。それと、写真は現実の世界と、僕の理想とする世界の両方。展示会では、セレクトした写真を並べることで、自分の理想的な世界を表現しているイメージ。

—信頼をベースにした良い関係性を築ける環境があるのですね。

みんな仕事をしていないし、チャイナタウンにある僕のスタジオによく寄ってくれるんだよ(笑)スタジオのドアをいつも開けていて、コーヒーとか、ビールを飲みながらハングアウトするのが日課。ちなみに、僕が住んでいるのもチャイナタウンなんだ。ほとんどの写真は、チャイナタウンやイーストビレッジで撮っている。そこはニューヨークのうちでジェントリフィケーションがあまり進んでいない場所の一つで、70年代のようなオールドスクールな雰囲気が残っている。独特の経済があって、リンゴ1個25セントで売っていたり。ニューヨークの他の場所では2ドルくらいするんだよ。ニューヨーク全体では物価が少しずつ高くなっていて、アートだけを続けていくのは難しくなってきたけど、今はニューヨーク以外に住みたい場所が見つからないっていうのが本音かな。

写真展『MEMORIA』

写真展『MEMORIA』

—10年前ニューヨークに移住する以前は、フロリダ州に住んでいて、そこではプロの BMX ライダーとして活躍されていたんですよね。

BMXは今でもやっていて、ちょうど1ヶ月程前に小指を骨折してしまったんだ(笑)。まあ、その前には両膝と両肘と両足首を骨折しているんだけど(笑)。20歳の頃からプロのライダーとして企業にスポンサーしてもらって、雑誌の撮影なんかで色々なところに連れて行ってもらっていて。フロリダからカリフォルニアへ行くことが多かったかな。世界各国からピックアップされたライダーたちと行ったロードトリップはいい思い出。実は、カメラの楽しさを知ったのも、BMX のおかげなんだ。撮影のとき、あるフォトグラファーが Yashica のカメラを教えてくれて。カメラと BMX って似ていて、そのコミュニティーだったりその文化にあるメンタリティーから人生が大きく影響される。自分の価値観そのものに長期的に影響するものだと思う。それと、旅するっていうことも共通しているし。世界を少し違った視点から見ることができたり、その環境で何ができるか、色々な可能性をよく考えなくてはいけないっていうところも。

—BMX を通してカメラと出会って、NYに引っ越してからはライアン・マッギンレーのアシスタントをされていましたね。

10年以上前にね。ライアンからは色々なことを学んだけれど、写真のことはあまり教わっていないかも(笑)。それと、約1年間の仕事を通して、ニューヨーク中の人の裸を見た気がする。もはや裸に対して何も感じなくなってしまった(笑)。ライアンのチームとは家族のように仲が良くて、彼は僕のお兄ちゃんのような存在。今ではよくプリンタを借りに行ったり、一緒にバーにお酒を飲みに行ったりする関係なんだ。彼を通して出会う人たちも素晴らしい人たちばかりで、彼のおかげで大切な人がたくさんできた。

—ライアンとの撮影で、一番印象に残っていることは何ですか?

これはもう、洞窟での撮影。3ヶ月かけて、14人のクルーでアメリカ中の洞窟に行ったんだ。ときには皆でキャンプをしたり、料理をすることもあって。お金をかけなくても、素晴らしいものが生み出せるんだということを身をもって学んだよ。同じクルーと3ヶ月も1台のバンでロードトリップをするもんだから、色々トラブルやドラマもあったりしてね。楽しそうに聞こえるけれど、やらなくてはいけないことが山ほどあるし、かなりハードなんだ。旅のキツさに耐えられなくなって、脱落して家に帰る人までいたり。洞窟探検のプロでもないメンバーで、ウォールマートのライトを使って、人間が踏み入れたことのないような洞窟の奥まで這って辿り着かないといけない。今振り返ると地獄のようだったかも。(笑)グランドキャニオンの奥の、本当は人が入ってはいけないところで撮影したときは、途中で飲み水を切らしてしまって、人生で初めて本当に死ぬかと思った。でも、仕上がった写真を見ると、最高の作品で何とも言えない気持ちがこみ上げてくるんだ。ときにはモデルが15メートルくらいの高さからジャンプする撮影もあったから、90キロくらいあるマットも自分たちで持って行かなくちゃいけなかった。その洞窟の中に12時間くらい滞在して撮影するもんだから、勿論大自然の中でおしっこもしないといけないし。本当に僕はこんなところで何をしているんだろう…って気持ちだった。(笑)

—元々は趣味だった写真が、今では仕事になっているわけですが、どのようにコマーシャリティとクリエイティビティのバランスをとっていますか?

好きなことを仕事にしていく上で一番大切なことは、自分を律すること。コマーシャルの撮影は、何かを売るために写真が求められているわけだから、クリエイティビティとのバランスを取るのが難しい。妥協しなくちゃいけなくて、魂を吸い取られるような思いをすることも、もちろんあるよ。でも、そういった1つ1つの仕事が、後々展示を開催したり、フォトブックとか、何かクールなものを作る段階に繋がっていくんだと思う。ときには、やらなくてはいけないこともある。その先にはきっと何か良いことが待っているはず。例えば、今回のアニエスベーの展示とかね。こういった機会が、なんで自分が写真を撮っているのかという原点に立ち返らせてくれる。エキサイティングな仕事ができてとても幸せだよ。

—今回のアニエスベーとのコラボレーションに関して、どのように感じていますか?

アニエスはとてもクール。ずっとアーティストをサポートしている人なんじゃないかな。彼女が6000点以上のアートを持っているって、知ってた?それらは売るためのものではなくて、彼女の純粋なアートコレクションとしてのものなんだ。アニエスと仕事ができて、とても光栄に思っているよ。それと、この展示は、今までしてきた中で一番良いものに仕上がったんだ。被写体になってくれた友達が、今回の展示のタイミングで日本に来ることができたことも、最高の気持ちだよ。

Photo by UTSUMI

Photo by UTSUMI

<プロフィール>
Chad Moore (チャド・ムーア)
フロリダ出身で現在はNYを拠点に活動するフォトグラファー。アムステルダムの Foam Museum、アントワープの Stieglitz19、パリの Galerie&co119 など他多数の展示で成功を収めてきた今後の活躍に期待が寄せられるアメリカ人フォトグラファー/アーティスト。

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