優しい眼差しでリアリティを見つめる映画監督、Gus Van Sant (ガス・ヴァン・サント) インタビュー
Gus Van Sant
photographer: Hiroki Watanabe
writer: Tomoko Ogawa
車椅子のカートゥーニスト、故 John Callahan (ジョン・キャラハン) の半生を描いた Gus Van Sant (ガス・ヴァン・サント) 監督最新作『ドント・ウォーリー』が5月3日(金・祝) より公開する。公開に先立ち来日した Gus Van Sant に、John Callahan について、映画を通じて自分を学ぶことについて話を訊いた。
優しい眼差しでリアリティを見つめる映画監督、Gus Van Sant (ガス・ヴァン・サント) インタビュー
Portraits
自分のことを風刺しながら、ギリギリのところで笑いを取る作風で人気を得ていた車椅子のカートゥーニスト、故 John Callahan (ジョン・キャラハン)。2014年に死去した俳優 Robin Williams (ロビン・ウィリアムズ) が長らく構想を練っていた John Callahan の自伝の映画化を、企画から約20年の時を経て Gus Van Sant (ガス・ヴァン・サント) 監督が実現した。アルコール依存症で自動車事故によって車椅子生活を余儀なくされた Joaquin Phoenix (ホアキン・フェニックス) 扮する John が、AAミーティング (アルコール依存症改善の自助グループ) との出会いをきっかけに自暴自棄な日々を乗り越え、風刺漫画を描き始めるまでの物語だ。来日中の監督が、John Callahan について、映画を通じて自分を知ることについて語ってくれた。
—John Callahan は、監督にとってどんな人でした?
彼のことは、街で会ったり見かけたりしていたんですが、ゆっくり腰を据えて話したことはなくて。書く段階で、彼を知るようになりました。お互いポートランドに住んでいて同じ年代だったので、カウンターカルチャーキッズとして、世界に対する視点が似ていたというのはあった気がする。僕は交通事故という体験はしていないけれど、似たような道筋をたどってきたから、自分自身を思い起こすような存在でした。でも、僕よりも勉強ができる学生だったとは思います、彼のほうが (笑)。
—車椅子の自分を風刺して前に進んでいく、ポジティブな人だと思いました。
John が僕に見せていたのは、とてもポジティブな面だったと思います。この企画が始まったとき、僕は映画監督として彼の人生を描く、そして Robin Williams が演じることになっていて、彼にとっては僕が監督として一番いい状態であることが最優先だった。僕がどんなに馬鹿なことを言ったとしても、そこにダメ出しすることはなくて、支えてくれた。なので、僕にとってはすごくいい人でした。でもそれは、映画を実現させたいという彼の思いがあったからだと思います。
—あなたが監督だったから、ポジティブな側面しか見せてなかったと?
そうですね。映画では表現されていませんが、実際の彼はとても難しい人になり得るかもしれないし、実際に John の兄弟は、彼のことを「最低な奴」と思っていたと思うし。でも、最低な奴がポジティブではないというわけではない (笑)。彼の弟は、兄からいろんな影響を受けたと思うんです。John の置かれた立場というのは、明らかにいろんな助けを必要としていたから。車椅子から自分では出られないわけだから、食べることもトイレに行くことも一人ではできなかった。つまり、ほとんどの状況において、彼は困難な状況に置かれていて、助けを求めざるを得なかったわけですね。John はそれを茶化して遊んでいたけど、耐えられない部分もあったはずです。
—実在した John Callahan という人物をフィクションにしていくなかで、現実とフィクションの距離はどう測っていかれましたか?
リアルな状況や人物像を描くためには、例えば John の場合でいうと、彼の知人やガールフレンドたちに会うことも重要かなと思って、会ったりしました。John はリアリティよりも、それを面白く歪曲することを好むので、自伝には書かれていないようなことを彼らに質問していくというプロセスを経ています。ただ、それぞれが誰かについて伝え聞いているものは、記録される方法によって変わっていきますし、必ずしも真実とは限らないし、歪曲されて伝わっていくこともあるかもしれません。John の場合も、家族、友達の話で、それぞれの視点が違ってくるのでそれぞれのリアリティも変わっていくということがある。そういったものを自分の脚本の中に入れていく、適応させていくことが大事なんじゃないかと僕は思っています。
—映画の中で、John が自分のことをどうやったら知ることができるのかをAAミーティングのリーダー、ドニーに訊ねると、「Forget yourself (忘れること)」と答えていたシーンが印象的でした。監督は映画を通じて、自分自身を理解したり、また忘れたりしていると思いますか?
哲学とかセルフヘルプ (自助) で使われるフレーズが好きなんですよね。ドニーというキャラクターは、演じる Jonah Hill (ジョナ・ヒル) が作ったものでもあって、彼がパッと言って放り込んだアドリブのセリフもあるんですけど。確かに、映画作りをすることによって自分のことを学ぶことはあると思います。映画は往々にして自分に何か考えがあって始まるものなので、結果出てきたものにそれが代弁されることはあると思うし。何かが起きていることの証明としてそこで何が生まれるのか、そこでシーンがどうあるべきかという自分の先入観をどう扱うかという葛藤は常にありますよね。
—現場で起きる予想していないこともたくさんありますもんね。
まず自分の意図があって映画のシーンを演出するわけですが、実際の人物によって出力されることで全く新しいものに変わっていく。映画づくりって、もともと考えていたことを違和感なく自然に伝えられることだから、忍耐強くある必要があって。釣りみたいな感じっていうか。自分が思っている以上にシーンが良くなる機会を逃さないように、もしくはシーンを殺さないように。自分の目の前で起こっていることは新しく見えるから、本来の意図を忘れがちになってしまうんですよね。でも、自分が本来考えていたことから変わってしまったから、失われてしまう部分もあると思う。目の前で起きていることに対して、何がそこにやってきたのかを自分が理解できない、それを捉えることができないことだって起こり得ます。それは、気をつけるべきところなのかもしれない。もともと自分が持っていたものとの距離というか……。
—もともとあった自分の考えと、目の前で役者を通して起こっている現実との距離を認識するってことでしょうか。
そうですね。パーティーをすることと近い感覚かもしれない。パーティーがあったら楽しみたいと思うものだけど、神経質になりすぎるとパーティーをぶち壊してしまうこともある。主催者がベッドルームに籠ってしまって。でも、外にいるみんなは楽しんでいるという現実があるわけで、監督は、神経質になって自分のパーティーを壊してしまわないように気をつけなきゃならない。でも、ちゃんと何が起きているかを認識しなければならない。そういう瞬間が監督にはあるんですよね。
<プロフィール>
Gus Van Sant (ガス・ヴァン・サント)
1952年、ケンタッキー州ルイビル出身。『マラノーチェ』(1986) で映画監督デビュー。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997) は、Matt Damon (マッド・デイモン) と Ben Affleck (ベン・アフレック) がアカデミー賞脚本賞、Robin Williams (ロビン・ウィリアムズ) がアカデミー賞助演男優賞を受賞。『エレファント』(2003) は、カンヌ映画祭最高賞パルムドール、監督賞を受賞。ミュージシャンとしてアルバム2枚をリリースしている。
作品情報 | |
タイトル | ドント・ウォーリー |
原題 | Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot |
監督 | Gus Van Sant (ガス・ヴァン・サント) |
出演 | Joaquin Phoenix (ホアキン・フェニックス)、Jonah Hill (ジョナ・ヒル)、Rooney Mara (ルーニー・マーラ)、Jack Black (ジャック・ブラック) |
配給 | 東京テアトル |
制作年 | 2018年 |
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 113分 |
HP | www.dontworry-movie.com |
© 2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC | |
5月3日(祝・金)ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開 |