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俳優・三浦春馬インタビュー

Photo by UTSUMI

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photographer: UTSUMI
writer: taiyo nagashima

Portraits/

ドラマ、映画、舞台。その活躍の幅を広げるだけでなく、ドラァグクイーンから殺人鬼まで様々な役柄を演じきる三浦春馬は、どこまでも真摯で実直な表現者として、日々研鑽を絶やさない。そんな彼が最新作『アイネクライネナハトムジーク』で挑戦した役柄は、どこにでもいそうな普通の主人公・佐藤。普遍的な人の持つ人間らしい癖について考え抜いたという言葉の裏には、俳優としての円熟と、さらなる探究心があった。29歳の俳優・三浦春馬の現在地を記録するインタビュー。

俳優・三浦春馬インタビュー

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—『アイネクライネナハトムジーク』、等身大の日常の重なりを描く物語だと思います。演じる側として、どんなところにおもしろさを感じましたか?

僕の演じた佐藤って、誰の身近にもいるような人物だと思うんです。映画を観て、自分の身近にいるのはどのキャラクターだろう?って、つい想像してしまうような。キャラクターがきちんと息をして生きているような。会社や学校、日常のふとした瞬間、パッと横を見たら佐藤に出会えるような気がする、というか。そういう感覚がこの作品の魅力だと思っていて、普遍性を持つ役を演じることに面白味を感じました。演じるという創作意欲が自然と湧き上がるようなストーリーとキャラクターでしたね。

—普遍性を持つ存在を演じるのはどんな感覚なのでしょう。

演じることを続けている人は、きっと感じると思うんですけど、普遍性を醸し出すのって、すごく難しいことなんです。ある意味特徴がないということなので。でも、どんな人にも癖ってあるんですよね。話を聞く姿勢や、相手の目を見る、見ないとか。目を見て話しながら自身の思考を巡らせたときに、少し目線が左にいくとか。そんな具合に。どんな人にでも、癖や行動パターンはあるはずで、わかりやすい特徴がない人物を組み立てる場合、引き算というか、その普遍性を念頭に置きながら考えなければならない。佐藤を演じる上で、自分なりに考えたり監督と相談しながら少しずつ形にしていったのですが、そういう過程がとても楽しかったです。

—なるほど。三浦さんのまわりには、“佐藤” みたいな人っていらっしゃいますか?

クセの強い佐藤はいます。昔から仲の良い友達で、3つ上の会社員。家庭を持っていて、兄貴肌で突拍子もないことを言ったりだとかする面白い面を持っているんですけど、どこかほっとするような人で。

—会社員として働く佐藤を演じることと、「キンキーブーツ」(2016、2019再演/舞台)の主人公のローラのような個性的なキャラクターを演じること、どちらの方がより難しいですか?

難しい質問ですね。「キンキーブーツ」のローラを演じるにあたって、とにかくプロセスが長かったし、まだ完成形には程遠いと思っています。まず、「自信を持つ」というマインドをつくるために時間がかかりました。それがローラの重要な要素だったので、身につけないといけなかった。また、舞台なので、歌も踊りも入ってくる。映画でのドラァグクイーンの役どころではなく、歌と踊りが切り離せない舞台の役だったからこそ単純に比較はできませんが、時間がかかったという意味ではローラの方が苦労したかもしれません。『アイネクライネナハトムジーク』では、わかりやすい個性ではなく、普遍性の中に人間味を作っていくという作業をかなり短い期間の中でやってきて、いろんな視点を探しながら演じましたね。そこにはまた異なる難しさがあったと思います。

—今作は群像劇で色んな人物が登場しますよね。三浦さん自身に近いと感じるキャラクターはいましたか?

やっぱり佐藤なんじゃないかな。僕はわりと人の話を最後まで聞くタイプだと思っていて、話の腰を折ったりしないし、割と穏やかな方だと思っているので、今回は共感しながら演じることができました。みんなそういう気持ちで佐藤を観てくれるといいですね。

—みんなの中に佐藤がいる、ということなのかもしれないですね。多部未華子さんとの共演でしたが、『君に届け』(2010) のときとはまた異なる恋愛を演じてみて、その感想を教えてください。

多部さんは「4年に1度のオリンピックのような感じですね」とおっしゃってました (笑)。僕としては単純に嬉しい気持ちもあるし、頼りになるな、って思いもありつつ、緊張もしました。現場での立ち振舞いとか役への入り込み方を毎回近い距離で見られているわけじゃないですか。時間を置いて共演するということは、過去の自分を知られているからこそ、今の自分ってどういう風に映ってるんだろう?とか、しっかり彼女を納得させられる演技ができているだろうか?とか、考えますね。一人の俳優として、社会人として、ちゃんと高く評価されているのか気になります。馴れ合うのではなく、いい意味で緊張感を持ちながら、現場に入れたということなのかな。

—特に印象的だったシーンは?

クライマックスのシーンです。本番でカメラを回していたら、監督がふらっとやってきて、「相手の芝居を使ってあげてください」って僕に言ったんです。それが目から鱗で。こうやって話をしているとき、相手の表情を見て、考えや感情を探ったりするわけじゃないですか。映画の場合は台本として決め込まれているけれど、自分の言葉が彼女に届いているのか、響いているのか、それをちゃんと感じなければならない。僕が話すシーンでは、カメラは僕の顔だけを撮っているけど、そのときの相手の表情をちゃんと見つめること。それが自分自身の表情や間合いを微妙に変化させる。そのリアルな関係性を作るという意図が短い言葉に集約されていて。「自分はなぜそれに気づかなかったんだろう」って思っちゃいました。素晴らしいアドバイスをいただきましたね。

—その言葉を聞いてからの撮影はいかがでしたか?

カットがかかった後に、多部さんが頷いたんですよね。すごく達成感のあるワンカットだったかなっていうふうに僕は思っています。自分一人じゃ出せなかったですね。

—舞台や映画、ドラマなど、さまざまな作品に出演されていますが、モチベーションの質に違いはありますか?

表現の仕方や声の張り方とか、もちろん違うところはたくさんあるんですけど、基本的にモチベーションは変わらないですね。受け売りですが、舞台は成長できる場所と捉えていて、どう成長したかを自分の中でしっかり感じるように意識しています。舞台には良い先輩がいて、毎日同じ芝居をしながら一緒に過ごす。一生懸命稽古に打ち込む中で、良い先輩に出会って、いろいろ教えてもらえるという喜びはありますね。その経験をドラマや映画に浸透させて表現すべきなのかな、と。なんていうか、自分の中で循環している感覚なんです。

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—例えば、どんな先輩に出会いましたか?

「罪と罰」(2019/舞台)では勝村政信さんに、表現の道の多様さを教えていただきました。コーチと選手みたいな関係性というか。そこで習ったものを「キンキーブーツ」で自分なりに考えて実践してみて、今度は「TWO WEEKS」(2019/KTV・CX) でやってみて…。自分なりに試してみたいことが連鎖していくんですよね。最初は意識していたことが、次第に意識せずにできるようになってきたり、オンエアを観て自分の思考の巡り方にはっと気づいたり。舞台は何かに迷ったときの修行と勉強の場なのかもしれません。整える役割というか。生の舞台は逃げられない。自分と向き合いながら、役者や監督に丸裸になってぶつかっていくような、そういう場所なんです。

—三浦さんにとって、舞台は特別なんですね。

そうですね。舞台って素敵な場所だし文化だからこそ、多くの人に身近なところで感じて欲しいんです。僕が映画もドラマもマルチにやっていきたい理由の一つがそこにあります。もっと若い世代から、ご年配の方まで、観て、感じてほしい。そして産業としてきちんと潤ってほしいんですよ。今の僕にとってはドラマも映画も舞台も全部やりたいことなんです。僕自身がそれらを循環させる役目を担わなければならない、というか。

—『アイネクライネナハトムジーク』は「10年」という時間を描いていますが、10年後の三浦さんは、どんな存在でありたいですか?

10年後って、40歳目前ですよね。自分がそうしてもらったように、後輩に何かを引き継いでいきたいです。僕自身が先輩から教わったこと、メソッドや考え方、僕が伝えられることの中に後輩にとって必要なものがあれば受け取ってほしいし、そういうことができる自分でいたいと思います。俳優として、そうやって仕事をしていきたいですね。

—「自分」という個別の考えではなく、まわりの人に何かを与えていかなきゃならないっていう意識が芽生え始めてるみたいな感覚ですか?

「教えなきゃいけない」とは思っていないんですけれど、ただ、「渡す」っていうことは考えます。自分の持っているものを誰かに渡すということは、純粋に勉強になるし、自分もしてもらったことなので。とにかく目の前の出演作に向けて日々努力しながら、自分の中の大切なものを温めていきます。それを積み重ねていけたら。

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<プロフィール>
三浦春馬 (みうら・はるま)
1990年4月5日生まれ・茨城県出身。1997年NHK連続テレビ小説「あぐり」でデビュー。映画では『恋空』(2007)、『クローズZEROⅡ』(2009)、『ごくせん THE MOVIE』(2009)、『君に届け』(2010)、『永遠の0』(2013)、『真夜中の五分前』(2014)、『進撃の巨人』2部作(2015)、『銀魂2 掟は破るためにこそある』(2018)、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(2018)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)、「コンフィデンスマンJP」(2019) など多数出演。他最近は、連続ドラマW「ダイイング・アイ」(2019/WOWOW)、舞台「罪と罰」(2019)、ミュージカル「キンキーブーツ」(2016、2019再演) など話題作に続けて出演し、高い評価を得ている。7月から放送のドラマ「TWO WEEKS」でも主演を務める。

作品情報
タイトル アイネクライネナハトムジーク
監督 今泉力哉
出演 三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、森絵梨佳、恒松祐里
配給 ギャガ
制作年 2019年
制作国 日本
上映時間 119分
HP gaga.ne.jp
 ©︎2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会
9月20日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー