Johnny coca
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マルベリー デザイナー、ジョニー・コカ インタビュー

Johnny coca

photography: UTSUMI
interview & text: aika kawada

Portraits/

英国を代表するブランド Mulberry (マルベリー) のクリエイティブ・ディレクターに就任して早4年。Jonny Coca (ジョニー・コカ) は、ブランドを刷新することに成功し、現在も舵を取り続けている。

マルベリー デザイナー、ジョニー・コカ インタビュー

コレクションは、色やパターンを駆使し品性とトレンド感を併せ持つプレタポルテに、彼が得意とする構築的なハンドバッグを組み合わせた妙で構成されている。中でも注目すべきバッグは、モダンで冴えわたったデザインと Mulberry が誇る自社工場の職人たちの技が互いの長所を高め合っているのが見て取れる。それもそのはず、彼は Phoebe Philo (フィービー・ファイロ) 率いる CELINE (セリーヌ) 時代に、アイコンバッグを生み出し名を馳せたヒットメーカーなのだ。

本人は、ファッションデザイナーらしい華やかさと確かで繊細な洞察力、そして静かな知性を漂わせている。数学と建築を学んだという経歴からも、論理的な視点を持ち合わせていることは間違いない。これまでのコレクションが一過性のトレンドだけに留まらず、どこか普遍性と説得力を感じるのも、類い稀な勤勉さとデザインや設計の本質を心から愛していることからなのだろう。しかし、偏った論理主義に傾倒せず朗らかな人柄なのは、彼がスペイン南部セビリア出身で豊かな自然の中、強い絆で結ばれた家庭で育ったからだと容易に想像できる。

建築と数字を好む彼が、なぜパリで学び、後にファッションを志すようになったのだろうか。その背景とブランドの再生に成功した秘訣を聞くべく、新作バッグ「アイリス」のプロモーションで来日中の彼を訪ねた。

—子供の頃の話からお伺いしたいです。当時、興味を持っていたものは何ですか。

多くの男の子がそうであるように、車やボートが好きでした。ファッションも好きでしたが、まず興味を待ったのは、エンジニアリングや数学。最初は、構築性や機能性からなる美しいものを作りたいと思い、プロダクトデザインを学びたいと思っていました。時代的にもデザインが豊かで、Memphis (メンフィス)、Harry Bertoia (ハリー・ベルトイア) などのミッドセンチュリーのインテリアデザインに惹かれていました。最終的には、テクノロジーと数字、デザインが高度に組み合わさっているのは建築学だと思い、専攻することにしました。

—学びの地に、パリを選んだ理由を教えてください。

建築を学ぶために、パリにある2つの学校へ通いたいと思ったからです。1つは、建築学を学ぶために、フランスの高等美術大学であるエコール・デ・ボザールへ。あとは、ヴェルサイユ宮殿家具師の名前を冠した、伝統的な職人養成学校である、エコール・ブールに。美術作品を実用品に応用することを学ぶ、歴史ある学校です。

—建築とデザインをこれほど熱心に学びながら、ファッションの道を歩むことになったきっかけは何だったのでしょうか。

偶然に起こったことだったと言えます。22歳の時に、Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン) のお店のウィンドウディスプレイの仕事を手伝う機会がありました。ディスプレイのデザインをスケッチしていたところ、数多くのバッグを目にして、まるでドールハウスのようだと思いました。その時、バッグのデザインは、小さな建築物を手がけるのと同じなのではないかと気づいたんです。当時は古いモデルの Louis Vuitton のバッグやカタログをたくさん目にしました。どれもプロポーションのラインや素材、機能、プロポーション、構造、仕上げ、システムの物理的な構成要素など、必要な要素が建築と似ていました。興味の対象がバッグデザインに向き、そこで出会った Louis Vuitton のチームの人々に、「バッグデザインの仕事をしたい」と思い切って申し出てみたんです。これまでに学んだことやスケッチを見てもらい、幸運にもチームへ合流することになりました。すべての自分が好きなこと、取り組んできたこと、職業が繋がった瞬間でした。そして、ちょうど Louis Vuitton のクリエイティブ ディレクターに Marc Jacobs (マーク・ジェイコブス) が就任するタイミングでもありました。

—ご自身のファッション観に影響を与えたものは何でしょう。

女性です。育った環境に女性が多く、母や姉、妹と多くの時間を過ごしました。もちろん、連れ立ってショッピングに行くこともあるわけです。そこで、彼女たちが抱える疑問は決まって、「どちらを買うのがベストな選択か?」でした。その問いに答える度にセンスは磨かれたと思いますし、いかに女性がファッションを愛しているかを早くから知れました。そして、なぜこれほどまで女性がファッションを必要としているかも考えるようにもなりました。

—ファッションの影響を受けた人物はいますか。

崇拝していたスターデザイナーたちの影響は大きいでしょう。Vivienne Westwood (ヴィヴィアン・ウェストウッド) に Jean Paul Gaultier (ジャンポール・ゴルチエ)、Christian Lacroix (クリスチャン・ラクロワ)、Thierry Mugler (ティエリー・ミュグレー)、John Galliano (ジョン・ガリアーノ) など。女性の体のラインを最大限に美しく見せる、彼らの提案には大きな刺激を受けました。またその時代は、スーパーモデルたちが活躍した時代でもありました。車のデザインに夢中だった時、常に車のポスターには Naomi Campbell (ナオミ・キャンベル) や Linda Evangelista (リンダ・エヴァンジェリスタ)、Christina Turlington (クリティーナ・ターリントン) の姿がありました。彼女たちにも、かなりインスパイアされたと思います。

—良いデザインの条件は何だとお考えですか。

自分を信頼することでしょうか。人の話を聞くことも大切ですが、そのデザインが自分にとって美しいのか、他の人にとって美しいのか。強く信じてものづくりに取り掛かることこそが、良いデザインを生むと思います。

—色使いの美しさにも目を奪われます。色調やコレクションのテーマのインスピレーションはどこから得ますか。

この世のものすべてがインスピレーションになりえます。家、車、食べ物、絵画などあらゆるものからです。ただ、色に感じて重要なのは、綺麗な色だけではなく、奇妙な色に心奪われることがあります。色の面白いところは、単色で存在するよりも全く異なる色を合わせることで、より美しさを増すことがあります。なので、意外なところに素敵なマッチングの発見があります。組み合わせ次第でより洗練されたりシックになったりするんです。

—2015年にクリエイティブ ディレクターに就任後、プレタポルテを強化し、バッグのデザインを一新した同時代性のある打ち出しに目を奪われます。ご自身が起こした改革について聞かせてください。

新しくブランドを走らせるときに、非常に大切なのはチーム作りだと考えています。若いときに学校で教鞭をとった経験から知ったのですが、力があるチームを作るのに最も大事なのは、人をよく理解していいところが引き出すこと。個人にあったポジションを見出すことがキーになると考えています。

—これまでに最も充実していた瞬間はいつでしょう。

最も印象的なのは最初のショーです。ロンドンの歴史ある建物で行ったのですが、チーム一丸となった最初の取り組みでした。我々が注ぎ込んだ時間やエネルギー、気持ちが一つの形になった瞬間だったので心に残っています。それと同時に、後ろで支えてくれたチームがいなければ到底実現できなかったことだと思いました。

—Mulberry の魅力の一つは英国製であること。英国についてどう思われていますか。

常に自分の周りにいる人々や街を行き交う人々にも様々な影響を受けています。特にイギリスのロンドンではカルチャーや音楽に影響を受けたデザインなど、多様なスタイルが生まれていて興味ぶかいと思っています。

—国内生産とパワフルな自社工場も Mulberry の特徴です。このような生産環境について、どのような考えをお持ちですか。

様々なブランドで働き、フランスやイタリアなどの生産背景も目にしてきましたが、Mulberry が他と最も異なるのは人だと思います。自社工場では、若い人からベテランの職人が一緒に働いています。その環境が働く方の心理状態に良い作用をもたらしていると思うのです。母、娘、さらに従兄弟がいて、家族で働きに出ている方もいます。20年から40年働き、仕事とブランドを誇りに思い愛している人がいることは素晴らしいことです。また、職人の技が次の世代へ引き継がれていることも、ブランドの宝だと考えています。

—最後に、映画がお好きとのことですが、ご自身が好きな作品を教えてください。

同じくスペイン人の Pedro Almodóvar (ペドロ・アルモドバル) 監督が好きです。彼の作品の中に存在する、登場人物のパーソナリティ、家族関係、セットや家具、すべての女性が着ている服、色に至るまですべてが実際にスペインで見られるものです。とてもリアリティーに溢れています。女性について語る作品が多い中、どの女優のキャラクターもいわゆる魅力的な人物としては描かれていませんが、非常に惹きつける何かを持っています。ハイヒールやフェザー、グリッターなどを多用して少し大げさではありますが、女性の描写がドラマティックなところも大好きです。

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