Oneohtrix Point Never
Oneohtrix Point Never

「僕のキーはゴミにある」実験音楽家 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー インタビュー

Oneohtrix Point Never

Photography: Kodai Kobayashi
Interview & text: Saki Yamada

Portraits/

音楽史を大きくアップデートするのではないかと誰もが期待を寄せるOneohtrix Point Never (ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、通称 OPN) こと Daniel Lopatin (ダニエル・ロパティン) が映画『アンカット・ダイヤモンド (原題:Uncut Gems)』のサウンドトラックをプロデュース。Warp Records (ワープ・レコーズ) 30周年で来日にした彼にインタビューした。

聴く人の琴線に触れるメロディーに抜群の構成美やサウンドデザインなど、Daniel Lopatinはどこか宇宙的で情緒豊かな世界を自由自在に作り上げてしまう。Oneohtrix Point Neverとして活動し、エレクトロニック界の異才として名を馳せる彼はダイナミックに音楽を捉え、その実験精神が音楽にあらゆる可能性が残されていると彼自身に囁いているように思える。クライム・ブラック・コメディ映画『Uncut Gems』のサウンドトラックのリリースを12月13日に控える彼にアルバムや楽曲制作、ライフスタイル、Warp Records 30周年について尋ねた。ジョークを交えながら軽快かつ赤裸々に受け答えする彼はとてもフランクな性格だが、その言葉にはとてつもない情報量と探究心が常に見え隠れしている。

「僕のキーはゴミにある」実験音楽家 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー インタビュー

—これまでに『The Bling Ring (ブリングリング)』や『Uncut Gems』の監督である Safdie Brothers (サフディ兄弟) の前作である『GOOD TIME (グッド・タイム)』のサウンドトラックを手掛けていますが、今回の作品では制作過程における変化などありましたか?

作るのがどんどん難しくなっているよ。若いうちは作ることが楽しいから没頭できたけど、大きな映画になってくるとプレッシャーも増えてくるし、変わったビートを使ったり構成が複雑になってくる。Sofia Coppola (ソフィア・コッポラ) はもともと友達だったから『The Bling Ring』はもっとカジュアルに音楽を作ったよ。ビデオゲームみたいにどんどんレベルが上がってる感じ。

—アルバム『Uncut Gems』はどのようなコンセプトのもと制作しましたか?

監督は主人公をサポートするような音楽を望んでいたから、僕は彼の内側の世界を表現するようにした。その主人公は大きな夢を持った破茶滅茶なやつで、野望があるんだけど人生において迷子のような一面もある。違ったジャンルが混ざり合っているのは僕や監督の好みをコラージュしたっていうのもあるけれど、そこにキャラクターの混乱も反映されているんだ。

—クライム・ブラック・コメディとされる映画のイメージとは異なり、アルバムは緊張感がありながらもエモーショナルでファンタスティックな内容でしたね。

そうだね。『GOOD TIME』の制作前に初めて監督のオフィスに行った時、日本アニメの『AKIRA (アキラ)』とアメリカのラフな犯罪映画『King of New York (キング・オブ・ニューヨーク)』のポスターが飾ってあるのを見たんだ。その2作品は全くテイストが違うんだけど、ニューヨークスタイルのリアリズムには現実なのにファンタジー要素があって、僕と監督はニューヨーク自体をサイエンス・フィクションだと思っている。そういった2つの要素は監督の作品にもOPNの音楽にもあるし、映画音楽を作るときはいつもリアリティとファンタジーをコラボレーションさせてる。

—今作でも基本的にシンプルなメロディーやビートを使っていますが、展開など構造が複雑になっています。こういった複雑な音楽を作るときのイメージはありますか?

映画自体が複雑だから、そういった建築的な音楽になるんだ。本当に映画に忠実な音楽だからね、映画が神様なんだ。それから映画には声や会話、効果音が要素として入ってくるから主張的すぎる音楽は気が散る。シンプルなメロディーにはピュアなメッセージが込められているから好きなんだ。

—OPNの音楽はどのような感覚で作っていますか?

道端の写真を撮るような感覚だったり、音を体感するようにしてるから彫刻みたいになることもある。音楽を聴くってただ曲を聞くって意味じゃなくて全部含んでると思うんだ。例えばCDプレイヤーで音楽を聞くとローリングする機械音が聞こえてきたり、最後CDを取り出すときは色々なことに注意を払ったりする。まるで世界に生息している音を反映しているみたいに、OPNの音楽ではメロディーやアンビエント、ノイズ、無音といった色々な要素の奇妙なコントラストやブレイクが聞こえてくる。だから曲というよりもスタイルであり、全てを感じられるものなんだよね。僕は多くの音楽がライフスタイルの選択肢のようになっている気がする。僕自身は色々なライフスタイルが好きだから、そうあってほしくないと思っているんだけど。

—ライフスタイルの話をすると、現在はブルックリンに住んでいるんですよね?

うん。”DEATH・LIFESTYLE”だね(笑)。僕はいつもアパートに隠れているよ。家でヤモリを飼っているんだけど、そいつも夜明けにしか姿を現さなくていつも隠れてるんだ。まさにそんな感じ(笑)。

—音楽以外の趣味はありますか?

ゴミみたいなB級映画を見たり散歩してる。ドライブも好きで来年車を買う予定だから、そうしたら街を出てもっと自然のエリアに行きたい。それから僕はオタクだからヴァーチャルも好きでインターネットでアホみたいなものをよく見てる。だけどそんなことするより、もっと自分に関することをした方がいいよね。でも結局自分より他人に興味があるから…デザイナーになるべきかな(笑)。そうだな…僕はデジタルでもリアルでもゴミという存在に興味があるかも。

—OPNのコンサート「MYRIAD」の映像でもゴミのようなイメージが出てきますよね。ゴミは鍵なんですか?

100パーセントそうだね。それって僕らが何者であるかってことみたいじゃない?いま太平洋にはテキサスくらい大きなゴミの島があって、人間っていうのはそれほどのゴミを出す存在なんだ。『ウォーリー』って映画は知ってる?美しい映画だと思うけど、あれは現実で、僕らのことなんだ。僕の祖父は昔アパートの外にゴミの庭みたいなものを作っていて、彼はスニーカーやスケート、自転車の部品を拾い集めていたんだ。何かを見つけることが喜びのようだった。どうして僕があの光景を好んでいたのかは分からないけれど、現実のように感じるんだよね。社会のしてきたことが、ゴミの存在によって明らかに成っていくみたいな。ほら、ゴミを売りつけて、これはゴミじゃないって言ったりするだろ?僕は裸になった方がいいのかも(笑)。

—好きな哲学ってあったりしますか?

哲学は大好きだよ。でもあれは呪いだね、もしくは悪夢。不可能みたいな問いに永遠と答えを求めているから。12歳の時に哲学に出会って、これは自分自身を理解したり問題を解決するために必要なものだって必死に勉強したんだけど、哲学から距離を置かないと自分は死ぬって思ってやめた。今は趣味として好んでるだけ。哲学は野望みたいでもあって、野望はいい意味のように思えるけどそれだけが現実ではないし。人間は野望的で不思議な生き物だよ。

—あなたにも野望はありますか?

僕の野望は、野望を持たないようにするってことかな。ただ”OK”な状態を保って、そこにいるだけ。でも今は1つのことだけと思っていても、もっともっとって求めるようになるんだよね。チャレンジするのは好きだし。

—音楽活動において何にチャレンジしたいと思っていますか?

どのアルバムも違ったアプローチにしたい。繰り返すのは嫌なんだ。

—次回作について何かアイデアはありますか?

実はOPN名義での制作がちょうど終わったところ。もっと短いトラックを集めた感じ。スナックみたいに。うん、”OPN・スナック・フード”だね、めちゃくちゃ美味しいよ。話してる時にスナックを食べ過ぎて「あ〜これがディナーになっちゃった」って思うことない?それをアルバムでやりたいんだよね。

—2013年に Warp からデビューして6年経っていますが、自分の中で音楽に対する考え方や価値観など変わったことはありますか?

Warp からのリリースが決まった時、すぐに母親に電話したのを覚えてる。ついにやったよ!って。その当時、自分はすごく貧乏だったけどこれからは上手くやっていけると思ったし、単純に嬉しかった。あれから6年経って、心配事がなくなったよ。いや、あるんだけど心配するのをやめるようにしてる。トレンドはいつも変わるけど、確かなことは自分の音楽は変わらないってことで、自分であるだけだから。

—毎日楽しいですか?

楽しい時もあるし何かをすることがプレッシャーに感じることもある。満足してることだってあるし、未だに音楽を作ってるなんて信じられないし。子供が遊んでるみたいに自分にとってラフな活動だから不思議なんだけど、何かを作るだけって毎日が贈り物のように感じる。音楽を作れて幸せだよ。