kengo kuma
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建築家・隈研吾インタビュー

kengo kuma

photographer: utsumi
writer: mai tsunoo

Portraits/

自然素材と対話するかのようなデザインが特徴的な、建築家・隈研吾。特に2020年の東京オリンピックに向けた国立競技場は、隈にとっても重要な最新作である。先日、オリンピックに呼応するように、アシックスから隈がデザインしたランニングシューズが発表された。シューズのデザインは初めてだったという彼に、シューズと建築、スケールの全く違う2つの対象への向き合い方や、2020年以降の都市のあり方などを聞いた。

建築家・隈研吾インタビュー

建築家の隈研吾が、アシックスのランニングシューズをデザインした。いかにも彼らしい、まるで竹が編まれたような外観だ。一般的な建築の数百分の1以下のスケールであるシューズを、建築家はどのように解いたのか。

 

—国立競技場がもう少しで完成しますね。

僕が国立競技場のデザインをできるなんて、夢にも思ってなかったんです。僕が建築家という仕事を初めて知ったのは、1964年の第一回目の東京オリンピックのとき。父親に、丹下健三氏の設計した原宿駅前の代々木体育館に父親に連れていってもらって「こんなすごいもの作れる仕事をやってみたいな」と思ったのがきっかけでした。だから今回、僕が設計に携われたのは、オリンピックの神様のおかげです。

—もともと2020年に向けての構想はお持ちでしたか?

昔のような、オリンピックのために派手なコンクリートのスポーツ施設を作る時代ではもうないな、とは思っていた。1964年と2020年は全然違う。好景気の高度成長期に対して、今は少子高齢化の低成長の時代。だから、こういう時代に合った慎ましいイベントとしてのオリンピックができたらいいな、とはずっと思っていました。

—先日、ランニングシューズをアシックスさんと発表されました。今回のシューズと国立競技場、類似点はありますか。

軽やかで、自然素材を使いながら現代のテクノロジーの助けを借りる、という意味では、全く同じ設計思想です。もともと僕は、建築はもっと衣服に近づくべきだ、と思っているんです。つまり、人間の身につけるものや、シューズに近くするべきだと。建築は今まで、硬すぎたし、大きすぎた。もっと人間にとって、親密にならないといけない。そういう意味で、シューズデザインは、建築設計の未来像のようでした。この外側のパターンは「やたら編み」という日本の竹細工の編み方なのだけれど、今回のシューズではアシックスのストライプマークを発展させて作りました。これはパターンであると同時に、建築でいうと、構造体なんですよ。身体を支えるために大事な役割を果たしている。これはすごくて、僕らがずっと探していた「柔軟でありながら透け感のある構造体」が、シューズなら実現できちゃった。

日本の伝統的な竹を編む技法〈やたら編み〉

日本の伝統的な竹を編む技法〈やたら編み〉

—建築はそこにあって街の景観を生み出しますが、人は動いて街の景観を変えるものだと思います。国立競技場を設計され、今回シューズをデザインされて、感じたことはありますか。

建築も、シューズも、都市を構成する要素だと思う。20世紀の都市って、コンクリートとか鉄とかで、全体的にグレーなんだよね。それが「都市」という場所をすごく嫌な、ストレスの多い場所にしてしまっている。だからこれからの都市の色合いって、もっとナチュラルなものに変わっていくと思います。都市の色合いは、建築だけじゃなくて、そこを歩く人間の靴も決めている。だから今回、シューズには明るいナノファイバーの色をそのまま使いましたし、国立競技場では少し明るめの色の木材を選びました。

—建築とシューズ、かなりスケールが違うものだと思うのですが、デザインするなかで気づいたことはありますか。

最初は、全然スケールが違うものだから、シューズに対してどう関われるかが全然わからなかった。でも最初の打合せで、アシックスの人たちから、いろんな話を聞いたんです。人間の身体に対して考えていることや、アプローチの仕方などを知ったとき「あ、同じことをやっているんだ」と思いました。人間の身体というものを、どのように大事にするか。どういう構造を持っていて、どういう風に動いて、どんなことを感じるのかにまで気を配りながら、デザインしている。これは僕らが普段、建物や空間の設計をしているときに、人間の身体や生活に対して細心の注意を払うのと全く同じなんです。しかもそれを、技術的に解かなくちゃならないところまで同じ。だから、すごく共感したんですよね。これだったら面白いコラボレーションができるなって、確信しました。それから9ヶ月かかって、ようやく完成しました。実は建物を設計する標準期間も、9ヶ月なんです。僕にとっては、すごく楽しい9ヶ月でした。

—隈さんは素材との対話も大事にされていますが、今回のシューズに対してはいかがでしたか。

建築でいうと、20世紀は作りやすさの観点から素材を選んできたから、コンクリートや鉄が選ばれてきた。でも2000年頃からすごく変わってきて、技術的にもいろいろな材料が使えるようになったし、社会も新しい材料を建築に求めはじめている。これからの時代は、自然素材がすごく大切になりますし、今回、それがシューズでも可能だとわかりました。例えば、セルロースナノファイバー。木の繊維質なんだけれど、今回はそれをミッドソールで表現しました。これに関しても、建築で使いたいとずっと思っていた素材を、アシックスさんはすでに使っているのだと知りました。

—素材以外では、どのようなヒントが見えましたか。

例えば、建築は硬くなくてはいけないと、思い込んでいる。柔らかくて、形が変わったら、不安になる。でも逆にランニングシューズって、柔らかいことが当たり前の世界でしょう。それで気づいたのだけれど、最近の建築の考え方は間違っていた気がする。日本の昔ながらの建築って、畳にしろ和紙にしろ、柔らかかった。それがヨーロッパから「建築は硬いものだ」って考え方が入ってきて、日本の建築家も硬くなっちゃった。だからこれから、僕がもっと日本の建築を柔らかいものにしたいと思っています。

—建築がもっと自由なものになりそうですね。

建築は一つひとつ敷地の形や大きさが違うから、デザインの自由度が高そうに見えるけれど、使っているボキャブラリーはすごく貧困なんですよね。例えば、建築の構造体は主に鉄で作ると決まっているけれど、今回のシューズは人工皮革を使っている。もちろんこの素材以外にも、たくさんのバリエーションを見せてもらいながら、最終的にこの素材に到達しました。アシックスの人たちは色んなボキャブラリーを持っていて、考え方が柔軟だと思いました。今回のプロジェクトで知って、さっそく使いたい素材もあります。これは、建築へのヒントがいっぱい詰まったシューズなんです。