「人それぞれ、思い思いに使えるものを」建築家・妹島和世が考えるデザインの役割
kazuyo sejima
photo: utsumi
interview & text: mai tsunoo
建築、プロダクト、ファッションと、ジャンルを越えて活躍する建築家・妹島和世が、“近代建築の三大巨匠” とも呼ばれる建築家 Frank Lloyd Wright の照明「TALIESIN 2」のオマージュとしての照明器具をデザインした。彼女はどのように、モダニズム建築の巨匠と向き合ったのか。
「人それぞれ、思い思いに使えるものを」建築家・妹島和世が考えるデザインの役割
Portraits
個人としても西沢立衛との共同ユニットでもある SANAA (サナア) としても、世界中に新しい空間を生みだし続けている建築家、妹島和世。つい先日もミラノのボッコーニ大学が竣工し、シドニーの美術館の着工式もあったという。さらに昨年末には、“近代建築の三大巨匠” とも呼ばれる Frank Lloyd Wright (フランク・ロイド・ライト) の生誕150周年を記念した「HOMMAGE TO FRANK LLOYD WRIGHT」プロジェクトにおいて、名作「TALIESIN 2 (タリアセン 2)」のオマージュである照明器具を発表した。ハードスケジュールを縫って発表イベントに参加した彼女に、デザインの考え方や制作の過程、巨匠 Frank Lloyd Wright 作品のイメージなどざっくばらんに語ってもらった。
—以前、インタビューでご自身の作品作りにおいて「公園のような場所」を一つのテーマにしていると拝読したのですが、妹島さんにとっての公園とはどのような場所なのでしょうか。
公園というのは、違うものを一緒に存在させられる場所。そこには、色々な目的の人がいます。お母さんと子供のグループがいたり、仕事をサボっているサラリーマンがいたり、あっちの方にはカップルがいたり。同じ一つの公園にはいるけれど、それぞれ違う自分の空間を作り出していて、みんなで同じことやらなくてもいい。例えばカップルは木陰を選んだり、子供達は砂場に行ったり。それぞれが自分の時間や空間を楽しんでいるけれど、ただどこかで他の人たちとも一つの同じ場所をシェアしている。一人で静かにしていても、誰かが何かやっているな、みたいな。
—今回発表された、「TALIESIN 2」のオマージュにも、近いイメージがありましたか。
そうですね。この照明器具も、思い思いに使えます。他の家具のすぐ近くに置いて使う人もいれば、垂直的に置いてオブジェとして見る人もいる。色んな置き方、使い方、それから距離の取り方ができるものになったらいいなと思って。彫刻作品のように表裏がなくて、どこにでも置けるようなものにしたいなと思いました。
—妹島さんの建築には、ガラスがとても印象的に使われています。今回はアクリル素材だそうですが、透明の素材という面で共通性はあるのでしょうか。
今回使用したアクリルは、表面の硬さがガラスとは違うから、微妙に透明感や反射の仕方が違いますね。でも、置かれたときに、全然表情が変わらない彫刻というよりは、周りのものが映りこんで、そこにある他のものと一緒になったらいいなと思いました。それは建築でやっていることとも似ている部分があります。透明だと、映っちゃう場合と透けちゃう場合と、状況によって色々あるから面白いんです。
—今回、Frank Lloyd Wright という建築家をどのように読み解きましたか。
Frank Lloyd Wright の建築は、水平的なラインを持っていて、温かみがある。そして、なによりもディテールが綺麗。今回のプロジェクトを進めるにあたり、まずこの「TALIESIN 2」をお借りして、事務所でずっと見てみたのですが、この照明は別に明かりをつけていてもいなくても、置いてあるだけで色んな角度から楽しめる作品だと思いました。そこから私も、色々な角度から眺められる彫刻のような存在でありながら、ライトをつけたら少しだけ表情が変わって、置いてある空間の状況もほのかに柔らかくなるようなものを作ろうと思ったんです。また、最初に見たときに、すっと高いものだな、という印象を持ちました。だから同じサイズの球体を積み重ねてみました。Frank Lloyd Wright 自身のモチーフとして、円も出てきますしね。今回はシンプルなものにしましたが、後々、背の低い、床に置けるようなものなどいくつかのバリエーションも作りたいとも思っています。使いこなすって言ったらおかしいけれど、自分なりに使ってほしいです。洋服も同じだと思います。人によって違うように着られるものと、その通りに着なきゃいけないものがありますが、私が作るものは、その人その人が思い思いに使っていけるような、楽しめるものになったらいいなと思っています。
—洋服ではないですが、昨年は PRADA (プラダ) とコラボレーションしたバッグも発表されましたね。
最初、私たちはチャックを使って膨らませるようなデザインを考えていました。バッグって物を入れたら、形がどんどん変わってくるからそれが面白いなと。それを PRADA の人たちに伝えたら、すぐにふわふわしたものを取り付けてくれて、そのスピード感はさすがだなと思いました。作っているときは、国の違いをすごく感じましたね。それはヨーロッパの石の建築か、日本の軽い木の建築かという違いかもしれません。今回でいえば、頑丈なチャックとか、それに合わせてステッチも大きくなっていて。でも、それはそれできちんとバランスがとれているんですよね。最終的に自分たちがイメージしたものより、もう少し力強いフォルムになりました。
—建築、プロダクト、ファッションと様々な分野でご活躍されていますが、それぞれ違いはありますか。
私にとっては、どんなジャンルであっても、人と関わってくるので面白いです。私は使う人が色んな風に組み合わせて、自分なりに使っていけるようなものが作っていきたいんです。