Bibio
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”エスケーピズム”音楽の探求者、ビビオ インタビュー

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Photo: Kodai Kobayashi
Interview & text: Hiroyoshi Tomite

Portraits/

記憶の底に眠った景色を描き出し、誰もが見た心象風景を思い起こさせるような音像で多くの音楽ファンを魅了し続ける BIBIO (ビビオ)。未来への憧れ、空想、経験、フィクションなどをテーマにイギリスの片田舎で時間をかけて制作されたアルバム『Ribbons』から一年足らずで、新作『Sleep On the Wing』が発売されるとの報が舞い込んだ。前作のイギリスやアイルランドのアイリッシュフォークやトラッド音楽に影響を受けたアプローチを押し進めたアルバムだ。どこかクラシックな音像は何がインスピレーションになったのか。前作同様、バイオリン、マンドリンなどの弦楽器含むそのほとんどを自身のプレイで表現した今作はどのようにして生まれたのか。昨年11月 Warp Records (ワープ・レコーズ) の30周年を祝うツアー『WXAXRXP DJS』で来日していた BIBIO こと Stephen Wilkinson (スティーヴン・ウィルキンソン) に唯一の媒体として話を聞くチャンスを得た。自身について語りたがらないシャイな人かと思いきや、静かな語り口ながらも自分の感覚を時間をかけながらゆっくりと言葉を選びながら話してくれた。

”エスケーピズム”音楽の探求者、ビビオ インタビュー

─2013年当時発表された『Silver Wilkinson』などはフォークにアンビエントテクノといった電子音を融合した音像でした。2017年から2018年にかけては、即興的なアンビエント作を発表したり、「Roland808 (ローランド社が1980年代に発売したリズムマシン)」をモチーフにしたEPを作っていました。一方、昨年6年ぶりのスタジオワークとしてリリースされた『Ribbons』はマンドリンをはじめとした伝統的な楽器にフォーカスしています。

そもそも私はアコースティックな弦楽器が好きなんですよね。音楽ジャンルや過去の作品より楽器をプレイして感じる音色そのものに影響を受けているのだと思います。『Ribbons』から『Sleep On the Wing』にかけて、マンドリンやバイオリンを独学で習得するプロセスがインスピレーションになりました。

─独学での楽器を習得するのは難しくなかったですか?

ギターとマンドリンは楽器としてある程度似ているので、違う楽器だけどスムーズに習得できました。ただギターからバイオリンに転換するのは難しくて・・・・・・。バイオリンはチューニングがマンドリンと同じだったので、マンドリンがバイオリンを習得する上で橋渡しになって。楽器を学んで実験していくと新しい解釈ができたり、つながりがみえてきます。

ジャンルとしてのフォークからインスピレーションを受けたのは、もう20年くらい前・・・・・・。確か2001年から2002年にかけてだと思います。私は1991年からギターを弾きはじめていて、その頃すでにフォーク音楽に興味はあったけど、当時はなぜか実際聴いていたのはエレクトロニカ音楽で(笑)。でも2001年頃 Nick Drake (ニック・ドレイク) とか The Incredible String Band (インクレディブル・ストリング・バンド) を聴いて、そのフィンガーピッキングのテクニックや音に惹かれて影響されていきました。一方、2001年当時からジャズも好きで聴いてましたが、それはあくまで鑑賞者として楽しむ程度で、不思議なことに影響を受けていません。

─『Ribbons』のセッション動画にしても自身で撮影場所を選んで、撮影監督も行ったり。独学で全て自分で行うのは苦労を伴うと思います。それでもDIYのスタイルを貫くのはどうしてでしょうか?

確かに自分で全部やるのは大変ですが、そのほうがリラックスできるし、ペースを守れるし。何より気が楽なんです。逆に自分以外の人にやらせるとコントロールしたいという気持ちが強いぶん、いくら上手い人にプレイしてもらっても、自分の音楽という感じがしなくなってしまうんですよ。だから、音楽に関してはできるだけ自分ひとりで作り上げるということに、プライドを持っています。『Ribbons』のレコーディング当初はバイオリンを弾けなかったので、2曲ばかり友人に依頼して録ったのですが、その後バイオリンをその友人から購入して、自分で練習して弾きました。

─なるほど。アートワークでも自分で作り上げた手触りが一番大事だということですね?

はい。ただ、MVに関してはあんまり誰かのカメラの前に出たくないというだけで(笑)音楽を自分でやるのは喜びですけど、ビデオ制作は本当に大変でした・・・・・・・。でもアートワークにしろ、信頼できる人とのコラボレーション作品を創るときは、相手のリスペクトがあってのことだし、それはそれで全く別のものづくりのアプローチとして好きです。

─新作では前作以上に伝統的なアイリッシュフォークを踏襲した楽曲が増えたのにはどのような背景があるのでしょうか?

おっしゃる通り、今作は『Ribbons』の続きみたいな作品ですよね。今回は前作よりインストの楽曲が多いですし、フレーズもよりシンプルでより雑味を取り除いた形に仕上げました。ギターとバイオリンだけの楽曲などはアイルランドの伝統音楽にも影響を受けてます。あと今作はどちらかというと自分が Mush Records (マッシュ・レコーズ) にいた最初期の作品、たとえばファースト・アルバムの『Fi』の影響もあるように感じます。というのも、私のファースト・アルバムを改めて聴いても、プロダクションに関してはまだ未熟さを感じる一方で、つたなさのなかに若い自分の純粋さを音楽の中に感じ取ることができます。当時は技術面でまだまだ荒削りだったけれども、作品としていいものが生まれたという手応えが自分の中にあるんです。

今私は当時と同じようなことをバイオリンやマンドリンといった楽器の習得を通じて体験している気がします。まだ技術としては不完全だけど、今できることを自分で弾いてやってみる。かつて、60年代や70年代のアーティストは、バンドがビッグになるにつれて、オーケストラをいれる傾向にあったのですが、それだとディズニー音楽みたいに感じてしまう。そういう大げさな音楽は個人的に好きになれなくて(笑)。私はそれよりもむしろ人間味があって、パーソナルで素朴な作品が好きなんです。The Incredible String Band もいい例で、チューニングも甘かったけど、自分達で全部やっているから、それはそれで味わい深くていいんですよ。そういうところからも触発されているように思いますね。

─前作『Ribbons』はイギリスの田舎街で過ごした時間をインスピレーションに作られたとお伺いしたのですが、今住んでいるのはどんな街なんですか?

自分の出身地に近い地域です。元々ロンドンで4年間大学に通っていたんですけど、結局出身地の工業地帯の近いところに戻って住むようになりました。まあ、周りに何もなくて。私は車も運転しないので、普段は家の近くを散歩したり、木を自分で切って薪にしてくべたりしながら生活しています。近くに飲食店やスーパーもないので、すべて買うものはネットで注文して配達してもらうスタイルです。

─そうした田舎街のどこが気に入ったんでしょうか?

周りに何もないから、気が散るものがない。建設的に物事に向き合えますし、クリエイティブにもなれます。人によっては「何もなくて退屈だ」と思うかもしれないけど、私はとても気に入ってます。

─今日もライカのカメラを持っていますが、これは普段自分の生活圏にいるときも常に持ち歩いているんですか?

はい、これは音楽の次に大切な趣味です。散歩に行く時もそうですし、どこでも出かける時は常にカメラを持ち歩いてます。撮影する多くの対象物は自然のランドスケープなんですけど、同じくらい都会の街並みにも興味があります。それは私が普段生活する環境とまったく違うから。常に新しい景色を探し求めているので、都会も新鮮に映るんですよ。

─『Ribbons』でも鳥のさえずりや、水の音といった自然の音がフィールドレコーディングされているのは、ご自身で生きる環境を変えたことが自分の音楽にフィットしたからなのでしょうか?

そうですね。でも仮に自分が渋谷に住んでいたとしても、今と同じような音楽を創っていたように思います。なぜなら音楽は私にとってエスケーピズムの一種で、自分がいる場所が都会であろうが、田舎であろうが関係ないんです。都心に住んでいたら、街からのインスピレーションを受けているかもしれないですが…。いずれにしても音楽を創ることは自分の想像力だけで別の世界に行く夢みたいなもので。