cecilie bahnsen
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コペンハーゲンから世界へ。セシリー バンセンが広げるシスターフッドの絆とドレス

cecilie bahnsen

photo: yuta kono
interview & text: aika kawada

Portraits/

デンマークのコペンハーゲンを拠点に、フェミニンなドレスを中心としたコレクションを展開する CECILIE BAHNSEN (セシリー バンセン)。オートクチュールやレースの職人技術と北欧らしいクリーンな打ち出しなど、これまでのファッションブランドになかった新鮮な提案が多くの女性たちの共感を呼んでいる。

また、写真家の Josefine Seifert (ジョセフィーヌ・ザイフェルト) や若干10代にして DIY でアクセサリーを作る Margrethe Hjort Hay (マルグレーテ・ヨルト・ヘイ) など、コラボレーションをするクリエイターたちに女性が多いのも、ブランドが最も大切なキーワードとしてあげる“フェミニティ”につながっているようだ。

コペンハーゲンから世界へ。セシリー バンセンが広げるシスターフッドの絆とドレス

そのユニークなブランド理念とドレスが評価され、2017年には LVMH プライズのファイナリストに選出され、一躍話題のブランドに。2019年には、コペンハーゲンのファッションウィークでランウェイショーを開催したことも記憶に新しい。

彼女が辿って来たキャリアもブランドの魅力を紐解くのに不可欠な要素だ。2007年にデンマーク王立芸術アカデミーを卒業し、デザイナーアシスタントとして、Dior (ディオール) や、コペンハーゲンのロイヤルデンマーク劇場のコスチュームに関わる仕事に携わる。その後、デザイナーの John Garlliano (ジョン・ガリアーノ) のアシスタントを経て、デザイナーに。また改めて、ウィメンズファッションのデザインをイギリスのロイヤル・カレッジ・ オブ・アートで学び直したことも、彼女の勤勉さを物語る。卒業後の2011年には ERDEM (アーデム) で働き、2015年にデンマークに帰国。自身のブランドを設立した。すぐに若手デザイナーとして頭角を現し、その2年後には注目のデザイナーとして世に名を轟かせることになる。

この急ピッチともいえるブランドの成長に一役買ったのが、英国発のオンラインストア MATCHESFASHION (マッチズファッション) だ。CECILIE BAHNSEN をいち早く買い付け、2019年5月にはエクスクルーシブ・カプセルコレクションを発表。そんな、新しいブランドのあり方を体現するデザイナーの CECILIE BAHNSEN が MATCHESFASHION の日本へのプロモーションのため来日。ブランドが成功した秘訣を聞くべくインタビューを行った。

CECILIE BAHNSEN 2020年春夏コレクション © MATHIAS NORDGREN

2020年春夏コレクション © MATHIAS NORDGREN

─まず、ファッションに目覚めたきっかけを教えてください。

子供の時に夢中になったのは、絵を描くことや、刺繍を刺すこと。なので、ファッションを好きになるのは自然なことだったと思います。少し大きくなって、ファッションというものは学問として学べると知り、12歳から様々なインターンシップを始めました。当時は、特にコスチュームデザインやテキスタイルデザインに興味を持っていました。

─CECILIE BAHNSEN を初めて見たとき、100%女性のために作られた洋服だと感じました。世界観のインスピレーション源は何でしょうか?

フェミニティ、ロマンス、ディテール。あとはトルソーを使ってファブリックに触れながらドレープの可能性を追求すること。すべてがクリエイションをする上での情熱であり原動力となっています。これらの要素がブランドの世界観を形作っています。また、ロンドンとパリに住んでいる時に、ミニマルなデザインが主流なコペンハーゲンでは見られなかったロマンチックなデザインにも影響を受けました。それぞれが絶妙なバランスでミックスされてブランドを形作っていると思いますね。

─クリエイションにおいて、影響を受けた人物はいますか?

Cristóbal Balenciaga (クリストバル・バレンシアガ) には大変影響を受けました。特に50年代のドレスに見られる女性の身体に合った美しいボリュームから学ぶものが多いです。それから COMME des GARÇONS (コム デ ギャルソン) の川久保玲。前衛的なものを作り続ける姿勢に励まされています。

─その他に、クリエイションをする上でインスピレーションになっているものは何でしょう?

様々な国を旅していますが、必ずヴィンテージマーケットやヴィンテージショップに行くようにしています。そこで子供用のドレスや古いレースを見つけることをライフワークにしています。本が好きなので、資料を探しに図書館にも足を運びますよ。東京では、代官山 蔦屋書店が必ず訪れるスポット。それから、アートと植物が好きで、去年日本に来た時は念願だった直島にも訪れましたが、この経験が今回のコレクションのテーマになっています。

─映画もよくご覧になるとか。

はい。Sofia Coppola (ソフィア・コッポラ) の作品には特にインスピレーションを受けています。彼女の映画では、女性特有のグルーヴが描かれていますよね。フェミニティと強さが同居していて、若い時にとても感銘を受けました。作中で複数の女性達が着ている衣装や持ち物にも心奪われます。特に『ヴァージン・ スーサイズ』は何度も繰り返し観たお気に入りの作品。主演女優の Kirsten Dunst (キルスティン・ダンスト) の繊細さと秘められた強さにも影響を受けました。あと、Elle Fanning (エル・ファニング) にも。ブランドのヴィジュアルを撮影する際、彼女たちのような芯のある女性たちを選ぶとドレスとの相性がいいんです。

─ブランドのキーワードである“Sisterhood (シスターフッド)”という言葉が上がっていますが、女性同士の結びつきについて何か思いがあるのでしょうか?

この時代に、女性デザイナーとして女性に向けてドレスを作ることに大変意義を感じています。現代の女性たちには、着た時に自信が満ちて、かつ着心地がいいものを提供したい。古いドレスをデザインの参考にすることが多いのですが、常に新しいアイデアが浮かぶことにも、歴史的な女性のつながりを感じますね。あとは、ソーシャルメディアもよく見ているのですが、世界中の女性たちが異なる分野で何か産み出している姿を見て、とてもいい刺激と結びつきを感じています。

─近年のフェミニズムについて何か思うことはありますか?

そのような時代の流れには、常にインスパイアされていると思います。また、この風潮の中で、女性がフェミニンなドレスをデザインすること、ドレスアップすることは良いことだと考えています。いまこの瞬間に世界で何が起きているかについては、必ず感じていたい。

─ドレスのボリュームと構造が特徴的です。女性を解放するようなイメージを感じました。どういった狙いがあるのでしょう?

重さを感じるボリュームの中に、ある種の軽やかさを入れることは意識しています。常に身体が自由を感じられることも、重視していますよ。あとは、サイズに縛られず様々な体型、さらに幅広い年齢の方が着れる服作りを目指しています。

─ファブリックやテキスタイルのオリジナリティも際立っています。刺し子のようなデザインもありますが、日本の工芸品から影響は受けていますか?

日本とデンマークのデザインは、ミニマリズム、機能性という意味でとても近しいものを感じます。家具や陶器、衣類についても共通する美学がありますよね。親しみを感じるのは、色彩感覚も似通っていること。コレクションは、まずテキスタイルの制作から着手することが多く、ドレスのパーソナリティの核となっています。

─ハイヒールの展開が無い理由はあるのでしょうか?

私自身がハイヒールではなく、フラットシューズを好んで履いています。またフェミニンなドレスと相反する雰囲気のシューズを合わせた時のツイストが気に入っていて。歩きやさとすぐに履いて出かけられる手軽さもブランドのムードにあっていると考えています。

─コペンハーゲンのファッションウィークは、まだ日本で語られる機会が少ないのですが、どのように考えていますか?

まだ歴史の浅いファッションウィークです。デンマークやその他の国から、新しいブランドが数多く参加しています。クリエイターが集結し彼らなりのデンマークのファッションを表現していると思います。私のブランドもその中の一つ。新しいシーンが生まれていて、タイミング的に面白くなっていると思います。パリやロンドンとは、ペースが違うのも魅力の一つ。新しいファッションのムードを感じていただけるはずです。

─いまのファッション界で切り離すことができない、サスティナビリティについても独自のスタンスで取り組まれています。

ドレスのクオリティやデザインは、一過性のトレンドではないタイムレスなものを提案しています。大切なのは、長い間、愛情を持っていただける一着であること。オリジナルのファブリックのデザインと開発に協議を重ね、時間をかなり割いています。そして制作には、ブランドを設立した当初からパートナーシップを結んでいる工場の存在が欠かせません。デンマークとリトアニアで生産を行い、スイス、イタリアでファブリックを作っています。彼らは家族のような存在で、そこで働く人たちのことを知り、ともに成長していくことも、サスティナブルな取り組みの一環として大事に考えています。その他にも、生産は買い付けがあった分のみ生産するようにしています。デットストックが生まれない構造にすることで、一着の価値が高まります。あとは、色の展開やデザインの提案という観点でも、サスティナビリティは表現できると考えています。

—今シーズンのヴィジュアルは、東京で撮影したと聞いています。モデルも、日本人の関根なつみを起用していましたね。ランウェイにも抜擢していましたが、彼女をキャスティングした理由を教えてください。

まず去年の春に日本に来て、とても気に入ったので撮影をしたと思いました。スタッフのキャスティングは、すべて Instagram (インスタグラム) で行い、表参道の周辺を歩きながら撮影しました。なつみを見たとき、とてもドリーミーな女性に見えました。コペンハーゲンに来てもらってランウェイでも出演してもらったのですが、彼女がランウェイに登場したときに会場の観客が静まり返り、視線が集中したのを覚えています。会場の空気を落ち着かせる良いインパクトで、とても素敵な瞬間でした。ファッション業界のトレンドの移り変わりは早く、不安定なもの。そういうものから離れて、私自身が向き合ったときに落ち着けるようなものや場所を探しているのだと思います。

2020年春夏コレクションのショーに登場した日本人モデルの関根なつみ © MATHIAS NORDGREN

─目覚ましいブランドの成長には、MATCHESFASHION の存在も大きいのでは無いかと思います。どのような取り組みを行いましたか?

MATCHESFASHION は、ブランドを深く理解し、LVMH プライズを受賞した次のコレクションから買い付けをしてくれていました。しかも、オーダーするピースがどれも、私が好きなものであることが多く、互いに信頼関係を築けていると思っています。彼らから「カラフルでプレイフルにして欲しい」というリクエストをもらいエクスクルーシブコレクションを制作したこともあります。驚いたのは、結果として全体のコレクションのいいアクセントになっていること。それから、何かヴィジュアルの撮影を行うときも、私の意図や目指す方向性をすぐに理解し、実現できるように協力してくれました。オンラインパートナーとして、ブランドが世界中に知れ渡るきっかけになったこともありがたく思っています。

─最後の質問ですが、個人的に Michael Haneke (ミヒャエル・ハネケ) 監督の映画『白いリボン』に登場する女性たちの服装と CECILIE BAHNSEN のドレスに似たムードを感じます。この作品をご存知ですか?

『白いリボン』は観たことがないのですが、ヴィクトリアンの子供のドレスからかなりヒントを得ているので、その影響かもしれません。当時のドレスは構造やディテールに様々な発見があり、一着でコレクションが一つできてしまう程のインパクトがあるんです。また、ドイツという土地柄も影響しているでしょう。もともと、ドイツと北欧は同じ民族だったので。根底に流れる美学が、かなり似ていることがあります。