Juergen Teller
Juergen Teller

写真家ユルゲン・テラーが語るドイツとアート、そしてSNS

Juergen Teller

photo: UTSUMI
interview & text: Shunsuke Okabe

Portraits/

Juergen Teller (ユルゲン・テラー、以下 J) の個展「Heimweh (ハイムヴェー)」が、現在 MCM (エムシーエム) 銀座 HAUS 1にて開催されている。KÖNIG GALERIE (ケーニッヒ・ギャラリー) のコラボレーションによるプロジェクトだ。

写真家ユルゲン・テラーが語るドイツとアート、そしてSNS

Juergen Teller について説明は不要だろう。80年代から『i-D (アイディー) 』、『The Face (ザ・フェイス)』をはじめ、名だたるファッション、カルチャー誌を数多く手がけ、Björk (ビョーク) や Kate Moss (ケイト・モス) といったセレブリティのポートレートでも知られる、世界で最も名の知れたフォトグラファーの1人。アートシーンでの評価も高く、世界中で精力的に個展を行っている。

今回、エキシビションの開催に合わせて、Juergen Teller 本人、MCM のグローバルクリエイティブオフィサー Dirk Schonberger (ダーク・ショーンベルガー、以下 D)、そして KÖNIG GALERIE のファウンダーである Johann König (ヨハン・ケーニッヒ) と Lena König (レナ・ケーニッヒ、以下 L) の来日が実現。ファッション、アート、コマーシャル、そしてソーシャルメディアについて、それぞれの想いを聞いた。

―今回の展示は MCM、KÖNIG GALERIE、Juergen Teller というカテゴリーを横断したコラボレーションです。プロジェクト発足の経緯を教えていただけますか?

D: 私自身、かねてからファッションとアートの融合に関心がありました。MCM のグローバルクリエイティブオフィサーに就任したのが昨年のこと。最初のプロジェクトのひとつが、MCM 銀座 HAUS 1のリニューアルでした。ドイツのヘリテージブランドである MCM の新たなビジョンを表すため、ブティック内にカフェやギャラリーを併設しました。Johann König (ヨハン・ケーニッヒ) と Lena のふたりには、MCM を介して知り合いました。ベルリンのアートシーンを牽引するギャラリーのフィロソフィーに共感し、コラボレーションに至りました。

L: グローバルプロジェクトの一環として東京でエキシビションを行う際、真っ先に名前が上がったのが Juergen です。ドイツ出身であり、世界的なファッションフォトグラファー。そしてファッションとアート、それぞれのフィールドで揺るぎない評価を得る彼なら、今回のプロジェクトのDNAを最大限表現してくれると確信していました。

J: 今回のエキシビションのテーマは「Heimweh (ドイツ語で望郷の意)」。アーカイブに加え、いくつか新作も含まれています。僕にとってドイツは、故郷でありインスピレーションの源。ドイツへの愛を表現したエキシビションだね。

―Diane Krüger (ダイアン・クルーガー) が玉座に座っている作品がとても素敵でした。ファッション写真やセルフポートレート、ディナーテーブルのスナップが混在していますが、どのようにキュレートされたのでしょう?

J: ドイツと関連のあるものだね。被写体のほとんどはドイツ人で、撮影ロケーションも多くがドイツで撮られたものなんだ。

―ドイツといえば、ちょうど今年はバウハウスの創設から100年を迎えるアニバーサリーイヤーです。現代アートの世界において、ドイツという国はどのような特異性があると思われますか?

L: ヨーロッパにおいて、パリやロンドンでは古典美術が文化として根づいています。一方でドイツはバウハウスをはじめ、20世紀以降のアートムーブメントの中心。世界的にも評価の高い教育機関も多く、現代アートがカルチャーとして根づいています。インフラの話をすると、ヨーロッパでは所蔵コレクションを持つミュージアムが一般的ですが、ドイツでは企画展に重きを置いた“Kunsthalle (クンストハレ、ドイツ語で市立美術館の意)”が数多くあり、若いアーティストが積極的に展示に参加できるということも大きく影響しているでしょう。

D: ドイツはヨーロッパでも珍しい地方分権によって成り立っている国です。ミュンヘンやハンブルグ、フランクフルトなど、地方都市がそれぞれ異なるカルチャーを培っている。多様性のある環境が、アーティストにとって大きな刺激になっているのではないでしょうか。

―歴史や政治など、様々な要因が重なって、現代アートが育ちやすい土壌を育んでいるということですね。

J: あと物価も安いからね。今僕はロンドンに住んでるけど、家賃が高すぎる。若いアーティストにしたら、たまったもんじゃない。それもあって、ヨーロッパ中から才能あるアーティストがドイツ、特にベルリンに集まってくるんだ。

―エディトリアルからコマーシャル、そして今回のエキシビションで展示されているパーソナルワークまで、独自のスタイルを貫かれていますが、作品制作の過程でアートとコマーシャルの違いはありますか?

J: もちろん、コマーシャルワークとパーソナルワークの違いはある。主に現場での向き合い方、という意味でね。

―具体的にどういったことでしょう?

J: 例えばバッグの広告だとしたら、ほとんどの場合バッグにきちんとフォーカスを合わせることが求められる。たいていのアートフォトグラファーは、この予定調和に反発しがちなんだけど、僕の場合は逆。クライアントが求めるレギュレーションを守った上で、どこまで自分の表現を追い求められるかという視点で向き合うんだ。制約は、僕にとっては試しがいのあるチャレンジだからね。

―それを聞いて、あなたの過去のインタビューを思い出しました。もともとフィルムに特化されていましたが、デジタルカメラを使うようになったきっかけもコマーシャルワークだったとか。

J: そうそう、フィルムの仕上がりに、クライアントが納得しなかったんだ。フォーマットには全くこだわりがない。今でもコンパクトフィルムはよく使うけど、デジタルを使った方が面白く撮れることもある。今年の4月にロンドンで行なったエキシビション「デメルザ・キッズ (小児用ホスピスを運営する非営利団体との協業で30点余りの作品を撮影。ボンハム オークションにて展示された)」では、全編スマホのカメラで撮影した。何を表現したいかがゴールであって、何のカメラを使うかはツールでしかないんだ。

―SNSの類は一切やっていないんですか?

J: 何もやってない!

―それはまたなぜでしょう?アンチSNSということでしょうか?

J: アンチというか、単純に時間がないんだ。ただでさえ撮影で忙しいのに、プライベートでも写真を撮って、毎日自分で投稿するなんて到底無理だね。

―納得です。

J: もちろん否定するつもりはない。僕はSNSが出てくる前に名前が売れたから、ラッキーだった。もし自分があと20年生まれるのが遅かったら、きっと必死でインスタグラムを使ってただろうね。

―確かに、あなたほどの知名度があれば、セルフプロモーションは必要ない気がします。最近では、SNSを通じて若手のクリエイターやアーティストが発掘されることが多いですが、Lena さんはSNSとの向き合い方をどのように捉えていますか?

L: それまで無名だった才能にスポットライトが当たるのは素晴らしいこと。私も、自分のギャラリーのことをより広く知ってもらうため、そして新しいアーティストを探すためにSNSを活用しています。一方で、ひとつのメディアに依存しすぎるというのは、アーティストにとって命取りです。質よりも量が重視されるSNSは、創作活動を阻害する要因にもなりかねない。時には、SNSから距離を置いてみるというのもいいかもしれません。表現者にとって最も大切なのは、自分の作品と対峙し、質を高めることです。

J: まさに彼女の言う通り。クリエイターの道のりはインスタントじゃない。フォロワーよりも大切なのはクリエイションの質。そして何より、作品を作り続けるということだからね。