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唯一無二のデザイナー、リック・オウエンスの魅力とその根源

RICK OWENS | © Legaspi by Rick Owens, Rizzoli New York, 2019

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interview & text: hiroaki nagahata

Portraits/

RICK OWENS (リック・オウエンス) は2019年9月、Rizzoli (リッツォーリ) 社から『LEGASPI』と『RICK OWENS PHOTOGRAPHED BY DANIELLE LEVITT』のビジュアルブック2冊を同時発売した。これは、2019年秋冬コレクションのテーマともなった70年代のデザイナー Larry Legaspi (ラリー・レガスピ) の人生をモチーフとしたビジュアルブック、もう一冊は過去10年間のブランドのコレクションから抜粋したビジュアルアーカイブを収録したブランドブックで、リック本人の影響源と、そこから生まれた表現の歴史をパッケージした包括的なセットとなっている。

Kanye West (カニエ・ウェスト) はじめ現行のシーンで幅をきかせているラッパーたちのシルエットの参照点にもなった Rick Owens は、「機能的でありながらラグジュアリー」「リアルでありながらファンタジック」「ダークでグロテスクなのに光を感じる」という一見相反する要素たちを一つのブランドの中で完璧に同居させている。このようなアプローチは今でこそ一般的になったが、そのレンジや深さにおいて彼を超えるデザイナーは今も見当たらない。

という意味でも、昨年「メンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤー」に彼を選んだCFDAファッションアワードはどこまでも正しかった。

唯一無二のデザイナー、リック・オウエンスの魅力とその根源

『Legaspi』ハードカバー/12 x 12 インチ/144 ページ/¥8,500 | © Legaspi by Rick Owens, Rizzoli New York, 2019

-まず、今回2冊の写真集をリリースすることになったきっかけは?

Larry Legaspi の本を作りたかったんです。だから、僕がよりわかりやすいファッションイメージの写真集を作りさえすれば、Rizzoli はもう一冊の方で僕の好きなようにやらせてくれるはずだと思って……これは冗談ですよ、一応。

-彼のデザインと初めて出会った時のエピソードについて教えてください。

僕が13歳の時、 KISS (キス) のようなバンドは唯一無二の存在で。彼らは、(デヴィッド・ボウイの)ジギーのスペースルックに、歌舞伎メイクとたくさんのブラックレザー、そしてテストステロンによって作り上げられた筋肉を組み合わせました。私たちはみんな、Gene Simmons (ジーン・シモンズ) は本物の血を吐いていて、KISS は悪魔のバンドなんだと信じていたんです。彼らは「悪徳」と「神秘性」と「欲望」を掛け合わせていて、結局のところそれが自分のルーツを形成しました。

KISS photographed by Norman Seeff (Los Angeles, 1975)

-そこで、彼らの衣装を手がけていた Larry Legaspi のことを知ったということですね。彼の持つ文脈についてすこし詳しく説明いただけますか?

実はその直前に、彼は LABELLE (パティ・ラベルを中心に結成されたソウルバンド) の衣装も手がけていました。黒人のソウル文化から生まれた女性グループが、シルバーとホワイトのショーガール風宇宙服に身を包み、ゴスペルのハーモニーを生で歌う。Fritz Lang (フリッツ・ラング) の『メトロポリス』で主演した Jean Harlow (ジーン・ハーロウ) のドラァグクイーン姿に身を包んだ Sid Vicious (シド・ヴィシャス)、これが Legaspi のアプローチでした。そして、そのレシピを完璧に自分のものにして引き継いだ僕にとって、クレジットに彼の名前を入れる必要性があったんです。

 

LARRY LEGASPI | © Legaspi by Rick Owens, Rizzoli New York, 2019

-そのアプローチがとにかく斬新だったと。

Legaspi という一人のゲイ男性が黒人文化の中にいるグループに適合し、そこからアメリカンスタジアムロックの頂点まで上りつめて大きな影響を持ったことは、ありえそうにもない事実だからこそ素晴らしいんです。僕はこのストーリーを、ある種の「希望のメッセージ」として捉えています。こうした種類のハーモニーは(不明瞭ながらも確かに)起こっていて、今後もまた起きるはずですよね。

-今シーズン、あなたは現代の空気に対するリアクションとして Larry Legaspi を引用していますが、その抑圧的で怒りに満ちたムードは何によって生み出されていると感じますか?

今日、ラグジュアリーのイメージに囲まれている私たちは、まるで自分に“タイトル”がつけられているような気がしていて、炎上の対象や笑いものにされたくないがためにミスを犯すことを恐れています。僕はそれについて非難なんかするつもりはありません。ただ、人間の進化の過程における興味深い展開だと思っています。

『RICK OWENS PHOTOGRAPHED BY DANIELLE LEVITT』ジャケット付きハードカバー/10 x 13インチ/200ページ/¥6,000 | © Rick Owens Photographed by Danielle Levitt by Rick Owens, Rizzoli New York, 2019

-ルックブックへのアプローチの仕方も教えてください。写真のディレクションは Danielle Levitt (ダニエル・レヴィット) に一任していますか、もしくはあなたも関わっていますか?

この写真は、モデルたちがランウェイを歩く直前に撮影されたものです。だから、僕がコントロールできる範囲ではありませんでした。どこか魅惑的なものをたたえた親密な仕草を捉えるかどうかは、Danielle に一任していたんです。この感覚は、僕がずっと求めているものだけど、定義することはできません。写真を編集している最終段階で降りてきた直感のようなものです。

-94年のデビューから今までに訪れた大きなターニングポイントといえば、どんなトピックが思いつきますか? 2年ほど前、あるインタビューでは「これまでは必死にサバイブしてきたけれど、これからは過去にやってきたことを精査する必要がある」とお話されていましたが。

ここ2年の間に、美術館で回顧展が開催されて、2つの賞(2017年にCFDAファッションアワードの特別功労賞、2019年に同アワードのメンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞)をもらいましたが、それらは私にとっては初めてとった学位のようなものでした。仕事から少し離れることで、自分が思っていたよりも大きな影響を与えていたことに気付いたんです。回顧展をキュレーションしている時には、それが僕の墓碑銘であることに気づきました。だから、どのようにして自分を覚えていてもらいたいかをそこで定義付けていて、これは意義深い鍛錬になりましたし、誰もが人生で経験できることではないので、ありがたく感じていました。

-あなたは子供の頃からワーグナーのファンだったということですが、その魅力を解説していただけますか?

一般的にいってオペラは、どんなに太鼓判を押されたものだったとしても、概して感情的で自己陶酔的なドラマを見せます。そして、その音楽の中にある超絶性が、あらゆる世代の人々を団結させる全体主義的な喜びに対する脅威になっています。

-あなたは「Rick Owens」としか言いようのないジャンルを構築しましたよね。この価値観は今の世界に何をもたらしているとお考えですか?

僕の目的はいつだって、コンテンポラリーで、ひどく限定的で、型にはまった美「以外」のオプションを提示すること。伝統に倣うよりも自己改革していくほうが立派だと思うし、その上で有無をいわさぬほど魅力的になる方法はたくさんあります。もしかしたら人としての在り方を拡張していくことで、寛容性や包括性のような概念もまた別の方法で広がっていくかもしれません。