Tom Hooper
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「続編を作ることには興味がない」未知に挑み続けるオスカー監督トム・フーパーの映画論

Tom Hooper

text: waka konohana

Portraits/

『英国王のスピーチ』(2011)でアカデミー賞監督賞を始め、作品、主演男優、脚本の計4部門受賞、ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』(2012)では Anne Hathaway (アン・ハサウェイ) の助演女優賞を含むアカデミー賞3部門受賞、『リリーのすべて』(2015)では Alicia Vikander (アリシア・ヴィキャンデル) のアカデミー助演女優賞受賞を獲得するなど、斬新な演出で伝記映画やミュージカル映画を生み出し、高い評価を得ている映画監督 Tom Hopper (トム・フーパー)。13歳の頃から映画を撮り続け、大学入学前にはプロの映画監督としてデビューしていた彼が今度はミュージカルの金字塔『キャッツ』を実写映画化した。

2019年12月20日に米国で初めて公開された際には、半分猫で半分人間のようなビジュアルを映画評論家に酷評されてしまった本作だが、人間の顔や体のシルエットを残し、そこにCGで体毛を1本1本表現するなど、最新のVFX技術を駆使して、リアリティに迫ったビジュアルはいまだかつてないほど革新的だ。「猫でありながらも、俳優の表情やダンスのステップを表現したかったから人間の顔や足のつま先を限界まで残した」と語る監督に、映画監督になったきっかけ、映画作りのフィロソフィー、映画界の今や未来について話を聞いた。

「続編を作ることには興味がない」未知に挑み続けるオスカー監督トム・フーパーの映画論

© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.

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―監督は8歳のときにロンドンで舞台「キャッツ」を初めてご覧になったとか。幼い頃から舞台が好きだったと聞いています。いつ頃から映画監督になりたいと思っていたのですか?

両親と小さな頃から舞台を観に行っていましたが、10歳ぐらいのときに学校で素晴らしい先生と出会ったんです。それ以来、学校の演劇に出演し続けて、舞台の世界で生きていきたいと考えるようになりました。とはいえ、主役は全くもらえなかったんですが(笑)。そして、12歳のときに図書館で映画やテレビ番組の作り方についての本と出会い、映画監督になりたいという夢がはっきりしました。あのときは監督業がこれほど大変だとは知りませんでしたけど(笑)。

―確か監督のお父様はメディアビジネスのお仕事をされていますし、お母様は歴史家兼著作家だと聞いています。

そうですね。小さい頃からやりたいことが分かっていただけでなく、やりたいことができる環境にいたのはラッキーだったと思います。

―その後、13歳の頃から短編映画を作り始めて、14歳には学生の映画コンペにも入賞。16歳で高校を卒業すると同時に短編映画「Painted Faces」の脚本を書き、その製作資金を工面するためにオックスフォード大学への入学を1年ほど遅らせたとか。大学に入学する前にこの映画はテレビでオンエアされてプロの映像作家としてのキャリアが始まったそうですが、大学にあえて入学されたのはどうしてでしょう?

オックスフォード大学には素晴らしいアカデミックな環境と、神秘的ともいえるほど美しい建造物やキャンパスがあります。そんな場所で勉強したいと思っていたこともありますし、オックスフォードは私の両親の母校で、彼らが初めて出会った場所でもあるので、私にとっては自分の原点のような、なにか神話的な意味合いもありました。確かに映画学校へ行くという選択肢もありましたが、あのときでさえ既にフィルムからデジタルへ移行していた時期で、映像技術が日々変わりゆくなか、学校で技術面を学ぶ意義を感じなかったんです。それよりも、大学では物語を書くことを学ぼうと。映画に最も大切なものは技術ではなく、中身なので。

―大学では女優の Kate Beckinsale (ケイト・ベッキンセイル) らと演劇に関わったと聞いています。

舞台演出家として、Kate やほかの多くの俳優、脚本家志望の仲間たちと一緒に演劇を作っていました。同じことに夢中になれる仲間と切磋琢磨し合い、一緒に作品を作り上げるという経験は、何の準備もないまま世界へ航海に出かけるような危険な冒険でしたね(笑)。大学に入るまでは、「今やりたいことを全部やってやろう」と必死でしたが、大学での3年間の経験は、物事にはなにか自然の流れがあるということや俳優や脚本家のベストを引き出すということを学び、それは今の監督業にも活かされています。

―ところで、監督は『アイアンマン3』の監督をオファーされていましたが、それを蹴って『レ・ミゼラブル』を制作されたと聞きました。どうしてですか?

私はなにかの続編を作ることにあまり興味がないんです。ヒーロー映画でもコミックの映画化でも、続編ではなく全く新しい作品であれば興味はあるんですけど。映画の続編を作るというのはテレビシリーズのエピソードを作るようなもので、そこには既に確固たる方向性があって、ゼロから作るわけではないんですよね。やはり私にとっての一番の楽しみは、“これまでになかったような新しい作品を作ること”ですから。

―監督は過去に「映画は自分のためにではなく、観客のために作っている」とおっしゃってますね。

もちろん最初は自分も楽しみながら作るんですが、最後の編集が終わった頃には、もう自分の映画は客観的に見れないし、面白くもなんともないんですよ(笑)。ただ、先日の『キャッツ』のチャリティ試写会で天皇陛下に「本当にすばらしかった。楽しんだ」とおっしゃっていただいた時、文化の垣根をこえて人々の心に響く作品を作ることが、私のやりがいなんだと改めて思いましたね。映画は言葉の壁や文化の垣根をこえて人々の心に触れることができます。こうやって日本に来て、日本の皆さんと一緒に世界を共有できることも監督業の醍醐味です。とにかく、世界中の人々が感動し楽しめる作品を作りたい。それが私の一番のフィロソフィーです。

© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.

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―近年、大手スタジオは大予算のシリーズ映画に注力し、監督が作った『英国王のスピーチ』や『リリーのすべて』のような中予算映画をあまり製作しないようになりました。映画監督にとっては難しい時代なのでは?

まさにそのとおりで、現代ではマーケティングの予算が非常にかかるようになりました。映画が公開されてすぐに動員数を得られないと、あっと言う間に上映されなくなってしまいます。つまり、3、4週間ぐらいの上映期間に十分な動員数を集めるためには、公開前にできるだけ多くの人に映画を認知してもらわなければいけない。だから膨大なマーケティングコストがかかり、映画を黒字にするのは本当に難しく、中小規模の映画から利益を上げるのは年々チャレンジングになっています。

―30年以上、映画を作り続けてこられた監督ですが、映画の未来をどう見ていらっしゃいますか?

「今後、私達は外へ映画を観に行くようになるのか?」というのが大きな疑問です。ネットフリックスなどのストリーミングプラットフォームが出現して、映画の定義が揺らぎ、まだ私達はその答えを見つけていません。映画は映画館で鑑賞するものなのか、コンテンツと映画に違いはあるのかーー。それに、ストリーミングはさまざまなコンテンツに溢れていて、私達は何を観たいのかもわからなくなってきますよね。いずれにせよ、映画制作中の私は週7日間、1日16時間も働くので、映画をそんなにたくさんは観られないのですが(笑)。一方で、映画館では上映されないような、昔の名作、ドキュメンタリーやアート作品もストリーミングで簡単に観られるようになりました。家を出ずとも多様な作品を鑑賞できるなんて素晴らしい時代ですよね。映画の未来はどんどん変わるでしょう。

―『レ・ミゼラブル』では斬新な演出、『キャッツ』では新たなVFX技術と、革新的なミュージカル映画を作ってこられましたが、次はどんな映画を考えていらっしゃるのでしょう?

ははは。ありがとう。とりあえず、しばらくは休んで次に何を作るのかじっくりと考えたいと思っています(笑)。

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